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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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幸い拍手を頂けたので、続けます~。
途中、論拠の怪しい蘊蓄が出てきます。
そして多分未解決で終わります(もう予告(^^;))。
それはタタルさんがまだ学生だった…ということでお許しください。


それなりに本は読んだんですが、うーんなかなか(・_・;)

瀬戸内海の水軍に関しては、友達のご先祖がそうだったと
話を聞いたことがありそれを元にして、適当に書いています。


お話は続き記事からです。

拍手[1回]








◆◆◆


然れどもくみどに興して 生める子は 水蛭子(ひるこ)。
この子は葦舟に入れて流し去てき。


古事記 上巻

◆◆◆



ところがしばらく彼はこの図書館には来なかった。
あんなに熱心に通って来ていたのに。
学生らしい気紛れで、見つからない本から、興味が薄れたのかも知れない。
そんな風に思い始めていた日の午後。


彼がやって来た。


正直、彼が週に二、三度の割合で来ていた頃は、
彼の求めにも応じられないことから、彼の来訪が些か鬱陶しく感じたこともあった。
だが、いざ来なくなって見ると、何時なら来るだろうと
時計を気にしている自分がいる。
夏休みももう終わる。
彼が此処に来るのは、あと何日でもないだろう。
と、思った所で気が付いた。
彼が此処に来るようになったのは六月の半ばくらいからだろうか。
学校をサボって来ていたのだ。

「やあ…」
これまでまずは書棚に向かっていた彼が、今日は直接カウンターにやって来た。
わたしは少し必死になって言う。
「ごめんなさいね。探しているあの本。どうやら財団の方でほか…」
「いや、いいんだ」
彼の瞳(め)が真っ直ぐわたしを見つめた。
「少し解ったから」
「え?」
わたしは唐突な言葉と、彼の予想しなかった率直さに惑わされていた。
「今日は貴方に会いに来たんだ。鶴島さん」
「…………」
こう言うのって…。
それにしても空気を読まない。
確かに狭い閲覧室は二人きりだったけど、
あまりにも状況も場所も選ばな過ぎるのでは。
何だか先走りして頭の中でごちゃごちゃと考え始めた時、彼が言葉を続けた。
「貴方、関西の方の出身だね。岡山とかその辺り」
「よ、よく判ったわね。確かにわたしは岡山出身だけど…」
わたしの郷里の島は岡山と香川の県境にある。
元々海の上のことだから、どちらと意識したことなんかないけど。
「言葉のイントネーションが違うから、そうじゃないかと思ってた」
意識して訛りが出ないよう、話していたつもりだけど、
長い間の習慣は簡単には抜けない。
ましてやわたしは……島からあまり出たことがなかったのだから、尚更だ。
「き、聞き取りづらいかな」
少し俯いて言うと、彼ははっと気付いたように言った。
「あ、…いやそう言う意味じゃないんだ。ただ貴方に少し聞きたいこともあったから」
「聞きたいこと?」
「この間会った時、住吉大社の話をしたら『蛭子(えびす)』だって言っただろ」
「え、ええ」
「変わってると思って」
「………そ、そうかしら?」
彼はわたしからじっと視線を離さない。
「普通、恵比寿様なら――事代主とか伊邪那岐、伊邪那美の子供の
 水蛭子とか連想するから。住吉から『えびす』なんて初めて聞いた」
そう言う彼も、解ってはいたがずいぶん変わり者だ。
高校生の年頃の男の子が、やはり年頃の二十歳(はたち)の女性に話かける内容
としては、マニアック過ぎないか?
―――全く何でわたしの周りには…。
と、余計なことを思いかけて、ふと前を見た。
彼は眠そうな目はそのままだが、やはりわたしから視線を反らさない。
観念して話すことにした。少しなら…構わないだろう。


「わたしの…郷里の島にあるお宮が住吉大社の末社なんだけど、
 『蛭子様』って呼ばれてるの。おめでたい方ではなくて、
 蛭の子と書いて蛭子の方。だからつい他でもそうだと思っていたのよ」
「…その島の住人の職業は漁師?」
「そうよ。ああ、そう言えばうんと昔は海賊もしてたなんて、
 おばあちゃんが言ってたわ」
「根っからの海士か。それなら、住吉を祀るのも不思議はないね」
「…そう言う貴方もずいぶん詳しいのね。桑原くん。
 普通、東京の高校生は神社の祭神なんて興味ないでしょう」
「それは…」
途端、彼はうっすらと頬を染めてぼそりと言った。
神社廻りとお墓参りが趣味なんだと。

第一印象は全く外さない感じだ。
何やら『じじむさい』ような空気が漂っているのは、
彼の姿勢が猫背だと言うだけではないらしい。
「あの辺は島が多いけど、わたしのいた島はちょっと外れているから、
 少し変わった所があるかもしれないわ」
一般論で誤魔化すことに決めたが、果たして誤魔化しきれるのか。
東京に来てから、わたしは自分の話を極力人には話さないようにしてきた。
話始めたら、どうしても自分と他との違いが際立つからだ。
尤もこの図書館と美大受験の為の予備校に通うだけの日々。
他人を閉め出すのは簡単なことだ。
今、目の前にいる彼は――アクシデントみたいなものかもしれない。
「それより、わたしのことは沙久弥(さくや)でいいわ。わたしのいた島、
 同じ苗字の家が多くて、苗字で呼ばれることは、
 隣の島にあった高校に行くまでなかったから」
「…神の名だね」
「さくや、が?」
「有名じゃないか。木乃花咲耶姫尊と同じ名前だ。
 それに元来『サ』自体に神を表す意味があるそうだから」
「………」
知らなかった。
わたしが顔も見たこともない母は沙保子。
育ててくれた祖母はサチ。
生まれた『娘』に『サ』のつく名を与えるのは、わたしの家系に伝わる風習なのだ。



「じゃあ、沙久弥さんはこの仕事が終わったら…予定はあるんですか?」
急に口調がぶっきらぼうになる。今まで真っ直ぐ見ていた瞳も反らされた。
「いいえ、特にないわ。駅まで一緒に歩く?
 まあ、普通バスを使うから歩くと少しあるけど。
 貴方、確か家、浅草よね?貸出し簿を見た時ずいぶん
 遠くから通って来ると、驚いたものだから」
「…あの本は都内では此処にしかないと聞いたから」
どうやら照れているらしい。あんなにきっぱり質問してくる割には、
何だか可笑しな所で純情だ。
わたしは――この時は自分でも無意識のまま、
気持ちが温かくなるのを感じて、口許が思わず弛んだ。




仕事の片付けを負え、図書館の規模の割には広い庭を抜けると、
閉まった門に寄りかかって彼がいた。
やっぱり背が高い。わたしはようやく彼の肩に頭が届くくらいだ。
立って並ぶと彼の顔は見えづらい。
「お待たせ」
彼は黙ってうなずくと、目の前の坂道をずんずん歩いて行った。
「桑原くんは何処の大学を受験するの?」
「………大」
掠れて聞こえない呟き声だったから、わたしは聞き返した。
「東大」
彼は嫌そうに渋々と言った口調で繰り返した。
「ええ!それでこんなとこで遊んでて大丈夫なの?」
「…自分の希望じゃない」
彼は振り向いて少し立ち止まり、後ろを歩いていたわたしを待ってくれた。
「親も兄も東大出だから、選ぶ権利がなかった」
「へえー、そう言う家族っているのねえ」
わたしは素直に驚いた。
少し呼吸(いき)をつく。見れば彼もずいぶん呼吸(いき)を切らせていた。
「でも文系でしょ。あんなに歴史が好きなんだもんね。民俗学とか専攻するの?」
「理Ⅲ」
「ええっ!それって物凄く頭良くないと入れないんじゃ」
驚くのを通り越して呆れてしまった。
だって彼は受験勉強をしているようには、まるで見えない。
「あまり関係ないよ。記憶してることを、引っ張り出すだけなんて、
 誰にでも出来るんだから」
…そんなことは、ないだろう。



坂道は頂点まで来て下り坂になった。
ここから駅までは緩やかな下り坂が続いて行く。わたしたちは呼吸を整えた。
「沙久弥、さんは…何処を受けるの?」
「わたし?わたしは美大志望なの」
――例え受かっても行くことは出来ないかもしれないが。
「絵を描くの?」
「ええ、水彩だけど。だからいつもなら図書館のバイトの後に、
 デッサンの予備校に通うのよ」
「……今度」
そう言って彼はふと口隠った。
俯いてしまう。
空いた間合いにわたしまで釣られて恥ずかしくなってしまい、
自分の頬が何やら熱くなるのを感じた。
―――こんな三つも年下の子に。
自分の心の奥底から、揶揄するような声がするのを振り切って、顔を上げた。
「何でもない」
彼はふい、と顔を反らしてしまった。




わたしたちは駅に着いた。二人で改札をくぐる。
わたしは二駅目で降りるが、彼は終点まで行き、乗り入れしている地下鉄に
そのまま乗って行くはずだ。
駅に着いてからは、二人して黙ったままだ。
彼は同行者の沈黙が気にならない質らしい。
いや、むしろ沈黙こそ好むのかもしれない。
でも気まずさは感じず、むしろ共感めいたものも感じて、居心地は良かった。
電車はわたしが降りる駅に着いた。
「それじゃあ、また」
彼は黙って手を上げた。


でもわたしはこの日のことを、後で痛く後悔することになる。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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著作権も一応手放してはいないので、
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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