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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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 暮れも押し迫った師走のホワイト薬局は、相変わらず(今夜はクリスマスイブだというのに!)の忙しさだったが、ようやく閉店時間となり、奈々は淡々と閉店業務をこなしていた。

 上司の外嶋はというと、この後出掛けるというオペラ鑑賞の方にすでに心は舞い飛んでおり、あまり閉店業務の役には立ちそうもない。
 また、事務の相原美緒も、今夜は約束があるとかで、奈々に謝りながらも自分の担当の仕事を済ませると大わらわで帰ってしまっていたのだった。

 あとは調剤室の方の…、と奈々が席を立った時、聞き慣れた低い声がふいに奈々の耳に飛び込んできた。

「奈々くん」
「はーい、って…、タタルさん!?」

 目の前に佇む崇に驚いてしまい、奈々は思わず抱えていたファイルや薬歴簿を取り落としてしまった。そんな奈々に、崇は愛想を振り撒くふうもなく軽く手を挙げて、「やあ」とだけ言った。

「あの、今夜って何か約束してましたっけ…? 私、まだ仕事が幾つか残っていて…、あ、それとも外嶋さんに何かご用が?」
「いや。俺が勝手に君を迎えに来ただけだ」

 迎えに、という言葉で奈々がつい頬を緩ませていると、奥から外嶋が現れ、崇を見留めて言った。

「やあ、桑原じゃないか。――この前会ったのが君たちの結婚式の時だから、約3ヶ月ぶりだな」
「その節はどうも」

 ぼそっと放り投げるように言う崇に、奈々はそっと囁いた。

「タタルさんすみません、調剤室の方の仕事を済ませてきますね」
「ああ」

 崇が頷くのを見て奈々が調剤室へ向かおうとした時、外嶋が怪訝な表情で奈々を呼び止めた。

「…奈々くん。君は未だに、夫である桑原の事をその渾名で呼んでいるのか?」
「え? あ、えっと…そうですね」
「まあ、君たちらしいと言えば君たちらしいかもしれないが、美緒くんあたりが聞いたら卒倒しそうな気がしなくもないな」

 確かに美緒は、崇との入籍を報告した際「それで奈々さん、旦那様の事これから何て呼ぶんですか? んー、奈々さんだったら『あ・な・た』とか!? …まさか一生『タタルサン』とかって呼ぶつもりじゃあないですよね…?」なんて言っていたっけ、と奈々は思い返す。

「…確かにそうですね…」

 つい動きを止めて考え込んでしまった奈々に、外嶋は作業を促すかのように調剤室のドアを開けながら言い放った。

「いやいや、すまない、仕事の手を止めさせてしまったな。桑原の相手なら僕がしておくから、奈々くんは心おきなく閉店業務にいそしんでくれたまえ」
「!」

 『閉店業務』の単語に我に返ると、奈々は崇と外嶋に向かってぺこりとお辞儀して調剤室へと入っていったのだった。

- - -

 無事に仕事を終えてホワイト薬局を出ると、あたりはすっかり夜の空気に包み込まれていた。指先や睫毛が凍ってしまいそうに冷たい。
 それでも、クリスマスを彩るイルミネーションがきらきら瞬く街を崇とふたりで歩けるのはやはり嬉しい。一応、結婚して初めてふたりで過ごすクリスマスなのだ。…ただ、崇がそういった事には関心がなさそうなのでどうしたものかと、奈々としては密かに思い悩んではいたのだが…。
 それにしても、今夜は何故わざわざ職場まで迎えに来てくれたのだろう。そう思いながらも直接は問い正せず、奈々はおずおずと切り出した。

「あの、タタルさん。今夜は一応クリスマスイブですし、帰ってからチキンだけでも焼こうって思ってたんです。あと、ケーキとシャンパンを買って帰ろうかなって」
「なるほど」
「…でも…タタルさんが『君も俺もクリスチャンでもないのに意味があるのか?』なんておっしゃるかもしれないと思って…だから今朝出勤する間際まで迷っていたんです…」
「そうか、それで今朝の君はなんだか鬱々としていたんだな」
「う、鬱々としてましたか!?」
「ああ。職場で何かあったのかと少し心配した」

 ごめんなさい…と俯いた奈々の手を、崇はそっと握りしめた。

「いや、君が謝るべき問題じゃない。それより行こう」
「え? 行くって何処へ? 鶏肉を買いに? それともケーキ屋さんですか?」
「違うよ。俺も君も確かにクリスチャンではないけれど、クリスマスも除夜の鐘も初詣も良いとこ取りで楽しめるのが日本人のフレキシブルで良い面だという世論を、最近ようやく認めてもいいような気がしてきたんでね」

 崇の言わんとする事が上手く掴めず、奈々は繋いでいない方の手でコートの襟を直しながら崇を見上げた。さすがに師走も末の夜風は身震いしてしまうほど冷たい。

「タタルさん?」
「君が前に話していた店で夕食でもと思って、予約しておいた」
「私が話していた…?」
「そうだ。君の同僚の相原くんだったか…彼女が行って、とても良かったと話してくれたらしい神楽坂の、」
「ええっ! あのお店ですか!?」
「…迷惑だったかな」

 困ったように空を仰いだ崇を見て、奈々は小さく笑みを零した。答える代わりに、繋いでいた手をほどいてそっと腕を絡める。――場合によっては、クリスマスの起源なりキリスト教やユダヤ教についての蘊蓄なりに一晩中でも付き合おうと決心していた奈々は、ほんの少し拍子抜けしてしまったりもしたのだが…。

- - -

 帰宅後。
 ソファーに身を沈めた崇にマグカップを手渡しながら、奈々もその隣にちょこんと腰を下ろした。

「美緒ちゃんが話していたとおり、雰囲気もとっても素敵なお店でしたね。クリスマスだからって特別にケーキまで頂けて、本当にお腹いっぱいです」
「ああ。酒の種類も豊富だったし、特に魚料理が旨かった」
「ええ。あの、タタルさん…今夜はとても嬉しかったです。薬局まで迎えに来て下さったのも、私の話を憶えていてお店を予約して下さったのも」

 それを聞いて、ふうっと崇が大きく息をつく。

「君が喜んでくれたなら、俺にはそれで十分だ」
「…タタルさん…?」

 奈々はそっと崇の横顔を覗き込む。相変わらずのボサボサの前髪の奥、瞼は伏せられているものの、決して機嫌が悪い表情ではない。奈々にはわかる。
 崇の手からマグカップをするりと奪い取ってテーブルに置くと、奈々は、そのまま音もなく崇の頬に唇を寄せた。

「奈々、」

 瞠目した崇に、奈々はふわりと笑ってみせた。崇もつられたようにくしゃりと相好を崩す。奈々はこの瞬間が何より好きだ。心臓がきゅうっと音を立てるように締めつけられる。

 ――この人が大好きでこんなに幸せなのに、胸の奥がなんだか苦しくなるのはどうしてなんだろう?

 半ば泣きだしたいような気持ちになって崇を見つめると、崇は何も言わず、穏やかな眼差しで奈々を見つめ返した。そのまま、崇の唇が奈々の額に優しく触れる。それから瞼に、頬に、耳朶にとそれは滑り降りてゆく。

「や…、くすぐったい、です…っ」
「知ってる」

 わざとだよ、と耳元で囁かれて、奈々の鼓動は痛いくらいに早鐘を打つ。降りやまないキスの雨に、頭の芯が溶けてしまいそうになりながら、奈々はぎゅっと崇の腕にしがみついた。

「…崇、さん…、」

 言葉にならないまま奈々が途切れがちにその名を呼ぶと、途端、崇は不敵な笑みを浮かべて奈々の唇を貪った。息を継ぐのもままならないほど激しい崇の仕草に、ぐらりと目が眩みそうになりながらも奈々は応える。
 やがて唇が離れると、奈々は大きく息継ぎをして崇の胸に凭れかかった。ふと見れば、崇は愉しそうに喉の奥で笑い声を立てている。

「な、何が可笑しいんですか!」
「…いや。君が俺の名前を呼ぶのを聞けるのは、やはり俺だけなんだろうなと思って」
「え…?」
「君の"この"声を、俺以外の人間に聞かせるつもりは決してないけれどね」

 言うが早いか、崇は再び奈々の唇にキスを降らせた。ちゅ、と音がして、奈々は思わず恥ずかしさに俯いてしまう。

 ――何度唇を合わせても、何度体を重ねても、何処まで深く繋がっても、慣れてしまう事など奈々には出来ない。崇に余裕綽々の表情で見つめられると、なんだか悔しい気持ちになる時もあるのだけれど――。

「奈々、おいで」

 ソファーから立ち上がった崇が手を差し出す。俯けていた真っ赤な顔を上げた奈々に、崇は柔らかに笑って見せた。奈々はゆっくりと腕を伸ばしその手に触れた。そのまま引き寄せられ、抱きしめられる。

「…どうしよう、私、今とてつもなく幸せです。私だけ、ですか…?」

 頤を持ち上げて潤んだ瞳で問うと、崇は黙したまま奈々の髪に顔を埋めた。耳が痛いほどの静けさに、鼓動が響き渡ってしまいそうだ。
 こんな時、奈々は拭い去れない不安に苛まれる。この人は、まだ私が知る事のない深い闇を抱えている。それを私が知る時は来るのだろうか。それを知ったとして、いったい私に何が出来るのだろうか。――それでも、それでも私は、生涯この人の傍に居ると決めたのだ……。

「俺もだよ。怖いくらいに、ね」

 奈々の髪を、崇がぐしゃりと撫でるように掬い上げた。そうして再び奈々のそこかしこに崇の唇が舞い降りる。初雪のようにあわあわとして、触れたら溶けてしまいそうに温かな唇。

 ふたりきりで夢現をたゆたうような温もりの中、奈々は瞼を下ろし、強く、神々に祈るように強く想った。願わくは、何があっても二度とこの人と離れる事がありませんように、と――。














※遊月さんに掲載許可を頂きましたので、アップ致します。
挿絵……じゃなくて挿し漫画になっちゃった(^_^;)
でも、でも、このセリフネックですよね!!?
どんなキスシーンより『きゃ(*^_^*)』とか思ったのは私だけではないはずだ!!
自分を呼ぶ声まで独占したいだなんて…ステキすぎる。

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