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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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すみません、コメントのお返事がたまっています。
次回ブログでさせて頂きます。

…と言うかチゲの作り方にまで拍手ありがとうございますw。



空稲鎌倉初詣…1。
1、ってことは2があって3があります。
頑張ってゆるゆると続けますので、よろしくお願いします。

小説は続き記事からです。

拍手[13回]


◆◆◆



2014年の正月、自分は入間基地の渉外室広報班に
勤務していた。
――そう、暮れからお正月と出勤していたのである。
帝都テレビの敏腕ディレクターである彼女は、
当然盆、暮れ、正月に休みなど取れず(それでも彼女の上司である
阿久津氏が、随分気をきかせて、夏休みやクリスマス休暇など
融通を利かせて貰っていた。
阿久津氏にしてみれば、頑固で素直じゃない一人娘を心配するような
気持ちもあるのだろうか?)たった一泊の旅行でも、
なかなか二人で…と言うのは難しい状態だった。
世間では成人式と言われる今日、年明け早々の連休にやっと
お互い連続した休みがが取れ、鎌倉にある鷺坂元室長の自宅を
訪問することにしたのだった。
 
 
 
他部署の先輩から借りた車は、スカイブルーのシトロエンだ。
外車好きの先輩らしく、給料はほとんど車に注ぎ込んでいると、
基地内でも有名だった。
「絶対傷付けるなよ」
と釘を刺されはしたものの、次の瞬間にはニヤニヤ笑ってこう言った。
「彼女と旅行だろ。まあ、頑張れば?」
と、肩を叩かれた。
…その通りなのだが、なんだろう。彼女と旅行に行ける嬉しさが、
そんなに表情に出てたのだろうか?
外環から首都高を抜け、人形町にある彼女のマンションの前に
車を止めた。
止めた途端ドキリとした。
黒っぽい地に小さな鮮やかな模様の入った着物に、
アイボリーのショールを羽織った彼女が立っていた。
夏の浴衣の時も感じたけど、和服だと雰囲気が全然違う。
ピンとした空気が彼女を包んでいる。
でもそれは近付き難いと言うのではなくて…何処か焦がれるような気持ちを
感じさせるような、上手く言えないけれど、初めは手には触れられないのに、
一度手にしたら二度と手放したくなくなるような、そんな気分になった。
車から降りる。
「……おはよう」
「…お、おはようございます」
寒さの為か彼女は少し染めた頬でこちらを見つめた。
思わず視線を反らしてしまう。
自分でも随分だとは思ったが、まともに見つめていると有らぬことを
口走りそうで、自分に自信がない。
「荷物トランクに入れてもいいですか」
「う、うん。今開けるから」
慌てて運転席に戻る。
荷物をトランクに乗せようと外に出たら、
彼女はもう小さめの旅行カバンをよいしょと持ち上げていた。
自分が和服でいることなど、失念しているのか。
こう言う時くらい、側にいる男に任せきっても問題はないだろうと
言う場面でも、彼女はいつもの通りだ。
「その…行こうか。お昼までには鎌倉に着きたいから」
「はい」
草履のせいで少し歩きづらそうにしているのも、
何だかこちらを落ち着かない気分にさせる。
…これは夏に経験済みだったけれど。
彼女がリアシートに乗ると、ふわりといつもの彼女とは違う、
香のような匂いがした。
 
 
 
「鷺坂さんち、鎌倉のどちらなんですか?」
「雪ノ下、って所みたいだよ」
「ゆ、き、の、し、た」
スマホを見つめながら、子供のように聞いた地名を繰り返す。
「…鶴岡八幡宮の近くなんですね」
車はまた箱崎JCから首都高に乗り、横須賀方面へ向かう。
「明日午前中に少し遅い初詣に行こう」
「そうですね。…近くには鏑木清方美術館、
 あ、この絵見たことある。結構高級住宅街ですね」
「鷺坂さんは、奥さんと暢気な二人暮らしだ、なんて言ってたけど」
空幕広報室時代の上司、鷺坂さんは今は浜松勤務で
普段は官舎にいるものの、休暇は自宅に戻って過ごしているようだった。
「子供がいないせいかな、妻が帰る度に猫を増やしているよ」
そんな風に微笑っていた。
異動が多い職業柄、家族でいることにこだわれば家族は
転出の繰り返しになるし、家族で移動しないとなれば、
家族とは離れ離れになる。
彼女と結婚すれば、彼女の仕事を考えたら、
自分の異動の度に、彼女とは離れ離れになるだろう。
少しでも一緒に過ごせる時間のことを考えた方が良い。
松島から入間に異動になり、彼女と再会して9ヶ月が経っていた。
彼女は仕事とこちらの仕事のことで彼是と迷い続けていたようだったが、
結婚しようと決めた時にその迷いを捨てたようにも見えた。
『これからはいつでも一緒にいられる』
そんな風に言って。
反対に焦っているのは自分らしい。
緩いカーブにゆっくりハンドルを切りながら、
チラリと隣に座る彼女を見た。
真っ直ぐ前を見つめていたが、こちらの視線に気付いた。
「大祐さん、のど飴食べますか?」
「うん、貰おうかな」
小さな縮緬細工の鞄から、彼女の白い指先が飴を取り出す。
「口開けて下さい」
言われて口を開けると、いつもより濃い色のマニキュアを付けた爪先が、
微かに口唇にあたった。
「…………」
「………」
「……」
「…大祐さん、今日無口ですね」
「……運転、久しぶりだから」
「基地内は自転車ですもんね」
「うん…」
彼女は僅かに首を傾げた。
確かに彼女に会ってからの、今日の自分は挙動不審もいいところだ。
仕方ない。
うっかりなことを口走って、彼女に退かれるのも、
折角の一泊旅行なのに辛い。
片山さんや比嘉さんがこの状況を知ったら、自分の『男の下心』なんか
すぐに見抜かれそうだ。
彼女と二人きりで良かった…などと益体もないことで溜め息をつくうちに、
車は多摩川を越えて神奈川県に入り、11時には朝比奈ICを降りた。
 
 
 
「いやー!稲ぴょん、見違えるねーっ」
顔を見るなり鷺坂さんは、そう言った。
「あ、明けましておめでとうございます。
 …相変わらずですね、鷺坂さん」
「稲ぴょん、久しぶりだね。ええと、三年ぶりくらいかな」
「貴方、玄関先で話してないで中に上がって貰って下さいな」
中から初老の上品な女性が顔を出した。
「初めまして。空井大祐と言います。
 空幕広報室在籍中は、ご主人様に大変お世話になりました」
自分が頭を下げるのと一緒に彼女も静かにお辞儀をする。
鷺坂夫人は微笑って、中へと言う素振りを見せた。
「ええ、主人から沢山話を聞いて楽しみにしていました。
 どうぞ、お昼の用意も出来てますから」
洋風と和風の中間の作りの、焦げ茶の太めの梁と柱の玄関を通り、
居間に通された。
 
 
 
鷺坂夫人の手料理をご馳走になり、お茶の用意がされていた。
食事中、彼女は何度か出された料理のレシピや手順を
鷺坂夫人に聞いていた。
…こんな場面でも彼女は仕事熱心だ。
今年から料理番組のディレクターを任されているようだった。
「いやー、びっくりしたね。稲ぴょんが和服で来ると思わなかった」
「……局の衣装部に借りました」
「そのお召し物の柄、謡曲がお題になっているのね?」
「よ、ようきょく、ですか?」
「ええ、お能の。多分『胡蝶』と『菊慈童』ではないかと」
「…………」
鷺坂夫人はお茶をテーブルに並べると、鷺坂さんの隣に座った。
鷺坂さんは笑いながら、言った。
「この人は舞台狂でね、たまの休みに帰って来ると、
 能だ歌舞伎だと連れて行かれるんだ。先日はタカラヅカまで見たよ」
「貴方が全部起きていたのはタカラヅカだけですね」
鷺坂夫人はそれでも嬉しそうに微笑った。
「『胡蝶』は蝶の精が季節柄梅の花だけとは縁がなくて嘆いていたのを、
 旅の僧侶の経文の力で、夢の中で梅の花にも縁が出来たと
 喜ぶお話なのだけど、本来縁がなかったかもしれない所に
 縁が出来る…丁度お二人みたいね」
「………」
彼女はきょとんとして、それからじっと自分の着物の袖を見つめた。
釣られて自分も隣の彼女を見る。
白くすっきりと伸びた項が見えて、慌てて目を反らす。
「そうだ、この際と言っては失礼だけど。
 わたしもこの人にも若い女性が縁戚にいなくて。
 何枚かある訪問着、わたしの若い頃のものなんだけど、
 失礼でなかったら着て頂けないかしら」
「え!それは…」
「いいの、いいの。着て貰えた方が着物も幸せだから。
 此方に着て、稲葉さん」
「始まった。女同士のこう言うやり取りは長くなるぞ、空井」
「失礼な。少し稲葉さんをお借りしますね、空井さん」
鷺坂夫人に促されて、彼女も居間を出て行った。
「久しぶりに若い女の子が来たから、ウチの奥さん浮かれてるなあ」
鷺坂さんも嬉しそうだ。
この年頃のご夫婦ならば、普通は二人で暮れも新年も過ごすだろう。
鷺坂さんの話では、今年は任務で浜松を離れられず、
正月を過ぎてからの休みになったそうだ。
奥さんと久しぶりに会うのが嬉しいのは、見ているだけで解る。
「稲ぴょんはすっかり落ち着いたねえ。
 もう『稲ぴょん』なんて読んだらマズイかな」
そう言いつつ、やっぱり鷺坂さんの稲ぴょん呼びは安定している。
「…一方落ち着かないのは空井だね」
「……そんなことは」
「誰にも見せたくなかったって表情だったよ、最初」
「………そ、そんなことは」
目の前で鷺坂さんの口許がニンマリと笑う。
「まだ気恥ずかしくて誉めてもいないでしょ~」
……そこまで読まなくても。
「ダメだよ、折角カノジョが綺麗なんだから、
 見せびらかす位じゃないと」
「……その心境にはほど遠いです」
溜め息が出た。
「まあ、無事空井と稲ぴょんが落ち着いて良かった」
「鷺坂さん、仲人の件ですが」
「やるよ、当たり前でしょ。
 空井と稲ぴょん引き合わせた時にそのつもりだったんだから」
結局、自分は(彼女も?)この人の手の内にいたんだなあ、と改めて思う。
「比嘉や片山が随分ヤキモキしていたようだけど、
 心配の必要はないと思ってたよ。
 何せ『勇猛果敢』がモットーだからね、空自は」
「『支離滅裂』でもありますが」
「そう、それ大事」
ふと見たらいつの間にか膝に赤毛の猫が乗っかってきていた。
「おや、そいつがウチの奥さん以外の膝に乗るのは珍しいね」
「そうなんですか?」
「ウチの猫は全部庭にやって来たのが、
 いつの間にか居着いたのばかりだから、
 はっきりは解らないけど、そいつは多分洋猫でね、気が強いんだよ。
 いつも帰宅すると毛を逆立てて怒ったりする癖に、一番甘えん坊でね」
何だか『良く知っている誰か』のようだと思い、
膝の上の猫の頭をそっと撫でた。
 
 
 
すっかり夕暮れ近くなって、鷺坂家を後にした。
「良かったです。鷺坂さん仲人引き受けて下さって。
 …それに鷺坂さんの奥様も」
彼女がこちらを見た。
「…あの大祐さん」
「…え」
彼女の真っ直ぐな視線にドキマギする。
「わたし着物似合いませんか」
「え…?」
「だって今日は一日……いえ、鷺坂さんの奥様から二枚も
 着物頂いちゃったから、また着てみたいと思って」
「ど、どんな着物?」
「春の濃いピンクの訪問着と夏の……ええと、絽って言う透けた生地の」
「…ダメ」
「え?」
今日初めて真正面から彼女を見つめた。
「その着物、人前に着てっちゃダメ」
「………」
彼女はしばらくこちらを見つめ返していたが、
眉を寄せると口唇を小さく結んで、子供のような表情になった。
「やっぱり似合わないから…」
「解ってないね」
すかさず彼女の口唇に触れた。軽く触れるだけのつもり…だった。
「……だっ」
「鷺坂さんに言われた。『誰にも見せたくない』って顔してるって」
宿に向かってゆっくり運転していたが、
宿の手前まで来て横路に止めていた。
「いつからこんなに欲張りになったんだろう、俺…」
声がかすれる。
一日我慢してた。だからこの辺でご褒美を貰ったっていい。
……そんな心境だった。
「それは…わたしも同じです」
一度目のキスで濡れた感触の彼女の口唇が、最初微かにだんだんと
深く触れていくのが解った。

 



※アイディアを下さったはるちゃん様、いつもお世話になってます。
はるちゃん様にシリーズごと捧げます。


次はリカちゃんサイドからw
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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著作権も一応手放してはいないので、
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
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