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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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前回の続きです。
次回で終わるかな?

時系列的には、『秋の聲』や『秋の静寂』のすぐ後のお話になります。
(秋の聲と秋の静寂は大人表現の多い小説ですので、閲覧の際はご注意ください)
そしてCOMICの『雪の華』に続くんですが、すみません^^;
思いつくままに書いてるせいか、めちゃくちゃ読みづらい順序です。
サイトにはなるべく時系列を気にしてアップしていってます。


信州は結構縁があって、よく行ったのですが、残念なことに戸隠はありません。
取材なし、未体験ゾーンで戸隠関係のサイトをぱらりと見ただけで書いてます。
長野県にお住まいの方、ぼろが出たら笑ってやってください(T_T)

戸隠……行ってみたいなぁ。

拍手[5回]



 
 
もう冬に近い気圧配置だからか、その日はこれ以上はない晴天だった。
彼女との旅行はこの何年かは、あまり天候に恵まれなかったことが多い。
今日は幸いと言える。
 
 
 
朝早くから昼食の為のお弁当を作っていた彼女は、車のトランクに
薄いピンクの旅行カバンを詰めた。
「用意出来ましたよ、タタルさん」
淡いグリーンのセーターに、少し厚手のジャケットを着た彼女が
笑顔で答える。
はっきり言って11月も終わる今の時期では、信州の山の中では、
真冬と同じだ。彼女にもしっかりと防寒するように伝えていた。
 
 
「出発しよう」
 
久しぶりの、本当に久しぶりの運転だったが、出足は快調だった。
紅葉の時期を外したお陰で上信越道に入ると道もそれほど混んではいない。
助手席で初め緊張気味だった彼女も、少しホッとしたように座席に凭れた。
「タタルさん、話しかけても大丈夫ですか?」
「…………ああ」
以前京都で彼女を車に乗せた時に、そんなに怖い思いをさせたつもりは
微塵もないのだが、どうもあまり信用されてはいないらしい。
「今日はこのまま戸隠に行くんですよね」
「そうだ。戸隠神社に参拝して、忍法資料館に。
 君、興味があると言ってたろう?」
「ええ、伊賀に行った時に」
「飯綱修験道の始まりの地だからな」
「修験道と忍者も関係が?」
「ああ、それは当然」
「それで今日は戸隠に泊まるんですか?」
そう言えば、いつものことなのだが、コースの説明を
彼女にはあまりしていなかった。
「いや、次の日に善光寺に行くから長野市内に泊まろうかと考えてる。
 その後小布施に酒蔵があるんだが、そこに寄って、佐久の方に抜ける。
 かなり移動するから少し慌ただしいかもしれないが、佐久と軽井沢の間
 にある高原にあるホテルに泊まるから」
「……そこがタタルさんの仰ってた宿なんですか?てっきり旅館だとばかり
 思っていました」
「確かに旅館の方が好みだが………ここは特別だ」
横目で伺うと、彼女は目をぱちくりさせていた。
「どんな風に?」
「………それは着いてからの楽しみだ」
 
 
 
車はその後も順調に流れ、横川のサービスエリアで彼女の作った昼食を
摂るとそのまま戸隠へ向かった。
 
 
 
 
針葉樹の濃い緑の空気で肺が満たされる。冷たさがその気を一層濃いものに
していた。
 
修験道が山の中で発生し発達したのは、もちろん製鉄や水銀採掘と言う
実質的な意味合いが深いものの、この濃い山の気を心身に取り入れることも
目的だったと、身を持って納得出来る程の密度がある。
彼女も同じように感じるようで、大きく深呼吸した。
「やっぱり東京とは違いますね。二年前に諏訪に行った時も感じましたけど
 ………それよりも一段と空気が濃いような感じがします」
「そうだな」
振り向くとそこがすっかり定位置になった左腕に、彼女はすっと自分の右腕を
絡ませた。
初めて彼女がそんな風にした時は、少なからず驚いたのだが。
自分の気持ちをそうやって行動で示して来たことは、その時まであまり
なかった。
二人で暮らし始めてから知ったのだが、彼女はずいぶんと恥ずかしがりやで、
こうしたこと―――――恋愛に関わることを苦手としていた。
尤も自分だって得意な訳では少しもないが、その自分から見ても、だった。
だからあの時彼女はどれだけの勇気を奮ったことだろう。
対する自分は―――――当時あまりにもそっけなかったので、尚更だ。
だからこうして今、横に腕を絡ませ、時折こちらを見上げる彼女を見るたびに、
愛しさが増すのも当然だった。
 
 
 
 
 
奥社の拝殿で、彼女と共に手を合わせる。
以前なら祀られた、もしくは祀り上げられた神々に対する畏敬と、
歴史の深い闇に対する思いに、礼儀から手を合わせていた。
自分の為に神々も含め、何かに祈ったことなど、全くなかった。
―――――それは以前、自分の存在すらこの世から消してしまおうと思った時もだ。
いや、却ってあの時から尚のこと、自分の為に祈ろうなどと言う気を起こすこと
など、なくなったのかもしれない。
積み重ねられた歴史、人の営みは、その闇が深ければ深い程残酷な終わりを
遂げることを知ってしまったからだ。
 
 
しかし今は―――――だからこそ、祈りたいような気になっていた。
彼女との日々が破綻なく続く、そのことが奇跡のようにも思えて。
 
 
 
ふと気付くと、横で手を合わせていた彼女がじっとこちらを見ていた。
あまりにも長く自分が手を合わせていたことを、不思議に感じたらしかった。
「行こうか」
 
振り返って、拝殿の階段を降りた。
彼女はこう言った心の微妙な動きには、鋭敏な感覚の持ち主だ。
気付かれたくはなかったし、気遣わせたくもなかった。
確かに彼女の優しさに、身を委ねてしまえばそれは楽になるかもしれないこと
だった。

だが自分にはその資格はない。

それははっきり言える。
この思い――――己れの闇は自分一人が持って、彼岸まで行くものだと
ずっと考えて来た。
生きていく限り、永劫に。
 
 
 


 
その夜は予定通り長野市内の旅館に泊まった。
部屋についてから、何故か彼女が落ち着かない。
「どうしたんだ?」
不思議に思い尋ねた。
「………え、あの、今までは一緒に旅行してもお部屋は、別々でしたから、
 その……なんだかどきどきしてしまって」
 
……………………。
 
居を同じくして五ヶ月と二週間にはなるか。毎日顔を会わせているのに、
こんなことで意識されてしまうとは思わなかった。
あまりに初心(うぶ)な反応だが、自分も釣られて意識しそうになる。
だからわざとこんな話題を選んだ。
「今までの旅行通りだったら、今日あたり早速事件に巻き込まれている所だ。
 俺はそうならないかひやひやしていたがね。
 君と旅行に出れば、確率から言えば99.5%は事件に遭遇することに
 なるから」
「そ、それはひどいです!それに巻き込まれたのもわたしばかりのせいとは、
 言えません」
小さく膨れてこちらを見た。
「まあ、確かに事件を取材している熊つ崎がいたりしたからな。
 事件にあえて近付いていたようなものだ」
「そ、そうですよね!」
彼女が勢いこんで言った時、仲居がお茶を持って入って来たので、
一服すると風呂を浴び、食事になった。
食事の後、いつもの如く飲みながら、戸隠の鬼女、紅葉の伝説などを語りながら
地酒で喉を潤していたが、日付の変わる前にはお開きにして布団に入った。
心地良い疲れが、体に広がる。
やはり慣れない運転は、やや緊張が伴っていたようだ。
「タタルさん、まだ起きてます?」
「ああ、どうした?」
「なんでもないです。ただ、ちょっと……」
察しがついた。
「奈々、こちらに来るか?」
布団は当たり前だが二組敷かれている。だから今まで別々に寝ていたのだが、
家では同じベッドで寝ているのだ。
彼女もこの状況に違和感を覚えたのだろう。
布団の左側を空けてやると彼女はすっと、隣に入って来て、胸元に身を寄せた。
感じるのは、小さな心地良い重み。
 
 
 
そう言えば、今日はキス一つしていなかった。
彼女の頬に触れた。
 
「タタルさん」
「名前で」
困ったように眉を寄せたものの、彼女は微笑って言い直した。
「崇さん。わたしたち出会ってずいぶん経ちますけど、
 旅行にもあちこち行きましたけど………でも、何だか今日はとても
 初めての経験をしているような気がしました」
「こうして一つの部屋に泊まっているから?」
「それもありますけど、それ以外にも。何だか見るもの全てが
 新しく見えて。
 …………わたし、色々なことを崇さんから教えて貰いましたけど、
 『二人』って言うことが一人とこんなに違うのだと、初めて知りました」
彼女はふとはにかんで、俯いたがすぐにまたこちらを見つめた。
「こんな歳して恥ずかしいですけれど」
 
彼女が何を言わんとしてるか、良く解った。
それは自分も常に感じていたことだからだ。
そして、逆説的にはなるのだが、彼女といることで、
今まで自分がずいぶん気負って一人でいたことにも気付かされたりした。
今は二人でこうしていること、何かにつけて彼女のことを思い付き考えるのが
自然で、一人でいるのは却って不自然なくらいだった。
 
 
そっと彼女の背に触れた。あまりにも華奢に感じる肩や腕。
暗闇の中でも自分をじっと見つめているのが解る。
空いた手で、困ると可愛らしくひそめられる眉や、柔らかな頬、
多分今、ここで口付けたら、そのまま深く彼女に触れて
抱き締めたくなる口唇にと、順に指先で辿っていった。
 
明日も早い。
お互いの負担も考えて、ずいぶんと堪えて、
彼女の口唇に自分の口唇をそっと重ねた。

今度は彼女の指先が、自分の頬に触れる。
「崇さん…………好き、です」
小さな小さな聲だった。
囁き声の方が大きく感じる程の。
 
 
 
 
 
 
翌朝早目に宿をチェックアウトして、善光寺に向かった。

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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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