忍者ブログ
タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
[381]  [380]  [379]  [378]  [377]  [376]  [375]  [374]  [373]  [372]  [371
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

すみません、だんだん辛い展開になってきました。
タタ奈々じゃないから、あまりラブラブに書いてもしょうがないしで
書き手のわたしももだえて←います。


なんとか最後は引っくり返せるよう頑張ります~。


お話は続き記事からです。

拍手[2回]







◆◆◆


現世と黄泉国との境に当たる「黄泉比良坂」で、
イザナギが生えていた桃の実を投げて助かり、
近くにあった巨岩で道を塞いでしまいます。
その岩をはさみ、イザナミは「私はあなたの国の人々を一日千人絞め殺します」、
イザナギは「私は一日に千五百の産屋を建てるだろう」と言い合いました。



◆◆◆



「ずいぶん頭のいい男らしいじゃないか」
駅前の小さな居酒屋で向かい合った叔父――とは言っても
祖母と大叔父が姉弟だから、母の従兄弟に当たるその男は、
お猪口に口をつけながらそう言った。
「少し若いが申し分ない。それにもし―――」
叔父はにっと口唇の端を上げ、わたしを見た。
「沙久弥ちゃんが気に入っているのなら、あの少年には二度祭に参加させればいい」
「………」
わたしは膝の上で両手を拳に握って、じっと耐える。
「親父の言うには、昔にも『マロウド』が得難い時はそうしたそうだ。
 『依坐』様の希望をなるべく叶えるのは、サニワの仕事だと言うのは、
 無言の約束みたいなものだしな」
「…係累のいる者は選ばない決まりでしょう。万が一彼の家族が探した時に…」
「なんでもあの桑原とか言う少年は、中学三年の時にも高校一年の時にも
 家出したそうだよ。その時彼の両親はいつものことだと言って、
 届けは出さなかったらしい。興信所が調べた話では、中学の時は京都や
 奈良に、二年前は夏休みだったが、福井の方の神社廻りをしていたとか」
いかにも彼らしかった。
そして彼が自分の家族と、何故か縁薄いのも、先日わたしの家に
無断外泊していたことで納得がいく。
―――それでも。

「まあ、文武両道とは言わないが、もう少し体がいいといいのだが。
 あまりにももやしみたいで。東京の子供なんて皆そんなもんかなあ」
叔父は上機嫌だった。
昨年の祭の後、わたしが岡山市内の病院に入院しなければならなかった時は、
まるで鬼のように青ざめた顔をしていた。
三十の半ばになれば、事実上引退を余儀なくされる依坐は、
二十代の間に子供を出来るだけ多くもうけなければならない。
わたしが祭の後に寝込み、流産したと解った時のサニワの家
…いや島の者たちの落胆は大きかった。
わたしが次の依坐を産むまで、大叔父や叔父の焦燥は続くだろう。
「次の祭までまだ二年あるわ」
「いや、今年もやるんだよ」
「…!」
「親父がそう決めた。昔は『マロウド』が来る度にあったのだし、
 今三年ごとなのは、『マロウド』をわざわざ外から探しだして来るからだ。
 ――あの桑原と言う少年は、沙久弥ちゃんと一緒ならば行くと言っていた」
……今なんて?
「親父が『依坐』様を東京に出すのを許した時は驚いたが、
 成程こう言うことだったと合点したよ」
叔父が彼と会って、話した?!
わたしは頭の血が全て逆流して、息苦しいくらいだった。
でも落ち着かなければ。
彼らの先手を打つことは出来ない。

わたしはひと呼吸おいて、叔父を見た。
「そういうことならば」
わたし声のあまりの冷たさに驚いたのか、叔父はお猪口を持つ手を、
テーブルに置いた。
「わたしが彼と一緒に行くわ。勿論彼は祭のことなんて、
 何も知らないし。東京の人には解らないことでしょうから」
「そうか。それなら岡山までの新幹線の切符を、送ろう。
 祭の用意にはそれなりに時間がかかるからな」
「そう、島の人に話しておいて。前の祭の成り行きから、
 不安に感じている人が多かったと思うから」
わたしは―――にっこりと微笑った。



大分寒くなって、行き帰りには冬のコートが入り用になった。
図書館の庭の木の葉も紅葉して舞い落ちる。
そんな枯れ葉の落ちる音しか聞こえないような、張りつめた静寂の午後。
彼が訪れた。

いつもと変わらない無愛想で眠たそうな顔だ。
「今日は沙久弥が帰るまで待つ」
そう言うと、さっさと自分の読みたい本のある書棚の方へ行ってしまった。
わたしは彼から目が離せなかった。
初めから何もかもを察してしまった彼を、最後に欺くことなど可能だろうか?
それに彼の知らないこともある。
わたしが昨年の祭で妊娠し、流産したこと。
彼にとって本で知った歴史の闇は、闇を継ぐものたちにとっては、
当たり前の事実なのだと言うこと。
――――どうして。
多分知らずにこれまで生きてきてしまったことが、わたしの罪なのだろう。
昨年あの人と会って、自分も他の人と同じに感情があるのだと知った。
そして彼と会って…触れて守りたいものがあるのだと解った。
わたしにとって『神』は祈る相手などではなかったが、
初めて何かに心から祈りたい…自分の想いを叶えたいと思ったのだ。


帰り道はすっかり真っ暗だった。
また呼吸を荒くしながら、緩やかに続いて行く坂道を登る。
彼がそっと手を出して、わたしの指先に触れた。
「冷たい手をしてる。漢方学的に言っても冷えは良くないんだ」
「漢方?」
そう言えば今日は『本草綱目概論』だとか『医心方・薬名考』だとか、
植物の絵図のある本を読んでいた。
「少し興味があるんだ」
「そう言えば島にも薬草園があったわ」
「ああ、そう言えば平家の落人が薬をもたらしたとか…」
「嵐で船が出せなくて医者に行けないこともあるから、
 今でも現役だわ。わたしも祖母から、幾つか扱いを教わった草花もあったな」
「…たとえば?」
「名前はよく解らないけど…わたしが気に入っていた花に、
 白い芥子の花があったわ。東京で見かけた芥子とは、
 葉のかたちが少し違っていたけど」
「…………」
彼は少し驚いた表情でこちらを見たものの、すぐ前を向いて聞いてきた。
「もしかしてそれが、平家の落人が持って来た薬?」
「よく解ったわね」
彼はふうっとため息をつく。
「その話は誰にもしていない?」
「島の話は貴方以外にはしてないわ」
「その方がいい」
彼の横顔は厳しかった。
「貴方の話を聞いた時、隔絶された場所で外にも出ず、
 どうやって食べているのかと思っていたけど…」
「何かまずいことでもあるの?」
「阿片が採取される。モルヒネからヘロインの原料になるんだ」
「………」
島では、漁などでひどく傷付いた者の傷み止めに利用していた。それと…。
「島で薬草を主に扱っていたのは、医者の代わりをしていた家と大叔父の家だわ」
「外へは出ないようにしていたんだな。平家の落人が持って来たと言う説も、
 ただの伝説ではなさそうだ。平家ならば宋との貿易で有名だし」
彼は握っていた手の指に僅かに力を込めた。
少しだけ、心臓が跳ね上がる。
「…沙久弥の家、行ってもいい?」
「ダメよ。この前そのまま泊まってしまったじゃない。家族の方が心配するわ」
「俺がいないのには慣れてる」
「それは…困るわね」
言葉とは裏腹に、わたしは彼の手をそっと握り返した。

もうすぐ道は駅前のロータリーに入る。店が多くなって、道も明るい。
わたしたち二人は傍(はた)から見たらどう見えるだろう。
仲の良い姉弟?
それとも…。
彼にとってわたしは、恋人だろうか?
そしてわたしにとっては?
どれだけ大切にしても、いずれ手を離すことになる。
その覚悟をわたしは何度もしたはずだ。
初めから嘘をついていた。
だから今彼を欺いていることに、後悔なんか、ない。
「貴方を貴方の今縛られている何かから、必ず断ち切る。嘘はつかない」
彼は羨ましくなるくらい、真っ直ぐとわたしを見つめていた。




◆◆◆


「彼女が俺を信じきれなかったのは、無理もない。
 当時高校生だったし、いかにも…頼りなく見えただろうし?」
彼は背後からわたしを覗き込みました。
「わたしはタタルさんを信じてますよ?」
「…そうかな?」
少しからかうような口調が意外でした。
「タタルさんなら熊野の謎も、諏訪の不思議も、
 伊勢の深秘も必ず解くと思っていました」
「……そのわりには、未だに風呂も一緒に入らない」
何故だか言葉の末の方は、消えそうに聞こえにくい声でしたが
――わたしは頬が熱くなるのが、解りました。
「そ、そ、それとこれとは」
先程重ね合わせた口唇の熱さを思い出して、急に心臓が高鳴ります。
「…俺は君にとても救われてる。諏訪でも思ったが、
 君がいるのといないのでは大きな違いがあっただろう。
 それは多分、君の才能の一つだ」
「…そんな大袈裟な」
わたしに出来ることは、彼の側に『在る』こと。それだけでした。

彼の頬がわたしの頬に微かに触れて、熱が伝わります。
生きていると言うこと。
此処にいると言うこと。
それが嬉しくて堪らないことなのだと言うこと。

わたしは夜空を見上げました。


PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (管理人だけにコメントする。)
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[01/22 Indy]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dell]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
森伊蔵
HP:
性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者アナライズ
アクセス解析

Copyright © 翠露苑~すいろえん~ All Rights Reserved.
Material & Template by Inori
忍者ブログ [PR]