タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
これで少し更新の間隔を開けようかなと、考えています。
でも、おかげさまで10月は本当に楽しかった^^眠れなかったけど…
珍しくR18?いや15かな^^;
そんな訳で15歳以下の方は閲覧をご遠慮下さい。
大人の方、あまり期待しすぎないで下さい(笑)
伊勢の曙光と九段坂の春のネタバレがありますので、閲覧の際はご注意下さい。
超ニセモノの桑原崇が出現します。
こんなの耐えられないという方は、おススメできません。
何が来ても大丈夫という方だけ、画面をスクロールしてご覧ください。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
Stand By Me
その日その笑顔は、自分以外の男に向けられていた。
包むような、慈しむような、優しい笑顔。
これまで、間違いなく自分にしか向けられていなかった、その表情…。
先月引っ越しをした。
手伝いに来た、悪友の小松崎からは散々文句を言われた。
「あのなぁ、普通梅雨時ってのは余程でない限り、引っ越しはしないもんなんだよ!」
「いつ誰が作った決まりだ」
手放すことを決めた書籍を縛りながら、小松崎の悪句雑言に言い返す。
「雨が降るだろ!荷物濡れるだろ!大変だろーが」
「まあな、本が濡れるのは嬉しくない」
「それしか心配事はねぇのかよ!奈々ちゃんは反対しなかったのか?」
衣類を段ボールに突っ込みながら、小松崎は横目でこちらを見る。
「限界だった。……もう離れているのはやめようと決めたんだ」
「………お前素直になったな」
手を止めて感心したように、まじまじとこちらを見ている。
「手を止めないでくれ。この本は玄関に頼む」
「げっ。こんなにあるんか!?」
「ノルマなんだ。蔵書の三分の一は処分しないと、姉と暮らすのはまかりならない
と沙織くんに言われた」
「成程…」
その後小松崎はてきぱきと、作業をこなし、借りてきた軽トラで引っ越し先へ向かった。
無駄が多いようでいて、全く実行力は優れている。いい友人だった。
世間で言う所の『婚約者』と言う間柄になって三ヶ月め、彼女と居を共にすることになった。
婚約を認めて貰うことも含めて、彼女の両親に挨拶をしに行ったのは五月の末のこと。
彼女は言葉少なく、両親に事情を説明していたが、特に母親は全て承知とばかりに、
説明の途中から、もう許可を下していた。おそらく彼女の妹から全て聞いているのだろう。
ただ父親だけは、屈託のあるような複雑な表情をしていた。
帰り道に思わず呟いた。
「君を奪いに来た悪者だな、今日ばかりは」
彼女は小さく笑って言った。
「沙織の時も同じでした。娘がいっぺんに片付くから、さすがに寂しいのかもしれません」
そして今、梅雨明けを迎えた七月初旬、二人の新居から毎朝出勤し、祐天寺の駅で待ち合わせて
帰宅する日々が二週間めに差し掛かった頃だった。
突然、突き付けられたのだ。
お互いに見ないように、知ろうとしないようにして来たことがあることに――――――。
鎌倉駅は土曜の午後だけに、初夏の暑さにも関わらず混み合っていた。
その日自分が遅れる為、彼女には先に、勤め先から鎌倉に行っていて貰い、駅で待ち合わせる
ことにした。
さすがにこの人混みでは、すぐには見つからない。
見回すと、見慣れた頭つきを見かけ、近づいて行こうと、歩きかけたときだ。
見慣れた、そして自分にだけ向けられると知っている、あの笑顔が、彼女の前に立つ、
自分以外の男に向けられていたのだ。
足が止まった。
「棚旗さんも元気で」
その男はやや名残惜しげに、彼女の前から去って行った。
彼女はしばらくはその方角に目をやっていたが、ふと自分を見つめる視線に気づいたのだろう。
こちらを見た。
「タタルさん!」
間違いなく、この笑顔は自分に向けられている。
「お疲れ様です。お客様は無事帰られたんですか?」
「……ああ」
今日帰り間際に、厄介な部類に入る客が来た為、待ち合わせが鎌倉になったのだ。
「今日はどちらに行くんでしたっけ?」
もうそこが定位置になっている、自分の左腕にするりと彼女の腕が差し込まれる。
しかし、それを受け入れることが出来なかった。
目を丸くして驚く彼女の表情を見て、自分の行動に気付く。
「江ノ電で行こう」
彼女が何かを察する前に、手を差し出す。
素直に彼女も差し出された手を握り、二人で江ノ電の乗り場へと歩いた。
「タタルさん、今日はどこのお寺へ?それとも神社ですか?」
いつもなら、行き先になる寺社の説明を移動中に済ませるのだが、今日はどうも
そんな気にならない。
何か胸の奥に、ズキリと突き刺さったように感じて、言葉なんか出なかった。
「…………」
彼女も察したのか、もう何も聞かないと決めたようだった。
窓の外の流れていく景色に、目をやっている。
こんなに自分の考えが、言葉にならないのは珍しかった。
何かの謎や疑問に突き当たっても、話すことで己を整理し、答えに行き着くことが多い。
(特に彼女相手なら)
なのに今日はその方法が取れない。
自分が何につかえているのかすら、わからない。
電車は稲村ヶ崎を過ぎると、車窓から水平線が見えるようになる。
海開きにはまだ早いが、沖にはサーフボードに乗った人影も見えた。
「あの…もし今日予定がないようでしたら、湘南海浜公園で降りませんか?」
彼女がそっと申し出た。
彼女の声音で、今まで自分があまりに不機嫌な様子でいることに気付いて、彼女の顔を見た。
「…そうしようか」
ほっとしたように、息をついてにこりとした彼女の表情を見て、またかすかに胸が痛んだ。
その小さな駅で降りると、かすかに潮の香が鼻をかすめた。
陽射しが日に日に強くなっていく頃だけに、もうすぐ4時になろうとしているこの時間が、
一番暑さを感じる。
些細な風が吹いても、肌に心地好く感じた。
海に向かって坂道を下る。心なしか、彼女の足が早まる。静かな住宅街を抜ける彼女の
足取りは軽い。
好きな道なのかもしれない。
出会って13年、それくらいは感じられるようになっていた。
新江ノ島水族館の建物とその後ろに江ノ島が見える。
歩道橋に登ると、驚いたことに右手の海の彼方に、富士山まで見えた。
「びっくりしますよね」
振り向いて彼女は言う。
歩道橋を降りて、道路から階段を下り、砂浜に降りる。
砂を踏みしめて、わずかに足の沈む心地が、何だか今の自分の心境に似合い過ぎて、
少しイライラした。
砂浜にはまだ海水浴には早いものの、海辺で遊ぶ親子連れや犬を連れた散歩の老夫婦、
なんと微かな風にカイトを揚げる人もいた。
「以前聞いたんですけど、あの凧、カメラが取り付けてあるんですって。なんでも富士山と
江ノ島、あと夕日を空から一枚に収める為に、毎日ここに来てるとか。でも夕方風が吹くと、
富士山に雲がかかって、難しいみたいです」
自分の視線からカイトに目が行ったことを察して、そんな話をする。
夏至が過ぎてまだひと月もたたない頃では、まだ日の光も目映い。
富士はその緩やかな稜線を、濃い青でくっきりと描いている。
江ノ島は間近に迫って、手に届きそうだ。
「成程。…君が此処を好きなのは、わかった。左手に弁財天、右手に木ノ花咲久夜媛。
なかなかなロケーションだな」
「なんでもわかっちゃうんですね」
「そんなことはない」
少し強い調子だったかもしれない。彼女が振り向いて、じっと自分の目を見つめる。
そろそろ限界が来ていた。
わからない不安への。
「君が欲しい」
「……………え?」
かすれた声は彼女の耳に届くのに、時間がかかった。
「な…にを言って…」
「帰ろう、奈々」
駅で待ち合わせてから、初めて彼女の名前を呼んだ。
「いいんですか?」
「……行こう」
我が儘なのはわかっていたが、一度こうと思ってしまうと、そこから軌道を変えるのは
何とも難しかった。
踵を返すと、先程降りた駅の方角へと向かった。
彼女は小さく首を傾げて、後に続いた。
家の鍵を開けて入る。後ろから彼女も続く。
「タタルさん、今日は疲れてたんですね。すみませんでした。無理に鎌倉に行かない方が
良かったですね。すぐ食事にするので、待ってて下さい」
帰り道中ずっと黙り込んでいた自分を気遣って、彼女はすぐエプロンを片手に、
キッチンへ向かおうとする。
「奈々」
「はい?」
背後からきつく抱きしめる。
「えぇ!タ、…タタルさん、どうし…」
彼女がこちらを向いた瞬間に、口づけた。
まるで噛みつくように。
「……ん…」
僅かに開いた隙間から、舌を差し入れる。抱きしめている体が、びくりと震えたのが
わかった。
舌で彼女の口唇をたどりながら、そのまま抱き上げようとすると、さすがに驚いた
らしく、力いっぱい自分の胸を押して、体を僅かに離した。
「な…何があったんですか?」
「……別に」
「本当ですか?今日のタタルさん、おかしいですよ」
頬は上気して薄く赤らんでいるものの、彼女はまだ冷静だった。
「別におかしくなんかない」
腰に回した右腕はそのまま、左手で彼女のブラウスのボタンに手をかける。
「えっ、ちょっ、まっ……」
軽いキスを繰り返して、次第に耳許から首筋へと移していく。
体を強張らせて微かな抵抗をしていた彼女から、ふと力が抜けた。
「タタルさん……ずるいです」
潤んだ瞳で見つめ返されて、もう止めることが出来なかった。
「俺はバカだな」
多分理由などわからないまま、ぶつけられた感情を彼女はそのまま受け入れた。
納得などしがたかったろうに、彼女は優しかった。そのぶん自分の最低具合が
際立って、大きなため息とともに、後悔も強かった。
「……タタルさん、怒らないで答えてくれますか?」
「保障の限りじゃない」
前髪をかきあげて、隣に横たわる彼女を見た。
「………もしかしてヤキモチ妬いてます?」
「………………何でそう思う?」
自分でも認めたくなかった。かの悪友がこの場にいたら(いても困るが)、この時点で
くしゃみしそうだ。
「鎌倉駅で見てたんですね?」
凛とした瞳で見返されて、もう降参するしかないことに気付く。
「あれは誰だ?」
「…高校の時の知り合いで、須藤真司さんです」
彼女は一息ついた。言葉を選んでいるのか、宙に視線をさ迷わせている。
「その…たまに会ってお茶を飲んだりしてました。…そう言えば彼もタタルさんのように、
歴史に興味の強い方で…、確か楠木正成の七…えーと」
「七生報国」
「そう、それです。その話をしたことも」
「…それで?」
「彼の友達に、やはりそのことに興味を持っていた方がいて、鎌倉宮に資料があると噂で
聞いて忍び込もうとしたらしいです」
「大胆だな」
それを聞くと彼女はクスリと笑った。
「タタルさんだって、やりそうですよ。……ただその噂を教えた須藤さんは、責任を感じて、
友達の後を付けたそうです」
「それで?」
「鎌倉宮の管理人さんに、友達が気付かれてしまって、後を付けていた彼は、咄嗟に手を
出してしまったんです。……ああ、もしかしたら小松崎さんが彼のことを知っているかも
しれません。彼、空手部でとても強かったみたいで」
「…管理人は亡くなった?」
「そうなんです」
「……全く君は呆れた事件体質だな」
「た…タタルさんに言われたくないです!五十嵐先生のことで、事件に巻き込まれたって
言ってたじゃないですか」
「あれは先生が事件を連れて来るんだ。俺じゃない」
「…そうやって逃げるんですね」
膨れっ面でこちらを見る。
「彼は過失致死の罪に問われたんだな?」
「ここからはわたしも噂でしか、知りませんでした。でも自分から警察に出頭して、少年院に
入ったと聞いていました」
ふと彼女は視線を反らした。
ほんのり頬が染まる。
「…話を聞くだけの相手ではなかったわけだ」
「わたしのせいだと思ってました。……彼が事件の話をした時、知らないふりをすれば良かった
所を、わたしは尋ねてしまったんです。彼を追いつめたのは自分じゃないかと、ずっと
思ってました」
少し悲しげに瞼を閉じた。
「彼はとうに出所して、今日はご実家に戻られていたそうです。…今結婚して二人もお子さんが
いるそうですよ」
ふっ、と小さなため息が漏れた。
-----それで彼女は、あの笑顔で彼を見ていたのだろうか。
もっと言いつのり、聞きたい気にもなったが、自分にはその資格がないことに気付いた。
彼女にもまだ全ては、話していない。
「この前外嶋さんが話してたこと、本当でした」
彼女は苦笑した。
「タタルさんのこと、場合によっては取り扱い注意の、劇薬だって。薬にもなるけど、扱いが悪い
と毒になるかもって」
「………………」
彼女はいつも職場で、そんな話をしていたのかと、ため息が出た。彼女の上司はかなりの
曲者だ。
言いえて妙だが、全てではないその言葉を、鵜呑みにされるのは困る。
「奈々くんなら、扱えるだろうなんて、おっしゃってましたけど。ちょっとびっくりしちゃいま
した」
「君がどう思っているか、知らないが俺は普通の男だ。----君の前に出ると、
つまらないことで嫉妬もすれば、慌てもする」
「わたしだってそうです。いつも…いつも不安です。…多分こうして一緒にいるようになって
からは、もっと」
「…………外嶋さんに聞いてくれても構わない」
「え?」
彼女がこちらを見つめた。
「外嶋さんは知ってる。何故俺が---」
「タタルさん。わたしはタタルさんが話したくなった時聞くって、もう決めてます」
きっぱりとした声だった。
「もうこだわりはない。けれどまだどこから話していいか、わからないんだ」
これすらただの言い訳に感じた。
「これから幾らでも時間はあります。きっと話すことがなくなるくらい」
彼女が微笑う。
あの笑顔で。
「君は勁(つよ)いね」
「……そんなことないです。いつもいつもヤキモキしてるのはわたしの方です」
彼女の前髪を指に絡めとると、顔を近付けた。
「例えば?」
「……それは…ってずるいですよ!わたしばかり話してる気が」
軽く口唇に触れると、言った。
「約束したね?」
「へ?」
「ここでは名前で、と」
「……………………」
…だから何故名前を呼ぶだけで、こんなに逡巡するのだろう。
「……やっぱりずるいです」
頬だけでなく、その滑らかな肌も薄紅に染まっていた。
「じゃあ、もう一度………」
彼女の耳に出来る限り、そっとささやく。
すると、彼女の腕がするりと首を巻き、自分の口唇に彼女の柔らかな口唇が触れた。
※はぁ~重かった(笑)
奈々ちゃんサイドから見た原作では、タタルさんは結構奈々ちゃん限定?で微笑んで
います。だからきっとタタルさんから見ると、奈々ちゃんも沢山微笑んでいるかな~と。
何気にあちこち続いちゃってます。すみません;;
さあ更新して逃げようっと。
でも、おかげさまで10月は本当に楽しかった^^眠れなかったけど…
珍しくR18?いや15かな^^;
そんな訳で15歳以下の方は閲覧をご遠慮下さい。
大人の方、あまり期待しすぎないで下さい(笑)
伊勢の曙光と九段坂の春のネタバレがありますので、閲覧の際はご注意下さい。
超ニセモノの桑原崇が出現します。
こんなの耐えられないという方は、おススメできません。
何が来ても大丈夫という方だけ、画面をスクロールしてご覧ください。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
Stand By Me
その日その笑顔は、自分以外の男に向けられていた。
包むような、慈しむような、優しい笑顔。
これまで、間違いなく自分にしか向けられていなかった、その表情…。
先月引っ越しをした。
手伝いに来た、悪友の小松崎からは散々文句を言われた。
「あのなぁ、普通梅雨時ってのは余程でない限り、引っ越しはしないもんなんだよ!」
「いつ誰が作った決まりだ」
手放すことを決めた書籍を縛りながら、小松崎の悪句雑言に言い返す。
「雨が降るだろ!荷物濡れるだろ!大変だろーが」
「まあな、本が濡れるのは嬉しくない」
「それしか心配事はねぇのかよ!奈々ちゃんは反対しなかったのか?」
衣類を段ボールに突っ込みながら、小松崎は横目でこちらを見る。
「限界だった。……もう離れているのはやめようと決めたんだ」
「………お前素直になったな」
手を止めて感心したように、まじまじとこちらを見ている。
「手を止めないでくれ。この本は玄関に頼む」
「げっ。こんなにあるんか!?」
「ノルマなんだ。蔵書の三分の一は処分しないと、姉と暮らすのはまかりならない
と沙織くんに言われた」
「成程…」
その後小松崎はてきぱきと、作業をこなし、借りてきた軽トラで引っ越し先へ向かった。
無駄が多いようでいて、全く実行力は優れている。いい友人だった。
世間で言う所の『婚約者』と言う間柄になって三ヶ月め、彼女と居を共にすることになった。
婚約を認めて貰うことも含めて、彼女の両親に挨拶をしに行ったのは五月の末のこと。
彼女は言葉少なく、両親に事情を説明していたが、特に母親は全て承知とばかりに、
説明の途中から、もう許可を下していた。おそらく彼女の妹から全て聞いているのだろう。
ただ父親だけは、屈託のあるような複雑な表情をしていた。
帰り道に思わず呟いた。
「君を奪いに来た悪者だな、今日ばかりは」
彼女は小さく笑って言った。
「沙織の時も同じでした。娘がいっぺんに片付くから、さすがに寂しいのかもしれません」
そして今、梅雨明けを迎えた七月初旬、二人の新居から毎朝出勤し、祐天寺の駅で待ち合わせて
帰宅する日々が二週間めに差し掛かった頃だった。
突然、突き付けられたのだ。
お互いに見ないように、知ろうとしないようにして来たことがあることに――――――。
鎌倉駅は土曜の午後だけに、初夏の暑さにも関わらず混み合っていた。
その日自分が遅れる為、彼女には先に、勤め先から鎌倉に行っていて貰い、駅で待ち合わせる
ことにした。
さすがにこの人混みでは、すぐには見つからない。
見回すと、見慣れた頭つきを見かけ、近づいて行こうと、歩きかけたときだ。
見慣れた、そして自分にだけ向けられると知っている、あの笑顔が、彼女の前に立つ、
自分以外の男に向けられていたのだ。
足が止まった。
「棚旗さんも元気で」
その男はやや名残惜しげに、彼女の前から去って行った。
彼女はしばらくはその方角に目をやっていたが、ふと自分を見つめる視線に気づいたのだろう。
こちらを見た。
「タタルさん!」
間違いなく、この笑顔は自分に向けられている。
「お疲れ様です。お客様は無事帰られたんですか?」
「……ああ」
今日帰り間際に、厄介な部類に入る客が来た為、待ち合わせが鎌倉になったのだ。
「今日はどちらに行くんでしたっけ?」
もうそこが定位置になっている、自分の左腕にするりと彼女の腕が差し込まれる。
しかし、それを受け入れることが出来なかった。
目を丸くして驚く彼女の表情を見て、自分の行動に気付く。
「江ノ電で行こう」
彼女が何かを察する前に、手を差し出す。
素直に彼女も差し出された手を握り、二人で江ノ電の乗り場へと歩いた。
「タタルさん、今日はどこのお寺へ?それとも神社ですか?」
いつもなら、行き先になる寺社の説明を移動中に済ませるのだが、今日はどうも
そんな気にならない。
何か胸の奥に、ズキリと突き刺さったように感じて、言葉なんか出なかった。
「…………」
彼女も察したのか、もう何も聞かないと決めたようだった。
窓の外の流れていく景色に、目をやっている。
こんなに自分の考えが、言葉にならないのは珍しかった。
何かの謎や疑問に突き当たっても、話すことで己を整理し、答えに行き着くことが多い。
(特に彼女相手なら)
なのに今日はその方法が取れない。
自分が何につかえているのかすら、わからない。
電車は稲村ヶ崎を過ぎると、車窓から水平線が見えるようになる。
海開きにはまだ早いが、沖にはサーフボードに乗った人影も見えた。
「あの…もし今日予定がないようでしたら、湘南海浜公園で降りませんか?」
彼女がそっと申し出た。
彼女の声音で、今まで自分があまりに不機嫌な様子でいることに気付いて、彼女の顔を見た。
「…そうしようか」
ほっとしたように、息をついてにこりとした彼女の表情を見て、またかすかに胸が痛んだ。
その小さな駅で降りると、かすかに潮の香が鼻をかすめた。
陽射しが日に日に強くなっていく頃だけに、もうすぐ4時になろうとしているこの時間が、
一番暑さを感じる。
些細な風が吹いても、肌に心地好く感じた。
海に向かって坂道を下る。心なしか、彼女の足が早まる。静かな住宅街を抜ける彼女の
足取りは軽い。
好きな道なのかもしれない。
出会って13年、それくらいは感じられるようになっていた。
新江ノ島水族館の建物とその後ろに江ノ島が見える。
歩道橋に登ると、驚いたことに右手の海の彼方に、富士山まで見えた。
「びっくりしますよね」
振り向いて彼女は言う。
歩道橋を降りて、道路から階段を下り、砂浜に降りる。
砂を踏みしめて、わずかに足の沈む心地が、何だか今の自分の心境に似合い過ぎて、
少しイライラした。
砂浜にはまだ海水浴には早いものの、海辺で遊ぶ親子連れや犬を連れた散歩の老夫婦、
なんと微かな風にカイトを揚げる人もいた。
「以前聞いたんですけど、あの凧、カメラが取り付けてあるんですって。なんでも富士山と
江ノ島、あと夕日を空から一枚に収める為に、毎日ここに来てるとか。でも夕方風が吹くと、
富士山に雲がかかって、難しいみたいです」
自分の視線からカイトに目が行ったことを察して、そんな話をする。
夏至が過ぎてまだひと月もたたない頃では、まだ日の光も目映い。
富士はその緩やかな稜線を、濃い青でくっきりと描いている。
江ノ島は間近に迫って、手に届きそうだ。
「成程。…君が此処を好きなのは、わかった。左手に弁財天、右手に木ノ花咲久夜媛。
なかなかなロケーションだな」
「なんでもわかっちゃうんですね」
「そんなことはない」
少し強い調子だったかもしれない。彼女が振り向いて、じっと自分の目を見つめる。
そろそろ限界が来ていた。
わからない不安への。
「君が欲しい」
「……………え?」
かすれた声は彼女の耳に届くのに、時間がかかった。
「な…にを言って…」
「帰ろう、奈々」
駅で待ち合わせてから、初めて彼女の名前を呼んだ。
「いいんですか?」
「……行こう」
我が儘なのはわかっていたが、一度こうと思ってしまうと、そこから軌道を変えるのは
何とも難しかった。
踵を返すと、先程降りた駅の方角へと向かった。
彼女は小さく首を傾げて、後に続いた。
家の鍵を開けて入る。後ろから彼女も続く。
「タタルさん、今日は疲れてたんですね。すみませんでした。無理に鎌倉に行かない方が
良かったですね。すぐ食事にするので、待ってて下さい」
帰り道中ずっと黙り込んでいた自分を気遣って、彼女はすぐエプロンを片手に、
キッチンへ向かおうとする。
「奈々」
「はい?」
背後からきつく抱きしめる。
「えぇ!タ、…タタルさん、どうし…」
彼女がこちらを向いた瞬間に、口づけた。
まるで噛みつくように。
「……ん…」
僅かに開いた隙間から、舌を差し入れる。抱きしめている体が、びくりと震えたのが
わかった。
舌で彼女の口唇をたどりながら、そのまま抱き上げようとすると、さすがに驚いた
らしく、力いっぱい自分の胸を押して、体を僅かに離した。
「な…何があったんですか?」
「……別に」
「本当ですか?今日のタタルさん、おかしいですよ」
頬は上気して薄く赤らんでいるものの、彼女はまだ冷静だった。
「別におかしくなんかない」
腰に回した右腕はそのまま、左手で彼女のブラウスのボタンに手をかける。
「えっ、ちょっ、まっ……」
軽いキスを繰り返して、次第に耳許から首筋へと移していく。
体を強張らせて微かな抵抗をしていた彼女から、ふと力が抜けた。
「タタルさん……ずるいです」
潤んだ瞳で見つめ返されて、もう止めることが出来なかった。
「俺はバカだな」
多分理由などわからないまま、ぶつけられた感情を彼女はそのまま受け入れた。
納得などしがたかったろうに、彼女は優しかった。そのぶん自分の最低具合が
際立って、大きなため息とともに、後悔も強かった。
「……タタルさん、怒らないで答えてくれますか?」
「保障の限りじゃない」
前髪をかきあげて、隣に横たわる彼女を見た。
「………もしかしてヤキモチ妬いてます?」
「………………何でそう思う?」
自分でも認めたくなかった。かの悪友がこの場にいたら(いても困るが)、この時点で
くしゃみしそうだ。
「鎌倉駅で見てたんですね?」
凛とした瞳で見返されて、もう降参するしかないことに気付く。
「あれは誰だ?」
「…高校の時の知り合いで、須藤真司さんです」
彼女は一息ついた。言葉を選んでいるのか、宙に視線をさ迷わせている。
「その…たまに会ってお茶を飲んだりしてました。…そう言えば彼もタタルさんのように、
歴史に興味の強い方で…、確か楠木正成の七…えーと」
「七生報国」
「そう、それです。その話をしたことも」
「…それで?」
「彼の友達に、やはりそのことに興味を持っていた方がいて、鎌倉宮に資料があると噂で
聞いて忍び込もうとしたらしいです」
「大胆だな」
それを聞くと彼女はクスリと笑った。
「タタルさんだって、やりそうですよ。……ただその噂を教えた須藤さんは、責任を感じて、
友達の後を付けたそうです」
「それで?」
「鎌倉宮の管理人さんに、友達が気付かれてしまって、後を付けていた彼は、咄嗟に手を
出してしまったんです。……ああ、もしかしたら小松崎さんが彼のことを知っているかも
しれません。彼、空手部でとても強かったみたいで」
「…管理人は亡くなった?」
「そうなんです」
「……全く君は呆れた事件体質だな」
「た…タタルさんに言われたくないです!五十嵐先生のことで、事件に巻き込まれたって
言ってたじゃないですか」
「あれは先生が事件を連れて来るんだ。俺じゃない」
「…そうやって逃げるんですね」
膨れっ面でこちらを見る。
「彼は過失致死の罪に問われたんだな?」
「ここからはわたしも噂でしか、知りませんでした。でも自分から警察に出頭して、少年院に
入ったと聞いていました」
ふと彼女は視線を反らした。
ほんのり頬が染まる。
「…話を聞くだけの相手ではなかったわけだ」
「わたしのせいだと思ってました。……彼が事件の話をした時、知らないふりをすれば良かった
所を、わたしは尋ねてしまったんです。彼を追いつめたのは自分じゃないかと、ずっと
思ってました」
少し悲しげに瞼を閉じた。
「彼はとうに出所して、今日はご実家に戻られていたそうです。…今結婚して二人もお子さんが
いるそうですよ」
ふっ、と小さなため息が漏れた。
-----それで彼女は、あの笑顔で彼を見ていたのだろうか。
もっと言いつのり、聞きたい気にもなったが、自分にはその資格がないことに気付いた。
彼女にもまだ全ては、話していない。
「この前外嶋さんが話してたこと、本当でした」
彼女は苦笑した。
「タタルさんのこと、場合によっては取り扱い注意の、劇薬だって。薬にもなるけど、扱いが悪い
と毒になるかもって」
「………………」
彼女はいつも職場で、そんな話をしていたのかと、ため息が出た。彼女の上司はかなりの
曲者だ。
言いえて妙だが、全てではないその言葉を、鵜呑みにされるのは困る。
「奈々くんなら、扱えるだろうなんて、おっしゃってましたけど。ちょっとびっくりしちゃいま
した」
「君がどう思っているか、知らないが俺は普通の男だ。----君の前に出ると、
つまらないことで嫉妬もすれば、慌てもする」
「わたしだってそうです。いつも…いつも不安です。…多分こうして一緒にいるようになって
からは、もっと」
「…………外嶋さんに聞いてくれても構わない」
「え?」
彼女がこちらを見つめた。
「外嶋さんは知ってる。何故俺が---」
「タタルさん。わたしはタタルさんが話したくなった時聞くって、もう決めてます」
きっぱりとした声だった。
「もうこだわりはない。けれどまだどこから話していいか、わからないんだ」
これすらただの言い訳に感じた。
「これから幾らでも時間はあります。きっと話すことがなくなるくらい」
彼女が微笑う。
あの笑顔で。
「君は勁(つよ)いね」
「……そんなことないです。いつもいつもヤキモキしてるのはわたしの方です」
彼女の前髪を指に絡めとると、顔を近付けた。
「例えば?」
「……それは…ってずるいですよ!わたしばかり話してる気が」
軽く口唇に触れると、言った。
「約束したね?」
「へ?」
「ここでは名前で、と」
「……………………」
…だから何故名前を呼ぶだけで、こんなに逡巡するのだろう。
「……やっぱりずるいです」
頬だけでなく、その滑らかな肌も薄紅に染まっていた。
「じゃあ、もう一度………」
彼女の耳に出来る限り、そっとささやく。
すると、彼女の腕がするりと首を巻き、自分の口唇に彼女の柔らかな口唇が触れた。
※はぁ~重かった(笑)
奈々ちゃんサイドから見た原作では、タタルさんは結構奈々ちゃん限定?で微笑んで
います。だからきっとタタルさんから見ると、奈々ちゃんも沢山微笑んでいるかな~と。
何気にあちこち続いちゃってます。すみません;;
さあ更新して逃げようっと。
PR
この記事にコメントする
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
リンク
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[01/22 Indy]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dell]
最新記事
(12/30)
(12/29)
(12/16)
(12/15)
(12/04)
最新トラックバック
プロフィール
HN:
森伊蔵
HP:
性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
ブログ内検索
最古記事
P R
忍者アナライズ
アクセス解析