タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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えらくローカルなネタになってしまいましたが、
入間川の七夕祭りは毎年実際にあるお祭りです。
現在も基地から飾りを出展しているかは、ちょっとわかりません(^_^;)
(調べてみよう^^;)
夏の終わりに基地主催で花火大会もあります。
結構地元になじんでる空自なのでした。
拍手、たくさんありがとうございますm(__)m
『空飛ぶ広報室』関係の告知はコチラでしていきますので、
よろしくお願いします。
小説は続き記事からです。
入間川の七夕祭りは毎年実際にあるお祭りです。
現在も基地から飾りを出展しているかは、ちょっとわかりません(^_^;)
(調べてみよう^^;)
夏の終わりに基地主催で花火大会もあります。
結構地元になじんでる空自なのでした。
拍手、たくさんありがとうございますm(__)m
『空飛ぶ広報室』関係の告知はコチラでしていきますので、
よろしくお願いします。
小説は続き記事からです。
◆◆◆
七月も半ば、防衛省空幕広報室に資料を借り受ける為に、
市ヶ谷に向かった。
驚いたことに二年十か月ぶりの空幕広報室には、片山さんがいた。
たまたま比嘉さんの元に来ていたらしい。
「お、何だよ。今渦中の男、空井くんじゃないか。
お前このあとヒマだよな?三人で飲みに行かないか?」
片山さんは相変わらずの強引さだ。
驚きもせず微笑って、比嘉さんが答えた。
「聞きたいこともあるしね。それに鷺坂元室長より、
預かってる案件もあるから、空井くんの都合が付けば」
…なんだか、市ヶ谷に使いに出された時点でこの流れが
決定していたんじゃないかと言う疑惑が、一瞬胸に兆したが、
それ以上詮索するのもおかしかったし、
自分としても比嘉さんや片山さんと
飲むのに否やがあるはずはなかった。
空幕広報室時代によく行った、和風の居酒屋の座敷に陣取ると、
片山さんは真っ正面から僕を見て、にやりと笑った。
「それで――どうなんだ?空井。
稲ぴょんと上手くいってるみたいじゃないか?」
「当たり前でしょう」
なるべく素っ気なく帰す。
「おおっ、偉そうだな。もうプロポーズはしたのか?」
「……まだです」
「なんだよ、お前ら行き着く先なんて決まってるだろうに。
なんだ?迷うような理由あんのか?」
置かれた生ビールのジョッキに片山さんは手を伸ばした。
「まあ、難しいよね。僕たちの仕事だって、いざ結婚となるともめるけど、
稲葉さんの仕事もかなり忙しいからなあ。真面目だもんね、彼女」
比嘉さんは穏やかな口調だが、心底心配していると言うような声で
言った。
「そうなんですよね」
自分は目の前の茶豆を摘まむ。
「今うっかりプロポーズすると、思い詰めた挙げ句断られそうで
…何故なんだろう。
好かれているとは思うんですが」
「女は細かいからな~」
片山さんが天井を見上げてつくづく言った。
「それに稲ぴょんだしな。何せツンデレって言うよりは、
歩くサボテンって感じだもんな」
「さ、サボテン?」
よく解らない比喩だったが、一生懸命になりすぎて生真面目に
肩を張ってる彼女を思い浮かべて、思わず吹き出した。
「…今度入間川の七夕に誘おうと思うんです」
「ああ、いいね。入間の広報室でも飾り、出展するでしょう」
「ええ、今製作中です」
段ボールで作るブルーの機体は自信作だった。
「…出来れば浴衣で来て貰いたい?」
比嘉さんはニコニコ笑っているが、こちらとしては
図星指されてどきりとする。
「エロいな、空井」
「な、なんでですかっ」
「お前、浴衣着せられるか?」
「え?まさか」
「温泉宿の浴衣ならばともかく、稲ぴょん浴衣や着物の着付け、
出来ると思うか?」
「……どうでしょうか」
付き合い始めて気付いたが、仕事以外のことでは
彼女はかなり不器用だった。
「…七夕の天女の羽衣の話じゃないが、一度脱がせたら、
稲ぴょん帰れなくなるぞ」
「…………」
思わずゴクリとビールを飲み込んでしまった。
「まずは稲葉さんにどうやって浴衣を薦めるか、だよね…」
比嘉さんが難しい顔で腕を組む。
普通付き合っている彼女に、着て欲しい服があったら、
あっさりお願いすれば良さそうなものだ。
ましてや夏祭りに浴衣だ。
さっき片山さんが示唆した男の本音はともかく、
おかしいところは何もない。
それなのに、自分は彼女の断る言葉しか思い浮かばなかった。
「稲葉さんと言えば『山椒は小粒でもかなりハバネロ』だからねえ」
ぶはっと片山さんが吹いた。
「何せ強烈な第一印象だからな。M気質の空井以外は、
付き合えるもんじゃないだろ。美人だけど」
「柚木さんだって槇さん以外は扱えませんよ」
「比較対象者が柚木って時点で何か違う次元の話になってる」
片山さんが焼鳥の串をぽいと置く。
比嘉さんがそれをすかさず串入れに入れた。
階級は片山さんが上であるものの、仕事でも年齢でも
先輩なのは比嘉さんだ。
だから二人のこう言った間合いは不思議だったが、
本人たちは気にしている様子はなかった。
「コンセプトは然り気無く」
「…然り気無く?」
「自然に」
「…自然に」
「気付いたら頷いてたって言うのがいいかな?」
「成程~」
片山さんがうんうんと頷いて、店員に向かって片手を上げる。
「中生一つね!」
「誰もが皆やってる、みたいのがいいね」
比嘉さんがにっこりと笑う。
このレクチャーを僕は心に止めた。
そして七夕祭当日。
混み合う狭山市駅の改札に彼女は浴衣姿で待っていた。
桔梗の柄のすっきりとした浴衣だ。
帯は変わった状態で結ばれており、浴衣なのにとても凝っていた。
「い…衣装部の人に着付け教わろうと思ったら、こんな凝って着付けてくれて
…今日着替え持って来なかったので、お祭り見たら一度自分の部屋に戻ります」
「…じゃあ、僕も一緒に行ってもいいですか?」
「…は、はい」
一緒に取れる連続した休日は滅多にない。
少しでも長く一緒に…そう思うのは自然だろう。
下駄に慣れない彼女に合わせて、雑踏の中をゆっくり会場の
商店街まで歩いて行った。
「スゴイですね!細かい所まで作り込まれてて
…そら、大祐さんじゃなきゃ出来ない作品だわ」
「あまりにも上手く出来たんで、松島のブルーのチームにメールしたら、
お祭りが終わったら宿舎に飾るって言ってた」
空自で出展した飾りは飛行機好きの人ばかりではなく、子供たちにも人気があり、
立ち止まって写真に撮る者も多かった。
彼女も手持ちのデジカメで写真に収める。
「放送で使わなくても、最近はHPに写真だけ使うこともあるので、
ビデオは無理でもカメラは持ち歩いているんです」
「相変わらず熱心だね」
「大祐さんは今どんなお仕事を?」
僕の名前を呼ぶ時、彼女は必ずほんのりと頬を赤らめる。
その初々しい表情にこちらもつい口許が弛む。
「四月からずっと資料整理だよ。資料から新しい広報のアプローチが見えて
来ることもあるから、面白いよ」
だんだんに道が混み合って来た。
ピークの時間帯はまともに歩けない程だと言う。
それまでにひと回りして、何処かに落ち着きたい。
ふと彼女が足を止めた。
「まだ紙製のポイの金魚すくいがあるんですね」
古い暖簾の下がった金魚すくいの屋台を、彼女は覗きこんだ。
「大抵最中じゃないですか。あれ、すぐ水に溶けちゃって
掬えないんですよね」
「…挑戦しようかな。子供の頃は十匹掬ったことがある。
沢山掬って君の部屋で飼おう」
「ウチで、ですか?」
彼女はきょとんとした瞳でこちらを見た。
「うん、留守番に相棒が出来る」
「…………」
店番の人からポイを受け取ると、赤い金魚たちが泳ぐ水槽を覗いた。
「十匹…は幻でしたね」
「………」
結局金魚を掬ったのは彼女で一匹だけだった。
「あそこの金魚イキが良すぎる」
「おじさんがオマケしてくれなかったら、一匹だけで可愛そうになる所でした」
彼女が手に提げたビニール袋には、小さな赤い金魚と黒い金魚が
一匹ずつ入っている。
それでも彼女は嬉しそうだ。
「折角だから綺麗な金魚鉢を買わなくちゃ。新居で仲良くね」
新居。
何だか金魚が少しうらやましくなった。
今何よりも切望するのが、彼女と二人の時間だったからだ。
「行こうか」
そっと指先に触れると彼女が指を絡めてくる。
伺うと、すんなりと見える項が微かに染まり、
反して彼女はやけに真面目くさった表情で俯いていた。
人の流れに添って歩いていくと、急に大粒の雨が落ちてくる。
「リカ、こっち!」
慌てて近くの市立図書館の玄関先の軒下に飛び込んだ。
俗に言うゲリラ豪雨と言うヤツで雨はなかなか止まず、しかも激しかった。
軒下にいてもびしょ塗れだ。彼女もまとわりつく浴衣地を気にしていた。
「少し小止みになったら、官舎…僕の部屋に来ないかな?」
「え…でも」
「お互いに明日も休みで仕事に差し支えないし、
ずぶ濡れで帰る訳にいかないだろうから」
「………わかりました」
降り注ぐ大粒の雨を見ながら、彼女は殊更素っ気ない返事をした。
「…こっち見ちゃダメですよっ」
「……じゃあ、どこを見たら?」
「でもっ」
独身者向けの官舎の部屋は狭い。
同じ1LDKでも、まだ彼女のマンションの方が広いかもしれない。
だから『見ないで』と言われても、他に視線を向けようがないのだ。
それに。
貸した白いTシャツを来て、その裾から白い細い足が出ていたら
……やっぱり視線は釘付けになってしまうだろう。
「…どうしよう」
あんなに激しかった雨が止んで、少し肌寒かったので、
コーヒーを淹れることにした。
「今日は泊まって行けば」
「…明日着るものが。わたし自分であんな風に着られないし」
何だか片山さんが話していた通りになって来た。
別に企んだ訳ではないから、何も後ろめたい所はないものの、
これで彼女を帰さずに済むと内心嬉しくなってしまう。
それに……今している格好はいかにも彼女が『自分のもの』
と言う感じがした。
「君の好みには合わないかもしれないけど、
明日午前中に僕が買いに行って来るよ」
「…で、でも」
「……サイズのことなら…その何となく解るし」
「なっ…」
振り返ると彼女は比喩ではなく真っ赤になった。ばっちり視線が合う。
「み、み、見ちゃダメっ」
「……それじゃあキスも出来ない」
何だかまだなつかない子猫が、毛を逆立てているような印象の彼女に
そっとコーヒーを手渡した。
「ベッドでいいから座って」
「………ハイ」
小さな声で彼女がやっと頷いた。
「明日金魚鉢も買わないと」
金魚たちは、先日買った桃の入っていたパックの中で、元気に泳いでいる。
コーヒーカップを持って、彼女と並んで座った。
「明日どうしますか?服は買ってきて貰うことにしても」
「……そうだなあ」
自分としては、そこの金魚たちのように、一日中ベッドで二人で泳いでたって
構わないと思ったが、それを口に出したらひっぱたかれるような気もした。
「少し普通のデート、をしてみないかな」
「普通のデート?」
「公園を歩いて、食事して…いつも慌ただしいからゆっくりと」
彼女がこちらをじっと見上げた。
「ごめんなさい」
「えっ!」
「いつも…ゆっくり出来なくて」
「…………」
それは彼女のせいではない。
けれど自分が彼女をただ『求める』気持ちが、
彼女にプレッシャーを与えているんだろうか。
確かに二人でいられる時間は短い。
それでも一緒にいられれば、充分以上に満ち足りていられた。
ただ――満ち足りているが故に、更に求めてしまう、そんな感じだろうか?
「それなら尚更、二人だけの時はこうして…」
ようやく奇妙な警戒感が解けた彼女を引き寄せ、今日最初のキスをした。
七月も半ば、防衛省空幕広報室に資料を借り受ける為に、
市ヶ谷に向かった。
驚いたことに二年十か月ぶりの空幕広報室には、片山さんがいた。
たまたま比嘉さんの元に来ていたらしい。
「お、何だよ。今渦中の男、空井くんじゃないか。
お前このあとヒマだよな?三人で飲みに行かないか?」
片山さんは相変わらずの強引さだ。
驚きもせず微笑って、比嘉さんが答えた。
「聞きたいこともあるしね。それに鷺坂元室長より、
預かってる案件もあるから、空井くんの都合が付けば」
…なんだか、市ヶ谷に使いに出された時点でこの流れが
決定していたんじゃないかと言う疑惑が、一瞬胸に兆したが、
それ以上詮索するのもおかしかったし、
自分としても比嘉さんや片山さんと
飲むのに否やがあるはずはなかった。
空幕広報室時代によく行った、和風の居酒屋の座敷に陣取ると、
片山さんは真っ正面から僕を見て、にやりと笑った。
「それで――どうなんだ?空井。
稲ぴょんと上手くいってるみたいじゃないか?」
「当たり前でしょう」
なるべく素っ気なく帰す。
「おおっ、偉そうだな。もうプロポーズはしたのか?」
「……まだです」
「なんだよ、お前ら行き着く先なんて決まってるだろうに。
なんだ?迷うような理由あんのか?」
置かれた生ビールのジョッキに片山さんは手を伸ばした。
「まあ、難しいよね。僕たちの仕事だって、いざ結婚となるともめるけど、
稲葉さんの仕事もかなり忙しいからなあ。真面目だもんね、彼女」
比嘉さんは穏やかな口調だが、心底心配していると言うような声で
言った。
「そうなんですよね」
自分は目の前の茶豆を摘まむ。
「今うっかりプロポーズすると、思い詰めた挙げ句断られそうで
…何故なんだろう。
好かれているとは思うんですが」
「女は細かいからな~」
片山さんが天井を見上げてつくづく言った。
「それに稲ぴょんだしな。何せツンデレって言うよりは、
歩くサボテンって感じだもんな」
「さ、サボテン?」
よく解らない比喩だったが、一生懸命になりすぎて生真面目に
肩を張ってる彼女を思い浮かべて、思わず吹き出した。
「…今度入間川の七夕に誘おうと思うんです」
「ああ、いいね。入間の広報室でも飾り、出展するでしょう」
「ええ、今製作中です」
段ボールで作るブルーの機体は自信作だった。
「…出来れば浴衣で来て貰いたい?」
比嘉さんはニコニコ笑っているが、こちらとしては
図星指されてどきりとする。
「エロいな、空井」
「な、なんでですかっ」
「お前、浴衣着せられるか?」
「え?まさか」
「温泉宿の浴衣ならばともかく、稲ぴょん浴衣や着物の着付け、
出来ると思うか?」
「……どうでしょうか」
付き合い始めて気付いたが、仕事以外のことでは
彼女はかなり不器用だった。
「…七夕の天女の羽衣の話じゃないが、一度脱がせたら、
稲ぴょん帰れなくなるぞ」
「…………」
思わずゴクリとビールを飲み込んでしまった。
「まずは稲葉さんにどうやって浴衣を薦めるか、だよね…」
比嘉さんが難しい顔で腕を組む。
普通付き合っている彼女に、着て欲しい服があったら、
あっさりお願いすれば良さそうなものだ。
ましてや夏祭りに浴衣だ。
さっき片山さんが示唆した男の本音はともかく、
おかしいところは何もない。
それなのに、自分は彼女の断る言葉しか思い浮かばなかった。
「稲葉さんと言えば『山椒は小粒でもかなりハバネロ』だからねえ」
ぶはっと片山さんが吹いた。
「何せ強烈な第一印象だからな。M気質の空井以外は、
付き合えるもんじゃないだろ。美人だけど」
「柚木さんだって槇さん以外は扱えませんよ」
「比較対象者が柚木って時点で何か違う次元の話になってる」
片山さんが焼鳥の串をぽいと置く。
比嘉さんがそれをすかさず串入れに入れた。
階級は片山さんが上であるものの、仕事でも年齢でも
先輩なのは比嘉さんだ。
だから二人のこう言った間合いは不思議だったが、
本人たちは気にしている様子はなかった。
「コンセプトは然り気無く」
「…然り気無く?」
「自然に」
「…自然に」
「気付いたら頷いてたって言うのがいいかな?」
「成程~」
片山さんがうんうんと頷いて、店員に向かって片手を上げる。
「中生一つね!」
「誰もが皆やってる、みたいのがいいね」
比嘉さんがにっこりと笑う。
このレクチャーを僕は心に止めた。
そして七夕祭当日。
混み合う狭山市駅の改札に彼女は浴衣姿で待っていた。
桔梗の柄のすっきりとした浴衣だ。
帯は変わった状態で結ばれており、浴衣なのにとても凝っていた。
「い…衣装部の人に着付け教わろうと思ったら、こんな凝って着付けてくれて
…今日着替え持って来なかったので、お祭り見たら一度自分の部屋に戻ります」
「…じゃあ、僕も一緒に行ってもいいですか?」
「…は、はい」
一緒に取れる連続した休日は滅多にない。
少しでも長く一緒に…そう思うのは自然だろう。
下駄に慣れない彼女に合わせて、雑踏の中をゆっくり会場の
商店街まで歩いて行った。
「スゴイですね!細かい所まで作り込まれてて
…そら、大祐さんじゃなきゃ出来ない作品だわ」
「あまりにも上手く出来たんで、松島のブルーのチームにメールしたら、
お祭りが終わったら宿舎に飾るって言ってた」
空自で出展した飾りは飛行機好きの人ばかりではなく、子供たちにも人気があり、
立ち止まって写真に撮る者も多かった。
彼女も手持ちのデジカメで写真に収める。
「放送で使わなくても、最近はHPに写真だけ使うこともあるので、
ビデオは無理でもカメラは持ち歩いているんです」
「相変わらず熱心だね」
「大祐さんは今どんなお仕事を?」
僕の名前を呼ぶ時、彼女は必ずほんのりと頬を赤らめる。
その初々しい表情にこちらもつい口許が弛む。
「四月からずっと資料整理だよ。資料から新しい広報のアプローチが見えて
来ることもあるから、面白いよ」
だんだんに道が混み合って来た。
ピークの時間帯はまともに歩けない程だと言う。
それまでにひと回りして、何処かに落ち着きたい。
ふと彼女が足を止めた。
「まだ紙製のポイの金魚すくいがあるんですね」
古い暖簾の下がった金魚すくいの屋台を、彼女は覗きこんだ。
「大抵最中じゃないですか。あれ、すぐ水に溶けちゃって
掬えないんですよね」
「…挑戦しようかな。子供の頃は十匹掬ったことがある。
沢山掬って君の部屋で飼おう」
「ウチで、ですか?」
彼女はきょとんとした瞳でこちらを見た。
「うん、留守番に相棒が出来る」
「…………」
店番の人からポイを受け取ると、赤い金魚たちが泳ぐ水槽を覗いた。
「十匹…は幻でしたね」
「………」
結局金魚を掬ったのは彼女で一匹だけだった。
「あそこの金魚イキが良すぎる」
「おじさんがオマケしてくれなかったら、一匹だけで可愛そうになる所でした」
彼女が手に提げたビニール袋には、小さな赤い金魚と黒い金魚が
一匹ずつ入っている。
それでも彼女は嬉しそうだ。
「折角だから綺麗な金魚鉢を買わなくちゃ。新居で仲良くね」
新居。
何だか金魚が少しうらやましくなった。
今何よりも切望するのが、彼女と二人の時間だったからだ。
「行こうか」
そっと指先に触れると彼女が指を絡めてくる。
伺うと、すんなりと見える項が微かに染まり、
反して彼女はやけに真面目くさった表情で俯いていた。
人の流れに添って歩いていくと、急に大粒の雨が落ちてくる。
「リカ、こっち!」
慌てて近くの市立図書館の玄関先の軒下に飛び込んだ。
俗に言うゲリラ豪雨と言うヤツで雨はなかなか止まず、しかも激しかった。
軒下にいてもびしょ塗れだ。彼女もまとわりつく浴衣地を気にしていた。
「少し小止みになったら、官舎…僕の部屋に来ないかな?」
「え…でも」
「お互いに明日も休みで仕事に差し支えないし、
ずぶ濡れで帰る訳にいかないだろうから」
「………わかりました」
降り注ぐ大粒の雨を見ながら、彼女は殊更素っ気ない返事をした。
「…こっち見ちゃダメですよっ」
「……じゃあ、どこを見たら?」
「でもっ」
独身者向けの官舎の部屋は狭い。
同じ1LDKでも、まだ彼女のマンションの方が広いかもしれない。
だから『見ないで』と言われても、他に視線を向けようがないのだ。
それに。
貸した白いTシャツを来て、その裾から白い細い足が出ていたら
……やっぱり視線は釘付けになってしまうだろう。
「…どうしよう」
あんなに激しかった雨が止んで、少し肌寒かったので、
コーヒーを淹れることにした。
「今日は泊まって行けば」
「…明日着るものが。わたし自分であんな風に着られないし」
何だか片山さんが話していた通りになって来た。
別に企んだ訳ではないから、何も後ろめたい所はないものの、
これで彼女を帰さずに済むと内心嬉しくなってしまう。
それに……今している格好はいかにも彼女が『自分のもの』
と言う感じがした。
「君の好みには合わないかもしれないけど、
明日午前中に僕が買いに行って来るよ」
「…で、でも」
「……サイズのことなら…その何となく解るし」
「なっ…」
振り返ると彼女は比喩ではなく真っ赤になった。ばっちり視線が合う。
「み、み、見ちゃダメっ」
「……それじゃあキスも出来ない」
何だかまだなつかない子猫が、毛を逆立てているような印象の彼女に
そっとコーヒーを手渡した。
「ベッドでいいから座って」
「………ハイ」
小さな声で彼女がやっと頷いた。
「明日金魚鉢も買わないと」
金魚たちは、先日買った桃の入っていたパックの中で、元気に泳いでいる。
コーヒーカップを持って、彼女と並んで座った。
「明日どうしますか?服は買ってきて貰うことにしても」
「……そうだなあ」
自分としては、そこの金魚たちのように、一日中ベッドで二人で泳いでたって
構わないと思ったが、それを口に出したらひっぱたかれるような気もした。
「少し普通のデート、をしてみないかな」
「普通のデート?」
「公園を歩いて、食事して…いつも慌ただしいからゆっくりと」
彼女がこちらをじっと見上げた。
「ごめんなさい」
「えっ!」
「いつも…ゆっくり出来なくて」
「…………」
それは彼女のせいではない。
けれど自分が彼女をただ『求める』気持ちが、
彼女にプレッシャーを与えているんだろうか。
確かに二人でいられる時間は短い。
それでも一緒にいられれば、充分以上に満ち足りていられた。
ただ――満ち足りているが故に、更に求めてしまう、そんな感じだろうか?
「それなら尚更、二人だけの時はこうして…」
ようやく奇妙な警戒感が解けた彼女を引き寄せ、今日最初のキスをした。
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HN:
森伊蔵
HP:
性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
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