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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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蒼太と郁(かおる)の出会いを書いた話はこれでラストです(*^_^*)
書いた当時はあんなに――しかも蒼太に子供出来るまでとか
書く気はなかったんですが、読んで下さった方のコメントに励まされて
ここまで書けたなぁと言う感じです。

郁ちゃんの天然ぶりは何と言うか、ある意味箱入りなんですが
きっと世間の風にあたってもあんまり変わらないんだろうと思います。
(こけるのは定番として入れさせていただいていますw)
これくらいマイペースじゃないと、毎日空を飛んでスクランブル発進
する人の奥さんはなかなか厳しいんじゃないかな、そんなことを考えながら
書いていたようにも思います。


お話は続き記事からです。


拍手[4回]


◆◆◆

その日出る輸送機で松島から入間に着いた翌朝、気が付いたら父も母も出勤していた。

時計は10時を回った所だ。
基地にいたら考えられない起床時間だが、久しぶりの帰宅で気が緩んだらしい。
物音にも気付かず眠っていた。
足元には子供の頃から一緒だった猫の『イーグル』がゴロリとお腹を出して眠っている。

猫の癖に油断しすぎだ。
確かこの猫は、ロシアンブルーとか言う高い種類の猫だったはず。
いつの間に、こんなだらけた猫になってしまったんだろう。
ふと枕元においたピアスに目が行く。
…微笑うと片方の頬に笑窪が出来る、鷹島郁の笑顔が思い浮かぶ。
相手が誰であろうと(この前の取材では飛行機にまで)、全開の笑顔だった。
しかも『わたし、貴方を尊敬してます。だから良い記事が書けるように努めます』
なんて台詞を、マジな表情で何の裏もなく言う。
あれじゃあ、言葉の裏を探りようがない。
はぁーっとひと息呼吸して、ゆっくりと起き上がりベットから降りた。



編集部の入口で鷹島郁を呼び出して貰った。
考えてみたら、高校を出てからは航空学校、そして基地に赴任、こう言う『オフィス』と言うものにまるで馴染みがなかった。
何人かの女性がファイルや書類を持って、通り過ぎて行く。
女性向けファッション雑誌の編集部だから、当たり前なのかもしれないが、これだけ女性がいる職場と言うのも、自分には初めてだった。
通り過ぎて行く女性たちの視線があまりにも此方へ向くので、自分の格好がこう言う場へ来るにはくだけすぎていたのでは?と少し気になる。
「すみません、お待たせして」
鷹島郁の真っ直ぐな視線に、やっと少しホッとした。

「ありがとうございます!これ、お祖母ちゃんの形見で、もう戻らないと諦めてました」

透き通った淡いブルーの石が下がったピアスを受け取り、彼女は本当に嬉しそうに笑った。

何も探らずに見ることの出来る笑顔。
久しぶりだ。
思わず口許が緩んだ気がして、慌てて俯く。
すると彼女が一冊のファイルを取り出して、こう言った。
「ああ、そうだ。今日ゲラが完成したんです。まだまだ知らないことが多いので、未熟な記事で申し訳ないんですが、見て頂けますか?」
「俺の?」
「ええ」
水色の表紙を捲ると見開きとおぼしき、写真入りのカラーページの記事が一枚入っていた。

この前チェックした筈なのに、いつの間にこんな写真撮ったんだろうと言う写真もあった。

記事は初めブルーインパルスの簡単な説明から始まり、パイロットの職務からドルフィンキーパーと呼ばれる整備士の説明にまで及んでいる。
丁寧な記事だ。
自分たちには当たり前になっている用語も、さりげなく解りやすい説明が入る。
恐らく父自身が話したのだろうか?父の過去の事故のことが書かれており、自分がその夢を受け継いでいること、けれどもそれは自身の夢であることが書かれていた。
本当に真っ直ぐなんだな。
彼女の気質そのままらしい記事だ。
知ったばかりの世界の新鮮さ面白さが、余すことなく出ている。

記事の終わりに基地にいた、黒猫の兄弟たちの写真まで小さく掲載されているのを見て、何だか今までやけに自分が斜に構えていたんじゃないだろうか、と言うことに気付かされた。

もう終わりにするべきなのかもしれない。
初めてそんな風に思えた。
ブルーのパイロットでいられるのは、たった三年でしかない。
自分は――途中でその夢を絶たれた父や先輩、そしてその道を目指しながらも
届かずに終わった人の分まで、今進める道を必死で進むべきだろう。
無駄にしている時間などないのだ。
自分の為にも。
そう考えて顔を上げたら、目の前の鷹島郁がきょとんとした瞳(め)で
こちらを見ていた。



待ち合わせは二時だった。
JR新宿駅の東口の地下改札から出ると、地下通路を真っ直ぐに伊勢丹方向に向かう。

休日の新宿で地上を歩くのは、基地の広さに慣れた自分には自殺行為に近い。
そもそも新宿御苑を選んだのだって、久しぶりの東京の思わぬ空気の不味さに、
昨日一日で辟易してしまったからだ。
新宿通りと明治通りが交差する大きな交差点から地上に上がり、世界堂のビルを右に曲がるとこんもりと繁る木々が見える。
御苑の正門には、家族連れに混じって、若草色の薄いニットに白いパンツ姿の
鷹島郁が立っていた。
「やっぱりパイロットスーツでないと、イメージ違いますね。蒼太さん」
また頬に笑窪が浮かんだ。



広い芝生を抜けて、日本風の庭園がある池の側まで歩いて来た。
彼女の家は東高円寺にあるらしい。丸ノ内線一本で来ることが出来たと言う。
取材の時もそう思ったが、あまりこちらを気遣って彼是聞いてきたりすることのない彼女との会話は、呼吸が掴みやすく楽だった。
時折――あの大きな瞳が真っ直ぐ此方に向けられるのは、何だか少し落ち着かない気持ちになるものの。
「アンタ…イーグルに似てるんだ」
「え?イーグル?」
「ウチの猫。お袋が俺が小学四年生の時に『蒼太が家に帰ってきた時、誰もいなかったら寂しいから』って言って、買ってくれたんだ。ビー玉みたいな大きな目でさ、でも猫の癖にトロくて、すぐ捕まるんだ。よく顔にラクガキしてやったけど」
「わあ、ヒドイ」
そう言いつつ彼女も笑った。
「蒼太さんちも共働きだったんですね」
「お袋はテレビ局勤めだからな」
「うわ、大変そう。わたしの両親も共働きでした…と言うか、家族の中でわたしだけ落ちこぼれで」
「?」
声のトーンを落として、彼女は池の向こう岸を見つめた。
ざわめきに混じって、首都圏では珍しい野鳥の鳴き声が聞こえる。
「わたし三人兄妹の真ん中なんです。音楽一家で……小さな頃から演奏旅行に付いて色々な国に行きました」
「それで帰国子女」
「そんなすごいものじゃないんですけど、行く先に国境なんかないから、自然と覚えたと言うか…」
「すげえな」
「父も母も兄も妹も、皆演奏家として身を立ててます。……わたしだけ、才能がなかったの」
彼女は肩をすくめて、小さく微笑った。
「でも…アンタだって何か弾くんだろ?」
「ええ、ピアノを。これだけは手離せなくて帰国してからも、買ってしまいました」
「……聞いてみたい」
「え?」
小さな白い指先から、どんな音がするんだろう?
そんな興味があった。
「さ、才能ないって言ったでしょ。下手ですよ」
「いいよ、別に」
きっと彼女の性格そのままの、率直な澄んだ音がするだろう。

「俺さ…」
ゆっくりと池の回りを歩いて行くと、咲き始めの藤の花が揺れる四阿(あずまや)についた。

彼女には聞いて欲しい話だと思った。
今まで誰にも話せなかった――隊も家族も、あまりにも絡み合っていて、自分が苦しいと訴えるにはあまりにも我儘な気がして。
彼女がベンチに腰掛けるのを見て、話す覚悟を決めた。
「本当は俺の前に、ブルーのパイロットの内示が出てた先輩がいた」
「同じ隊の方だったんですよね?」
「もしかして親父から聞いた?」
「その方は事故で亡くなられたと」
彼女は敢えてなのか、視線をこちらからそらし、池の水面が風で出来る波紋で揺れるのを、じっと見ていた。
「親父や…他の人が知らないことがある」
自分も同じように水面を見つめる。
スイッと水鳥が過って行く。
「あの日、休暇だったのは本当は俺だった」
「……!」
「でもあの日は家族の都合が着かなくて、東京に帰っても誰もいないことが解ってた。そしたら、先輩が自分もその方が都合がいいから、と言って休みを代わってくれて――優しい先輩だった」
「――そして事故に遭われたんですね」
風が揺れる度に、開き始めた藤の甘い香が鼻をかすめる。
もう取り戻すことの出来ない『人』の笑顔、時間、そんなものが脳裡に浮かぶ。
あの時に戻れたら――自分は。
ブルーのパイロットになる、幼い頃から約束のように決めていた夢を手放すことも辞さない筈だ。
なのに―――
「…苦しかったでしょうね」
「親父や先輩に比べたら、特に先輩は、もうそれを口にすることも出来ないから」
「蒼太さんがどんなにブルーが好きか、それはコクピットに座った時の表情を見れば解ります。お父様も亡くなられた先輩も、その夢の『重さ』は変わらないんじゃないでしょうか?」

夢の『重さ』。
皆が皆、担うことを夢見ながら、必ずしも担えるとは限らない『重み』。
「…何か、俺物凄く甘いヤツなんだな」
「そ、そんなことはないです!蒼太さんはその『重さ』から逃げてはいないじゃないですか。苦しくても、ちゃんと立ってるじゃないですか」
「………」
「その場所に立てるのは、夢の『重さ』から逃げなかった人だけです。ーーわたしみたいに放り出してないもの」
「運が良かったって言うヤツもいる」
「その『運』すら担えない人もいますから」
彼女はこちらを見上げると、本当に素直な笑みを見せた。
花影が僅かに揺れる。
「…ありがとう」



御苑近くのカフェでお茶にして、彼女とは御苑駅で別れた。
そのまま新宿御苑駅から丸ノ内線で帰ると言う。
「なんだか久しぶりにピアノを弾きたくなりました」
…そう言う全開の笑顔は、めったやたらに男に向けていいものじゃない。
「アンタんち、広いの?」
「ええ、ワンルームですけど15畳もあるので。元は美大の教授のアトリエだったんです」
「じゃあ、夜に行っても寝る場所くらいあるかな」
「えー、でもベットはひとつ……って、ええ!?」
驚くタイミングが遅い。そんな所もイーグルと同じだ。
すぐ捕まえられる。
…多分、他の男にも。
だから、これは一種の鍵だ。
ロックオンしたら、二秒。絶対に外さない。
素早く屈んで、笑窪が出てた頬に口唇で触れた。
「…………」
「次の休暇は真っ直ぐアンタんとこに行くから」
彼女は真っ赤になって、こちらをじっと見ている。
少しの間、同じ姿勢で固まったままだったが、大きく呼吸を吐き出すと、こう言った。
「わ、わたしも展示飛行見に行きます!二年年下のコが頑張ってると思えば、し、仕事の活力になるしっ」
「……アンタ、年上?」
「6月で27になります」
「ぶはっ」
ロックオンされたのは、どちらだろう。
穏やかに黄昏てきた空の色を、目裏(まなうら)に浮かべながら、心の底から笑った。



翌日、大宮から東北新幹線で仙台に出て、仙石線で松島基地のある矢本に帰還した。
隊長に報告をする。
「いい休暇だったみたいだな、SKYJr.」
「ハイ」
「お前に期待してるのは、親父さんばっかりじゃ、ないぞ」
「胸に止めます。――隊長、5番機を見に行って来ても良いでしょうか?」
「行って来い。田宮二曹も待ってるぞ」
「はい」
格納庫に行くと、四日ぶりに見たブルーはそのフォルムと言い、
相変わらず美しかった。
歴代のブルー採用機に比べ、見た目も軽やかに見えるが、
コクピットに座るそのポジションの重みは、受け継がれた心のまま、
変わることはない。
「よう、SKYJr.。少しは親孝行してきたか?」
ブルーの翼の上から、田宮二曹が声をかけてきた。
「すぐに親父を追い越して、Jr.なんて呼ばせませんよ」
「フーン、言うようになったじゃねえか。お前、出来たな」
「は?」
「コレ」
田宮二曹が小指を立てて、ニンマリと笑った。
「まあ、その辺あとでゆっくり聞かせろ」
思わず肩をすくめた。
たった三年。
でもその三年は決して軽くはない。
亡くしてしまったあの人の分を考えたら。
格納庫の入口からは、飛行中のブルーのコクピットから見えるよりは淡い、五月の蒼空がくっきりと見えた。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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