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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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なんか小説ばかり更新しちゃってます^^;
そろそろ次女が目を離すのは難しくなってきました。
PCのお部屋で暢気に漫画を描けなくなっちゃった;;


今回はタタ奈々だけどタタ奈々じゃないネタに挑戦。
出雲大遷宮のネタバレしてますので、文庫派の方はご注意ください。

小説は続き記事からです。

拍手[6回]




五月の穏やかな夕暮れが、すっかり夜の帳を下ろし、
我が家では夕食の片付けもすんだ頃、夫から電話が入りました。
「今から帰るから」
「お夕食は召し上がってないんですか?」
「一人で食べたって仕方ないだろう」
「だってお会いしたのは三年ぶりでしょう」
「アイツも今夜は家に帰って食べるだろう」
「まあ……!」
わたしはその場には誰もいないと言うのに、思わず顔一杯の笑顔を
浮かべていたに違いありません。
「小松崎さん、お元気でした?」
「ああ、ただ大分太ってたな。外食ばかりしてるからだ。
 これからは少しは考えるだろうさ。――――ああ、バスが来た。また後で」
そう言って彼は電話を切りました。
羽田空港からかけてきていたようです。



彼が、出雲大社で六、七十年に一度の大遷宮があると言って、
妹との結婚式以来三年ぶりに、大学時代からの友人の小松崎さんと
連絡をとったのは先月のことです。
妹の話では小松崎さんは今、中高年向けの旅行誌で記事を書いていると言うので、
出雲大社の大遷宮は彼が言うにはうってつけだろうとのことでした。
そんなことを言って―――――自分が一番出雲大社に行きたいからだろうとは
思うのですが、結婚して七年、子供も生まれ、彼も職場ではベテランの
漢方薬剤師として店での立場も重くなり、滅多に大好きな寺社巡りも出来なく
なっていました。
それでなくても、出雲大社の大遷宮は人一人が生きている間に
一度あるかないかの祭事でしたから、彼が言わなくても、行かせてあげたいとは
思っていました。




妹の沙織の前の夫――――義弟(おとうと)が亡くなったのは四年前の春でした。
幼い頃、アレルギーから来る喘息を患っていた義弟はあまり体の丈夫な方では
ありませんでした。
ただでさえも妹たちの勤める出版の業界は、時間も不規則でハードな仕事です。
子供が欲しくて、結婚して三年でやっとわたしにとっては甥に当たる大地くんが
生まれた時には、妹も義弟もそれは喜んだものです。
しかしそれも束の間、度々体調を崩すようになったかと思っていたら、
それは癌が原因だと言うことが解り、若いだけに病状はあっと言う間に進み、
もう取り戻すことの叶わない状態になっていたのです。

「タタルさん……癌に効く漢方ってないの……」
小さな頃から陽気な性質(たち)で、滅多なことでは沈み込んだり泣いたりしない妹が、
目に一杯の涙を浮かべていたのが昨日のことのように思われます。
放射線治療も抗がん剤も効かないと解った時のことです。
あの一年、流石に妹も仕事を辞め、義弟の看病に専念していました。
わたしたちは――――なるべくそっとしてあげたいと思い、あまり顔を合わせることは
なかったと思います。夫婦で医療に従事している立場で、見ていることしか出来ないのは、
歯痒さを通り越し情けない気持ちにもなりました。



義弟を亡くして、半年くらい妹はただ淡々と、
子育てと再開した仕事に明け暮れる日々を送っていました。
尤もそれは、長年二人で一緒に暮らした姉のわたしから見ると、
とても妹らしいとは言えませんでした。

わたしがする、そんな話を聞いていないようで(そんな風に見える時が、
彼は一番きちんと話を聞いているのですが)聞いていた彼が、ある晩言いました。
「今度の連休に旅行に行かないか?」
「旅行ですか?どちらへ?」
「少し遠出になるが、岡山へ。沙織くんと大地くんも一緒に」
「子供二人も連れて、岡山は少し大変じゃないですか?」
「熊つ崎を誘おうと思うんだ」
「小松崎さんを?」

彼が言うにはたまたま小松崎さんが仕事で、毒殺によって起きた殺人事件の
数々を取材してきて、彼にアドバイスを貰おうと連絡をしてきたのだそうです。
その頃は小松崎さんも時折我が家に訪れて、一緒にお鍋を囲んだりすることも
あったので、不自然なことではありませんでした。
でも旅行は久しぶりです。
「悪くありませんか?子供が二人もいたら落ち着かないでしょう」
「そんなこともないだろう。それにアイツはどちらかと言えば、
 子供好きな性質(たち)だ。
 彼の姉は幼稚園の先生だし、彼も甥や姪を可愛がってる」



妹に話してみると、少し間をおいて、「解った」と返事が来ました。
「そう言えば岡山は、タタルさんが遅れて来て、皆で見て回ったのは
 殺人事件の現場のお寺だけだったね。
 あの時は………わたしが風邪ひいて、お姉ちゃんが一緒に帰るって
 言った時のタタルさんの表情(かお)が怖かったな」
「そんなことないわよ」
またおかしな憎まれ口を叩く妹は、電話の向こうで微笑いました。
「それで小松崎さんも来るの?」
「ええ、タタルさんが声をかけるそうよ」
「懐かしいなあ。四人で相馬に野馬追い祭を見に行ったのが最後だったもんね。
 あの時も事件で、熊崎さんが途中で抜けて
 ――――って、また事件起きたりしないよね」
「バカなこと言わないの」
妹の声がいつもより明るいことにホッとしながら、その日は電話を切りました。



十月の連休にわたしたち家族三人と妹と大地くんの親子、そして小松崎さんの
六人で岡山に行きました。
妹は小松崎さんに会うのは、本当に久しぶりだったようで、
大地くんを囲んで会話も弾んでいるようです。
小松崎さんは彼の言った通り、子供の扱いには慣れていて、
まだ二歳になる前の可愛い盛りだった大地くんを、肩車したり、疲れて眠ってしまうと
おぶったり。
妹の明るい笑い声も久しぶりに聞けて、本当に楽しい旅行でした。



でも驚いたのはその二ヶ月後でした。
突如、妹が小松崎さんと再婚すると言い出しました。
あまりに突然のことに、どう返事をしたものか迷ったのですが、
その電話での会話を後ろで聞いていたらしい彼が呟きました。
「過去は記憶と同じで無くなりはしないが、思い出す頻度を下げることは出来る。
 特に辛い記憶や過去なら尚更、必要だ。
 だが………それにしても沙織くんもせっかちな」
彼はどうやらこうなることを予測して、岡山旅行を企画したようです。
妹の最初の結婚より前から、小松崎さんが妹を好きだったのはわたしたち
夫婦も知っていたことでした。
わたしは何かの折に、本当に然り気無く妹にそのことを告げました。
当然妹は驚いていました。
「気付かなかった…!だって熊崎さん、あんまりにも面倒見良くて
 ……お姉ちゃんたちのことも、すごく親身になってたから、
 わたしのこともそのついでだと思ってた……」



そんなことも影響して、妹も焦ったのかもしれません。
義弟が亡くなってまだ一年経っていない頃です。
流石に義弟の両親から反対とまではいかないものの、あまり芳しくない
反応がありました。
それでも妹は―――――何よりも大地くんの為に『父親』が必要であること。
本当の父親以外では、小松崎さん以上の父親は見つからないだろうことを
必死で説得し、とうとうかなり難しい反応を示していた義弟の両親も、
大地くんと月に一度会うことを約束して妹と小松崎さんの結婚に納得しました。



小松崎さんはどう思っていたでしょう?
会って尋ねる機会もないまま、岡山旅行から半年後には二人の結婚式になりました。

妹は「わたしは再婚だから、式はしなくていいけど、熊さ、いや、良平さんは初婚だからね。
だからきちんとしておきたくて」
そう言って、わたしたちの実家がある鎌倉の鶴ヶ岡八幡宮で
結構しっかりした結婚式をしました。






「ただいま」
夕飯にはもう遅い時間に彼が帰って来ました。
子供はすでに眠っています。
「出雲大社はどうでした?」
「良かったよ。無理な日程だったが、それ以上の価値があった。
 ――――君も連れて行きたかったな」
そんな風に言いながら、鞄の中身を開けました。



食事が終わって、お茶を淹れると彼は一服して、話し出しました。
「八雲之図が何故、七つしか雲がないのに、八雲と呼ばれるか解ったよ」
その答えは以前から彼が考え、築いてきた理論をそのまま進めたものでした。
「見えない、見えないと言葉の上でだけでも言っていると、
 本当に無くなったような気がするものはあるからな、それこそこの日常にも。
 熊の奴も同じだ。無いと思い込んで、目の前にあるのに、あると言うことに
 気付かなかった」
突然、わたしが今回の出雲行きで気になっていた話題になりました。

ひと月前に、妹が泊まり込みで仕事をしなければならず、
うちに預けられた大地くんに彼が突然尋ねました。
「君んちは何人家族だ?」
大地くんは、一瞬何を尋ねられたのかときょとんとして、彼を見つめました。
「三人だよ、タタルおじちゃん。当たり前でしょ。お父さんとお母さんとぼくで三人」
言うまでもない、大地くんの表情はそう言っていました。


「俺も人のことは言えないが―――――自分にはありえないと思い込んで、
 気付かなかった。周囲から見れば明らかなものに」
彼の指先がわたしの頬を撫でました。
「でも気付くことが出来ましたよ。わたしも貴方も。
 沢山の………小松崎さんや沙織のお蔭で」
「そうだ。どうやら借りがあったらしいからな。今回はその返礼………これも縁かな」
「きっとそうです」
わたしは彼の肩にそっと凭れました。




三日後、妹から電話がきました。
「今度の休みにパエリア作るから、うちに遊びに来ないかな?」
パエリアは妹の得意料理です。
「もちろんタタルさんも一緒に。ワインは良平さんが用意するって」
妹の声は先日聞いた声より、明らかに楽しげでした。
「あのね、お姉ちゃん。………わたし、良平さんと結婚してからパエリア
 作ったことなかったの。パエリアが得意料理だってことも忘れてた。
 どうしてだろうね」
「見えないと思うと、本当に見えなくなってしまうものがあるものよ」
ふーむ、と唸る声がして、妹は言いました。
「成程ね。………それは愛する誰かさんの受け売りね」
「もうっ!からかわないの」
「きちんと見えているのだから………ゆっくり家族になって行けばいいんだね、
 わたしたち」




日曜日は小松崎さんちへ。
妹はもちろん、きっと笑顔の大地くんが、わたしの家族を出迎えてくれることでしょう。



 
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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