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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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という訳で、ぼちぼち佳境に入って参りました。
奈々ちゃん以外の女性の話を書くのは、なにやら複雑な気持ちでは
あるのですが、タタルさんの過去に多少、いや少々女性の経験が
あって良かったかもしれないと、タタ奈々を書いたときに思った
森伊蔵であります(笑)
(奈々ちゃんをあまり困らせたくない…そういう意味で)


色々と怪しげな説が出てきましたが、ヒロインの島の話は
私が勝手に設定しているものです。
樹なつみさんの『朱鷺色三角』なんかも参考になってるかも。



小説は続き記事からです。

拍手[4回]





◆◆◆



そこで答えて大国主神が言うには、
「私はお答えできません。私の子の八重事代主(ヤヘコトシロヌシ)神が
 答えるでしょう。しかし、狩りや漁をしに、御大(みほ)の岬に出かけて
 まだ帰って来ておりません」
と言った。そこでアメノトリフネ神を遣わし、ヤヘコトシロヌシ神を呼んで来て、
尋ねると、その父の大神に語って言うには、
「畏まりました。この国は天つ神の御子に奉りましょう」
と言って、すぐにその船を踏み傾け、
天の逆手を打って青柴垣に変えて隠れてしまいました。



◆◆◆



「どちらの『えびす』も水死だね」
彼は遠く水平線を見つめながら、そう呟いた。
「そしてどちらも天照大神にその場を奪われてる」
「ヒルコも?」
わたしは彼に同意するような声音で、聞いた。
「本来長男なのに水に流されて、高天原はアマテラスに
 受け継がれたじゃないか」
「そう言えば、そうね」
わたしたちは、そうして漂泊して流れ着いた彼らを捉え、
バラバラにして、再び海に流して来たのだ。
『マロウド』として。


島のお宮の儀式は三年に一度だ。
わたしが儀式に参加できたのは十三の時からで、
それまでは祖母が依坐(よりまし)として、代行してきた。
祖母では仮の儀式しか行えず、母が生きていたらと言うのが祖母の口癖だった。
だからわたしが初めての―――忘れもしない屈辱的な儀式を終えた後、
祖母は何か力尽きたように、床に付くようになり、数年後に他界した。
彼女にとって大切なのは、この小さな島の和であり、存続だった。
「千代に八千代に続きますよう」彼女は毎日参詣していたお宮に、
必ずそう唱えていた。

「君は此処から出る気はないの?」
「え?」
「だって高校に行くまで、島を出たことがないなんて。
 見た所この島には小学校や中学校があるように見えない。
 一体義務教育はどうしてたんだい?」
「それは…」
わたしは口ごもった。
何処まで話していいものだろうか。
昨日サニワの家の大叔父が、次の『マロウド』は彼にしようと言った。
―――元々そのつもりで彼を島に率いれた癖に。
古い因習が積み重なり、嘘に嘘を重ね、元の形象(かたち)すら残らない
―――それがわたしたち。蛭子の子らだ。
どうせ『流し去てき』ならば、話してしまってもいい。そんな気持ちになった。


◆◆◆


明後日、とは言ったもののどうしても決心が付かず、
結局十月になってしまった。
その間、彼は一度も連絡して来ず、当然図書館にも来ることはなかった。
大方の真実を察してしまったのだろうか?
いやいや、早々解るような事実でもないから、単に気紛れから音沙汰がないのだ。
そんな風に自分を宥めながら、日を送った。


もう日が暮れるのも大分早くなって、バイト先の図書館を出る頃には、
夕焼けはかなり空の下の方で、幽かな輝きを放っていた。
門の所でひょろりと細長い影が動いた。
何かと思ってどきりとしたが、その猫背のなんとも様にならない歩き方で、
彼だと判った。
今日は学生服だ。
「ずっと学校が休めなくて…」
学校帰りに急いで来たらしい。
「わたしも…約束破ってごめん」
そしてどちらともなく、二人並んで歩き始めた。
この間まで先をすたすたと歩いていた彼だが、今日は長い脚をもてあまし気味に、
ゆっくり歩いている。どうやらわたしに合わせてくれているようだ。
「もう倒れたりしないから、大丈夫よ」
わたしは微笑って言った。
「…ああ」
彼はぶっきらぼうに頷いて、わたしを見下ろす。
「男の人には判りにくいだろうけど、月一回のものがたまたま酷かっただけ。
 だから大丈夫」
彼は反応に困ったような表情(かお)だ。
わたしはまた微笑み返す。
緩やかな坂道を登りながら、何処か優しげな沈黙がしばらく二人の間を支配した。

「貴方は怒ってはいないの?」
「何故?」
「…この間俺はずいぶん失礼なことを言ったんじゃないかと思って」
「そんなことはないわ。ただ如彦さんが貴方の学校の先生だったのには、
 とても驚いたけれど」
あの人の名を呼ぶのも久しぶりだ。
「たまに放課後に訪ねた寺社の話をしてた。彼は美術教師だっただけに、
 建築様式なんかに興味があったみたいだ」
「貴方の唯一仲の良かった先生が、いなくなってしまったのね…」
「………」
彼がわたしを見ているのが判った。
「わたしの島には長く続く風習があるの」
何処から何処まで話していいものか、まるで見当も付かないまま、
わたしは話し出した。
「島の外から来た人をお客様として、しばらく島に留めて歓待するの。
 少し他の島から離れていると言ったでしょう。
 わたしのいた島は他の島と潮の流れが違っていたみたいで、
 一度流れ着くとなかなか外に出るのが難しいの。
 今はそんなことはないけど、昔はそうやって流れ着いてしまった人を、
 保護していたんだろうと思う」
「マレビト…」
「え?」
「『遠野物語』にある迷い家の話なんかもそうだと言うけど、
 有名な所では須佐之男命の話かな。
 八岐大蛇退治の話。外からやって来た貴人が、
 村の悪神を退治してその村の娘と結婚する」
「………」
「中には猿神に客が生け贄に捧げられかけて、退治する話もある」
「そう…」
神は退治…殺されているのだ。
「わたしの島では『マロウド』と呼んでいたの」
「ああ、それも同じだよ。『客人』と書いてそう読むんだ」
もう日が落ちて、街灯も少ないこの道では彼の表情は見えない。
「如彦さんは昨年のお宮の祭で『マロウド』として、参加したの」
わたしは真っ直ぐ前を見て、話を続けた。
「わたしの家は、代々そのお宮を守る巫女の家系だった。
 と、言っても村中親戚みたいなものだったから、
 特に何が違うと言う訳ではなかったけど、
 三年に一度の祭で重要な役を果たすから、島の中心のようになっていてね」
「巫女?」
「依坐って呼ばれてた。神様を躯に宿すから」
「……成程ね」
全てを話している訳ではなかった。
でも全てを言葉にするにはあまりにも…あまりにも複雑に絡み合っていて苦しかった。
嘘はついていない。そう思って自分を宥めた。
「貴方はその『ヨリマシ』だった」
「ええ…そう」
昨年の祭がまざまざと思い出される。
わたしが東京にいられるのは、次の祭までだ。
「先生は本で貴方の島のことを知ったんだ。
 丁度七福神のことなんかを調べてたから、
 『えびす』の珍しい神社があると知って、行く気になったんだろう」
「いつも絵の道具を手放さなかった」
「だろうね。彼から来たもう一枚の葉書も、彼が描いた岡山の漁村の絵だったから」
「わたしが――美大を目指す気になったのは如彦さんのお陰だわ」
「………面白くないな」
「え?」
見えにくいながらも、そっと彼の顔を伺う。
彼はそっぽを向いていた。


「次はいつ会える?」
気が付けばもう駅前の大きなロータリーに出ていた。
「わたしは月、水、金以外は予備校はないわ。
 問題は貴方でしょ。あんまり学校サボっちゃダメよ」
「…こんな時に年上になるのはズルいな」
彼はいつもの無愛想さで応える。
「出来れば……もう少しゆっくり会いたい」
やっと、と言うように言葉を吐き出したせいか彼はほんのりと
頬を染めているように見えた。
街の灯りの錯覚かもしれないけど。
「…次は部屋を片付けておく」
わたしも小さな声で答えた。




マンションの前の街灯の下に見知った姿があった。
「よう」
「徹也…」
大叔父の孫に当たる徹也だった。
島では唯一年の近い…とは言っても七つも年上だったが。
「しょっちゅう一緒に帰ってるじゃないか。次は彼で『決まり』だな」
「……そんな間柄じゃないわ」
「気に入ってるんだろ。どうせなら好きな奴にしとけよ。
 俺はアンタのこと可哀想だと思ってたんだぜ。
 最初の二回は親父たちが連れてきた、はっきり言って爺ぃだったもんな」
「何しに来たの」
わたしはイライラする気持ちそのままの声で彼に訊ねた。
「おおこわっ。ヨリマシ様を怒らせると祟りがあるって言うからな。
 俺は今回島の仕事で東京に来ただけだけど、
 ついでに沙久弥の顔を見に寄ったんだ。近くうちの親父がこっちに来る。
 アンタが不都合なら、そう言うものは側に寄せない方がいい」
「……ご忠告、ありがとう」
なるべく隙を見せないよう身構えたまま、答えた。
「まあ、まだ祭まで間があるし。島の年寄りたちが心配し過ぎるんだ。
 アンタまだ若いし、これから幾らでも…」
「もう帰って!」
徹也は徹也なりにわたしを心配しているのが解る。
でも余計なお世話だ。余りにも柵(しがらみ)がきつ過ぎて、
島の人間と祭の話はしたくない。
ましてや―――ましてや彼をあの祭に引き込むなんて!考えたくもなかった。


「判った、判った。忠告はしたぞ。親父や爺さんが決めたら絶対だからな。
 まあ、気を付けるんだな」
徹也はそう言って、背を向けて手を降った。


わたしはそれを見送りながら、頭の中では忙しく考えを廻らせていた。
東京だと思って油断し過ぎたかもしれない。
彼にはこれ以上こちら側に踏み込ませてはならない。
それだけは強く覚悟した。



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主婦
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読書・お絵かき・料理
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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一切関係がありません。
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著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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