タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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さてリカちゃんバージョンです。
いやもう、この人のツンデレぶり、半端ないね~って感じでw
最初ドラマ見たとき『なんじゃ、この可愛くないヒロインは!!』って
原作の思惑通りに引っかかったわたしでございます。
いつかデレデレなリカちゃんも書いてみたいものです。
落書きしてみたけど、まだ髪型とか確定してないから描きにくいぜ!
本の原稿始まるまでには慣れたいです(^_^;)
小説は続き記事からです。
◆◆◆
駅のホームにまで、薄紅色の花弁がひらひらと舞い落ちていた。
期待してはいけない。
そうは思いながらも、何かを予感せずにはいられない、
そんな気持ちのまま、わたしは彼との待ち合わせ場所に向かった。
2013年の二月、上司の阿久津さんから
『どうしても!一生に一度しか言わない』
と頭を下げられ、仕方なく阿久津さんの四人いるお姉さんの
息子さんの一人と、
お見合いをすることになった。
当日お見合い相手と二人きりになった時に、わたしはその場で断った。
相手は関西で病院の経営を手伝っているとのこと、
今の仕事を辞める気がまるでないわたしに、他に選択肢があろう筈がない。
翌日報告を受けて、阿久津さんはいかにも苦笑いと言った表情だった。
「まあ、解っちゃいたけどなあ。――稲葉、お前、そっちは
どうにかする気はないのか?」
「そっち?」
「あー、松島だよ。彼はどうしてるんだ?」
「……空井さんですか?彼なら…」
「気持ちは解るが、そろそろお前も区切りを付けてもいい頃だろう」
「………」
「まあ、すまなかった。オヤジの戯言だと思って、聞き流してくれ」
そう言うと、阿久津さんは次の企画に話題を戻した。
稲荷山公園駅の改札で、彼――空井大祐はまさに真っ直ぐに、
すらりと佇んでいた。
遠目にもすぐに解る。
正直な話、間近で見る彼はそこまでイケメンと言う訳ではない。
彼の、優しいと言うか、若干押しの弱い性格に由来しているとは思うが、
茫洋として惚れ惚れする程の顔立ちではないのだ。
でも立ち姿は違う。
これは自衛官独特なのかもしれないが、一本筋の入ったような、
ピンと張り詰めた空気が、彼の周囲に廻らされ……早い話、
わたしは彼から目が離せなくなるのだ。
彼がわたしに気付いた。
声をかけたが、何故か彼は呆然とこちらを見ている。
だから、正直に今思ったことを伝えた。
「やっぱり姿勢が…綺麗なんですよね、空井さん。
立ってる姿もとても……その、他の人と違っていたから、
あれだけ改札が混み合っていても、すぐに解りました」
言っているうちに恥ずかしくなってきた。
何をやっているんだか、わたしもあの松島で会って以来、
二年ぶりの再会に浮かれているのかもしれない。
家に帰ったら、ふとした拍子に髪から桜の花弁が一枚落ちてきた。
都内ではすでに散り落ちて、葉桜でしかないが、今日行った公園は、
彼が送って来たメールの言葉通り、満開のピークをほんの少し越えた、
まさに桜吹雪と言った風情だったのだ。
そして。
その桜吹雪も目に入らないような出来事があった。
突然思い余ったように、彼がキスしてきた。
もしかしたら、叩いても良かった場面だったかもしれない。
でも心のどこかに予感があった。
ただの期待かもしれないけれど。
今まで越えがたかった一つの壁を、わたしたちが越えたことが解る。
別れ際彼は言った。
「松島のことは、入間に異動になった今でもとても気になります。
まだまだ復興出来たとは言い難いのが、被災地の現状だし、
僕自身割り切ってこちらに来た訳ではないけど……でも稲葉さんの顔を
見たら…こんな気持ちは稲葉さんにしか話せないし、話したくない。
また近いうちに会えますね?仕事もあるだろうし、稲葉さんから
メールしてくれたら、僕、何処でも行きますから」
わたしは頷くのが精一杯だったけれど、笑顔で答えた。
それから。
今までの、空を見ては遠く彼を想う日々は一変した。
いや、空を見上げれば、確かに彼のことは考えている。
だが違う。
彼の間近に聞く声や、頬に触れた手指や……優しく交わされる口唇の
ことが、わたしの頭を占めていた。
お陰で仕事までそっちのけになりかねない位だったが、
それは何とか自分の中の何かを押さえつけて、毎日を過ごしている。
そんな折、元の広報室長鷺坂さんからメールが来た。
今は千歳からも異動し浜松にいるらしい。
『はあい、稲ぴょん。元気してる?空井が入間に異動になったでしょ?
稲ぴょんからでも連絡してあげて』と相変わらずなノリの軽さだった。
わたしは少し考えた上で、それでも正直に今のわたしと彼の間柄を
然り気無く書いて、メールを返信した。
鷺坂さんとはそれ以後、何くれとなくメールを送り合う関係になった。
今まで一年に一度すら会えなかったことを考えて見れば、
贅沢な話だとは思う。
でも今は彼ではなく、わたしの仕事の都合で月に一度のデートが
精一杯だ。
お陰でおかしなすれ違いまで生じ、危うく彼とはこのままな関係になるのではと
不安になった頃、彼が言った。
「僕がリカの部屋で毎週土曜日、待っていたら、週に一度は会えないかな?」
彼は褒めて貰いたい子供のような表情(かお)になった。
「それにリカの部屋で待ってれば、ほんの少しでも毎週会える。
結婚してからの生活も、こんな感じになるんじゃないかな?だったら…」
け、結婚?
わたしたち今、ようやっと付き合い始めたばかりなんですけど。
唐突なキスと言い、彼のマニュアル逆転ぶりは相変わらずだ。
自分の言葉がどんな波紋を呼ぶか、全く考えていない。
わたしは大きく息を吐いた。とても冷静になんか答えられない。
「………もう、そ、だ、大祐さんて本当に順番逆」
「え?」
「解りました。合鍵作って送ります。
来週までには実行出来るように、準備しますから」
彼はあれ?と思ったようだが、すぐに嬉しそうに頷いた。
それなのに。
初めて彼がわたしの部屋で帰りを待つ日に限って、
ろくでもない人物との会食が入った。
今度担当することになった、深夜の女性向け情報番組で、
出演するファッションモデルを斡旋して貰うエージェントの
プロデューサーとあっては、断る訳にはいかなかった。
なんとかその日のうちに帰宅すると、心配そうに彼が駆け寄って来た。
辛うじて意識はある。
やたらウォッカベースのカクテルばかり勧める、
業界の噂通りの相手だった。
どう言う訳か、彼から一定量以上のアルコールを
禁じられてしまったので、今日はとても頑張って、
飲まないように努めたのだ。
すると彼は仕方ないなと言う表情で、突然わたしを抱き上げた。
しかも軽々と。
ふと彼がP免になったことで、やっと涙を流せるようになり、
彼の頭をなでた時のことが思い出された。
あの時は『なでてて』なんて、まるで子供のようだったのに。
でも考えてみたら、彼の方が年齢も三歳ほど年上だったし、
それにその辺の男たちとは違って、鍛えられた身体だった。
わたしは今までそのことを、わざと頭の隅に追いやっていたのだ。
そうでなければ、きっと恥ずかしくて彼の顔をまともに見ることすら、
出来なくなってしまう…!
そしてそのせいなのか、彼に抱き締められてしまうと、
わたしの意識はまるで制御が利かなかった。
自分はこんな女だったのかとショックを受けた程。
彼の見つめる眼差しも、名前を呼ぶ声も、全てに夢中になって
翻弄されてばかりだ。
だから益々失った時のことを考えると怖くなる。
「…結婚出来るのかな?」
思わず呟いてしまった。
まるで弱音を吐いてるみたいで、嫌になる。
それでも彼は挫けずに、来週も来ると約束してくれた。
『稲ぴょんらしくないなあ。それとも空井の行動が意外で、
びっくりしてるのかな?アイツはあれが元々の性格だと思うよ。
パイロットの時はブルーひとすじ。
今は稲ぴょんにメロメロなんだから、頼ってやればいいんだよ。
確か得意料理はオムライスで、綺麗に作る自信があるって
歓迎会の時に言ってたかなあ』
多分読んだら、あまりの深刻な自分でも笑ってしまうだろう内容のメールに、
鷺坂さんから返信が来た。
頼る…。
わたしは彼と付き合い始めてから、殊更それを自分に禁じて来た気がする。
彼はいつも自然体で、わたしが突っ張った所でいいことはない。
それでも彼の重荷にはなりたくない気持ちで、まだまだ割り切れずにいる。
「おかえり」
キッチンから玄関を覗いた彼を見て、びっくりした。
エプロンをした空井大祐が、優しい瞳(め)で立っている。
「…どうしたの?」
「う、ううん。帰って来た時誰かいるって言うのに慣れなくて」
何だか頬が熱くなって、思わず俯く。
「見て!今日は今までで一番綺麗に出来た」
テーブルの上には黄色に真っ赤なケチャップで、
大きなハートが描かれたオムライスとポテトサラダが乗っていた。
「卵、地元の農家が経営してる直売所で買ってから来たんだ。
こんなに綺麗に出来ると思わなかった」
「……………」
「……………」
「………」
「………リカ?」
彼がわたしの顔を覗きこむ。
「ごめんなさい、何だか申し訳なくて。すごいね、サラダまである」
「早く食べよう。お腹すいた」
わたしは寝室で着替えをすませた。
「君の食べっぷりに満足した」
わたしの横でDVDを見ている彼が嬉しそうに言った。
「今日お昼抜きになっちゃって。でも、そ、大祐さんが家にいると思ったから、
走って帰って来た」
今だ彼を名前で呼ぶのに慣れない。
いつだかベッドの上で、うっかり苗字で呼んだら、かなり渋い表情をされたので、
気をつけるようにしていたのだ。
「…僕のターンにしてもいいかな?」
「え…」
間近に彼の瞳がわたしの瞳を覗きこむ。
優しく口唇が触れる。
髪を撫でる手がそっと肩に触れ、背筋を辿るとわたしの身体も思わず
反応してしまう。
身も心も。
そんな言葉が思い浮かぶ。
そんなことは、全くの比喩だと思っていた。
自分が変わってしまう。
そして、それは決して不愉快ではなく――彼の喜ぶ表情が見れるなら、
その変化も受け入れたかった。
「や…」
「本当に嫌ならやめるよ」
「………」
新しい玩具を手にした子供のように飽きることなく、
彼の指や口唇がわたしの身体に触れている。
閉じていた瞼を開いて彼を見ると、彼はじっとわたしを見つめていた。
ただでさえ、恥ずかしいのに。
身の置き所に困って身体を少し捩ると、彼はそれを許さないと言うように、
手首を押さえて、もう片方の手でわたしの腰を引き寄せた。
熱が伝わる。
「今までこんなに欲しいと思ったことはなかった…不思議だね。
君に触れるまでは、声を聞くだけでも嬉しいだろうと思っていたのに」
「……わたしもです」
「一晩中でも欲しいって言ったら、怒るのかな?」
「……!」
首筋に彼の口唇や舌が、そっと触れた。
さっきまで背筋を撫でていた手は、腰から下へ下りて、丁寧な手付きで触れていく。
そして一番敏感な部分へと。
「……ん…」
「リカも…待ってた?」
たわいもないような質問なのに…!
今のわたしは既に自分の意識の及ばない所にあった。
「空井さん、ヒドイ」
「……なんで?」
「嫌って言うことばかりした」
「君のイヤを真に受けたら、何も出来ない気がする」
「……」
答える言葉が見つからなくて、布団に潜り込む。
「……える所に付けないでって言ったのに」
「……よく聞こえないけど、もしかしてコレのこと?」
彼はわたしの鎖骨と胸の間に付けられた跡を指差す。
「夏なのに、ネックのある服着なくちゃ」
「…少し悔しくて。昼間、僕の知らない君を知ってる他の男が
いるのかと思うと」
「………」
知らなかった。
彼でもそんな風に感じるのだ。
「本当はこの部屋に閉じ込めて、何処にも出したくないと思う時がある」
「………」
「でもそれだと、きっと君が君らしくなくなる。だから…」
彼はそっとわたしが潜り込んだ布団を捲る。
「此処だけで我慢する」
わたしは彼に腕を伸ばした。
「わたしも我慢してます。こんな風に甘やかされたら、
つい毎日って思っちゃう。だから…」
両手で彼の頬を挟む。
「これから僕も忙しくなるけど、八月最初の土日は空けておいて
貰えないかな?」
「前に話してたお祭りですか?」
「浴衣で来る人が多いみたいだよ」
こんな生活では浴衣なんて持ってない。
……局の衣装部に話したら何とかなるだろうか?
「わ、わかりました。善処しますっ」
必死に答えるわたしに、彼はにっこりと笑った。
翌日、八月最初の土日に休日を取るべく、掛け合ってみた所、
阿久津さんはあっさりオッケーを出した。
「たまにはきちんと休んで来い。休養取るのが下手な人間は
いい仕事も出来ないからな」
ぱたぱたと手を振って、わたしを追い払う。
ホッと息をついて、窓の外を見上げたら、
丁度彼がオムライスに描いたような、
少し崩れた形のハート型の雲が、ぽっかり浮かんでいた。
駅のホームにまで、薄紅色の花弁がひらひらと舞い落ちていた。
期待してはいけない。
そうは思いながらも、何かを予感せずにはいられない、
そんな気持ちのまま、わたしは彼との待ち合わせ場所に向かった。
2013年の二月、上司の阿久津さんから
『どうしても!一生に一度しか言わない』
と頭を下げられ、仕方なく阿久津さんの四人いるお姉さんの
息子さんの一人と、
お見合いをすることになった。
当日お見合い相手と二人きりになった時に、わたしはその場で断った。
相手は関西で病院の経営を手伝っているとのこと、
今の仕事を辞める気がまるでないわたしに、他に選択肢があろう筈がない。
翌日報告を受けて、阿久津さんはいかにも苦笑いと言った表情だった。
「まあ、解っちゃいたけどなあ。――稲葉、お前、そっちは
どうにかする気はないのか?」
「そっち?」
「あー、松島だよ。彼はどうしてるんだ?」
「……空井さんですか?彼なら…」
「気持ちは解るが、そろそろお前も区切りを付けてもいい頃だろう」
「………」
「まあ、すまなかった。オヤジの戯言だと思って、聞き流してくれ」
そう言うと、阿久津さんは次の企画に話題を戻した。
稲荷山公園駅の改札で、彼――空井大祐はまさに真っ直ぐに、
すらりと佇んでいた。
遠目にもすぐに解る。
正直な話、間近で見る彼はそこまでイケメンと言う訳ではない。
彼の、優しいと言うか、若干押しの弱い性格に由来しているとは思うが、
茫洋として惚れ惚れする程の顔立ちではないのだ。
でも立ち姿は違う。
これは自衛官独特なのかもしれないが、一本筋の入ったような、
ピンと張り詰めた空気が、彼の周囲に廻らされ……早い話、
わたしは彼から目が離せなくなるのだ。
彼がわたしに気付いた。
声をかけたが、何故か彼は呆然とこちらを見ている。
だから、正直に今思ったことを伝えた。
「やっぱり姿勢が…綺麗なんですよね、空井さん。
立ってる姿もとても……その、他の人と違っていたから、
あれだけ改札が混み合っていても、すぐに解りました」
言っているうちに恥ずかしくなってきた。
何をやっているんだか、わたしもあの松島で会って以来、
二年ぶりの再会に浮かれているのかもしれない。
家に帰ったら、ふとした拍子に髪から桜の花弁が一枚落ちてきた。
都内ではすでに散り落ちて、葉桜でしかないが、今日行った公園は、
彼が送って来たメールの言葉通り、満開のピークをほんの少し越えた、
まさに桜吹雪と言った風情だったのだ。
そして。
その桜吹雪も目に入らないような出来事があった。
突然思い余ったように、彼がキスしてきた。
もしかしたら、叩いても良かった場面だったかもしれない。
でも心のどこかに予感があった。
ただの期待かもしれないけれど。
今まで越えがたかった一つの壁を、わたしたちが越えたことが解る。
別れ際彼は言った。
「松島のことは、入間に異動になった今でもとても気になります。
まだまだ復興出来たとは言い難いのが、被災地の現状だし、
僕自身割り切ってこちらに来た訳ではないけど……でも稲葉さんの顔を
見たら…こんな気持ちは稲葉さんにしか話せないし、話したくない。
また近いうちに会えますね?仕事もあるだろうし、稲葉さんから
メールしてくれたら、僕、何処でも行きますから」
わたしは頷くのが精一杯だったけれど、笑顔で答えた。
それから。
今までの、空を見ては遠く彼を想う日々は一変した。
いや、空を見上げれば、確かに彼のことは考えている。
だが違う。
彼の間近に聞く声や、頬に触れた手指や……優しく交わされる口唇の
ことが、わたしの頭を占めていた。
お陰で仕事までそっちのけになりかねない位だったが、
それは何とか自分の中の何かを押さえつけて、毎日を過ごしている。
そんな折、元の広報室長鷺坂さんからメールが来た。
今は千歳からも異動し浜松にいるらしい。
『はあい、稲ぴょん。元気してる?空井が入間に異動になったでしょ?
稲ぴょんからでも連絡してあげて』と相変わらずなノリの軽さだった。
わたしは少し考えた上で、それでも正直に今のわたしと彼の間柄を
然り気無く書いて、メールを返信した。
鷺坂さんとはそれ以後、何くれとなくメールを送り合う関係になった。
今まで一年に一度すら会えなかったことを考えて見れば、
贅沢な話だとは思う。
でも今は彼ではなく、わたしの仕事の都合で月に一度のデートが
精一杯だ。
お陰でおかしなすれ違いまで生じ、危うく彼とはこのままな関係になるのではと
不安になった頃、彼が言った。
「僕がリカの部屋で毎週土曜日、待っていたら、週に一度は会えないかな?」
彼は褒めて貰いたい子供のような表情(かお)になった。
「それにリカの部屋で待ってれば、ほんの少しでも毎週会える。
結婚してからの生活も、こんな感じになるんじゃないかな?だったら…」
け、結婚?
わたしたち今、ようやっと付き合い始めたばかりなんですけど。
唐突なキスと言い、彼のマニュアル逆転ぶりは相変わらずだ。
自分の言葉がどんな波紋を呼ぶか、全く考えていない。
わたしは大きく息を吐いた。とても冷静になんか答えられない。
「………もう、そ、だ、大祐さんて本当に順番逆」
「え?」
「解りました。合鍵作って送ります。
来週までには実行出来るように、準備しますから」
彼はあれ?と思ったようだが、すぐに嬉しそうに頷いた。
それなのに。
初めて彼がわたしの部屋で帰りを待つ日に限って、
ろくでもない人物との会食が入った。
今度担当することになった、深夜の女性向け情報番組で、
出演するファッションモデルを斡旋して貰うエージェントの
プロデューサーとあっては、断る訳にはいかなかった。
なんとかその日のうちに帰宅すると、心配そうに彼が駆け寄って来た。
辛うじて意識はある。
やたらウォッカベースのカクテルばかり勧める、
業界の噂通りの相手だった。
どう言う訳か、彼から一定量以上のアルコールを
禁じられてしまったので、今日はとても頑張って、
飲まないように努めたのだ。
すると彼は仕方ないなと言う表情で、突然わたしを抱き上げた。
しかも軽々と。
ふと彼がP免になったことで、やっと涙を流せるようになり、
彼の頭をなでた時のことが思い出された。
あの時は『なでてて』なんて、まるで子供のようだったのに。
でも考えてみたら、彼の方が年齢も三歳ほど年上だったし、
それにその辺の男たちとは違って、鍛えられた身体だった。
わたしは今までそのことを、わざと頭の隅に追いやっていたのだ。
そうでなければ、きっと恥ずかしくて彼の顔をまともに見ることすら、
出来なくなってしまう…!
そしてそのせいなのか、彼に抱き締められてしまうと、
わたしの意識はまるで制御が利かなかった。
自分はこんな女だったのかとショックを受けた程。
彼の見つめる眼差しも、名前を呼ぶ声も、全てに夢中になって
翻弄されてばかりだ。
だから益々失った時のことを考えると怖くなる。
「…結婚出来るのかな?」
思わず呟いてしまった。
まるで弱音を吐いてるみたいで、嫌になる。
それでも彼は挫けずに、来週も来ると約束してくれた。
『稲ぴょんらしくないなあ。それとも空井の行動が意外で、
びっくりしてるのかな?アイツはあれが元々の性格だと思うよ。
パイロットの時はブルーひとすじ。
今は稲ぴょんにメロメロなんだから、頼ってやればいいんだよ。
確か得意料理はオムライスで、綺麗に作る自信があるって
歓迎会の時に言ってたかなあ』
多分読んだら、あまりの深刻な自分でも笑ってしまうだろう内容のメールに、
鷺坂さんから返信が来た。
頼る…。
わたしは彼と付き合い始めてから、殊更それを自分に禁じて来た気がする。
彼はいつも自然体で、わたしが突っ張った所でいいことはない。
それでも彼の重荷にはなりたくない気持ちで、まだまだ割り切れずにいる。
「おかえり」
キッチンから玄関を覗いた彼を見て、びっくりした。
エプロンをした空井大祐が、優しい瞳(め)で立っている。
「…どうしたの?」
「う、ううん。帰って来た時誰かいるって言うのに慣れなくて」
何だか頬が熱くなって、思わず俯く。
「見て!今日は今までで一番綺麗に出来た」
テーブルの上には黄色に真っ赤なケチャップで、
大きなハートが描かれたオムライスとポテトサラダが乗っていた。
「卵、地元の農家が経営してる直売所で買ってから来たんだ。
こんなに綺麗に出来ると思わなかった」
「……………」
「……………」
「………」
「………リカ?」
彼がわたしの顔を覗きこむ。
「ごめんなさい、何だか申し訳なくて。すごいね、サラダまである」
「早く食べよう。お腹すいた」
わたしは寝室で着替えをすませた。
「君の食べっぷりに満足した」
わたしの横でDVDを見ている彼が嬉しそうに言った。
「今日お昼抜きになっちゃって。でも、そ、大祐さんが家にいると思ったから、
走って帰って来た」
今だ彼を名前で呼ぶのに慣れない。
いつだかベッドの上で、うっかり苗字で呼んだら、かなり渋い表情をされたので、
気をつけるようにしていたのだ。
「…僕のターンにしてもいいかな?」
「え…」
間近に彼の瞳がわたしの瞳を覗きこむ。
優しく口唇が触れる。
髪を撫でる手がそっと肩に触れ、背筋を辿るとわたしの身体も思わず
反応してしまう。
身も心も。
そんな言葉が思い浮かぶ。
そんなことは、全くの比喩だと思っていた。
自分が変わってしまう。
そして、それは決して不愉快ではなく――彼の喜ぶ表情が見れるなら、
その変化も受け入れたかった。
「や…」
「本当に嫌ならやめるよ」
「………」
新しい玩具を手にした子供のように飽きることなく、
彼の指や口唇がわたしの身体に触れている。
閉じていた瞼を開いて彼を見ると、彼はじっとわたしを見つめていた。
ただでさえ、恥ずかしいのに。
身の置き所に困って身体を少し捩ると、彼はそれを許さないと言うように、
手首を押さえて、もう片方の手でわたしの腰を引き寄せた。
熱が伝わる。
「今までこんなに欲しいと思ったことはなかった…不思議だね。
君に触れるまでは、声を聞くだけでも嬉しいだろうと思っていたのに」
「……わたしもです」
「一晩中でも欲しいって言ったら、怒るのかな?」
「……!」
首筋に彼の口唇や舌が、そっと触れた。
さっきまで背筋を撫でていた手は、腰から下へ下りて、丁寧な手付きで触れていく。
そして一番敏感な部分へと。
「……ん…」
「リカも…待ってた?」
たわいもないような質問なのに…!
今のわたしは既に自分の意識の及ばない所にあった。
「空井さん、ヒドイ」
「……なんで?」
「嫌って言うことばかりした」
「君のイヤを真に受けたら、何も出来ない気がする」
「……」
答える言葉が見つからなくて、布団に潜り込む。
「……える所に付けないでって言ったのに」
「……よく聞こえないけど、もしかしてコレのこと?」
彼はわたしの鎖骨と胸の間に付けられた跡を指差す。
「夏なのに、ネックのある服着なくちゃ」
「…少し悔しくて。昼間、僕の知らない君を知ってる他の男が
いるのかと思うと」
「………」
知らなかった。
彼でもそんな風に感じるのだ。
「本当はこの部屋に閉じ込めて、何処にも出したくないと思う時がある」
「………」
「でもそれだと、きっと君が君らしくなくなる。だから…」
彼はそっとわたしが潜り込んだ布団を捲る。
「此処だけで我慢する」
わたしは彼に腕を伸ばした。
「わたしも我慢してます。こんな風に甘やかされたら、
つい毎日って思っちゃう。だから…」
両手で彼の頬を挟む。
「これから僕も忙しくなるけど、八月最初の土日は空けておいて
貰えないかな?」
「前に話してたお祭りですか?」
「浴衣で来る人が多いみたいだよ」
こんな生活では浴衣なんて持ってない。
……局の衣装部に話したら何とかなるだろうか?
「わ、わかりました。善処しますっ」
必死に答えるわたしに、彼はにっこりと笑った。
翌日、八月最初の土日に休日を取るべく、掛け合ってみた所、
阿久津さんはあっさりオッケーを出した。
「たまにはきちんと休んで来い。休養取るのが下手な人間は
いい仕事も出来ないからな」
ぱたぱたと手を振って、わたしを追い払う。
ホッと息をついて、窓の外を見上げたら、
丁度彼がオムライスに描いたような、
少し崩れた形のハート型の雲が、ぽっかり浮かんでいた。
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職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
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思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
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