タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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風薫る、は五月の季語だ。
確かに今日は午後の陽射しの中で、その言葉を堪能した日になった。
亀戸天神は観光客でやや混雑していたものの、江戸の頃から
浮世絵にまで 画かれた名物の藤の花は、晴れた日の爽やかな風に微かに揺れ、
鼻先をかすめる空気は正に『薫る』と言って過言ではない。
尤も自分にとっては、その揺れる花々を見つめる彼女の横顔こそが、
風に薫るような気もしたのだが。
「君、大丈夫か?もうシャワーから出てるんだろう?具合でも悪いのか?」
夕食も兼ねて立ち寄ったカル・デ・サックからの帰り、
この季節にありがちな天気の変化で、ひどい雨に降られた。
どうせ彼女もこのあと泊まるのだし、多少濡れても構わないだろうと、
傘も差さずに自分のマンションまで走ったところ、 思わぬ降り方になり、
部屋にたどり着いた時には二人してずぶ濡れだった。
風邪でも引かせてはいけないと思い、彼女をバスルームに押し込んで、
着替えを探した。
ところが昨夜まとめて洗濯し干した衣類は、今日の雨ですっかり濡れている。
元々そう洋服が多い訳ではないから、今部屋着として着られそうなのは、
パジャマが一組のみ。
そして。 パジャマの上衣を彼女の為、脱衣場に置いた結果が今の状況を
招いている……らしい。
シャワーは浴びたようなのに、彼女は脱衣場から出てこない。
「開けていいか?」
「だ、ダメです!」
「……………何があったんだ?」
「な、な、なんでもないです!」
「………………」
ぴったり閉じられた扉は、まるで天の岩戸だ。
まさかこちらが天鈿女になって、踊りでも踊らなければ出てこないと 言う訳でもあるまい。
なんと声をかけたものか、少々悩んだ。
うかつなことを言えば、彼女は益々扉を開けづらくなる。
こんな時は言葉が象(かたち)を上手く結ばない自分は、 全く不器用だともどかしくもなるし、
扉から出てこない彼女も経験不足から なのか、やはり不器用だった。
「……天の岩戸じゃないんだから」
返事はない。
岩戸を押し開けた手力雄命のような力技は使えないし、使いたくない。
「君が休みの度に、俺の部屋に来るようになって、 ふた月と一週間だ。
………君の、その、体のことはもう、ある程度は 知ってる。
今更恥ずかしがることでもないだろう。
さっき渡した着替えは着ているんだろう?」
やはりこんな言葉しか出てこない自分にため息が出た。
「このままそこにいても、仕方ないだろうし、君がどうしても嫌だと
言うなら明かりを消すが」
そうまで言われて、やっと彼女は扉を開けた。
横目でそれを確認すると、わざとキッチンに向かった。
パジャマの上衣だけ、と言う姿を見られたくなくて、 必死だったのだから、
こちらも意識していないふりをするのが、 親切と言うものだ。
――――――あくまで『ふり』だが。
女性はなるべくなら、男の前でできる限り着飾った姿でいたいと 思うようだ。
だが、男から言わせれば、女性の寛いだ姿にこそ かえって独占したい
と言う欲を感じたりもする。
いつだったか、悪友の小松崎に『本能が弱ってるんじゃないかと 心配している』
などと失礼なことを言われたことがある。
そう全く失礼な話だ。
人にもよるだろうが、そんな事柄は時と場所と相手を選ぶものだ。
誰でもいつでも表に出して良い訳ではあるまい。
今だって、正直なことを言えば、付き合い始めてから初めて見る 彼女のそんな姿
――――大きめの男物のパジャマの上衣から覗いた、
華奢な肢体を見たくないはずがない。
正に『見まほし』だ。
この言葉を権力者の傲慢な言葉だと彼女に語ったのは自分なのでは あるのだが。
コーヒーを渡すと微かに指先が触れる。
すると今まで自分の姿を気にして、俯いていた彼女がぱっと顔を上げた。
真っ直ぐな大きな瞳が、こちらを見つめている。
「ご、ごめんなさい、タタルさんも雨に濡れて冷たかったのに……わたし…」
「別に構わない。君がなんでもなかったんだから。 ………あんまり出て来ないから、
具合でも悪いのかと心配になっただけだ」
彼女の柔らかな指が頬に触れる。
優しい温もりが伝わる。
思わずその手を掴んで、引き寄せたくなる衝動を辛うじて堪えた時だった。
「わ、わたしが温かくしてあげます」
全く。
解ってはいる。
触れた相手の指が冷たかったから、それを気にした彼女の混じり気なしの
善意の言葉だと。
多分………目の前に雨に濡れた猫がいれば、彼女は今自分に向けた 気持ちと同じものを、
猫にも与えるに違いない。
だがそんな言葉は、そんな気持ちは―――――今、こうして僅かな時間でも 彼女を独占しうる
権利を持ったらしい自分としては、自分以外の所へ 向けて欲しくはないのだ。
言葉を受けた相手が男なら、確実に誤解する。
出会って13年、彼女のこういった性質を知らない訳ではなかった。
だが、向かい合ってみて初めて沸き上がる感情があることを、 ここ最近思い知らされている。
昨夜の雨が嘘のように、輝くばかりの陽射しがカーテンの隙間から射し込む。
午前中は仕事で、それから待ち合わせて出掛けたのだ。
疲れたのだろう。
彼女はまだ自分の腕に凭れてよく眠っていた。
僅かな身動ぎでも、彼女が起きたりしないよう細心の注意を払いながら、
彼女の寝顔をそっと見つめた。
まだ手放したくない。
自分が独占出来る、それこそ僅かな時間。
昨夜の温もりの名残とともに。
「あの、ありがとうございます。タタルさん。駅まで送って下さって」
日曜夕方の原宿駅の改札は、当然ながら混み合っていた。
お互い話し合った訳ではなかったが、マンションから最寄りの代々木駅では なく、
わざわさ遠回りになるこの駅まで二人歩いていた。
横浜まで送るつもりでここまで来たが、それを察したのだろうか、
彼女は振り向いてそう言った。
「来週も会えますか?」
「仕事が入らなければ」
彼女は嬉しそうに微笑った。
結婚を前提にこうして付き合うまでは、年にひどいと一度旅行に行く くらいの間柄だった。
あれからは、毎週週末に会うようになったものの、
まだお互いその間合いを図るような感覚だ。
普通の恋人同士なら当たり前であることでも、彼女には嬉しいのだ。
自分は今此処で彼女と別れた後、恐らくもて余す感情に どう始末をつけるか必死なのに。
こんな気分に振り回されるのが煩わしいばかりに、 ずっと気付かない、気付くまいとしていたのに。
改札をくぐった彼女の姿が見えなくなる前に、自分も歩き始めた。
いつかこうして見送るのが嫌さに、彼女を手放せなくなる日が来る。
それはそう遠くない日に。
結婚すれば毎日顔を合わせることにもなるが―――――――多分それより前に。
初夏に吹きしく強い風を青嵐というけれど、帰り道に通った 神宮の森を揺らす風は
ざわざわと吹き抜け、それが自分の心中をも 揺らしているような
錯覚すら――――――――――――――覚えた。
確かに今日は午後の陽射しの中で、その言葉を堪能した日になった。
亀戸天神は観光客でやや混雑していたものの、江戸の頃から
浮世絵にまで 画かれた名物の藤の花は、晴れた日の爽やかな風に微かに揺れ、
鼻先をかすめる空気は正に『薫る』と言って過言ではない。
尤も自分にとっては、その揺れる花々を見つめる彼女の横顔こそが、
風に薫るような気もしたのだが。
「君、大丈夫か?もうシャワーから出てるんだろう?具合でも悪いのか?」
夕食も兼ねて立ち寄ったカル・デ・サックからの帰り、
この季節にありがちな天気の変化で、ひどい雨に降られた。
どうせ彼女もこのあと泊まるのだし、多少濡れても構わないだろうと、
傘も差さずに自分のマンションまで走ったところ、 思わぬ降り方になり、
部屋にたどり着いた時には二人してずぶ濡れだった。
風邪でも引かせてはいけないと思い、彼女をバスルームに押し込んで、
着替えを探した。
ところが昨夜まとめて洗濯し干した衣類は、今日の雨ですっかり濡れている。
元々そう洋服が多い訳ではないから、今部屋着として着られそうなのは、
パジャマが一組のみ。
そして。 パジャマの上衣を彼女の為、脱衣場に置いた結果が今の状況を
招いている……らしい。
シャワーは浴びたようなのに、彼女は脱衣場から出てこない。
「開けていいか?」
「だ、ダメです!」
「……………何があったんだ?」
「な、な、なんでもないです!」
「………………」
ぴったり閉じられた扉は、まるで天の岩戸だ。
まさかこちらが天鈿女になって、踊りでも踊らなければ出てこないと 言う訳でもあるまい。
なんと声をかけたものか、少々悩んだ。
うかつなことを言えば、彼女は益々扉を開けづらくなる。
こんな時は言葉が象(かたち)を上手く結ばない自分は、 全く不器用だともどかしくもなるし、
扉から出てこない彼女も経験不足から なのか、やはり不器用だった。
「……天の岩戸じゃないんだから」
返事はない。
岩戸を押し開けた手力雄命のような力技は使えないし、使いたくない。
「君が休みの度に、俺の部屋に来るようになって、 ふた月と一週間だ。
………君の、その、体のことはもう、ある程度は 知ってる。
今更恥ずかしがることでもないだろう。
さっき渡した着替えは着ているんだろう?」
やはりこんな言葉しか出てこない自分にため息が出た。
「このままそこにいても、仕方ないだろうし、君がどうしても嫌だと
言うなら明かりを消すが」
そうまで言われて、やっと彼女は扉を開けた。
横目でそれを確認すると、わざとキッチンに向かった。
パジャマの上衣だけ、と言う姿を見られたくなくて、 必死だったのだから、
こちらも意識していないふりをするのが、 親切と言うものだ。
――――――あくまで『ふり』だが。
女性はなるべくなら、男の前でできる限り着飾った姿でいたいと 思うようだ。
だが、男から言わせれば、女性の寛いだ姿にこそ かえって独占したい
と言う欲を感じたりもする。
いつだったか、悪友の小松崎に『本能が弱ってるんじゃないかと 心配している』
などと失礼なことを言われたことがある。
そう全く失礼な話だ。
人にもよるだろうが、そんな事柄は時と場所と相手を選ぶものだ。
誰でもいつでも表に出して良い訳ではあるまい。
今だって、正直なことを言えば、付き合い始めてから初めて見る 彼女のそんな姿
――――大きめの男物のパジャマの上衣から覗いた、
華奢な肢体を見たくないはずがない。
正に『見まほし』だ。
この言葉を権力者の傲慢な言葉だと彼女に語ったのは自分なのでは あるのだが。
コーヒーを渡すと微かに指先が触れる。
すると今まで自分の姿を気にして、俯いていた彼女がぱっと顔を上げた。
真っ直ぐな大きな瞳が、こちらを見つめている。
「ご、ごめんなさい、タタルさんも雨に濡れて冷たかったのに……わたし…」
「別に構わない。君がなんでもなかったんだから。 ………あんまり出て来ないから、
具合でも悪いのかと心配になっただけだ」
彼女の柔らかな指が頬に触れる。
優しい温もりが伝わる。
思わずその手を掴んで、引き寄せたくなる衝動を辛うじて堪えた時だった。
「わ、わたしが温かくしてあげます」
全く。
解ってはいる。
触れた相手の指が冷たかったから、それを気にした彼女の混じり気なしの
善意の言葉だと。
多分………目の前に雨に濡れた猫がいれば、彼女は今自分に向けた 気持ちと同じものを、
猫にも与えるに違いない。
だがそんな言葉は、そんな気持ちは―――――今、こうして僅かな時間でも 彼女を独占しうる
権利を持ったらしい自分としては、自分以外の所へ 向けて欲しくはないのだ。
言葉を受けた相手が男なら、確実に誤解する。
出会って13年、彼女のこういった性質を知らない訳ではなかった。
だが、向かい合ってみて初めて沸き上がる感情があることを、 ここ最近思い知らされている。
昨夜の雨が嘘のように、輝くばかりの陽射しがカーテンの隙間から射し込む。
午前中は仕事で、それから待ち合わせて出掛けたのだ。
疲れたのだろう。
彼女はまだ自分の腕に凭れてよく眠っていた。
僅かな身動ぎでも、彼女が起きたりしないよう細心の注意を払いながら、
彼女の寝顔をそっと見つめた。
まだ手放したくない。
自分が独占出来る、それこそ僅かな時間。
昨夜の温もりの名残とともに。
「あの、ありがとうございます。タタルさん。駅まで送って下さって」
日曜夕方の原宿駅の改札は、当然ながら混み合っていた。
お互い話し合った訳ではなかったが、マンションから最寄りの代々木駅では なく、
わざわさ遠回りになるこの駅まで二人歩いていた。
横浜まで送るつもりでここまで来たが、それを察したのだろうか、
彼女は振り向いてそう言った。
「来週も会えますか?」
「仕事が入らなければ」
彼女は嬉しそうに微笑った。
結婚を前提にこうして付き合うまでは、年にひどいと一度旅行に行く くらいの間柄だった。
あれからは、毎週週末に会うようになったものの、
まだお互いその間合いを図るような感覚だ。
普通の恋人同士なら当たり前であることでも、彼女には嬉しいのだ。
自分は今此処で彼女と別れた後、恐らくもて余す感情に どう始末をつけるか必死なのに。
こんな気分に振り回されるのが煩わしいばかりに、 ずっと気付かない、気付くまいとしていたのに。
改札をくぐった彼女の姿が見えなくなる前に、自分も歩き始めた。
いつかこうして見送るのが嫌さに、彼女を手放せなくなる日が来る。
それはそう遠くない日に。
結婚すれば毎日顔を合わせることにもなるが―――――――多分それより前に。
初夏に吹きしく強い風を青嵐というけれど、帰り道に通った 神宮の森を揺らす風は
ざわざわと吹き抜け、それが自分の心中をも 揺らしているような
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読書・お絵かき・料理
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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