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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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深海の雪 を書いた時にも思ったんですが、誰がこんなタタ奈々でもないお話
読んでくださるんだろうと思いつつ(^^;)でもなんかつながっちゃうと書かずには
いられない質なので、今まで散々ぼかして書いてた、タタルさんの過去の女(ひと)
の話を書いてみました。



原作にぽつりぽつりと書かれたヒントによると、
『過去に亡くしてしまった人』(諏訪の神霊)は決して女性に限ったことでは
ないと思っていますが、私が単に奈々ちゃんとの現在に繋がる話にしたいと
言うことと、まあ自殺まで仕掛けた訳だし…(尤もこれも亡くしてしまった人に
繋がると言うわけでもないのですが)と言うことで。こんな感じかいな?と
深海の雪を書いた時にうっすら考えていました。

あの今のところタタ奈々には何の役にも立たない話になっていますが、
奈々ちゃんも終わりの方に出てきますので(ちゃんといちゃいちゃさせる←死語 つもり
でいますので)、それまで待っても良いという方、続き記事よりどうぞ。
3回くらいで終わりたいけど、うっかりすると5回くらい行っちゃいそうですΣ(゚д゚lll)

拍手[3回]


◆◆◆






子守唄





子もりうたがきこえる。

だがわたしは子もりうたを聞いたことがない

母というものを子供のときにしらないわたしに

そういう唄の記憶があろうとは思えない。

だが不思議に

雪のふる日は聴える

どこできいたこともない唄がきこえる。


~少年少女のための日本の名詩選集6 室生犀星~


◆◆◆



そう言えばあの人と初めて会ったのも、夏だった。
蝉時雨に混じって、あの海神(わだつみ)を祀るお宮のご神木の下(もと)
彼は少し疲れた笑顔で、微笑っていた。
わたしはそれまで何の企みもない笑顔と言うのを知らなかったから、
とても不思議に印象に残った。
―――あの人…彼の人…そう、こう言わねばならないのは、
彼がもう此岸の淵からこぼれ落ちているから。




そして、今日も暑い日だった。あの日のように窓の外は蝉時雨。
この古い建物は周り中大きな木ばかりだから、無理もない。

「おかしいと思う」
目の前の明らかにぱっとしない印象の少年が呟いた。
「ええ、仰る通りですけど」
世間には無関心です、と言う空気をあからさまに
漂わせている割には少年は粘り強い。
「でも本当のことなんです。目録には確かにあるんですけど、
 こちらには置いてないんです。誰かに貸し出されたままに
 なっているのかもしれないけれど」
これで彼にこの言葉を繰り返すのは、三度目だ。
都内の閑静な住宅街の、一財団が細々と経営している図書館に、
最近彼は通いつめている客だ。週二、三回。もう二月(ふたつき)には
なるだろうか。
正直、この図書館の蔵書は財団の三代前の経営者が趣味で集めていた
書物を戦後公開したものだから、どう考えても目の前の――このボサボサ髪の
高校生が好みそうな本を置いている訳ではない。
「…そうかな?俺はこの本を此処で読んだ、と言う人から話を聞いて来たんだけど」
「………」
ボサボサ髪の向こう側の、眠たそうな目がばっとこちらを見た。


意外と切れ長で大きな瞳。
でもこちらが先程から繰り返している言葉は、明らかに疑っているようだ。
「貸し出しの履歴には残ってないんですよね。
 だからお調べしようがなくて。もしかしたら、書庫にあるかも。
 上の者に話して探してみます。貴方はまた来週もいらっしゃいますか?」
なんと言うか、この少年は本当は粘着気質らしい。
もう、昼休みに入ろうと言う時間でもあるから、この辺で終わりにしたかった
わたしは、作り笑いで彼ににっこりと笑いかけた。

彼は少し驚いたようにこちらを見たが、直ぐに目を伏せた。
「わかりました。来週、また来ます」
そうそう、若者は素直じゃないと。
……などと内心頷きながら、わたしは目の前に広げたファイルや貸出し簿を閉じた。
大体高校生が『源氏と瀬戸内海の水軍』だの『古代海士の発展と歴史』だの、
『瀬戸内海の水軍の成り立ちと宗教』だの
……そんなに熱心に読みたいものだろうか?
まあ、変わり者なのは見た目からでも解るけど、
求める書物同様、彼からは高校生らしい覇気がない。
彼が背を向けて、部屋から出たのを見届けると、わたしは机の上を片して、
お昼休みに入ることにした。




わたしがこの図書館でアルバイトを始めたのは、今年の四月からだ。
美大を目指すと言う名目で東京に出たわたしに、
わたしの郷里―――瀬戸内海に浮かぶある小さな島の、
村の長老からの好意で紹介された職場だった。
なんでも明治時代から島とこの財団が縁続きとかで、
すぐに住む場所と共に話は決まった。
まるで初めからこうなると解っていたようにスムーズだったが、
逆らう理由も見当たらないので、わたしは今の環境を受け入れている。
―――受け入れる。
そう言うしかない身の上だ。
まるで、生きる者も死ぬ者もまるごと受け入れる海のように。



図書館の建物の小ささに比べて、広い庭の一画にある大きな樫の木の下で、
わたしは一息ついた。
東京に来てから慣れないものにエアコンがある。
確かに涼しいのだけど、何処か紛い物の冷気にまとわりつくような、
気分の悪さがあって好きではない。
だから昼休みくらいは、どんなに暑くてもわたしは外に出て食べる。


ところが毎日のお気に入りの場所に、先客がいた。
さっきのボサボサ髪の少年だ。
嫌な奴に会ったなと思ったけど、仕方ない。
あからさまに迷惑な表情をする訳にもいかなかったわたしは、
彼に声をかけることにした。
「貴方、お昼は食べないの?」
彼は熱心に持参していたとおぼしき文庫本を読んでいる。
「…昼食は摂らない習慣だから」
本から目を離さず、彼は応えた。
やっぱり最初からの印象通り、失礼な奴だなあと思いながら、
わたしは少し離れて腰をかけた。

「わたし、隣で食べてても構わないかしら?
 此処、わたしがいつも昼を食べる場所なの」
「………別に構わないけど」
彼はちらりとわたしを見たが、すぐに本に目を落としてしまった。
先程閲覧室で彼が熱心にわたしに話しかけていたのは、
明らかに彼が今月に入ってからずっと、行方を訊ねる一冊の本ゆえで、
なんと言うか、人間にはまるで興味がないらしい。
多分、わたし以外の人間に対してもこんな感じなのだろう。

優雅とは言い兼ねる昼食の陪食者としては、甚だ不向きな相手だが仕方がない。
わたしは弁当の包みを開けた。
今日もお握りが二つ。
あまり料理が得意ではないわたしが、
東京で一人暮しを始めて一番困ったのが食事だった。
でも人間、食べる為だったら何とかなるもので、どうにか暮らしている。


「ずいぶんと不揃い」
本からまるで目を離さないくせに、聞こえるか聞こえないかのような声で彼が呟いた。
「朝、急いでいたから」
急がなくても不揃いだっただろうが、なんか自分より二、三年下に
鼻で笑われたような気がした。
……まあ、彼の言う通りお握りは定形の三角でも俵形でもなかった。
「貴方はここ最近ずいぶん熱心に通ってきてるけど、
 学校は?もう夏休みだろうけど高校生でしょ?
 部活やら補習やら忙しいんじゃないの」
髪はボサボサ、着ているTシャツもよれよれだけど本を捲る、
白い細い指の動きは繊細で、もしかしたら意外と育ちはいいのかもしれない。
そう言えば言葉づかいも高校生としては、嫌味に感じるくらい丁寧だった。
わたしはお握りをぱくつきながら、横目で彼を見つめる。
「…此処に来ているのは受験勉強の為…だから」
言葉を濁しながら、ぼそぼそと言う。
どうも言ってる本人が自信がないらしい。
確かにこの図書館の蔵書は偏りが多くて、受験勉強に必要な本が
多くあるとは思えない。
「親御さんにはそう言って来てるのね」
俯いて言う彼の表情が、急に彼の年頃に似合いの少年(こども)じみたもの
になったのが何だか可笑しくて、わたしは小さく微笑った。
「ずいぶん歴史に関わる本が好きなのね。貴方が此処に来てから借りた本は、
 日本の歴史の本ばかりでしょう。
 まあ、この図書館は漢籍や古典関係の書が多いから、仕方ないけれど」
お握り二つの昼食はあっと言う間だ。……玉子焼きくらい作るべきだったか。
「ある人にこの図書館なら、今俺が知りたいと思っていることを調べられるんじゃないか
 と教えて貰ったんだ。
 確かに此処の蔵書は偏ってるけど、内容の深いものが多いから
 ……つい目当ての本以外のものまで読んでしまっているけど」
「源氏に興味があるの?確か先月来た時は、
 鎌倉時代の源氏の本を沢山読んでたでしょう」
彼はやっと本から目を離した。
そこであれ、と気が付いてしまった。
仄かに吹いた風が彼の前髪を吹き上げて、彼の白い額や、切れ長な目を
綺麗に縁取る長い睫毛が見えたからだ。

……自分で解ってないのかしら?
彼はちょっとこちらがどきりとするくらい、ハンサムだった。
そう言えば背も高い。
長い足を置き場がないようにもて余して座っている感じだ。

「…でも瀬戸内海なら平家のが有名よね。一体何を調べているの?」
「そんなことはない。元々源氏が武士になった初めとも言われている、
 源満仲、大江山の鬼退治で有名な頼光の父親だけど、
 彼は河内源氏の出身で住吉大社を信仰してた。
 住吉は海の神だし、源氏は水軍とも関係が深いと俺は思うけど」
「住吉……蛭子(えびす)ね」
「え?!」
彼は何に驚いたのか、ずっと半分閉じていた瞳を大きく見開いて
わたしを見つめた。
「……貴方二十歳くらいに見えるけど、大学生?」
いきなり女性に年を訊ねるか?普通。
でも隠すことでもないから答えた。
「そうよ。でも大学はこれから受験するの。わたしを育ててくれた祖母が、
 長く患っていて、高校卒業してから家を離れられなかったから」
「じゃあ、来年受験したら俺と同学年になるのか」
と、言うことは彼は高校三年生なのか。
「貴方、鶴島沙久弥さんって言うんだろ」
「え?」
「図書館で付けてたバッチに書いてあった」
あんなに興味なさそうなのに、それなりに目端が利くらしい。
「貴方は桑原崇くんでしょう。これは本を借りれば記録するから、覚えてるのよ」
彼は少し間を置いてくすりと微笑った。
「貴方って負けず嫌いだね」
「貴方ほどじゃないわ」
見つめ返してわたしも思わず笑った。



――――誰かと一緒に笑ったのなんて、もう何年も前のことだった。




続きます(^^;)
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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