タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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昨日アップ致しました危険文書(笑)『深海の雪』の続きです^^
これでやっと時系列がすっきりつながって、私も安心して
年が越せそうです(爆)
春の雪
「……あ」
「お…………!」
春だった。
外は昨日まで満開だった桜が、まるで吹雪のように散っている。
僕の在学中にお世話になった、老教授が今日で退職することになり、
僕はかなり久しぶりに母校に挨拶に訪れていた。
薬学部のある古い学舎の廊下でばったり会ったのは----
「君か」
「外嶋さん」
相変わらずのボサボサ髪。ひょろりと背ばかり高い少年
………いや、青年と言った方がいいか。彼ももう21歳だ。
「フン……思ったより白衣が板に付いてるじゃないか」
「ええ、お陰様で」
眠そうな目でこちらを見ている。
「僕は今日退職する教授に挨拶に来たんだが……良かったら、
少し時間が取れないか?久しぶりだし……食事でもしよう」
今日は木曜日で僕の経営する薬局は休日だった。
「そうですね……あともう一つ講義に出なければなりませんから、
それまで貴方が待てるなら」
「それは構わないが……」
すると背後からパタパタと軽い足取りの足音が聞こえ、
ずいぶんと可愛らしい女性が彼の前に来て止まった。
「タタル先輩、やっと見つけました」
「やあ、奈々くん」
女性はにっこり微笑むと言った。
「サークルの集まりが明日あるから、同好会室に来て下さいって先輩が」
「………面倒臭いな」
「ダメですよ!先輩にも言われたんですから。もし、タタル先輩が
来なかったら、わたしの連絡不足だって。
----わたしが言えば来るから心配ないなんてことまで、
言われちゃったんですから、絶対いらして下さいね」
「…………解った。気が向いたら行く」
「お願いしましたからね………あっ!」
そこまで話して、彼女はやっと目の前の僕の存在に気付いたようだった。
彼女はぺこりと頭を下げると、踵を返してもと来た方へ戻って行った。
彼は彼女の去った方角を見つめている。
「………ふーん」
「なんですか?」
怪訝そうにこちらを見た。
「まあ、後で話そう。それより待ち合わせ場所を決めておこう」
思ったより教授の話が長引いた。
彼-----三年前の一月にあるきっかけで知りあった、
桑原崇が待ち合わせに指定したのは、なんと駅前にある小さなバーだった。
生意気だな。
アイツこんな店で飲んでるのか。
彼はもう店にいた。
「遅くなって悪かったね」
「別に……ここで本を読むのは日課みたいなものだから」
彼の手元にあるのは、遠野物語。
「相変わらずだな。今度は河童でも追いかけてるのか?」
「……あるきっかけで、陰陽師のことを調べていたら、興味が出て来て」
「陰陽師?そいつは確か平安時代の占い師みたいな物だろう?」
「それは全てじゃないですね……例えば」
「いや、待った。今日はまず別の話からにしよう」
彼は少し機嫌を悪くしたような表情になって、目の前のカクテルに
口をつけた。
ボーイが注文を聞きに来る。
「シンデレラを」
かしこまりました、とボーイが去っていく。
そして目の前の青年は、正に目が点になったような表情でこちらを
見ていたが、次の瞬間にはああ、と納得したような声をあげた。
「貴方、下戸ですか」
「アルコールはお猪口に五分の一以上は受け付けないんだ。
……だが仕事の付き合い上、結構アルコールとの遭遇率は高くてね。
バーに来なければならない時は、必ず最初にこれを頼むことにしている。
名前のインパクトから、必ず同行者から更なるアルコールを勧められる
ことはなくなるから、一石二鳥だ」
「……実に貴方らしいですね」
皮肉げな笑いが口唇をかすめる。三年前よりずいぶん落ち着いた。
きっと今の環境が彼に合っているからだろう。
「これなら、一、二年後にはオペラをボックスシートで
見させて貰えそうだな」
「なんのことです?」
「さっきのコだよ。同じサークルなんだな。可愛いコだったじゃないか」
僕が注文したカクテルを持って来たボーイに、彼が二杯目のカクテル
(彼はギムレットしか飲まないらしい)を頼む。
「奈々くんのことですか。それなら残念ですが、貴方の眼鏡違いだ。
側にいる誰彼を、すぐに対象に出来る程、俺は器用じゃありません。
………それに」
彼は一旦言葉を切ると俯いて言った。
「確か彼女には付き合ってる男がいたはず」
「そうなのか?それにしては、彼女の方が、ずいぶん君に気を許している
雰囲気に見えたがな」
この男の無愛想に、恐れず笑顔になれるだけ、稀有な存在と言える。
「それは……彼女の生まれつきの性格でしょうね。何分隙だらけで
---そもそも、話すようになったきっかけだって、
おかしな宗教の勧誘に絡まれてる所を、助けたからなんです。
それ以来、妙に懐かれてしまって。……全く警戒心を持ち合わせてないんじゃ
ないかと、少し心配にもなりますが」
対象外にしては、ずいぶんと関心(彼にしては、だが)が
あるような気がするんだが。
それに-----彼は自覚してないようだし、彼をよく知った人間でなければ
気付けないような、些細な変化だったが、彼の彼女を見る眼差しは、
他の人間を見る時よりずいぶんと柔らかいような気もした。
気のない異性を、あんな風に見つめられるような性格でもあるまいに。
「まあ、まだまだ未来のことは解らないからね」
「この賭けは俺の勝ちです。初めから見えてる」
今来たばかりのカクテルはもうグラス半分しかない。
ペース、早すぎないか?
「君が真面目に大学生活を送れているようで、少し安心した」
フンと鼻先で笑って、彼は言った。
「貴方、結構お節介なんですね」
「一度関心を持った対象からは、観察を怠らない性質(たち)でね」
このあと彼とは大学の教授連中のあれこれや、講義の実験の内容なんかを
話して、駅で別れた。
-----次からは酒の席では彼と会うのは止めようと思った。
二年後の正月に彼からの年賀状を受け取った。
しかし住所は………京都?
あの事件を考えると、彼にとっては関西方面は鬼門のような気がした
のだが、趣味の寺社廻りから考えれば、正しいのか。
…………それにしても、だ。
昨年の秋に僕が経営している薬局で人手が足りなくなり、
とうとう今年から新卒の社員を一人採用することになった。
手っ取り早く、大学のつてを使って今年卒業の学生を一人紹介して貰った。
こう言うのを奇縁と言うのだろう。
その学生の名前は棚旗奈々。
二年前、薬学部のある学棟のある廊下で、桑原の不景気な面を全く意に
介さず話しかけてきた、あの彼女だ。
採用を決めた時は、そんなこと全く忘れていたのだが、
彼からの年賀状を見て思い出した。
なのに彼は京都にいる。
まさかフラレたからじゃないよな。
その日は天気予報でも、寒波の早い到来が告げられていた寒い一日だった。
四月から新卒の薬剤師として勤務している、一応大学の後輩の彼女は、
なかなかに優秀な子で、仕事のコツも早く飲み込み、患者受けも悪くなかった。
相手に強引に出られると、お断り出来ない性格らしかったが、
それは僕にとっても若干都合のいいことなので、良しとする。
今日も僕がさりげなく放り出した、閉店業務を黙ってかたづけ始めた。
「アルコールと言えば、奈々くん」
ある目論見から、話を切り出す。
彼女は若干警戒気味だ。
「奈々くんは、お酒は弱くないほうだったね」
「え、ええ……。まあ----」
「そうか。良かった」
あの、笊と言うよりは底の抜けた樽と言った方がいい男に、
付き合わせることになるのだ。
少しでも条件はいい方がいいだろう。
「実は今週の土曜日に、薬剤師会の研修会があるんだよ。
そしてそのあとに、懇親会と称する飲み会が開かれる。
本来ならば僕が行かなくてはならないところなんだが、
どうしても外せない用事が出来てしまった。
そこで奈々くんに代理を頼みたい。いや、何研修会と言っても
年寄り連中の長話を、イスに座ってただ聞いてるだけなんだがね。
その後の懇親会に顔を出して、少し皆に付き合ってもらえればいいんだ」
彼女は僕をじっと見つめている。何分急にこんなことになったのだから、
少々腹が立っても仕方がないが、こちらにも事情があった。
「そうそう、その研修会には桑原がやって来るよ。桑原は知っているだろう」
「え!」
「奴は今、僕らと同じ地区の漢方薬局にいる。
『萬治漢方』だ。聞いたことあるだろう」
そうなのだ。
彼は京都から、東京に戻って来ていた。
それを知ったのはたった三日前のことだ。
閉店が遅くなって、余り暗くなってから帰宅させるのも危ないと思い、
彼女を先に帰宅させた日。
一人で閉店作業を終え、東横線祐天寺の駅前で、
やはり仕事を終えた桑原と偶然出会ったのだ。
「なんだ、こちらに戻っていたのか」
殊勝にも彼はぺこりと頭を下げた。
「何の連絡も出来なくてすみません。四月からこちらの
……萬治漢方って薬局で勤めてました。一人暮らしを始めたりして、
なかなか多忙だったものですから」
無愛想は相変わらずだが、口のきき方くらいは、社会に出て学んだらしい。
「ふうん。どの辺で暮らしてるんだ?」
「代々木です。明治神宮が近いから、意外に静かで」
電車を待つ間、彼と並んでいた。
「そう言えば土曜日に薬剤師会の研修会がありますね?
貴方は出席するんですか?」
「ん?ああ、そうだな。当然出なくてはならないだろうな」
「……うちの薬局からは俺が行くことになりました。
………じゃんけんで負けてしまったものですから」
どんなに先が見える男でも、偶然の作用する勝負では逃れられない。
構内アナウンスが流れて、電車が後少しで着くことが解った。
「……あの、貴方の薬局に棚旗奈々と言う女性が、
今年から採用されてませんか?」
「え?奈々くんか?確かにウチに来ているよ。なかなか仕事を飲み込む
のも早いし、しっかりしているが」
「…………そうですか」
ホームに電車が入って来た喧騒で、彼の言葉の最後はかき消えた。
渋谷駅で彼はJRに乗り換えたから、話はそこで途切れたままだったが、
やはり桑原は彼女が気になっているのだろうか?
以前にも少し感じたことなのだか、あの賢すぎる男が、
自分の気持ちに-----まさか、気付いていない?
そうなんだろうか?
賢い人間でも意外にも、自分のことは灯台元暗しになるものだ。
本当に?
そして彼女の方はどうなんだろうか?
桑原が来ると言った時、さっと頬が薄く染まっていたようにも見えた。
悪くない反応。
どうやら今は誰とも付き合ってはいないように思えるし………。
てきぱきと仕事はこなすものの、彼女は性格そのものはおっとりしている
ようにも思えた。頭の回転は悪くない。事の本質を鋭く見抜いて
来るようなところもある。
まあ、見た目の釣り合いは一見悪いように感じるが、
あの桑原とは意外と-----意外と好一対なんじゃないだろうか。
十日程たって彼女のポケットを見ると、見たことのある字の書かれた
一通の手紙。
宛名は-------
成程、僕の見立ては思ったよりずっと良いようだ。
これなら、きっと話は早いはずだ。
ところが、この恋の決着がついたのはなんと八年後だった。
彼ばかりではなく、彼女も同じように、こう言ったことには
不器用だったのだ。
その日も雪のようにソメイヨシノの花びらが、そこかしこに
舞い散っていた。
お昼休みに各自弁当を食べ終わると、奈々くんがいやに
かしこまって、話し出した。
「外嶋さん、あの………わたしたち、あ、あのわたしとタタルさん、
こ、婚約しました」
彼女は顔だけではなく、指先まで真っ赤だ。
僕ともう一人、僕の親戚にあたる相原美緒は、一瞬どう反応した
ものやら、黙ってしまった。
何故かって?
端で見ていた他人には、丸わかりの事実だったからだ。
当人たちが気付くのが、恐ろしく遅かっただけだ。
「え、えーと、おめでとうございます!奈々さん。
良かったですね。……端から見ていて、お二方とも選ぶ余地なんか
ないのに、じれったいと言うか、牛歩と言うか……」
僕は親戚のアシスタントの頭を、こつんと叩いた。気持ちは解るが
失礼にならないうちに、止めなければ。
「まあ、これで君たちもやっと落ち着く訳だ。
---それで挙式は年内に?」
「ええと、妹の結婚式が今月なので、一年期間を置こうと言うこと
になりまして、一年後の五月頃に」
これ以上期間を置いてどうするんだ、と言う内心の声は置いといて、
やっと結実した思いを祝ってやるべきだろうと思った。
「まあ、良かった、良かった。----確かにああいう男だが、
桑原は悪い人間ではないし、君なら上手くやるだろう。
こちらもホッとしたよ」
彼女は嬉しそうに、小さく微笑んだ。
賭けには勝ったが、なんだか嬉しいを通り越して、そうかとしか
言えない。
まあ、彼がどんな表情をするものか、一つ見てやるのも悪くない。
きっと、彼の心の奥底に降り続いていた雪は、
今日の薄紅の花びらの舞い落ちる色に、変わっただろうから。
※ちと時系列に自信がありません^^;サイト掲載時に訂正するかも。
この後に、以前書いた『外嶋さん考察』が繋がります。
オペラのボックスシート、以前新聞で見かけた時には十万円越えてましたけど、
タタルさん、マジで奢ったんでしょうか(笑)
『百人一首の呪』の一部抜粋があります。
ご容赦下さい<m(__)m>
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当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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一切関係がありません。
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ご利用の際はご一報下さい。
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思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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