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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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すみません(^^;)
コメント返信は次回に致します。いつもありがとうございます。


やっぱり三回じゃ終わらなかったじゃーん。
もしかして5回も無理か?

何やらシリアスですが、でもタタ奈々に繋がるハッピーなエンド目指して
頑張ります。

今日はお知らせ入れてまさかの3更新…。


小説は続き記事からです。

拍手[2回]





◆◆◆



目を閉じると、繰り返すのは波の音。

生まれた時から今まで、潮騒が耳に響かない日が一日もなかった。

東京では車の行き過ぎる音が、それに代わる。


あの人と二人で海に出たあの日は、殊更波が高くて、
あの唸るような波の音が耳について離れない。

それはあの人の最後の一息に込められた、何故?と言う幽かな問いかけが、
わたしの心の底にまとわりついているのと同じに。



◆◆◆



九月に入り、わたしは体調を崩して図書館も予備校も休んだ。
もう五日になる。
どうせ誰が連絡してくる訳でもない。こう言う所、東京は不思議な街で、
ワンルームのマンションで一人きりで横たわっていると、
まるで海の底深くで沈んでいるような、そんな気分になる。
まだ頭もふらふらするし、気分も悪かったけど、
いい加減寝ているのに飽きて起き上がった。


すると。
電話が鳴った。

物憂げに受話器を取る。
「もしもし…」
『………………』
無言電話だ。
最近こう言うことにもようやく慣れてきた。
島にいた時は、わたしに電話をかけてくる人など皆無だったし、
そもそもわたしと祖母が二人きりで暮らしていた家には電話がなかった。
どうしても必要な時は、村の世話役の大叔父の家まで、
電話を借りに行っていたのだ。
「切りますね」
受話器から耳を離しかけたその時だった。
「…あの」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「桑原だけど」
「……あ、桑原くん?どうして、電話…て言うか電話番号よく解ったね」
予想もしてなかったことだけに、受話器を持つ手が少し震えた。

あれから次に彼が図書館に来たのは、わたしが体調を崩す前日だった。
彼が読みたがりそうな本を、見繕っておいたので、彼は喜んでいた。
(尤も眠たそうな目のままだから、彼と幾分か話したことのある人間でなければ、
やはりいつも通りの仏頂面に違いない)
もう学校が始まっているだろうに、大丈夫なのかと思ったが、
彼は入念な計算の元に休暇を楽しんでいるらしい。
今年は後、10日は丸々休めると言う。
…彼にとっては、学校は仕事に行くことと同じような感じらしい。
午後に出なければならない授業があると言って、
その日はわたしと昼を共にすることもなく、帰って行った。



「今日本を返そうと思って行ってみたら、図書館の司書の人が、
 貴方がもう五日も休んでいると言っていたから」
「……少し体調を崩してて」
ぼそぼそと話す声は意外に優しく聞こえて、わたしは嬉しくなってしまった。
「………そっちへ行ったらダメかな」
躊躇いがちな声が、そっと訊ねた。
「え…」
「貴方の顔を見ておきたいから」
「――――!」
電話の向こうで彼はどんな表情(かお)して、この言葉を告げたのか。
思わず想像したが、五日も寝込んだ場所に、
彼を呼ぶ気にはとてもなれない。いや、わたし今、髪も滅茶苦茶だし…。
「見せたいものもあるし…」
「見せたいもの?」
「貴方ならもしかしたら知ってるかと思って」
「………?」
とにかく、彼が此処に来るのはマズイ。
わたしは何故か髪を指ですきながら、慌てて答えた。
「あの、近くの喫茶店で会おうか?
 何とか起きられるし、明日から仕事に出るつもりだったから…」
「…解った。なんて言う店?」
「桜新町駅前の…」




何とか身なりを整えて、喫茶店に入ると彼は窓際の席で
いつものように本を読んでいた。
「ごめんね。待たせたね」
「いや…少しこの店を探すのに時間がかかったから、今来たところ」
「あれ、珍しい」
わたしは彼が手にした文庫本に目を止めた。
今日彼が読んでいるのは、谷崎潤一郎訳の『源氏物語』。
普段は歴史や日本の宗教に関わる本ばかり読んでいたと思っていたから
、文学作品、しかも恋愛ものは珍しいのでは。
「…そうかな?それに、そもそもの発端がこれだったから」
「発端?」
「何故『源氏物語』が書かれたかと言う謎」
「でも貴方が調べてたのは、義経とか頼朝の『源氏』よね?」
彼が図書館で借りていた本も、ほとんどが実際にいた
『源氏』のことが書かれていたはず。
「源氏物語はフィクションでしょう?」
彼はしばらくこちらをじっと見つめた。
普段眠そうな黒い瞳が、きらりと光ったように見えて、どきりとした。
「確かにフィクションだけど、何の目的もなく何の根拠もなく
 作られた話じゃないよ」
彼が目を伏せて、長い睫毛がよく見えた。
すると横にウエイトレスが来て彼が先に注文したとおぼしき、
レモネードが置かれた。
わたしも同じものを頼む。
「当時の最高の権力者だった藤原道長が、バックアップを惜しまずに
 書かせたのが『源氏物語』だ。なのに何故かそこには『藤原氏』の栄華ではなく、
 ついこの間までライバルだった『源氏』の栄光が書かれてる。尤も後半から、
 その源氏の栄華にも翳りが出てて、真実栄えているのは、
 源氏の娘の本当の母親だった明石上の血族だった訳だけど」
彼は本を置くと、右手で髪をかきあげた。
いつもと違って目がはっきりとしてる。
今までにも少し感じたけど、こう言う話をしている時の彼は別人だ。
いつもこう言う顔をしていられたら、少しはモテそうだけど
……でも話題が話題だしなあ。
「しかも道長の娘の中宮彰子のサロンで好んで読まれ、
 時の一条帝にも献上された。おかしいと思わないか?」
「…………」
わたしの分のレモネードも届いて、わたしは一息ついてストローを
グラスに差した。
先程から少し探るような感じでわたしを見る彼の視線に、
何処か居心地の悪さも覚える。
「わたしは高校の授業で知った程度だから、あまり内容を知らないけど、
 確か源氏は最後天皇と同じような位を貰ってなかった?」
「準太上天皇」
「じゅん…?」
「天皇にはならないけど、それに並ぶ引退した天皇…院に準じる位だね」
「そうなんだ」
「沙久弥さん」
急に彼が右手を伸ばして、わたしの額に触れた。
「な、なに?」
「まだ顔が蒼白いけど…大丈夫?」
今は多分赤くなってる。全く不覚だったが、
彼は真面目な顔でわたしを覗き込んだ。
「少し貧血気味だっただけだから」
この症状で時折寝込むようになったのは、今年に入ってからだ。
原因は解ってる。むしろこの程度で済んでいるのは、
有り難いことと思わなければならないだろう。
……だってわたしは。



「これ…」
彼は今までの話題を打ち切って、一枚の絵葉書を取り出した。
「この描かれてる神社、貴方は知ってるんじゃないかと思って」
「…………」
葉書には水彩で、古ぼけた小さな社が描かれている。
以前は朱塗りだったらしい建物の様子がよく出ていた。
そして後ろには杉の大木。そう、島には一つきりだった杉の木の。

「見れば解るけど、差出人は『秦田如彦(はただゆきひこ)』。
 俺の学校の美術教師だった」
「――――!」
「俺は美術は選択していなかったけど、彼とは何度か話したことがあった。
 先祖が京都の秦氏だったとかで、彼も歴史や神社に
 興味があったようだから…。貴方の勤めてる図書館のことも彼から聞いたんだ」
「……貴方」
「彼が昨年夏に岡山の方に旅行に出た時に、二度葉書を貰った。
 その二枚目がこれ。そして一枚目には住吉大社と同じ三神を祀りながら、
 『蛭子』と呼ばれてる神社があるらしい。
 これからそこを訪ねると書かれていたんだ」
目の前の彼の言葉が、まるで窓の外の音のように聞こえる。
心臓が高鳴るのを鎮めることなど、到底出来ない。
予想もしていなかった出来事に、わたしは答える術を持たなかった。

「彼は…」
「今、行方不明だ」
「ええ…」
「貴方の島に来たんだね」
「大叔父の家に泊まっていたわ。その、小さな島だから、民宿すらなくて」
握りしめた手がどんどん冷たくなっていく。わたしは必死だった。
「彼は冬には島を離れたの。淡路に向かうと言って…」
上手く答えられているだろうか?
目の前の彼を誤魔化せるとは、とても思えない。
耳鳴りがして、冷や汗が流れた。
「沙久弥…!」
そして、目の前が昏くなり、わたしはわたしの堕ちるべき闇の底に
引き込まれて行った。




目が覚めると、白い天井が見える。匂いからして、病院?
すると声が聞こえた。
「ごめん。…体調悪かったのに」
「桑原くん…」
窓を見ると、外は真っ暗だ。
年上の義務として気付いたことを言う。
「家に帰らなくていいの?家族の方が心配するんじゃない?」
彼は寄りかかっていた壁から身を起こして、ベットの側に来た。
「別に構わない。気付かないだろうから」
「………」
彼もそれなりに事情があるようだ。
「さっきの話だけど…俺はまだこのことは誰にも話してない。だから…」
「…次に会う時に」
わたしは彼の瞳をしっかりと捉えた。
「次に会う時に話すわ。多分貴方には理解し難いかもしれないから」
「そんなことは…」
「わたし、多分貴方には話したいんじゃないかと思うの。
 今までそんな風に感じた人はいなかったから。
 ―――いいえ、いたんだけど、失くしてしまった」
遠くで潮騒が聞こえた気がした。
わたしの口許に笑みが浮かぶ。
「だから今日は帰って。また必ず連絡するから…そう明後日には」
彼は納得いかないような表情だったが、ぽつりと言った。
「解った。でも俺は…貴方を責めるつもりはないんだ。ただ…」
わたしは彼を見て微笑んだ。
感情表現の不器用な彼の精一杯を、せめて受け止めたかった。
 


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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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