タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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予想以上に長くなっちゃいました、ハワイ新婚旅行話。
もう13話目です。
何とか着地出来そうで、ホッとしています。
コメントもありがとうございます。
いつも楽しく読んでいます。
さてこの話とエピローグで終わるかな?と思ったんですが、
タタルさんにご褒美、もう一話書くことになりそうです。
お話は続き記事からです。
もう13話目です。
何とか着地出来そうで、ホッとしています。
コメントもありがとうございます。
いつも楽しく読んでいます。
さてこの話とエピローグで終わるかな?と思ったんですが、
タタルさんにご褒美、もう一話書くことになりそうです。
お話は続き記事からです。
◆◆◆
案内されたのは植物園のスタッフのみが行ける区域の、
更に先にあるビーチに建てられた、たった一軒の水上コテージだった。
コテージのバルコニーから海の上に続く桟橋には、
クルーザーまで用意されている。
玄関の前には篝火が焚かれ、不必要な明かりは灯されていなかった。
ホテルの支配人は「ごゆっくりお過ごし下さい」と一礼して、
去って行った。
奈々はミシェルから渡された鍵を、扉に差した。
部屋は6室。
3室のゲスト用のベッドルームが、既に奈々たちが初め泊まる
予定だったコテージのベッドルームくらいあった。
他にはリビング、ダイニングキッチンも備えられ、
海に向かって作られた、広めのバスルームにはパウダールームも付いている。
奈々は抑えられた明かりの中、メインのベッドルームの扉を開けた。
そこはハワイ王室の家具もこの木で作られていたコアの木で、
柱から、ベッド、サイドテーブル、チェストと揃えられており、
ベッドには天蓋まで付いている。
サイドテーブルにはブルーのキャンドルが置かれ、火が灯されていた。
ふと奈々は甘い匂いに気が付いた。何処か胸をくすぐるような、官能的な香りだ。
振り向くと、そこには鉢植えのプルメリア、
青い花を付けたプルメリアが置かれ、根元に一通の封筒が置かれていた。
『これは奈々を困らせたお詫び―――君は僕にとって
青いプルメリアだった。決して手に採ることが叶わない。
でも毒があっても触れたい花でもあった』
手紙はまるで女性のような字体で書かれていた。
奈々はじっと手紙を見つめた。
ミシェルにとって、幼い頃の自分との出会いは特別だったのだろう。
思い出せない自分が、何だか申し訳ない気がした。
「毒?大抵の毒は薬にもなるんだ」
崇がすぐ後ろに立って、奈々の手元の手紙を覗いていた。
「タタルさん!」
「……全く」
崇はため息をつくと、そっと奈々の顎に指で触れた。
正装の崇だ。いつもの彼とは違って、切れ長の目がよく見えた。
「……………」
パーティ会場でも目が離せなかったが。
今は真っ直ぐ奈々を見つめている。
「君を信頼はしていたけど…信頼の深さと気持ちの安定感は
比例しないことに、気が付いた」
「…そう、ですか?」
「わからない?」
崇は奈々から視線を反らさなかった。
奈々は息苦しく感じるくらいだったが、それは不愉快な息苦しさではない。
奈々がそっと瞼を閉じると、本当に微かに崇の口唇が触れた。
それが徐々に頬に落ち、口唇へと滑り、奈々が息をつく間もなく深くなり、
気付いた時には舌が絡め取られていた。
「………ん、っ」
素肌が出ている肩を崇の右手が触れている。
よく知っている熱が、直に伝わる。
繊細な動きで細い指がなぞるように、奈々の首筋に触れた。
「やっ…た、タ、崇さん、待っ」
「……何?今日ばかりは君の言葉も、余り聞いてる余裕はないけど」
「シャワー浴びたいんですけどっ」
「…まあ、いいか。バスタブにお湯を張ってくる」
崇は髪をかきあげながら、タキシードの上衣を脱ぐと、
バスルームに向かった。
出来れば今夜くらいはあのままの姿でいて欲しいような気がした
奈々だったが、崇の性急さに少し驚き、拘束から逃れたことに
僅かにほっと息をついた。
「彼は『毒を喰らわば皿まで』の心境なのかな、シモン」
「さあ」
「だって言ってたじゃないか。奈々は出掛けると事件に会う――
一種の『美しき災い』だって」
史紋とミシェルは研究室にいた。史紋に見分けて貰いたい植物の鉢の
幾つかを抱え、ミシェルは史紋の前に並べる。
「僕から見ればあの二人は『毒をもって毒を制す』だ」
「成程」
「毒草だからと言って無闇に遠ざけるのは筋違いだ。
毒があるからこそ、有益な植物は多い。例えば莢竹桃は」
史紋は手元の鉢植えを見た。育成状況は完璧だが、
隣人に預けた鉢植えの方が、やや野放図でも興味深い印象だ。
「大気汚染の公害に強いから、日本でも高速道路の周辺の緑化などに
使われている。原爆投下後の広島でも最初に咲いて、
復興のシンボルにもなった」
「……君も好きなんだろう?シモン。君がわざわざ結婚式にまで
参加するなんて、おかしいと思った」
史紋はふと鉢植えの葉に触れていた指を止め、微かに笑みを浮かべる。
「在るべきものが、在るべき場所にある。当たり前の事象を受け入れただけだ」
「理屈だね。僕は無駄と知っても一度見た夢は叶える為に、
能力(ちから)を惜しまないんだ。
まあ今回は、奈々の真っ直ぐな気持ちに完敗だったけど」
「日本語で『まな』は真実の名や愛しさを意味する言葉だ。
呪力を意味する『マナ』はメラネシア由来ではあるが―――」
史紋は研究室の少し大きめの窓の外に目をやった。
木々の向こうに暗く煌めく水平線が見えた。
「だ、ダメ、ダメです!」
「何故?」
「だ、だって」
「君はいつも浴室が狭いからと言っていたけど、
此処は…二人でも余りそうだが」
「それは…そうですけど」
「他に何か理由が?」
「それは…」
奈々の顔は真っ赤になる。バスタブに湯が張られ、
上半身衣服を脱いだ崇に、『一緒に』と言われた。
共に暮らして一年になるが、まだ入浴は一緒にしたことがない。
何となく気恥ずかしかったし、明るい場所で全身を晒すのに抵抗があった。
特に今日の崇の前では。
はあーっとやけに大きなため息が、崇の口から洩れた。
「解った」
崇がバスルームに向かおうとする背中を見て、奈々は言った。
「さ、先に入ってて下さいっ。後、後から行きますから」
ふと見上げると崇は背を向けたままだが、
片手を上げてベッドルームから出て行った。
海に向かってガラス張りのバスルームからは、
水平線に船の明かりが見える。
かなり開放的な作りだ。
「明日の朝は朝日がよく見えるだろうな。表のコテージと違って、
東向きだし」
僅かな水音と共に、崇の低めの声が響く。
奈々はバスタオルを体に巻き付けて、バスルームを覗き見た。
「………タオルを巻いて入るのか?」
「…………」
今更恥ずかしがるのはおかしいかもしれない。
奈々はそっとタオルを外して、崇を見た。崇は窓の外を見ている。
奈々は静かに浴槽に入った。僅かに湯が零れた。
「まな、とも読むけど『愛』の字には、いとおしい、めでる、思いこがれる、
などの他にかなしい、おしむなどの意味がある」
崇の視線は今だ水平線にの彼方に向けられている。
「そう言えば以前に外嶋さんが」
「キリスト教で『愛』と言えば、神が人類に向けるものになるし、
仏教では『貪愛』と言って、自我の欲望に根差し、
解脱を妨げるものになる」
「随分違う意味になるんですね」
崇がこちらを見た。一瞬それこそ貪るような視線で奈々を見たが、
奈々の頬が赤らむのを見て、視線を反らした。
「実際立場によってその気持ちの有り様は、随分変わって来るしね」
ぱしゃりと水音がして、崇が髪をかきあげた。
髪型崩れちゃうな、奈々はそんな風に思った。
多分この『惜しむ』気持ちも『愛しい』と言う想いに繋がるのだろう。
「まだ解脱なんて、出来ない」
熱めの湯に奈々の肌が慣れて来た所で、崇がふいに奈々に腕を伸ばした。
声をあげる間もなく、抱き込まれてしまう。
「貪りたい、なんて言う利己的な気持ちにまで『愛』や『愛しさ』が
含まれると言うならば―――今、当にその心境だ」
背後から首筋に噛み付くようなキスを施され、奈々はびくりと震えた。
指はすでに奈々の胸元や腰のラインをなぞるように辿り始め、
奈々が身を捩るのも許さない感じだった。
「………っ」
「声、出せばいい。此処、誰も来ないし離れてる」
水が跳ねる微かな音が、いやに淫らに響く気がした。
「この瞬間(とき)の為に、どれだけ耐えたと思う?」
胸の敏感な部分に逃れることを許されず触れられ、
奈々は声が洩れないよう必死だった。
何故こんなに自制するのか、そんな自分に疑問を感じながら。
気付いたら崇の細い指先が、脚の腿に触れていた。
「あ…まだ、いや…っ」
「…お湯を落として、洗う?」
悪戯な声音が、バスルームに小さく響く。
奈々はこっくりと頷いた。
今、声を出して返事をしたら……在らぬ声が出てしまいそうだ。
「えーヒトミさん、今夜帰っちゃうの?」
彩子はスーツケースに荷物を纏める、ヒトミに言った。
「桑原サンを『完璧に』なんて言う、やりがいのあるミッションが
来たものだから、つい張り切っちゃったけど、
青山のお店放置しちゃったからね~。また仕事に戻らなくっちゃ」
ヒトミは名残惜しそうに、彩子を見る。
「奈々さん、桑原さんばかり見つめてましたもんね。
あれじゃあ、流石にホテル王の息子でも諦めざるを得ないかしら?」
彩子の苦笑にヒトミは頷いた。
「桑原サンもお嫁さんばかり気にしてたわよ。
まあ新婚旅行中に引き離されたんじゃ、堪らないでしょうケド」
「桑原さんにはあれくらいがイイ薬かも」
「言えるワ」
ヒトミと彩子は顔を見合わせて笑った。
二人は巻き込まれてしまった人間の典型だったが、
そんなことは気にならなかったからだ。
崇にすっかり全身を洗われてしまい、奈々も崇の背を流したりして、
バスルームから出た。
別の意味でのぼせてしまった奈々だが、バスローブを羽織って
ベッドに腰掛けると、ホッと息をついた。
「随分…珍しいシャンパンがあるな」
冷蔵庫を開けた崇が、シャンパンのボトルを持ち上げた。
「ミシェルさん、お母様がフランス人なんです。
ワインがお好きなようでしたよ」
「君…今夜はブルームーンを頼んでいたけど」
「はい」
「あれ、どういうつもりだった?」
奈々はきょとんとして、崇を見つめた。
「え…だって着ていたドレスは青かったし、そ、そのブルームーンは
使われてるリキュールが…わ、わたしは崇さんに」
「なんだ、そっちの方か」
崇の口許に少し意地の悪い笑みが浮かぶ。
「ま、まずかったですか」
「ブルームーンには青い月を『有り得ないこと』として、
そこから『貴方からの誘いに乗るのは、有り得ない』、
即ち『拒否』の意味になるんだ」
「…知りませんでした」
「だろうね」
崇は苦笑した。
一年前に決死の覚悟でプロポーズしたあとに、
奈々がカル・デ・サックで注文したのが、このカクテルだったのだ。
「彼は――どう取ったかな」
「わ、わたしそんなつもりは…ただ、タ、崇さんに伝えたくて」
ベッドに腰掛ける奈々の前に、崇は跪いた。
「他にも伝える方法が――あるよ」
崇の言葉の意味を察して、奈々は頬を染めながら、
崇の額にそっと口づけた。
「…もどかしいな」
直ぐ様口唇にキスされ、バスローブの紐を解かれてしまう。
ベッドに倒れこんだ奈々は、吐息を洩らしながら、やっとの思いで聞いた。
「シャンパン…飲まなくていいんですか?」
「今、貪るように欲しいのは……」
崇の声も掠れ、波の緩やかな音が、繰り返し繰り返し、
まるで永遠のように二人の耳に響いた。
※タタルさん、栄養を取り戻すの回。
あともう少し二人のバカップルぶりを書いて(もう十分だろうって?)
エピに移ります~。
案内されたのは植物園のスタッフのみが行ける区域の、
更に先にあるビーチに建てられた、たった一軒の水上コテージだった。
コテージのバルコニーから海の上に続く桟橋には、
クルーザーまで用意されている。
玄関の前には篝火が焚かれ、不必要な明かりは灯されていなかった。
ホテルの支配人は「ごゆっくりお過ごし下さい」と一礼して、
去って行った。
奈々はミシェルから渡された鍵を、扉に差した。
部屋は6室。
3室のゲスト用のベッドルームが、既に奈々たちが初め泊まる
予定だったコテージのベッドルームくらいあった。
他にはリビング、ダイニングキッチンも備えられ、
海に向かって作られた、広めのバスルームにはパウダールームも付いている。
奈々は抑えられた明かりの中、メインのベッドルームの扉を開けた。
そこはハワイ王室の家具もこの木で作られていたコアの木で、
柱から、ベッド、サイドテーブル、チェストと揃えられており、
ベッドには天蓋まで付いている。
サイドテーブルにはブルーのキャンドルが置かれ、火が灯されていた。
ふと奈々は甘い匂いに気が付いた。何処か胸をくすぐるような、官能的な香りだ。
振り向くと、そこには鉢植えのプルメリア、
青い花を付けたプルメリアが置かれ、根元に一通の封筒が置かれていた。
『これは奈々を困らせたお詫び―――君は僕にとって
青いプルメリアだった。決して手に採ることが叶わない。
でも毒があっても触れたい花でもあった』
手紙はまるで女性のような字体で書かれていた。
奈々はじっと手紙を見つめた。
ミシェルにとって、幼い頃の自分との出会いは特別だったのだろう。
思い出せない自分が、何だか申し訳ない気がした。
「毒?大抵の毒は薬にもなるんだ」
崇がすぐ後ろに立って、奈々の手元の手紙を覗いていた。
「タタルさん!」
「……全く」
崇はため息をつくと、そっと奈々の顎に指で触れた。
正装の崇だ。いつもの彼とは違って、切れ長の目がよく見えた。
「……………」
パーティ会場でも目が離せなかったが。
今は真っ直ぐ奈々を見つめている。
「君を信頼はしていたけど…信頼の深さと気持ちの安定感は
比例しないことに、気が付いた」
「…そう、ですか?」
「わからない?」
崇は奈々から視線を反らさなかった。
奈々は息苦しく感じるくらいだったが、それは不愉快な息苦しさではない。
奈々がそっと瞼を閉じると、本当に微かに崇の口唇が触れた。
それが徐々に頬に落ち、口唇へと滑り、奈々が息をつく間もなく深くなり、
気付いた時には舌が絡め取られていた。
「………ん、っ」
素肌が出ている肩を崇の右手が触れている。
よく知っている熱が、直に伝わる。
繊細な動きで細い指がなぞるように、奈々の首筋に触れた。
「やっ…た、タ、崇さん、待っ」
「……何?今日ばかりは君の言葉も、余り聞いてる余裕はないけど」
「シャワー浴びたいんですけどっ」
「…まあ、いいか。バスタブにお湯を張ってくる」
崇は髪をかきあげながら、タキシードの上衣を脱ぐと、
バスルームに向かった。
出来れば今夜くらいはあのままの姿でいて欲しいような気がした
奈々だったが、崇の性急さに少し驚き、拘束から逃れたことに
僅かにほっと息をついた。
「彼は『毒を喰らわば皿まで』の心境なのかな、シモン」
「さあ」
「だって言ってたじゃないか。奈々は出掛けると事件に会う――
一種の『美しき災い』だって」
史紋とミシェルは研究室にいた。史紋に見分けて貰いたい植物の鉢の
幾つかを抱え、ミシェルは史紋の前に並べる。
「僕から見ればあの二人は『毒をもって毒を制す』だ」
「成程」
「毒草だからと言って無闇に遠ざけるのは筋違いだ。
毒があるからこそ、有益な植物は多い。例えば莢竹桃は」
史紋は手元の鉢植えを見た。育成状況は完璧だが、
隣人に預けた鉢植えの方が、やや野放図でも興味深い印象だ。
「大気汚染の公害に強いから、日本でも高速道路の周辺の緑化などに
使われている。原爆投下後の広島でも最初に咲いて、
復興のシンボルにもなった」
「……君も好きなんだろう?シモン。君がわざわざ結婚式にまで
参加するなんて、おかしいと思った」
史紋はふと鉢植えの葉に触れていた指を止め、微かに笑みを浮かべる。
「在るべきものが、在るべき場所にある。当たり前の事象を受け入れただけだ」
「理屈だね。僕は無駄と知っても一度見た夢は叶える為に、
能力(ちから)を惜しまないんだ。
まあ今回は、奈々の真っ直ぐな気持ちに完敗だったけど」
「日本語で『まな』は真実の名や愛しさを意味する言葉だ。
呪力を意味する『マナ』はメラネシア由来ではあるが―――」
史紋は研究室の少し大きめの窓の外に目をやった。
木々の向こうに暗く煌めく水平線が見えた。
「だ、ダメ、ダメです!」
「何故?」
「だ、だって」
「君はいつも浴室が狭いからと言っていたけど、
此処は…二人でも余りそうだが」
「それは…そうですけど」
「他に何か理由が?」
「それは…」
奈々の顔は真っ赤になる。バスタブに湯が張られ、
上半身衣服を脱いだ崇に、『一緒に』と言われた。
共に暮らして一年になるが、まだ入浴は一緒にしたことがない。
何となく気恥ずかしかったし、明るい場所で全身を晒すのに抵抗があった。
特に今日の崇の前では。
はあーっとやけに大きなため息が、崇の口から洩れた。
「解った」
崇がバスルームに向かおうとする背中を見て、奈々は言った。
「さ、先に入ってて下さいっ。後、後から行きますから」
ふと見上げると崇は背を向けたままだが、
片手を上げてベッドルームから出て行った。
海に向かってガラス張りのバスルームからは、
水平線に船の明かりが見える。
かなり開放的な作りだ。
「明日の朝は朝日がよく見えるだろうな。表のコテージと違って、
東向きだし」
僅かな水音と共に、崇の低めの声が響く。
奈々はバスタオルを体に巻き付けて、バスルームを覗き見た。
「………タオルを巻いて入るのか?」
「…………」
今更恥ずかしがるのはおかしいかもしれない。
奈々はそっとタオルを外して、崇を見た。崇は窓の外を見ている。
奈々は静かに浴槽に入った。僅かに湯が零れた。
「まな、とも読むけど『愛』の字には、いとおしい、めでる、思いこがれる、
などの他にかなしい、おしむなどの意味がある」
崇の視線は今だ水平線にの彼方に向けられている。
「そう言えば以前に外嶋さんが」
「キリスト教で『愛』と言えば、神が人類に向けるものになるし、
仏教では『貪愛』と言って、自我の欲望に根差し、
解脱を妨げるものになる」
「随分違う意味になるんですね」
崇がこちらを見た。一瞬それこそ貪るような視線で奈々を見たが、
奈々の頬が赤らむのを見て、視線を反らした。
「実際立場によってその気持ちの有り様は、随分変わって来るしね」
ぱしゃりと水音がして、崇が髪をかきあげた。
髪型崩れちゃうな、奈々はそんな風に思った。
多分この『惜しむ』気持ちも『愛しい』と言う想いに繋がるのだろう。
「まだ解脱なんて、出来ない」
熱めの湯に奈々の肌が慣れて来た所で、崇がふいに奈々に腕を伸ばした。
声をあげる間もなく、抱き込まれてしまう。
「貪りたい、なんて言う利己的な気持ちにまで『愛』や『愛しさ』が
含まれると言うならば―――今、当にその心境だ」
背後から首筋に噛み付くようなキスを施され、奈々はびくりと震えた。
指はすでに奈々の胸元や腰のラインをなぞるように辿り始め、
奈々が身を捩るのも許さない感じだった。
「………っ」
「声、出せばいい。此処、誰も来ないし離れてる」
水が跳ねる微かな音が、いやに淫らに響く気がした。
「この瞬間(とき)の為に、どれだけ耐えたと思う?」
胸の敏感な部分に逃れることを許されず触れられ、
奈々は声が洩れないよう必死だった。
何故こんなに自制するのか、そんな自分に疑問を感じながら。
気付いたら崇の細い指先が、脚の腿に触れていた。
「あ…まだ、いや…っ」
「…お湯を落として、洗う?」
悪戯な声音が、バスルームに小さく響く。
奈々はこっくりと頷いた。
今、声を出して返事をしたら……在らぬ声が出てしまいそうだ。
「えーヒトミさん、今夜帰っちゃうの?」
彩子はスーツケースに荷物を纏める、ヒトミに言った。
「桑原サンを『完璧に』なんて言う、やりがいのあるミッションが
来たものだから、つい張り切っちゃったけど、
青山のお店放置しちゃったからね~。また仕事に戻らなくっちゃ」
ヒトミは名残惜しそうに、彩子を見る。
「奈々さん、桑原さんばかり見つめてましたもんね。
あれじゃあ、流石にホテル王の息子でも諦めざるを得ないかしら?」
彩子の苦笑にヒトミは頷いた。
「桑原サンもお嫁さんばかり気にしてたわよ。
まあ新婚旅行中に引き離されたんじゃ、堪らないでしょうケド」
「桑原さんにはあれくらいがイイ薬かも」
「言えるワ」
ヒトミと彩子は顔を見合わせて笑った。
二人は巻き込まれてしまった人間の典型だったが、
そんなことは気にならなかったからだ。
崇にすっかり全身を洗われてしまい、奈々も崇の背を流したりして、
バスルームから出た。
別の意味でのぼせてしまった奈々だが、バスローブを羽織って
ベッドに腰掛けると、ホッと息をついた。
「随分…珍しいシャンパンがあるな」
冷蔵庫を開けた崇が、シャンパンのボトルを持ち上げた。
「ミシェルさん、お母様がフランス人なんです。
ワインがお好きなようでしたよ」
「君…今夜はブルームーンを頼んでいたけど」
「はい」
「あれ、どういうつもりだった?」
奈々はきょとんとして、崇を見つめた。
「え…だって着ていたドレスは青かったし、そ、そのブルームーンは
使われてるリキュールが…わ、わたしは崇さんに」
「なんだ、そっちの方か」
崇の口許に少し意地の悪い笑みが浮かぶ。
「ま、まずかったですか」
「ブルームーンには青い月を『有り得ないこと』として、
そこから『貴方からの誘いに乗るのは、有り得ない』、
即ち『拒否』の意味になるんだ」
「…知りませんでした」
「だろうね」
崇は苦笑した。
一年前に決死の覚悟でプロポーズしたあとに、
奈々がカル・デ・サックで注文したのが、このカクテルだったのだ。
「彼は――どう取ったかな」
「わ、わたしそんなつもりは…ただ、タ、崇さんに伝えたくて」
ベッドに腰掛ける奈々の前に、崇は跪いた。
「他にも伝える方法が――あるよ」
崇の言葉の意味を察して、奈々は頬を染めながら、
崇の額にそっと口づけた。
「…もどかしいな」
直ぐ様口唇にキスされ、バスローブの紐を解かれてしまう。
ベッドに倒れこんだ奈々は、吐息を洩らしながら、やっとの思いで聞いた。
「シャンパン…飲まなくていいんですか?」
「今、貪るように欲しいのは……」
崇の声も掠れ、波の緩やかな音が、繰り返し繰り返し、
まるで永遠のように二人の耳に響いた。
※タタルさん、栄養を取り戻すの回。
あともう少し二人のバカップルぶりを書いて(もう十分だろうって?)
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性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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