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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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今日は七月七日。
奈々ちゃん、お誕生日おめでとう~(#^.^#)
ってことでSSの更新です。

七夕にちなんで、竹取伝説あたりからのお話にしてみました。
文庫とノベルズで違っているようなんですが(ウチには文庫しかない)
文庫だと作中奈々ちゃんのお誕生日前日に、事件が起こっています。

なのでせっかくタタルさんが覚えていたはずの、お誕生日がぽーんと
躱されていまして…。
気になっていたのでこんな話に。

SSは続き記事からです。







拍手[18回]


◆◆◆



「誰か祐天寺の駅前まで、客を迎えに行ってくれないか?」
萬治漢方はJR目黒駅からも東横線中目黒駅からも
――そして祐天寺駅からも、やや歩く位置にある。
たまに店の位置が解らなくなった客から電話を貰い、
迎えに行くのは今年入ったばかりの新人店員の仕事だ。
しかし今日は違った。
「俺が行きます」
さっさと白衣を脱いで、外出の準備をする。
「……赤い帽子を被った年輩の女性だそうだ。頼むな」
少し驚いた顔で先輩店員が言う。
正直、自分が客を出迎えに行くことは滅多にない。
もし今日が七月七日でなかったら。
行き先が『祐天寺駅前』ではなかったら。
自分から申し出て役目を果たしに行くことはないだろうと、
我ながら思った。
 
 
 
狭い祐天寺駅前の商店街は混み合っていた。
各店で笹に付けられた七夕の飾りを、軒から提げている。
毎年のことではあるが、一体どれだけの人が
この祭のこの飾りの真実の意味に気が付いているだろう。
その話をしたら、大きな瞳(め)を更に見開いて、話を促した
――棚旗奈々、彼女の顔が思い浮かんだ。
 
 
二月に―――おそらく日頃の感謝(感謝されるようなことは何もしていないとは思うが)
の意味を込めて、郵送でチョコレートが届いた。
ホワイトキュラソーかグランマニエ、オレンジのリキュールが微かに香る、
丁寧に作られたトリュフだった。
彼女の手作りだろう。
綺麗な包装だが、市販品とは違う。
いつも目が合えば微笑む、その表情を思い浮かべる。
だから三月の勉強会の帰りに彼女を食事に誘った。
(外嶋さんの思惑に乗るのは面白くなかったが)
彼女の手作りチョコレートの手間を考えたら、こんな食事では手抜きな返しだろうが、
こう言う時どうしたらいいものか、解らないのだから、仕方がない。
 
 
 
ホワイト薬局は今日も程々に混み合っていた。
午後の診療時間が始まった時間帯、ガラス戸の奥に白衣姿の彼女が見えた。
丁寧に薬の用法の説明をしているらしき様子も伺える。
きっと彼女のことだから、どんな患者にも解りやすいよう、
患者の立場に立って説明していることだろう。
対している患者はかなり年輩の――七十は越えているだろう男性だったが、やはり笑顔だ。
杖をついたその老人に付き合って、彼女は薬局の入口まで出てくる。
老人が杖を落とすと、屈んでその杖を拾う。
杖を手渡す彼女の手を老人が感謝とばかりに、握り返した。
彼女は苦笑気味に握手を返す。
「…………」
彼女のある種の鈍さは、学生時代からのものだ。
そもそも彼女とこうした付き合いが始まった切っ掛けも、
無視すれば済むような宗教の勧誘に彼女が引っ掛かっていたからだ。
どうしようかと見ていたら、奥から古い知り合いで、
ホワイト薬局の経営者の外嶋さんが出てきた。
老人はお辞儀をして帰路についていく。
ふと彼女は気付いたように、入口に飾られた短冊が下がった笹を、少し直した。
飾りの意味はともかく、まるで彼女の為にあるような飾りだとつくづく思う。
忘れようがない。
今日は君の誕生日だ。
だから。
偶然を利用して、今、この場にいる…筈だ。
でもその意味は?
君が今此処にいることに感謝する、その為に?
そんなことを考えていたら、薬局に入ろうと彼女を振り向いた外嶋さんと
目が合った。
人ごみに紛れ、駅に向かって歩き出す。
二月にした七夕――君の生まれた日の話はまた次の機会に。
そんなことを考えながら。
 
 
 
「次は二週間後ですね」
いつもの如く彼女は笑顔だ。
対する患者…八十近い老人が嬉しそうに彼女の手を取る。
「いやいや、もう。面倒なんて思ったことはないよ。
 棚旗さんのお顔を見るのが楽しみでなあ」
などと全開の笑顔で話しながら、彼女の手を握り離さない。
あれでは彼女も離す訳にはいかないだろう…が。
「奈々」
「タタルさん!」
握られた手を彼女はぱっと離した。
彼女を挟んで老人が、じろりとこちらを見る。
「少し早く終わった。君の仕事が終わるのを待っているつもりで来たんだ」
「先に帰っていても、いいですよ」
「今日は七月七日だろう…そう言う訳には」
彼女はぱっと頬を染めた。
「勿論七夕の為、じゃない。指輪を買う約束をしてただろう」
「…婚約指輪ですか?あれは今週の日曜って仰ってませんでした?」
ちらりと見ると察した老人は、見た目より早い足取りで去って行った。
「おいおい…年寄りは少し労ってだな」
「…外嶋さん」
彼女が振り向くと、この薬局の主がカウンターから出てきていた。
「奈々くん、閉店業務に入りたまえ。あのご老人はいつもこの薬局に最後に来れるよう、
 案配してる人だから、今日はこれ以上患者は来ない筈だ。……桑原」
黒縁眼鏡の奥から、じろりと睨まれる。
「気持ちは解るが、患者に喧嘩は売らないでくれ。
 …全く権利があると自覚したら、急に自己主張が強くなるもんだから…」
最後はぶつぶつと呟く声になった。
「望んだのは貴方でしょう?」
表に出た市販薬の看板を、彼がしまうのを見ていた。
「…毎年、七月七日になるとウチの薬局の前をうろつく
 ボサボサ頭を何とかしたかっただけだ」
「………」
「織姫と彦星ですら、年に一回は天の川を渡ると言うのに、祐天寺の駅前商店街の狭い道路すら、
 対岸で佇んでる男がいるとは、誰も思うまいよ。今だから言うが」
彼は言いたいだけ言うと、薬局の中に入っていく。
「外嶋さん、終わりました」
「閉めるのは僕がやろう。奈々くんは上がりたまえ」
「はい、ありがとうございます」
彼女は――先程まで患者に向けていた笑顔とは違う、本当に心からの笑顔で答えた。
 
 
 
「少し高くなかったですか?」
青山にある宝飾店からの帰り道にカル・デ・サックに寄った。
「…預金を崩したから、問題ない」
「え!」
彼女は丸い目でこちらを見た。
「遠くの神社に長期で行く為にしてた預金だから――構わない」
「だってそれはタタルさんの」
「二人で――行くなら、またどうせ預金し直しだから」
前に置かれたカクテルに口を付けると、彼女をちらりと見た。
彼女は更に目を見開いたが、にっこりと微笑って言った。
「ありがとうございます」
「今日は七夕だけど」
彼女は手に取ったグラスをそっと下ろす。
「…以前話してくれましたね。あと星の神様は不吉なんだって」
「上に立つ者たちにとってはね」
思わず苦笑した。
あの頃は『そんな話』でしか、彼女に語ることが出来なかった。
今でもあまり変わらないかもしれないが。
「江ノ島の弁財天も五頭竜と六十年に一度は出会う。だから――」
「…今日は良い天気だったし、きっと出会えたんですね」
 
 
 
帰り道、彼女は腕を絡ませ、そっと寄り添って言った。
「不思議です。昨年までは――年に一度、二度、
 タタルさんと会うだけで、満足してた自分が」
「一年に、一度か…」
満足は、決してしていなかった。
でも満ち足りない思いが言葉になるまで必要とした時間に、
それなりの愛しさも覚えながら、これからの互いを見つめて行く年月も思う。
「これから…毎日顔を合わすのが嫌だと言われなければいいんだが」
我ながら情けない言葉だけに、小さく呟く。
それでも彼女には聞こえたようで、驚いた表情をしたが、微笑してこちらを見上げた。
「タタルさんこそ『飽きた』って言わなければいいんですけど」
絡められた腕を外して、肩を引き寄せる。
流石に都会の夜空には天の川どころか、目ぼしい星すら見当たらない。
唯一彼女の左手に今日から小さな星が光るのを確認して、
二人、少し遠回りして渋谷駅までの道を歩いた。



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