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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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今回は最終回です。
や~終わった、終わった。
無事着地出来てヨカッタです。
しかし例の如く、薀蓄の決着はついてません(笑)←誰も期待してないから!


あ、『真白の雪』発送始まってます。
オマケの着せ替え、非常にイカン遊び方を思いついてしまった。
皆様、奈々ちゃんのお洋服をタタルさんに着せて
女装ごっこするのはやめましょう(爆)
サイズ合わないですw


お話は続き記事からです。

拍手[6回]






◆◆◆


渚には蒼き波のむれ
かもめのごとくひるがへる
過ぎし日はうすあをく
海の彼方に死にうかぶ
おともなく砂丘の上にうづくまり
海の彼方を恋ひぬれて
ひとりただひとり
はるかにおもひつかれたり



室生犀星


◆◆◆



「目が覚めた時は丸一日経ってた。
 よりにもよって、あんなに長い時間眠ったのは、一生であの時だけだ」
彼の手は幽かに震えていました。
わたしはそっと彼の指先を握りしめました。
「お茶に――何か入っていたんだろうな。
 いやに口の中が苦かった。尤も彼女の淹れるお茶はいつも渋くて
 …味覚のバランスがおかしいのは、おそらくある種のストレスから
 だったろうと思うんだが」
「…解るような気がします」
幾ら生まれた時からとは言え、人はそんなに多くは背負えないはずです。
「すぐに夜行に飛び乗って岡山に向かった。
 彼女の島の名前をそう言えば聞いたことがなかったが、
 彼女は島には二つの名字しかないと言っていた。
 もしかしたら彼女の姓が島の名前かもしれない、と思い当たった」
亡くしてしまった人―――彼はそう言っていました。
その先は聞かなくても、想像はつきました。
彼はきっと助けられると信じた人を、失ったのです。
そして―――。

『自殺を試みたことのある人間から…』
鋭く突き刺さるような言葉が、今もわたしの胸を刺しています。
あの時、あんな時だからこそ彼はわたしに言ったのでしょうか?
それまでどんな時も、彼から零れ落ちることのなかった言葉。
溢れる(あふれる)ことのなかった想い。


「もう一日早く辿り着けていたら」
彼はそこで言葉を切りました。
「でもタタルさん、高校生だったんでしょう。よく岡山まで行きましたね」
「君も知ってる通り…大学時代と同じく、高校生の頃も興味を持ったら
 その寺社へ行っていたから、何の違和感もなかった。
 ただあんなに列車が遅く感じられたことは、なかったけれど」
「タタルさん」
わたしは今、感じているままを彼に伝えることに決めました。
「わたしもタタルさんの立場だったら、同じように彼女を助けたいと思ったと思います」
「…でも俺はそれすら傲慢な考えだったと、後から知った。
 岡山に着いて見ると、いつも彼女の島へ行く、雑貨なんかを販売していた
 船があった。その日港に着いたその船の持ち主が、島が裳抜けの殻だったと
 言って騒いでいた。島民誰一人いないと。
 ――警察が動き始めて、初めて自分は無力な子供だったと知らされた。
 島にはもう入ることは叶わなかったし、それに」
彼はふうっと息を吐き出しました。握った指先が汗で少し湿っています。
きっと思い出すのも辛いのでしょう。
「彼女は初めから、この世にいない人間だったと知ったんだ」
「…え?」
「鶴島沙久弥と言う女性の、戸籍も住民票もなかった」
「…そんなこと可能だったんですか?」
「在る、と言うこと自体が、彼女の存在自身があの島の深秘だったんだ」
「…………」
でも……。
「お部屋を借りたり仕事をするには…」
「部屋は叔父名義で借りられていて、全くの別の名前の女性が住んでいること
 になってた。多分彼女自身も知らないことだったに違いない。
 図書館は――縁故だったようだし」
様々な事件に遭遇して、大抵のことには驚かなくなっていました。
ある種の障害から記憶を順番に辿れないことで絡まった事件、
代々伝わる秘密を頑なに守り通した為に起きた事件。
―――自分を鬼の血を引いてると信じて起きた事件もありました。
それでは彼の体験したことは、なんだったのでしょうか。
元から存在しない人に出逢い、そして後には何一つ残らないなんて!




「島の周りの潮流は特殊で、例え島から死体を流したとしても
 浮かび上がることはないらしかった。
 だからあんな儀式が、長年続けられてしまった訳だが」
振り向いて彼を見ると、彼は淋しげに微笑いました。
「俺が着いた日、あの辺りには珍しく雪が降ってた。
 海に触れる前には消える淡い雪だったけれど…」
「…今も会いたいですか?その方に」
「俺にその資格はないよ」
彼は立ち上がって、わたしにも手を伸ばしました。
「外嶋さんに言われた。俺は全く解ってないって。
 まるで『椿姫』に出てくる主人公のように、女心が解っていないと」
「………」
「まあ、今でも解らないけれど」
わたしを立ち上がらせると、彼は肩をすくめました。
「それで外嶋さんはご存じなんですね」
「…君何か言われた?」
「行って、ひっぱたいて来いって」
「……………」
彼が自殺を計って運ばれた先が、わたしの雇い主の外嶋さんの
親戚が経営する病院でした。
「全てを捨てたつもりでいても、こうしていると何かしら柵(しがらみ)が
 出来るものだな。そして…」
彼はわたしの手をそっと掴みました。
「また何処かで繋がる」
わたしは彼を見て、微笑みました。
――心から。
そして彼にそうしたくても、出来なかった女(ひと)の分まで。
「わたしの手はいつも、タタルさんに…」
伝わる温もりはまぎれもなく本物でした。

わたしの前に彼がいる。
彼の前にわたしがいるのです。

間に響くのは、繰り返す、古(いにしえ)より変わることのない波の音だけ。




◆◆◆



長い間、その場所には行くことが出来なかった。
鶴島沙久弥と言う女性が、丸きり『此岸』には存在しなかったと
知ったあの港には。
死体すらない死は、完全に彼女の存在の記憶すら、
この世にあることを許さない厳しさを感じた。
当時自分の中にあった想いもその実在を疑われて、
だからこそ凍りついたかのように、心の中から離れることがなかったのだ。

守りたい、そう心の底からまるで祈りのように思う存在が出来て、
初めてあの当時の自分が犯したかもしれない罪があることに、想い至った。
閉鎖された中しか知らなかった女性(ひと)を、
知らずに追い詰めていたかもしれなかったこと。
―――それは己れの性質から来るものだと言うこと。
そう気が付いて、初めて彼女の死に向かい合う気持ちになった。
墓参りすら出来ない死は、残酷さしか感じられなかったが、
16年と3ヶ月ぶりに立った港で水平線を見つめた。
彼方に島影が幾つか見える。その更に向こうには四国。
彼女の島をどれなのか特定は出来かねたが、それらを見つめて呟いた。

「…ありがとう」

あの女(ひと)は精一杯、俺を守ったのだ。その小さな存在の全てで。
「俺にも守りたいものが出来た。だから許して欲しい」
多分彼女は初めから知っていたのだろう。
案の定その存在は、彼女の言っていた通り『会う度に事件を連れてくる』訳だが。
守ろうと思えばこそ、人は自分の小ささに怯える。
でも逃げることは許されない。
そう思ったら、急にこの一年程、食事の後に飲んでいた緑茶の味が
思い出された。
お茶を習っているだけあって、いつも上手いタイミングで淹れられる
緑茶はほんのりと甘い。


―――伊勢に行こう。
やっと長年傍らに在った存在が、どうやら自分には手離せないものだと
気付いた場所へ。
もしかしたら。
彼女も来るかもしれなかった。
「君の名には聖数が含まれてるから」
どんな事件も彼女を不幸にすることなど、出来ない。
「もしかしたら、守られてるのはまた、俺の方かな」
思わず笑みがもれる。
もうひと月も経てば、波の上に舞うのは雪ではなく、桜の葩(はなびら)。
桜は紛うことなく『神』の住む花だから。
せめて海の底の黄泉(よみ)の国には、穏やかな子守唄が響くように願いながら、
港を離れた。






月の黄昏に続く。そしてそのあともまだ続いてたりして(^_^;)すみません。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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著作権も一応手放してはいないので、
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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