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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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拍手ありがとうございます(*^_^*)
通販の申込みの時のお手紙に、こちらの感想まで入れて頂いたりして
とても励みになっています。


どうにか終わりが見えてきました。
10回で終われるといいなと思い、進めています。


お話は続き記事からです。

拍手[4回]





◆◆◆


仲哀天皇の御世、天皇が熊襲の国を撃とうとして、
託宣を乞いました。
天皇が琴を引き、建内宿禰が審神者(さにわ)になり、
神功皇后に神が依り憑きました。
その神の言葉に「西方に金銀財宝の豊かな国がある。それを服属して与えよう」
とありました。ところが天皇はその神の言葉を信用せず、
神の怒りに触れて死を賜りました。
そこで天皇を殯宮収め、大祓えを行い、今一度神の言葉を乞いました所、
「この国は皇后の腹中にいる御子の治めるべき国である」
とありました。
更にその御名を問いますと「この神託は天照大神の御意志であり、
神名は底筒男、中筒男、上筒男の三神(住吉大社)である」と答え、
新羅を征伐する為に神祭り、呪術の方法を教えました。



◆◆◆



もし今わたしが、この世から居なくなったら。
大叔父を初めとした島の者たちは困るに違いない。
島に『依坐』の家系は唯一つで、女子の直系にしか務まらないからだ。
『依坐』は神を宿して、産みなおすから、島の『母』なのだと祖母は言っていた。
だから常に島の為を思わねばならない―――彼女は心底それを信じて
疑っていなかった。
祖母の代までは『依坐』は真実、島の外には出なかった。
その頃までは戦時下を除けば、『マロウド』も何とか見つけられたようだ。
だが恵みである『蛭子(えびす)の子』には、あまり恵まれなかった。
祖母の子は母唯一人きり。
わたしの家に生まれた者は、男の子ならサニワの家に引き取られ、
女の子ならば長女は『依坐』として育つ。
島の者は辿れば皆血縁で、島の中で夫婦になるか、どうしても、
と言う時だけうっすらと事情を知る近隣の島々から婿や嫁を迎えた。
そのせいか、戦後から子供は生まれにくくなり、
今島の者はやっと二十人と言った所だ。
その半数が五十を越えている。
サニワの大叔父が焦るのは無理もなく、
外からの血を唯一受け入れるチャンスになる『祭』に、
執着するのは無理もなかった。

『マロウド』は『蛭子』になる。
だから儀式が済めば流し去られる。――それは決まりだ。
次の祭には『依坐』が新しい『マロウド』を迎えられるよう、
彼は屠られた神になる。


だから、あの人を屠るのはわたしの役目。



◆◆◆



「吸う?」
わたしは煙草の箱を彼に差し出した。
彼が断ると知っていて、わざとそうしたのだから、これは八つ当たりだ。


―――苛々していた。


月に一度とは言え、この身にまといつく血の臭いは何とかならないものか。
嫌でも祭の日の波の音や、儀式の最中の気の昂りを思い出して、
憂鬱な気分になる。

「沙久弥はだから味覚がおかしいんだ」
「え?」
「煙草は味を感じる味蕾の機能を失わせるから。
 好みはあるだろうけど、美味しい不味いは解らなくなる」
「…そうなんだ」
わたしは思わず煙草から口唇を離した。
「一本だけ貰う」
「え…ダメよ」
「勧めといて」
「わたしは感じなくても、貴方はきちんと感じた方がいいわ。
 ただでさえ食べないんだもの」
「さっき貴方が作ったよく判らない、煮物らしきものは食べた」
「…………」
わたしはまだ半分も吸っていなかった煙草を、灰皿に押し付けた。
どうせ吸わずにいられない程のスモーカーと言う訳じゃない。
「前に貴方、言ってたわね。源氏物語と現実の源氏は関係あるって」
「ああ、まあね。今、その接点が知りたくて色々読んでいるけど」
わたしは立ち上がる。お茶でも入れよう。
ワンルームの部屋では二人いれば、それだけで部屋は何やら目一杯だ。
息苦しくはないが、あまりにも彼の存在が近すぎて、気持ちの整理がつかない。
「島に源氏の落人と平家の落人、両方の伝説があったの。
 どちらも流れ着いて来たってことね。島はどちらかと言えば源氏方に付いた
 らしいけど、何故か平家の落人の話は大切にされてたみたいで、
 祖母から何度も聞かされたわ。何でも島に薬をもたらしたんだとか。
 …でもどうせその落人も『蛭子』になったんだろうけど」
「…酷い屠り方をしたから、大切にしたのかもしれない」
小さなキッチンに立つわたしを、彼が見つめているのが解る。
「……そうなの?」
「怨霊こそ祀られるべき神だからだろう」
お盆に乗せたお茶を彼に手渡した。
「ねえ、わたし桑原くんの話が聞きたいな。学校共学なんでしょう?
 今まで好きになった女の子なんか、いなかったの?」
彼は飲んでいたお茶を吹きかけて、噎せた。
「そんなに慌てるような話題?」
「…っ。今話さなきゃならないことじゃないよ」
彼は口許を拭って、こちらを見た。
「わたしとキスしたのが初めてじゃないのは、解ったよ」
「………」
「わたしも貴方が初めてではありません。これでおあいこ。
 だから教えて?貴方の好きになる女(ひと)がどんな女(ひと)なのか
 興味があるのよ」
「………いだった」
「ん?」
「化学の先生だった」
「先生?」
彼は何とも言えない表情をしていた。なんかへそくりがばれて、
居場所がない人みたいだ。

彼が非常に言いづらそうに話したことによると、
その化学教師は事件に巻き込まれて(いや事件そのものとでも言うべきか)、
東京を離れたらしかった。…それにしてもずいぶん大胆不敵な教師だ。
「…今思えば、あの日ああやって誘われたこと自体、
 先生にとっては口止めだったような気がする」
表情はあまり変わらないものの、彼の声はいつも以上に無愛想だった。
わたしはくすりと微笑う。
「それでも貴方に強い関心があったのは、解るわ」
同世代の少女では彼の興味を引かないのだろう。
年よりずっと大人びた感性を受け止めるだけの器は、
まだ彼の周りには現れないのかもしれない。
「それにしても…貴方、事件から離れられないのね。
 もしかしたら、将来貴方のお嫁さんになる人は、
 貴方に会うたび、事件を持って来るかもしれないわよ」
「何故そんなことを言うんだ?」
「え?」
彼の声音に驚いて見ると、彼は明らかに怒っていた。
「俺の…今、目の前に貴方がいるのに」
「………」
「確かに、先生を好きになった時は、『もう誰も好きにならない』と思ったけど」
予想もしないような言葉が彼の口から出て、
わたしは驚いてしまった。そして驚きついでに―――吹き出してしまった。
「そんな可愛い言葉を、貴方から聞くとは思わなかった」
目の前の彼は真っ赤だった。
「だって初恋なんて誰にでもあって、そして大抵の場合実らないものだわ」
わたしはまだ笑っていた。
「その件に関しては、貴方が正しい」
彼は怒った表情(かお)のまま、わたしの腕を掴んだ。
口唇が近付く。
わたしはそれをそっと止める(とどめる)。
「煙草吸ったから」
「…関係ない」



予備校から帰るとマンションに着くのは、夜の九時を過ぎる。
あれから彼はしばらくの間、わたしの前には現れなかった。
一度だけ電話が来て言うには、どうやら担任の教師に計画的休暇がばれて、
年内に単位を取得しておかなければ、卒業はさせないと言われたらしい。

霜月に入り、空気は冷たさを増していた。
徹也からもなんの音沙汰もない。
けれど油断は出来なかった。
大体わたしの勤め先の図書館だって、縁故による紹介だから、
そちらからもわたしの様子は島の大叔父たちに、伝わっているだろう。
『プライバシー』などと言う便利な言葉は、わたしは東京に来てから知ったのだ。
帰宅して、部屋に入っても冷え込む空気は変わらず、わたしは身震いした。
わたしの住んでいた島は雪など滅多には降らなかったし、風も海風で、
瀬戸内海に吹く風は冬は穏やかで暖かかった。
東京はこんなに寒いんだ。
テレビで見ていただけでは、解らなかったことだった。

わたしは一つだけ決めていた。

今年の年の瀬には、島へ帰る。
それが彼を巻き込まずに済む、一番の方法だ。
ただわたしの柵(しがらみ)を解くと言った彼が、
どう言えば納得するのか、それだけが今のわたしに気にかかることだった。



◆◆◆



「彼女の叔父だと名乗る人物がやって来た」
やはりまだ三月の伊勢の浜辺は寒くて、彼は隣に並ぶのを止め、
わたしを背後から抱き締めるようにしていました。
「彼女と共に、冬休みに島に来ないかと言って来た」
耳の側を過ぎる彼の声は穏やかでしたが、
彼が眉をしかめて話しているだろうことが、何となく察せられました。
「彼女は島に同年代の人間がいないから、
 叔父としても友人が出来たのは嬉しいことだと言って」
「…何だか不自然ですね」
「そう。でも彼は必死だったんだろうな。その不自然さに気付いてなかったようだ。
 ―――『マロウド』などと言って、昔は流れ着くものも多かっただろうが、
 今は事故でもない限り、海から人が流れ着くことなんて滅多にない。
 多分、近代になってから、『祭』を続ける為に様々な無理を重ねていた筈だ。
 儀式は形骸化し、その真の意味は失われる」
「その叔父さんは、タタルさんを『マロウド』にしようとしてたんですか?」
「だろうね。前の年に行方不明になっていた秦田先生も、恐らく『マロウド』として
 迎え入れられ、『蛭子(えびす)』として祀りあげられたんだ」
昨年伊勢のこの村で起こった事件もそうでした。
長い間に祭の『ルール』が変わり、祭を行う意味が失われてしまい、
儀式も関わる人々も歪んだ柵に囚われてしまった。

そしてその柵を解こうとして、何人もの人が亡くなったのです。



ふと彼がわたしを抱き締める腕に、力を込めたのが解りました。
「俺は柵を、縺れた糸を綺麗に解くことなど出来なかった」
「でもタタルさんは」
「…もしこれまでに何かほどけたと言うのならば、それは君がいたからだ。きっと」



遠く水平線に漁船の灯りがきらきらと、まるで星のように光っています。
海の彼方から来るもの。
それはわたしには何処か希望に満ちたものに感じられますが、
きっとその女性(ひと)には違うように感じられたはず。


思わず想像して体が震えました。


「でもタタルさんは、『マロウド』にはならなかった?」
わたしは先を促すように、彼に訊ねました。



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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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