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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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空稲鎌倉旅行、第三弾です。
次回からはちょっとしたゲストも出ますので、よろしくお願いしますw


小説は続き記事からです。


拍手[6回]




◆◆◆


たまに庭の方から、カサリと枯れ葉が小さな風で擦れ合う音が聞こえた。
寧ろ――それしか聞こえないくらい静かだったと言うべきかもしれない。
あとは互いの呼吸の音。
これは…我ながら少し忙しなかいかもしれない。
口付けを繰り返している彼女の髪からは、先程まで着ていた着物から
立ち上る匂い、そしていつも彼女から感じる微かに甘い、温かい匂い。
それらが呼吸の繰り返しに混ざって、頭の奥に刻まれていくように感じた。
「だ…大祐さん」
「………なに?」
「あの…」
「今日は何言われても無理」
「そ、そ、そうじゃなっ」
止め(とどめ)ようとする右手首を掴んで、そのまま彼女の口唇を封じた。
先程まで感じた、和服の『危うさ』もしくは覚束なさは、
最後のラインに来て、鉄壁だった。
和装用の下着はどうして、こんなに紐をほどく部分が多いのだろうか?
そんなことに奇妙な焦りを覚えた時だった。
「すみません、お夕食をお持ちしました」
入口の襖の向こうから声がかかった。
「わ、わたし、隣のお部屋で着替えて来ますっ!」
彼女はそれこそウサギのように、素早く自分の拘束から逃げ出し、
隣の部屋に駆け込んでしまった。
「…………」
畳に突っ伏したまま、思わず固まる所だったが、立ち上り、
着ていたスーツの上衣を脱いだ。
「はい、お願いします」
すると中居らしき女性がお盆を持って入って来た。
 
 
 
「…大祐さんでしょ。お夕飯6時でお願いしますって言ってたの」
「7時にするべきだった」
目の前の黒豆の煮豆を箸で摘まむ。
「あ…コレ美味しい!それにしても、こんな高級そうな旅館、
年末からの予約でよく取れましたね」
「……鷺坂さんに聞いたんだよ」
「鷺坂さんに?」
「若い頃に奥さんとデートで一度だけ泊まったって。
 それ以来年に一度だけ食事に来るんだって」
「………不躾なのは解ってるんですけど」
彼女が上目使いで此方を見る。
「…あの、割り勘にしませんか、此処」
「…………」
言われるだろうと思っていた質問だったが、
先程のことがあって今のタイミングは辛い。
「リカ」
「解ってますっ。でも、でも…こ、これから色々とお金かかりますしっ、
 大祐さんのご両親にも会いに行きたいし、
 わ、わたしの両親にも会って欲しいし」
「そう言えば…リカのご両親は東京の人?」
「ええ、離婚してますが」
「……知らなかった」
「でも仲が悪くて別れたのとは、少し違います」
彼女は箸を置くと、熱燗の入った徳利を持ち上げた。そっとお猪口を差し出す。
「母はわたしが生まれる前から仕事を持っていました。
 雑誌編集者で、今は一つの雑誌の出版社を持っています。
 父は今、信州で帰農してます」
「きのう……って農家?」
「ええ、ずっと東京で製薬会社の研究員だったんですが、
 体調を崩して信州に住んでるんです」
「…それがご両親の離婚の理由?」
「……はい」
長い睫毛を伏せて、彼女もお返しに注いだお猪口をくいっと開けた。
この後を考えたらあんまり飲ませない方がいいかな?
ちらりと頭をかすめたが、彼女の話と彼女の様子が気になった。
彼女が自分の家族のことをこんなに話すのは、初めてだ。
今まで話さずに――それとも話せずに来たのはそれなりに
理由があったのだ。
「じゃあ、信州にも行かないと」
「父がびっくりしますね。わたしがこんな仕事だから、
 お勤めしてから、たまに電話で話すくらいで。
 父が今育てているのは、漢方薬の素材になる植物
 ――薬草が多いんです。専門の知識が生かせるって喜んでます」
「リカのお父さん、理系なんだ」
「ええ――もう、バリバリの理系男子で。専門分野の話をしだしたら
 止まらないです。正義感も強いから叱る時はやたらはっきりしてて」
「リカのお父さん、って感じだ」
成程…と感じる。
我が家は父が多趣味ではあるものの、母は自分が小学校に上がるまでは
パートでも働かなかった。
姉が自分の上に三人もおり、かなり賑やかな家庭だ。
――リカの家とは随分違う。
「あ、この茶碗蒸し美味しいですね。鷺坂さんの奥さんの茶碗蒸しも、
 出汁の味が美味しくて…こっちはちょっと甘い」
「うん、栗が入ってる」
「本当。鷺坂さんの奥さんも素敵な方でした。離れて暮らしても、
 あんなご夫婦もいるんだな…って思いました」
「僕たちは…」
「わたしたちは…」
二人同時に言葉が出た。
「だ、大祐さん、どうぞっ」
「リカこそ――」
彼女は薄く頬を染めて、俯くと言った。
「色々あるとは思いますけど、わたしたちなりのやり方で、
 一緒にいる時間を大切に出来たらいいと…」
「うん」
思わず笑顔になった。
正義感が強くて、融通が利かなくて、…でも真っ直ぐで純粋。
そんな彼女の続いてきた想いを、受け止めた気分だ。
「飲もうか、リカ」
「は…ハイ」
庭に面した窓の向こう側で、ほんのりとした灯りが点されるのが見えた。
 
 
 
浴室は孤立して離れにも付いていた。
「お風呂がね、いいんだよ~。温泉が出たとかで、
 浴室だけ全面改装したって聞いたよ」
この旅館を教えてくれた鷺坂さんは、何故か電話口で声を潜めた。
庭に面した浴室からは、自分たちの泊まる部屋の灯りが見える。
和風の広い造りだ。
「後から行きます」
彼女はそんな風に言って、こちらだけ先に行かせた。
女性は入浴となると、準備に時間かかるしな。
そう考えて、先に浴室に入る。
もうもうとした湯気が立って、やや鈍い灯りに照らされた水面が
揺れるのが見えた。
「………あの、入ります」
湯槽に入って幾らも経たないうちに、彼女の声が聞こえた。
「う、うん。結構広いお風呂だね。一人じゃ勿体ない」
湯気の向こう側に白くスラリとした足が見える。
「…大祐さん、足は?痛みませんか?」
「今日は大丈夫だよ」
「寒い日だったから、心配しました」
今だ寒い日が続くと手術痕が痛んだりする。
「今夜はよく温まってから寝るよ」
「そうですね」
「リカが協力してくれたら、もっとあったまると思うけど」
「っ…」
バシャッと彼女が軽くかけた湯しぶきが当たる。
「夏には此処、庭に蛍を放すみたいだよ」
泊まる部屋の灯りにぼんやりと照らされ、日本式の庭園や
池の水面の微かに光る様子が見えた。
「…夏も来られたら、素敵ですね。その頃にはわたし――」
「ん?」
彼女がそっと湯槽に入って来た。
黒い陶器で作られた浴槽に彼女の白い肌が、
一際目につく形象(かたち)になった。
向かい合わせになる。
「…さっきも思ったんだけど、リカ、髪伸びた?」
「……の、伸ばしてます。そのプ、プロポーズされてから」
「あ…」
彼女が伏し目がちになる。
釣られて自分も湯槽の中を見たら、彼女の揃えた綺麗な足指が見え、
却ってドキリとしてしまう。
「わたしもちょっと欲張りになりました。
 …出来たら夏までに、け、結婚式が出来たらいいなって」
もう――これ以上我慢しなくていいだろうと思った。
腕を伸ばして、彼女を抱き寄せる。
柔らかく彼女の胸が自分の胸元に触れた。
「さっき何て言おうとしたの?」
「………カになるって」
「え?」
項から彼女の纏めて上げられた髪を指で辿って触れる。
「そ、空井リカになるって」
「………そうだね」
ぎゅっと腕の中に閉じ込めた。
 
 
やっと自分だけの『リカ』に出来た。
 
 
お湯の淡く金色に光る水面が、奇妙に視界を揺らす気がして、
瞼を閉じる。
すると彼女からかすめるようにキスをしてきた。
冷たい、柔らかい感触。
小さく開くのが解って、舌先で彼女の口唇をなぞる。
掌で触れていた背が、僅かに緊張するのを感じたが、
そのまま彼女を抱き寄せ、深く口付けた。
 
 
 
結局浴室ではキスだけで、終わりだった。
彼女が少し逆上せてしまったからだ。
けれど今まであった不安定な焦燥感は、妙に満たされていた。
「…大丈夫?」
「……はい」
フロントに電話をかけて、取り寄せた冷茶を差し出した。
「…お風呂場であんなキス、するなんてひどい」
「え…」
「だ、だ、だっていつもよりずっと…」
彼女が浴衣姿で横になっている傍に、横たわる。
「リクエストにならお応え致します」
「……」
「ここなら倒れても専任で介抱出来るし、自衛官は頼りになりますよ。
 人命救助では」
「職権濫用ですね、空井一尉」
「こんな人命救助、リカの為だけだけどね…」
優しく髪を撫でる。
まだ湿り気を帯びた艶のある髪が、指先に絡む。
「もう少し傍に…来て下さい」
彼女の腕が伸びてきて、首を巻く。
「いいの?」
「……あんな風に止められたら、わたしどうしたらいいんですか?」
「お湯の中であんまりぐったりしてたから、心配になって、…っん」
口唇が初めから深く触れ、逆上せるのは今度はこちらの番かもしれない、
と思った。
 
 
 
彼女の中で、柔らかに包み込まれるように、繰り返す波を何度か感じた。
少し冷静になれたかと思うと、また熱いものに呑み込まれて行くような
そんな感覚が、揺れるように脳裡を過る。
「……カ、」
「やッ……」
彼女も自身を手放しては掴み、掴んでは手放しを繰り返しているようだ。
昇り詰めきらない何がが、いつもとは違った甘さを感覚の一部に残しながら、
お互いそれでも何かを求めて夢中だった。
「………っと」
「もう一度言って、リカ」
困ったようにひそめられた細い眉に口付けるように、近付く。
「もうっ…!」
重なり合う、一番熱い部分が深く触れ合って、ピークが来たことに気付いた。
「………っ」
互いの早くなっていく呼吸も重なっていく。
彼女の小さな甘い声が、弾むように繰り返されて
…フラッシュしたように暗闇の中で視界が弾けた。
しばらく彼女はこちらの首に腕を掛けたまま、瞼を伏せていた。
睫毛が震えている。
「――リカ」
やっとのことでかすれた声を出した。
「………」
返事はなかったけれど、物憂い様子で彼女は目を開けた。
「ゴメン……辛く、なかった?」
「だ、…いじょうぶ」
大きく息をついて、彼女が微笑った。
「今まで知らなかったことが解った」
「…え?」
「ひとつになるって、どういうことか」
「………どうして」
彼女は布団に潜りこんだ。
「どうして簡単にそう言えちゃうのかな…大祐さん」
彼女は声を立てて笑った。
「いつも、出会った時からずっと思ってたけれど、
 綺麗なくらい真っ直ぐなんだもの」
「それはリカの方こそ」
再びしっかりと抱き締める。
「いつも怖いものなんかないんだろうと思うくらい、真っ直ぐだから」
「あ、それは言わないで下さいっ」
嬉しくなり、頬を寄せる。彼女はくすぐったそうに、身を捩ったが、
すぐに預けきったように体を素直に凭れさせた。
「……愛してる」
「……ハイ」
急に体から力が抜けたように感じた。
すると急にカチコチと時計の音が聞こえる。
外では強くはないものの、微かな風の音が聞こえる以外は何の物音もしない。
部屋の温度は先程より少し低くなっているのに、
自分たちを取り巻き、くるんでいる闇は温かく感じた。

 

※次回空稲旅情ミステリー編開始ww
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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