タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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明けましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします<m(__)m> すみません、あんまり読みにくいので、家に戻って直しました^^; 特に携帯からご覧になってた方、申し訳ありません。 伊勢の黎明~禮子ちゃんのひとりごと~ その日の伊勢の海は荒れていました。 わたしたちが伊勢の八岐村に着くと、既に奈々さんたちは行方が解らなくなっていました。 小松崎さんがかなり手荒な(もっとも敵もかなり手荒だったのだから、仕方がない)方法で 桑原さんと奈々さんの居所を聞き出そうとしている時に、運良く警察が駆けつけました。 どうやら、彩子ちゃんのお母さんの采配のようで、そもそも彩子ちゃんがこの事件に 巻き込まれたことが、桑原さんたちがこの事件に関わるきっかけになったようです。 わたしも彩子ちゃんも、那智の友人だった麗奈さんを助けたかったあまりの行動だった のだけど、結果として彼らを命の危険に晒してしまっていました。 胸に沸き上がってくる嫌な予感を振り払いながら、わたしは小松崎さんの後ろで、 じっと待つしかありませんでした。 少し経つと警察の無線に、海上自衛隊から連絡が入りました。 桑原さんは陸をあまり離れない地点で、運良く流木に掴まり、沖には流されずに 海上自衛隊のヘリに助けられたそう。 思わずほっとため息をついていると、隣の小松崎さんはもっと大きなため息をついて 「全く妙な運だけは強い奴だな。----あとは奈々ちゃんと、彩子ってコか」 まだまだ不安そうな表情を隠さずに、言いました。 桑原さんと小松崎さんと奈々さんは同じ、明邦大学の出身なのだそうですが、 そうだとすると彼らの付き合いはもう十年を越えていることになります。 機会がなければこうして会うことは、今は多くはないと、行きの新幹線の中で 小松崎さんが話していたのですが、そうだとすると、ずいぶんと強い 信頼関係だと思われます。 かなり心配はしていたものの、ここに来るまで小松崎さんは一度たりとも 桑原さんの行動を疑ってはいませんでした。 必ず先を読んで行動しているはずだと。 そして、一つだけ肩をすくめて、付け足したのは 「奈々ちゃんが側にいるからな。タタルがいまいちの時は、 奈々ちゃんが何とかするだろ。-----アイツらは、そのう、 なんと言うか、破れ鍋に綴じ蓋?適当に補いあってるって言うか」 破れ鍋に綴じ蓋では役には立たないのでは?と思いながらも、奇妙に的を得ている 言葉に、わたしも思わず頷きました。 すると今度はここからあまり離れていない浜辺で、奈々さんと彩子さんが 倒れているのが発見されたのが、解りました。 わたしたちはすぐにパトカーに同乗させてもらい、浜辺へ駆けつけることにしました。 浜辺にはすでに救急車が着いていて、彩子ちゃんと奈々さんがそれぞれ 担架に乗せられていました。 奈々さんも彩子ちゃんも意識は戻らないものの、どこも怪我もなく、無事な様子。 まだ青ざめた顔色に不安はあるものの、ひとまず安心したところ背後からするわけ ないと思っていた声が、小松崎さんを呼びました。 「熊!」 「タタル……お前」 「奈々くんは?」 聞くと同時に担架の上の奈々さんに、桑原さんは気付いたようで、 大きなため息が溢れました。 桑原さんは少しの間奈々さんを見つめた後、小松崎さんを見ると 「彩子さんは?」 と聞きました。 これは後から奈々さんに聞いて知ったのですが、桑原さんと彩子ちゃんの お母さんは、知った間柄だったそうです。桑原さんの中学時代の恩師が、 彩子ちゃんのお母さんだとか。全くの奇縁だった訳だけど。 「彼女はあちらの救急車で既に点滴を受けてる」 「そうか」 すると救急隊の人が来て言いました。 「そろそろ病院の方へ運ぶから---運良く彼女たちはあまり水は飲んで いないようだし。それより、君、どうしてもと言うから、ひとまずこちら へ運んだようだけど、本当なら、病院へ直行だからね。君も早く乗って」 奈々さんの乗った担架を車へ運んで行くのを見送りながら、桑原さんがまだ蒼白い 顔のまま、言いました。 「熊つ崎は奈々くんが目を覚ますまで、彼女の側にいてやってくれないか? 多分、陸を目指した彼女の方が、体力を消耗したはず-----無理をさせた。 全く俺のミスだ。少し考えれば解ることなのに。 傍(そば)から離すべきではなかった」 その時の桑原さんは、心底後悔したようで、今まで見たことのないような、 悔しげな表情をしていました。 本当は自分がずっと、奈々さんに付き添っていたいのかもしれません。 病院に運ばれてから、奈々さんも徐々に体温を取り戻したようで、夜中に目を覚ましました。 少し熱があるかも。 目を覚ますまで、ずいぶんうなされていたから。 小松崎さんは桑原さんに頼まれた通り、わたしと一緒に奈々さんに付いていました。 時折、桑原さんの様子を見に行っていたけど、体力をひどく消耗していた以外は、 大丈夫なようでした。 奈々さんは目を覚ますと、小松崎さんに気付いて、必死な様子で桑原さんの無事を尋ねました。 小松崎さんが優しく笑って、桑原さんの無事を告げると奈々さんは、あの大きな瞳(め) いっぱいに涙を浮かべ、少し安心したようにまた眠りにつきました。 桑原さんの言葉から察するに、恐らく彼は奈々さんと彩子ちゃんだけは陸に戻す手段を 見つけたのでしょう。 史紋さん同様、いつも憎たらしいくらいに冷静な彼のことだから、奈々さんたちを 無理矢理にでも陸に送り出したに違いありません----でも。 奈々さんの気持ちを考えたら。 奈々さんは残して来てしまった桑原さんを、少しでも早く助けたくて、必死だったはず。 ----傍から離すのではなかった。 いつもの彼らしくなく、自分の行動を後悔している言葉。 そして多分、これが彼の本音なのでしょう。 陸を目指しても、残ったとしてもあまり助かる確率は変わらなかったかもしれない。 桑原さんは結果はどうあれ、自分の手で奈々さんを助けたかったのです、きっと。 小松崎さんは桑原さんの部屋に行って、様子を見ながらひと眠りすると言って 出て行きました。 わたしは奈々さんに付き添ったまま、うつらうつらしていた所、 明け方----と言うか、夜明け前のまだ冷え込む時間に、とても静かに扉が開いた ような気がしました。 わたしもはっきり見た訳ではありません。 夢の中のように曖昧な記憶なのですが、入口で立っていたのは桑原さんでした。 まさか。 さっきの小松崎さんの話では、病院に着いた途端桑原さんもほとんど、 意識がなかったはず。冬眠中の蛇みたいに冷たくなって眠ってると言っていたのに。 入口から眠っている奈々さんをしばらく見つめて、奈々さんが寝返りをうつのを 見届けると、ほっとしたように出て行きました。 事件の全てが終わって、名古屋からの帰りの新幹線の中でした。 奈々さんはまだ桑原さんの体調を心配してか、時々彼の方を伺っているようです。 桑原さんは----昨夜から明け方の出来事が嘘のように、いつもの桑原さんに 戻っていました。 伊勢神宮の謎に夢中で。 夢中になると、周りはおろか、世間の常識もどうでも良くなる、いつもの彼に。 わたしはこれだけは奈々さんに話しておこうと決めて、桑原さんがトイレに、 小松崎さんが会社からの電話で座席を離れた時に、昨日奈々さんが救急車で 運ばれる前に桑原さんが奈々さんの無事を確認しに来たことを告げました。 すると奈々さんは、なんとも言い様のない、寂しいとも優しいともつかない笑顔で 「わたしももう、あんな風に彼を置いて行くのはたくさん」 と言いました。 学薬の旅行で熊野に行った時、この二人の間柄がよく解らず、果たしてその関係を 尋ねて良いものやら、ずいぶん迷ったものですが、その後、比較的表情(かお) に出やすかった奈々さんが、どうやら桑原さんを好きなことは解りました。 桑原さんは……………、彼の考えは常の状態であれば、史紋さん同様、非常に解りにくい人 です。 でも------。 今回の伊勢行きで、奈々さんと桑原さんの間で、何かが-----何かほんの少し 動き出したようにも感じました。 わたしが彼らに再会したのはその年の秋でした。 その前にひとつ。 伊勢から戻ると、わたしは報告がてら史紋さんに電話をかけました。 事件のことを話し終え、史紋さんに何故か聞いてみたくなって、 桑原さんと奈々さんの話をしました。 あの夜明け前の、光一筋ない中で見た桑原さんの表情のことを。 そこまで話を聞くと史紋さんは、ため息をつきました。 「……成程、もうこれで、僕には全くの余地がないと言うことか」 「余地?」 一瞬なんのことか見当がつかなかったけど……… そうか! 「史紋さん、奈々さんのこと……」 「初めからわかっていたことだ。今さら再確認させられたと言うだけで」 こんな冷血無情無関心人間でも、恋をするのです。 しかも----和歌山でのあの状況なら、一目惚れに近いのでは。 そう言えば、奈々さんの名前についてあれこれと言っていたっけ。 初対面なのになんて失礼な奴だと、あの時は思ったのだけど。 「今回のことで彼らにも自分自身の気持ちが解ったのでは」 そう言うと史紋さんは電話を切りました。 ………史紋さんも失恋をするのか。 わたしはなんだか、ニュートンが落ちたリンゴを見た時の様な気持ちに なってしまいました。 秋に学薬旅行の話が来ました。 今回は何の記念だかは解らないけど、何かの記念で埼玉と千葉と東京の三つの 学薬会で少し遠出をすることになりました。 場所は九州。 ただし、有名な宇佐八幡や大宰府天満宮はコースに入っておらず、 長崎市内とハウステンボス、そして博多と言うコースでした。 これは桑原さんは絶対いない。 でも奈々さんはどうだろう? 珍しく自分から奈々さんにメールをしてみると、参加するとの返事が。 わたしもすぐに参加を決めました。 ところが、当日集合場所の羽田空港で有り得ない人がそこに立っていました。 桑原さんです。 しかもいつもよりはずっと身なりが良くなっています。 目黒区の学薬の方がこっそり耳打ちしてくれたことによると、 奈々さんと桑原さんはちょうど伊勢から戻られた後くらいに、婚約したのだとか。 今回全く気がないのに、桑原さんが旅行に参加しているのは、最近めっきり綺麗に なった奈々さん目当てで、薬剤師会の研修などでは老若問わず男性の参加者が 増えたとか。 そう言えば今回の旅行も男性が多い。 全くこう言う時の男の心理は、理解の枠外なのだけど、そのことを桑原さんの 古い知り合いだった、奈々さんの薬局の薬局長が桑原さんに告げたのだそうです。 そこで自分の未来の妻をガードするために、本当に渋々桑原さんは旅行に参加したの だとか。 そうか。 それであんな苦虫を噛み潰したような顔なんだ。 そこで奈々さんに 「お二人で参加出来て良かったですね」 と言ってみたら、奈々さんは真っ赤になって 「どうしたのかしらね?急に行くって言い出して。 大宰府も宇佐も高千穂もコースから外れているのに」 不思議そうに答えました。 …………もしかして、奈々さんは解っていない? 一方的に奈々さんが片想いし続けたのかと、思わないでもなかったのだけど… …案外桑原さんがやきもきしたことも多いのかも。特に今は。 小松崎さんが言った『破れ鍋に綴じ蓋』そのままの、なんとも言えない カップルになった訳か。 それでも、長崎に着いてからも奈々さんにずっとくっついている桑原さんは ------熊野での彼に比べて、ずっと幸せそうに見えました。 当然奈々さんも。 旅行の最後に、奈々さんに言いました。 「結婚式ぜひ呼んで頂けませんか?」 「………まだ日取りがはっきりしないのだけど。来年の五月頃に」 奈々さんはやっぱり真っ赤になって頷きました。 わたしはあの事、父や兄との事から-----恋愛と言うことに対して、 非常に冷めた感覚しか持ち合わせていなかったのだけど、 桑原さんと奈々さんを見ていたら、少しだけでも信じてもいいような 気持ちになっていました。 そう言えば彩子ちゃんはしきりに桑原さんが羨ましいと、言っていたっけ。 彼女も生い立ちの難しさから、警戒心の強い人なのに。 奈々さんには、心に傷のある人が、慕い寄りたくなるなにか ……温かさみたいなものがあるのかもしれません。 桑原さんは、意識的にか無意識にか初めからそれを享受していた訳で。 年が明けてしばらく経つと、律儀に結婚式の招待状が届きました。 場所がどこかの神社ではなく、横浜の教会だったので、恋で変わるなんて 桑原さんも人の子なんだなあと、妙に関心してしまいました。
※色々と読みにくいところがあり、申し訳ありませんでした。
モリポチさんのリクエストにお応えして、禮子ちゃん視点^^
彼女は過去が重いので、書くにはなかなか覚悟がいるのですが、
伊勢の最後の方で、随分雰囲気が変わったようにも思えたので
こんな風に考えていたらなぁと思い書きました。
モリポチさん、リクエストありがとうございます^^
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昨日アップ致しました危険文書(笑)『深海の雪』の続きです^^
これでやっと時系列がすっきりつながって、私も安心して
年が越せそうです(爆)
春の雪
「……あ」
「お…………!」
春だった。
外は昨日まで満開だった桜が、まるで吹雪のように散っている。
僕の在学中にお世話になった、老教授が今日で退職することになり、
僕はかなり久しぶりに母校に挨拶に訪れていた。
薬学部のある古い学舎の廊下でばったり会ったのは----
「君か」
「外嶋さん」
相変わらずのボサボサ髪。ひょろりと背ばかり高い少年
………いや、青年と言った方がいいか。彼ももう21歳だ。
「フン……思ったより白衣が板に付いてるじゃないか」
「ええ、お陰様で」
眠そうな目でこちらを見ている。
「僕は今日退職する教授に挨拶に来たんだが……良かったら、
少し時間が取れないか?久しぶりだし……食事でもしよう」
今日は木曜日で僕の経営する薬局は休日だった。
「そうですね……あともう一つ講義に出なければなりませんから、
それまで貴方が待てるなら」
「それは構わないが……」
すると背後からパタパタと軽い足取りの足音が聞こえ、
ずいぶんと可愛らしい女性が彼の前に来て止まった。
「タタル先輩、やっと見つけました」
「やあ、奈々くん」
女性はにっこり微笑むと言った。
「サークルの集まりが明日あるから、同好会室に来て下さいって先輩が」
「………面倒臭いな」
「ダメですよ!先輩にも言われたんですから。もし、タタル先輩が
来なかったら、わたしの連絡不足だって。
----わたしが言えば来るから心配ないなんてことまで、
言われちゃったんですから、絶対いらして下さいね」
「…………解った。気が向いたら行く」
「お願いしましたからね………あっ!」
そこまで話して、彼女はやっと目の前の僕の存在に気付いたようだった。
彼女はぺこりと頭を下げると、踵を返してもと来た方へ戻って行った。
彼は彼女の去った方角を見つめている。
「………ふーん」
「なんですか?」
怪訝そうにこちらを見た。
「まあ、後で話そう。それより待ち合わせ場所を決めておこう」
思ったより教授の話が長引いた。
彼-----三年前の一月にあるきっかけで知りあった、
桑原崇が待ち合わせに指定したのは、なんと駅前にある小さなバーだった。
生意気だな。
アイツこんな店で飲んでるのか。
彼はもう店にいた。
「遅くなって悪かったね」
「別に……ここで本を読むのは日課みたいなものだから」
彼の手元にあるのは、遠野物語。
「相変わらずだな。今度は河童でも追いかけてるのか?」
「……あるきっかけで、陰陽師のことを調べていたら、興味が出て来て」
「陰陽師?そいつは確か平安時代の占い師みたいな物だろう?」
「それは全てじゃないですね……例えば」
「いや、待った。今日はまず別の話からにしよう」
彼は少し機嫌を悪くしたような表情になって、目の前のカクテルに
口をつけた。
ボーイが注文を聞きに来る。
「シンデレラを」
かしこまりました、とボーイが去っていく。
そして目の前の青年は、正に目が点になったような表情でこちらを
見ていたが、次の瞬間にはああ、と納得したような声をあげた。
「貴方、下戸ですか」
「アルコールはお猪口に五分の一以上は受け付けないんだ。
……だが仕事の付き合い上、結構アルコールとの遭遇率は高くてね。
バーに来なければならない時は、必ず最初にこれを頼むことにしている。
名前のインパクトから、必ず同行者から更なるアルコールを勧められる
ことはなくなるから、一石二鳥だ」
「……実に貴方らしいですね」
皮肉げな笑いが口唇をかすめる。三年前よりずいぶん落ち着いた。
きっと今の環境が彼に合っているからだろう。
「これなら、一、二年後にはオペラをボックスシートで
見させて貰えそうだな」
「なんのことです?」
「さっきのコだよ。同じサークルなんだな。可愛いコだったじゃないか」
僕が注文したカクテルを持って来たボーイに、彼が二杯目のカクテル
(彼はギムレットしか飲まないらしい)を頼む。
「奈々くんのことですか。それなら残念ですが、貴方の眼鏡違いだ。
側にいる誰彼を、すぐに対象に出来る程、俺は器用じゃありません。
………それに」
彼は一旦言葉を切ると俯いて言った。
「確か彼女には付き合ってる男がいたはず」
「そうなのか?それにしては、彼女の方が、ずいぶん君に気を許している
雰囲気に見えたがな」
この男の無愛想に、恐れず笑顔になれるだけ、稀有な存在と言える。
「それは……彼女の生まれつきの性格でしょうね。何分隙だらけで
---そもそも、話すようになったきっかけだって、
おかしな宗教の勧誘に絡まれてる所を、助けたからなんです。
それ以来、妙に懐かれてしまって。……全く警戒心を持ち合わせてないんじゃ
ないかと、少し心配にもなりますが」
対象外にしては、ずいぶんと関心(彼にしては、だが)が
あるような気がするんだが。
それに-----彼は自覚してないようだし、彼をよく知った人間でなければ
気付けないような、些細な変化だったが、彼の彼女を見る眼差しは、
他の人間を見る時よりずいぶんと柔らかいような気もした。
気のない異性を、あんな風に見つめられるような性格でもあるまいに。
「まあ、まだまだ未来のことは解らないからね」
「この賭けは俺の勝ちです。初めから見えてる」
今来たばかりのカクテルはもうグラス半分しかない。
ペース、早すぎないか?
「君が真面目に大学生活を送れているようで、少し安心した」
フンと鼻先で笑って、彼は言った。
「貴方、結構お節介なんですね」
「一度関心を持った対象からは、観察を怠らない性質(たち)でね」
このあと彼とは大学の教授連中のあれこれや、講義の実験の内容なんかを
話して、駅で別れた。
-----次からは酒の席では彼と会うのは止めようと思った。
二年後の正月に彼からの年賀状を受け取った。
しかし住所は………京都?
あの事件を考えると、彼にとっては関西方面は鬼門のような気がした
のだが、趣味の寺社廻りから考えれば、正しいのか。
…………それにしても、だ。
昨年の秋に僕が経営している薬局で人手が足りなくなり、
とうとう今年から新卒の社員を一人採用することになった。
手っ取り早く、大学のつてを使って今年卒業の学生を一人紹介して貰った。
こう言うのを奇縁と言うのだろう。
その学生の名前は棚旗奈々。
二年前、薬学部のある学棟のある廊下で、桑原の不景気な面を全く意に
介さず話しかけてきた、あの彼女だ。
採用を決めた時は、そんなこと全く忘れていたのだが、
彼からの年賀状を見て思い出した。
なのに彼は京都にいる。
まさかフラレたからじゃないよな。
その日は天気予報でも、寒波の早い到来が告げられていた寒い一日だった。
四月から新卒の薬剤師として勤務している、一応大学の後輩の彼女は、
なかなかに優秀な子で、仕事のコツも早く飲み込み、患者受けも悪くなかった。
相手に強引に出られると、お断り出来ない性格らしかったが、
それは僕にとっても若干都合のいいことなので、良しとする。
今日も僕がさりげなく放り出した、閉店業務を黙ってかたづけ始めた。
「アルコールと言えば、奈々くん」
ある目論見から、話を切り出す。
彼女は若干警戒気味だ。
「奈々くんは、お酒は弱くないほうだったね」
「え、ええ……。まあ----」
「そうか。良かった」
あの、笊と言うよりは底の抜けた樽と言った方がいい男に、
付き合わせることになるのだ。
少しでも条件はいい方がいいだろう。
「実は今週の土曜日に、薬剤師会の研修会があるんだよ。
そしてそのあとに、懇親会と称する飲み会が開かれる。
本来ならば僕が行かなくてはならないところなんだが、
どうしても外せない用事が出来てしまった。
そこで奈々くんに代理を頼みたい。いや、何研修会と言っても
年寄り連中の長話を、イスに座ってただ聞いてるだけなんだがね。
その後の懇親会に顔を出して、少し皆に付き合ってもらえればいいんだ」
彼女は僕をじっと見つめている。何分急にこんなことになったのだから、
少々腹が立っても仕方がないが、こちらにも事情があった。
「そうそう、その研修会には桑原がやって来るよ。桑原は知っているだろう」
「え!」
「奴は今、僕らと同じ地区の漢方薬局にいる。
『萬治漢方』だ。聞いたことあるだろう」
そうなのだ。
彼は京都から、東京に戻って来ていた。
それを知ったのはたった三日前のことだ。
閉店が遅くなって、余り暗くなってから帰宅させるのも危ないと思い、
彼女を先に帰宅させた日。
一人で閉店作業を終え、東横線祐天寺の駅前で、
やはり仕事を終えた桑原と偶然出会ったのだ。
「なんだ、こちらに戻っていたのか」
殊勝にも彼はぺこりと頭を下げた。
「何の連絡も出来なくてすみません。四月からこちらの
……萬治漢方って薬局で勤めてました。一人暮らしを始めたりして、
なかなか多忙だったものですから」
無愛想は相変わらずだが、口のきき方くらいは、社会に出て学んだらしい。
「ふうん。どの辺で暮らしてるんだ?」
「代々木です。明治神宮が近いから、意外に静かで」
電車を待つ間、彼と並んでいた。
「そう言えば土曜日に薬剤師会の研修会がありますね?
貴方は出席するんですか?」
「ん?ああ、そうだな。当然出なくてはならないだろうな」
「……うちの薬局からは俺が行くことになりました。
………じゃんけんで負けてしまったものですから」
どんなに先が見える男でも、偶然の作用する勝負では逃れられない。
構内アナウンスが流れて、電車が後少しで着くことが解った。
「……あの、貴方の薬局に棚旗奈々と言う女性が、
今年から採用されてませんか?」
「え?奈々くんか?確かにウチに来ているよ。なかなか仕事を飲み込む
のも早いし、しっかりしているが」
「…………そうですか」
ホームに電車が入って来た喧騒で、彼の言葉の最後はかき消えた。
渋谷駅で彼はJRに乗り換えたから、話はそこで途切れたままだったが、
やはり桑原は彼女が気になっているのだろうか?
以前にも少し感じたことなのだか、あの賢すぎる男が、
自分の気持ちに-----まさか、気付いていない?
そうなんだろうか?
賢い人間でも意外にも、自分のことは灯台元暗しになるものだ。
本当に?
そして彼女の方はどうなんだろうか?
桑原が来ると言った時、さっと頬が薄く染まっていたようにも見えた。
悪くない反応。
どうやら今は誰とも付き合ってはいないように思えるし………。
てきぱきと仕事はこなすものの、彼女は性格そのものはおっとりしている
ようにも思えた。頭の回転は悪くない。事の本質を鋭く見抜いて
来るようなところもある。
まあ、見た目の釣り合いは一見悪いように感じるが、
あの桑原とは意外と-----意外と好一対なんじゃないだろうか。
十日程たって彼女のポケットを見ると、見たことのある字の書かれた
一通の手紙。
宛名は-------
成程、僕の見立ては思ったよりずっと良いようだ。
これなら、きっと話は早いはずだ。
ところが、この恋の決着がついたのはなんと八年後だった。
彼ばかりではなく、彼女も同じように、こう言ったことには
不器用だったのだ。
その日も雪のようにソメイヨシノの花びらが、そこかしこに
舞い散っていた。
お昼休みに各自弁当を食べ終わると、奈々くんがいやに
かしこまって、話し出した。
「外嶋さん、あの………わたしたち、あ、あのわたしとタタルさん、
こ、婚約しました」
彼女は顔だけではなく、指先まで真っ赤だ。
僕ともう一人、僕の親戚にあたる相原美緒は、一瞬どう反応した
ものやら、黙ってしまった。
何故かって?
端で見ていた他人には、丸わかりの事実だったからだ。
当人たちが気付くのが、恐ろしく遅かっただけだ。
「え、えーと、おめでとうございます!奈々さん。
良かったですね。……端から見ていて、お二方とも選ぶ余地なんか
ないのに、じれったいと言うか、牛歩と言うか……」
僕は親戚のアシスタントの頭を、こつんと叩いた。気持ちは解るが
失礼にならないうちに、止めなければ。
「まあ、これで君たちもやっと落ち着く訳だ。
---それで挙式は年内に?」
「ええと、妹の結婚式が今月なので、一年期間を置こうと言うこと
になりまして、一年後の五月頃に」
これ以上期間を置いてどうするんだ、と言う内心の声は置いといて、
やっと結実した思いを祝ってやるべきだろうと思った。
「まあ、良かった、良かった。----確かにああいう男だが、
桑原は悪い人間ではないし、君なら上手くやるだろう。
こちらもホッとしたよ」
彼女は嬉しそうに、小さく微笑んだ。
賭けには勝ったが、なんだか嬉しいを通り越して、そうかとしか
言えない。
まあ、彼がどんな表情をするものか、一つ見てやるのも悪くない。
きっと、彼の心の奥底に降り続いていた雪は、
今日の薄紅の花びらの舞い落ちる色に、変わっただろうから。
※ちと時系列に自信がありません^^;サイト掲載時に訂正するかも。
この後に、以前書いた『外嶋さん考察』が繋がります。
オペラのボックスシート、以前新聞で見かけた時には十万円越えてましたけど、
タタルさん、マジで奢ったんでしょうか(笑)
『百人一首の呪』の一部抜粋があります。
ご容赦下さい<m(__)m>
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やっぱりつきないなぁ…同棲ネタ。 しつこいようですがもう少しお付き合いください。 サイトになりましたら、作品を 時系列順に並べられたらなぁと思っています^^ BETWEEN THE SEATS ~八重垣~ 「そういえばベット、まだ届きませんね」 引っ越しの日の夕方。 あらかた片付けも終わり、一段落ついたところでした。 お互い一人暮らしのものを持ちよって、引っ越しをしたのですが、 なんともベットだけはちぐはぐで、新しいベットを二台購入 しようと言うことになったのです。 けれども先週の日曜日は、親戚のお葬式が入ってしまい、 急に行けなくなってしまった為、タタルさんに一人で 家具屋さんに行って貰いました。 彼はまだまだ、本の仕分け作業に夢中。 五分程して、やっと返事が返ってきました。 「昼間は雨だったからな。天気が悪いと少し遅れると、言っていた」 「そうですか。じゃあ、もうすぐ来るでしょうか」 そろそろ夕飯の支度にかからなきゃ、と思っていると、 玄関でチャイムが鳴りました。 「すみません、ミトリです。ベットお届けに上がりました」 「はーい」 返事をして、扉を開けました。 「桑原崇さんのお宅ですね?あの、御注文のお品大きいので、 ベランダ側の窓から、クレーンで搬入致しますね」 「え?」 「玄関からは無理なので」 「…………………」 シングルのベットってそんなに大きかったかしら? 首を傾げながら、ベランダの窓を開けました。 すると------ 「ありがとうございました」 家具屋さんが帰って行きました。 わたしはびっくりして声も出ません。 寝室に家具屋さんが設置して行ったのは…… 「………ダブルベット?」 なのです。 それが一台。 今夜から、ここで寝る? 二人で? うっかり色々考えてしまい、 何だか耳の方から赤くなってしまうような……。 「何かおかしなことでもあったか?」 隣の部屋から出てきた彼が、ベットの側で固まっていた わたしの背後から声をかけました。 「え~と、タタルさん。確かシングルのベットを 二台買う予定でしたよね?」 「わざわざ二台置くより、一台の方が効率がいい」 「そ…それはそうですけど」 「君は二台の方が良かったのか?」 最後の言葉は非常に低い声で、呟くように言ったので、 返事をして良いのか迷いました。 もともとあまり食べない彼は、それでも多少夕食に口をつけると、 そのあとはまた黙々と本を読んでいます。 (本人は選別をしているつもりのようですが) わたしは聞きたいことが、たくさんあるような気がしたのですが、 どことなく先程から、彼の機嫌が悪いように感じて、 声をかけられません。 明日は出勤だし、今日は早めに寝ようと思い、シャワーを浴びて、 髪を乾かすと、八畳間の寝室に行きました。 ベットの上には彼がすでに横になって、まだ本を読んでいます。 さりげなく見てみると、古事記に関しての考察の本のよう。 そういえば古事記に関わる本が、 一番冊数が多いと彼は言っていたっけ。 そっとベットの縁に腰をかけました。 「早く布団に入った方がいいんじゃないか? 六月と言えど、梅雨時は冷える」 本から目を離さずに、彼は言います。 「は、はい」 そこで、そーっと本を読んでいる彼の邪魔にならないよう、 隣に横になりました。 あ、少しゆとりがある。 思わず笑みがこぼれました。 だって、今まで、ほとんどの週末を彼の家で過ごしていた わたしですが、彼のベットと来たら! 右を見ても、左を見ても、頭の上の方にも本があり、 ただでさえも二人でいるには狭いシングルのベットが、 殊更狭くなっていて、やはり同じようにいつも本を片手に している彼に、ぴたりとくっつかなければいられないような、 スペースしかなかったのです。 わたしが小さく笑ったのを知って、やっと彼がこちらを向きました。 「何か?」 「え、あ、い、いつもより広いなと思って」 「………どういう訳か、君は少し離れて寝たいようだからな。 だからシングルよりはこの方がいいかと思って、こちらにしたんだ」 「…………よくわかりませんけど、何か怒ってます?」 「別に。ただ今まで少し離れようとした君が、ベットから落ちそうに なってたことは何度かあったし……。君は眠ってて無意識の時しか、 こちらに近づいて来なかったから」 「…………………」 あからさまに声は不機嫌な調子です。 ……それは、彼にくっついているのは、こうして付き合って3ヶ月に なろうと言う今でも気恥ずかしさがあります。でも…… 「う、嬉しくない訳じゃないです」 思わず考えてたことが、口をついて出てしまい、 ぱたりと口を押さえました。 「何が?」 彼はじっとこちらを見つめています。 「あ……えと、ベ、ベットが一台なこと…です」 微かにため息をついて、彼は本を置いて体を起こしました。 横になって布団に入っているわたしを、覗きこんでいます。 「君は別々の方が良かったんだろう?」 「そ、そんなことは!タタルさん、いつも本を読んでいるし、 わたしがくっついてたら、邪魔かもしれないなんて、………思って……」 なんだか話してるうちに、とんでもないことを口走りそうで、 動悸が早くなりました。 多分顔は真っ赤でしょう。 彼とベットの上で話すとここ最近、いつもそう。 なんか言わされてるような、気もしてきた……。 「………八重垣、かな」 「え?」 「素戔嗚尊の歌だ」 「……ああ、あの結婚した時に詠んだと言う…。 確かあれは、八重垣を作って取り囲んで、攻めた土地の女性たちも 囲んでしまえと言う、酷い歌だとタタルさん、 言ってなかったですか?」 彼はふっと微笑うと、肩をすくめました。 「まあね、そうも読める。だが表の意味は飽くまでも、 妻を八重垣を張り巡らした屋敷の中に置きたいと言う意味だよ」 彼の手が優しく頬に触れます。 「八重(はちじゅう)にも囲いを作って、 妻を外に出したくない、ヤキモチやきの男の歌さ」 「…………………」 最後の言葉は耳元で低く囁かれて、徐々に感じる彼の重みとともに、 頭の奥に静かに響くようでした。 「………まあ、八重垣で取り囲んだ屋敷なんて、 俺には無理だからな。こんな場所で、君を占有するのが精々だ」 そっと横を向くと、長い睫毛の下の黒い瞳が、ずいぶんと柔らかな光を 帯びて、こちらを見つめていました。 吸い込まれそう。 彼の肩にそっと指をかけました。 「確かに別々のベットに寝ていたら、 こんな気持ちにはならなかったかもですね」 彼の細くて柔らかな髪に指先で触れました。 すると、彼はその指を掴んで 「今夜はゆっくり休んだ方がいい。今日は疲れてるだろう。 ………そう思ったから、必死で本を読んでいたんだが」 ぶっきらぼうな調子ですが、それは彼が照れている時だと、 もうわかります。 掴まれた指を離して、今度は両腕で彼の首を巻くと、言いました。 「じゃあ、きちんと囲んでいて下さいね。 ……崇さんなりの八重垣で」 彼は一瞬きょとんとしましたが、クスリと笑ったかと思った瞬間、 口唇をふさいでわたしを抱きすくめました。
遊びに来た妹にとても冷やかされたのは、後日の話。
そのとき彼は涼しげな表情(かお)で、憎たらしいくらい。
まるで買うことを決めたのは、わたしの方であるかのように……!
※体調悪くて布団にいたら、こんなのできました(爆)
出てきた歌は有名な『八雲立つ~』の歌です。
原作にも出てきましたね^^
ダブルベットは夫婦喧嘩の解消や夫婦仲の維持(笑)に効果があると
以前聞きました。
それにしてもダブルベット購入の言い訳に、古事記まで引っ張り出す
カップルってどんなん…^^;
やっぱり楽しいです^^ タタルさんと沙織ちゃんの会話。 沙織ちゃん目線の原作とか、一度読んでみたかった。 禮子ちゃん以上に、スパイシーだったり(笑) えーと、このほどアップしたCOMIC、 Can You Celebrate?の内容の前段階です。 結婚式の計画って結構揉めますよね^^; 今日は実家で姉の結婚式についての、打ち合わせが行われた。 私はたまたまこちらに戻っていたため、話に加わることになった のだが、また未来の義兄が常識的でない独自の意見を曲げない。 まずはそこまでの経緯をお知らせしたいと思う。 沙:まあ、鎌倉に住んでると小さい頃から憧れるよね。 鶴ヶ岡八幡宮で結婚式。 タタルさん、あらかじめ聞いておくけど、 神社的に問題はない?反対意見とか神社が怨霊神だとか、 製鉄関わりだとか、何かあったら今のうちに言った方がいいよ。 タ:……話し始めたら、八幡宮は元々が怨霊神で製鉄関わりだから、 長くなるが、別に構わないんじゃないか? 結婚式は女性の方が、子供の頃から夢や憧れがあるだろうし……。 奈々くんの好きなようにしたら、いい。 奈:タタルさん…… 沙:ハイハイ、ごちそうさま。 じゃあ、神前式で白無垢ね。 お姉ちゃん、お色直しも打ち掛け?それともドレス着る? 奈:え、それはどうしようかしら 沙:当日晴れるといいよね~ 八幡宮で式をした後、段葛の道を人力車で走るでしょ。 タ:……人力車? 沙:そうだよ。鎌倉ホテルまで。 タ:………あそこは観光客も多いだろう。 沙:うん、五月に結婚式するなら尚更だよ。季節もいいしね。 皆にお祝いして貰えて、い~じゃん。 あーわたしも八幡宮ですれば良かったかな。 タ:……………(すごく渋い表情) 沙:タタルさん………まさかと思うけど、お姉ちゃんの花嫁姿を 人に見せたくないあまり、反対とか言わないよね? タ:……いや、奈々くんはいいんだが… 沙:何?なんか煮え切らないなあ。 奈:タタルさん、あの、何かダメなことでもありました? タ:あ……いや、しかし…… 沙:タタルさん、まさか女の子の一生の夢を壊そうとか思わないよね? お姉ちゃんがどうしたいか、一番知ってるのはわたしだもん。 お姉ちゃんだって、この前言ってたじゃん。やっぱり結婚式は 着物着たいって。 奈:……綿帽子がちょっと憧れだったから。 あ、でもタタルさんが反対するなら、 わたしは……。結婚式も無理にしなくても。 ……と、歳も歳だし。 タ:いや、そういうことじゃないんだ。 ただ…… (小さな声で)まさか人通りの少ない平日と言う訳にも、 いかないだろうな。 沙:え?何? タ:いや、何でもない。 その後、未来の義兄が非情に重苦しく黙り込んでしまった為、 それ以上話が進められなくなってしまった。 可哀想に姉は、自分が一番落ち込んだだろうに、 彼にずいぶん気を使っていた。 しかし、である。 一週間後、姉から電話が入りとんでもない展開になって いることが、わかった。 なんと彼は、誰もが彼に気を使って言い出さなかった、 教会での結婚式を選択したらしい。 何でも姉に『君のウエディングドレス姿が見たい』などと、 ほざいたそうである。 彼と付き合うまで、鈍さゆえに免疫のなかった姉は、メロメロである。 電話の向こうで、恥ずかしがりながら声のトーンを抑えてはいるものの、 嬉しくて仕方ない様子が、ありありと伺える。 奈:それでね、沙織。横浜に古い教会があるから、 そこはどうだろうって、タタルさんが言うの 沙:タタルさんと教会……神社に狛犬の代わりに、 スフィンクスでも飾られてるぐらいのミスマッチ…… 奈:わたしも意外だったんだけど、あの、あのね……… 沙:何? 奈:タタルさんがね「その方が君を拘束出来た気がするから」って…… 沙:…………… 何だか詭弁ぽいな…… 奈:え?何? 沙:ううん、何でもない。 それでお姉ちゃんはいいの?小さい頃からの夢だったじゃない。 奈:タタルさんが、あんなに一生懸命、教会探して来てたし、 それに、ウエディングドレスも……い、いいかな~って。 沙:(ダメだ、こりゃ。完全に操作されてる) まあ、お姉ちゃんがいいなら、いいけど。 どうやら、彼は多くの他人の見世物になるのが、殊更嫌だったようである。 初め鷹揚に出たものの、いざとなったら姉を籠絡すると言う 奥の手を使ってきた。 最も先に経験した身から言わせて貰えば、結婚式なんてものは 花嫁も花婿も、当事者は多かれ少なかれ、見世物になるように 出来ているのだが。 常人より先の見通しの利く彼も、この辺までは洞察出来なかったようである。 全く無駄な足掻きだ。 まあ、わたしとしてはせめて見世物としても、 まともな形になるように、手を貸すとするか。 ……姉は…気付かないまま幸せなようだし。
※タタルさんと奈々ちゃんじゃ、ボケとボケで突っ込む人がいない
漫才になってしまうので、やっぱり沙織ちゃんは必要(笑)
経験した方ならわかると思いますが、結婚式って当人は
ハードな予定でシアワセ?を噛みしめてるゆとりなんか
かけらもないものです。
私は韓国伝統式スタイルという、日本人から見れば
かなり珍しいスタイルで結婚式をしました。
ソウルの成均館大学という、李朝の頃からある日本で言えば
湯島聖堂のような場所で結婚式をしたわけですが
韓国の結婚式は全くの他人が来てもOKな上、やや観光地
だったこともあって、完全な見世物でした。
私的には花嫁衣裳と言うより、コスプレに近かったし…
だからこの抵抗してる(非常にセコいけど)タタルさんの気持ちは
よくわかる(笑)
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性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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