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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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そんな訳で、5回も越えちゃいました(T_T)

もしかしたら10回くらいいくのかな…。
今しばらくお付き合いください。
ずるいことに今回の新刊『真白の雪』にもちっとだけ関連した
漫画が載ってたりします。←宣伝
よろしかったらどうぞ。



お話は続き記事からです。

拍手[2回]








◆◆◆


繰り返す波の音。
寄せては返し、それは何処か人の体の中のリズムにも似ていて、
心地好いものに感じます。

今日の伊勢の海は穏やかでした。

あの日の波の飛沫が嘘のよう。
でもきっと、もう長い年月、彼の心の中では荒い波の音が
響き渡っていたに違いない。

彼の大好きな本を読んでいる時も。
いや読んでいる時なら尚更でしょうか。
『ただあるがままを見てるだけ。責任感も義務も野望もない。
 彼らの声を聞いてるだけだ』
以前彼が、御名形さんに電話で話した時に告げた言葉。
聞いた時はなんのことか解らず、思い当たるようになってからも、
ずいぶんと情感に流された――もしくはロマンチストとでも言うのでしょうか。
いつもの冷静な彼を知る身としては、意外な言葉で強く印象に残っていました。


でもこの言葉に嘘はなかったのでした。
時の波に埋もれた様々な事柄が、すでに目の前に現実として起こってしまった
彼にとっては、明らかな事実だと言うこと。
そしてそれはただ受け止めることしか、叶わないと言うこと。


いつも現実の事象から一つ身を引く彼を、
わたしはそれが彼の性格故と思って来たけれど……。


「奈々…」
彼はわたしの指先をそっと握りしめました。
「君…泣いてるのか?」
「な…泣いてませんよ」
少し強がりかな?とも思いました。
本当は昨年危うく遭難しかけたこの浜で、
つい先程彼の姿を見つけた時から、飛び付いて泣き出したいのを
必死で堪えていたのです。
彼の話し方は淡々としていました。それは普段通りなのだけれど、
わたしとこの浜辺で相対した時に、何か強い思いが弾けて、
通り過ぎてしまったようにも見えました。


「その方、綺麗な女性(ひと)だったんですね」
「え?」
「解りますよ。タタルさんの表情(かお)を見れば」
彼はわたしを見て、気まずそうなちょっと困った表情(かお)をしました。
「…まあ、確かに。小さくて華奢であまり年上だと感じたことはなかった。
 でも彼女は自分が『綺麗』だと知らないんじゃないかと、
 思えるような所があったな。何処か無造作で投げやりで」
「…何だかタタルさんの女性版みたいですね」
見たことのない、そして見ることの決して出来ないその女(ひと)を思い浮かべて、
思わず笑みが溢れました。
似た者同士…多分ひと目で気付いてしまったんだろうな。

夜空には星がきらきらと瞬いています。やっぱり東京よりはずうっと、星が近い。
ふわり、と彼の腕がわたしの肩を引き寄せました。
彼の不器用だけど率直な想いが伝わって、わたしは目を伏せました。
「続きを聞かせて下さい…」


波は穏やかに繰り返し繰り返し、わたしの耳に響いていました。



◆◆◆


サニワの家の叔父が来る。
それはわたしにある決意を促した。
徹也は『仕事で東京に来たついでにわたしの顔を見に寄った』
と言っていたけど、彼を『マロウド』にと薦めて来たことで、
わたしをかなり前から見張っていたのではないかと、思い当たった。
徹也はサニワの家の出身。
多分わたしを見張っているのは、大叔父の指示に違いない。
わたしが彼と、あまりにも油断して過ごしているのを見兼ねて、
わたしの前に現れたに違いなかった。
腹は立つけど感謝しなくては。


彼を引き込んではならない。


だって彼は余りにも若すぎる。
それに去年したあの苦い後悔を、祭の後に感じた言葉にし難い空虚さを、
わたしは二度と感じたくはなかった。
それくらいなら自分が穢れるくらい、どうと言うこともない。


それにしても、こうなるまで解らなかったとは。
自分で自分の迂闊さに、腹が立つのを通り越して、
嘲笑い(わらい)たくなってしまった。
亡くなった祖母や大叔父、わたしが叔父と呼ぶ徹也の父親が、
祭、いや島の存続にどれだけ執着しているか、知らない訳ではない。
彼らにとっては、それが『生きている』と言う証なのだから、仕方ないことかもしれない。
けれど、一度こうして島の外からの目を持ってしまったわたしとしては
――彼らの存在自体、自分とは決して相容れないものだと、もう解っているのだ。



だからわたしはあれから、一切彼には連絡しなかった。
尤も彼の自宅に電話などそれまでだってしたことはなかったから、
大したことではない。
ただ三日に一度くらいの割合で鳴る電話の受話器を、
取らないようにするのは、必死の覚悟が要った。
電話のベルは彼からだとはっきり解るように
――普通に来るセールスの電話のように、長々とベルを鳴らさなかった。
精々五回。何とも遠慮がちだ。
話し始めれば、あんなにすらすらと話し出す彼だが、
自分のことにはてんで不器用だ。
だからわたしは彼が普段どんな風に過ごしているのか、まるで知らない。
それなのにこの信頼感、いや魅かれるような気持ちは何なのだろう。
わたしは胸の内では耳を塞ぐ気持ちで、ベルをやり過ごした。



そんな風にして一週間過ごしたある日。
その日は前の週に降り続いた雨が止んで、暖かな陽射しがきらきらと
木間からこぼれ落ちる、そんな日だった。
午前中を一人の来館者もなく過ごして、少し早めにお昼を摂ろうと
例の木の下に向かった。
図書館の庭は季節柄、金木犀が咲き誇り花の姿を見なくても、
香りがその存在を主張していた。
空気もいつもの東京に比べたら、ずっと澄んでいるように思える。

相変わらずお握り二つのお弁当を膝に広げて、一息ついた。
「相変わらず、不揃い」
呟くような声が、すぐ背後で聞こえた。
見上げると、彼がわたしを覗き込んでいる。
「あ…」
「隣、いい?」
わたしはまるで石になってしまったように、動けなかった。
「結局、電話じゃ意味がないことに気付いた」
彼は隣にいかにもかったるそうに腰掛けると、わたしを見ずに話し始めた。
「俺だって家に来る電話をとったことなんか、一度だってないから」
…それはわたしより酷いかも。
「だから直接会いに来たんだ」
「………」
「少し調べてみたんだ」
わたしは久しぶりに聞く――多分聞きたくて堪らなかった
彼の声に耳を傾けながら、そのときめく気持ちを壊す瞬間を図って、俯いていた。
「『えびす』は普通恵比寿と書いて、祀られてるのは伊邪那岐、伊邪那美の
 息子の蛭子(ヒルコ)か、一言主の神格を一部引き継いだ事代主だ」
「……」
「そのどちらも水に深く関わりがあって、海で生活をする者にとっては
 『えびすさん』と言えば、海難事故で亡くなった水死体のことを言ったりする。
 なかには海から流れ着いた流木や、海の底の石を『えびす』として
 祀る神社もあるくらいだ」
彼は淡々と続ける。
「そして海から流れ着いた外来の客を『えびす』として祀ることも…」
「そこまで解っているのなら」
わたしは胸の潰れそうな思いを押さえて、言葉を吐き出した。
「何故また此処に来たの?あの島でわたしが何をしてきたのか、
 想像はついているんでしょう?ゆ、如彦さんのことだって…彼はもうこの世には」
その時思わぬ力でわたしの右腕が引かれた。
男としては細い指がわたしの手首に巻き付いている。
そして…。
呼吸が止まった。
僅かな瞬間だけど、時間も止まったように感じた。
わたしの心臓は……大袈裟に言えば、止まっていた。


彼は口付けた勢いから比べたら、ずっと優しく口唇を離した。
「沙久弥は何も言わなくていい」
彼は仄かに赤くなって、それでも真っ直ぐわたしを見つめた。
「今のは『えびす』について調べれば出て来る、一般論だ」
「………」
「でも貴方にとっては違うんだね?」
「…………」
「沙久弥を縛る何かを、俺は断ち切ろうと思うんだ。
 色々考えたけどそれが一番、いい方法なんじゃないかと思って。
 …貴方がいた島は、今俺たちが居る場所と『ルール』が違っていた。
 貴方はその『ルール』に従って生きただけだ。
 だから貴方は何も言わなくていい」
「………」
それは赦しの言葉だった。
云わばわたしがこの世に『在る』と言う罪への。



でもこれ以上、彼を巻き込むことは出来ないのに…!
わたしはそのまま、彼に飛び込んでしまいたいような衝動を辛うじて堪えた。
「そう思うのなら、もう放っておいて。わたしはいずれ島に帰る。
 それが最初から決まりだった。次の祭には島に戻る約束で、
 わたしはやっと此処にいるの。だからそっとしておいて」
出来るだけ感情を込めずに、言った。
彼は掴んだ手首を離さずにいる。
それが彼とわたしのたった一つの縁(よすが)とでも言うように。
「『ルール』を失くしてしまえば、貴方は自由だ。違うか?」
「…そんなこと」
「『ルール』は変えることも出来る。そうして生きてきた人たちの方が、
 ずっと多いんだ。偶々貴方の島は他から隔絶されて、
 『ルール』が純粋な形象(かたち)で残っただけで。
 上手く行けば、多くの人が自由になる」
自由……そんな言葉が、わたしたちに、いやわたしに赦されるのだろうか?


結局お昼を食べ損ねて、わたしは立ち上がった。午後の仕事に戻らなければ。
立ち上がるわたしを、目を細めて見つめて、途端彼は俯いた。
「……ごめん」
「え…?」
「その……突然その、無理にキ、キスしたりして」
言葉の最後はもごもごと小さくなった。
さっきまではあんなに堂々と、あんなに長く話していた癖に。
何やら気が抜けてしまう。
「…ふふっ」
気負っていた何かが、すとん、と落ちた。
「………?」
「貴方っておかしい。よく解らない。それなのにそんなにそのままなんだもの」
わたしは久しぶりに微笑った。声をたてて。
彼はきょとんとしていたが、じきに赤くなってやや膨れ面になった。
「沙久弥だっておかしい。大事なことなのに、全く無視して…」
「何を?」
「……それは」
彼は人指し指を、わたしの口唇にそっと触れるか触れないかの位置に伸ばした。
「じゃあ……もう一度」
そろそろ落ち葉が落ち始める木陰で、わたしは背伸びして瞼を閉じた。




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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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