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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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お久しぶりでございます
なかなか仕事以外でパソコンを開けない環境になりまして、今回はスマホからの投稿になりました。

読みにくいところがございましたら、後ほど直しますので、少々お待ちください。

前回からコメント頂き、ありがとうございます。
次回更新の際、返信させていただきます。

拍手[3回]


◆◆◆

早朝から、式場内の美容室、控室を行き来してようやく準備が終わったのは、昼前。もう正午になろうという時間だった。
昨日も一日リカさんの紹介で予約したエステサロンやネイルサロンで一日ケアを受け、夜になる頃にグッタリして、彼の実家のマンションに戻って来たのだ。
帰宅した私を見て、開口一番褒めてくれたのは彼の父親の空井元室長だった。
「郁さん、いつも素敵だけど、更に綺麗になったね。明日のドレス姿、楽しみだな。なぁ、蒼太」
リビングに入った時にこちらをちらっと見て、視線を他へ向けたままの彼に、空井元室長はニンマリと微笑んで、息子の彼を見た。
「……そうね」
彼は、僅かにこちらへ目を配り、また私の立つ反対側の壁に飾られたブルーの写真に視線を戻してしまう。
偶にある事だけど、私何かしてしまったかしら?
日本に帰国してすぐに、彼と一緒に私は静岡県藤枝市に向かった。教育隊のある静浜基地の近くに、彼が305飛行隊に所属していた頃の先輩が永眠している墓地があったからだ。
墓参を終えると、彼は私に向き合い、私に聞いてくれた。
「何処か行きたいところ、ある?まあ出来れば東京へ戻る方向が良いけど」
「美保の松原に行ってみたいです。HPで見た富士山が、とても綺麗で」
「んー、分かった」
その日一日、彼は何かひとつ荷物を下ろしたかのように、リラックスしていて優しかった。
だから東京に帰って、今日一日だけで視線を反らされしまう、その理由がよくわからない。相変わらず、私は猫のような彼の性格に振り回されている。
「素直に眩しくて見れないって言えば良いのに」
空井元室長はキッチンのカウンターから、彼の顔を見て苦笑していた。
「……親父じゃあるまいし」
「釣った魚ではないけれど、愛情も恋心もきちんと育てないと、なくなるぞ」
空井元室長の声が、笑顔に反比例して生真面目なものになった。
彼の両親は、お互いの仕事の都合からなかなか一緒にいられる時間が少なかった。恐らく、かなりの努力と思いやりがなかったら、夫婦を続けるのは難しかったに違いないのは、彼の母親のリカさんの話を聞いていても、良く分かる。
リカさんも話していたが、ひとえに夫婦でいられたのは、互いの仕事を良く理解していた時期があったからこそ、成り立ったそう。
空井元室長とリカさんの二人が彼を育てていたのは、世間では丁度働き方の改革や、育児や家事の男女間のバランスが問われていた時期だ。
一度どちらも二人で仕事が遅くなり、小さかった彼の保育園のお迎えに間に合わず、保育園の先生に二人並んで叱られたことがあったそうだ。
頭を下げるのが二人ならば、気持ちの負担も何故か半分で済んだとリカさんは笑っていた。
私は今日一日考えていた事を、思い決めて口にした。
「あの……、リカさんが戻られて食事が済んでからで良いのですが、皆さんと話したい事があるんです。お時間取って頂けますか?」
彼は初めてこちらを見た。
ばっちりと目が合ったのだが、慌てたように視線を反らしてしまった。
心なしか、彼の頬が染まってるように見えた。
「じゃあ、お茶の時間に。槇一尉の台湾土産のお茶があるから、飲んでみよう。東方美人っていう名前のお茶だよ」
「楽しみです。槇一尉はお元気ですか?」
「うん、広報室から異動してからは海外派遣の任務が多いね。何せ優秀だからね。隊としてはフルに働いて貰わないと」
ハキハキした槇一尉のキリっとした声が懐かしく感じた。
空井元室長が引退してからの空井家には、食事後にお茶の時間がある。
リカさんもテレビ局の仕事は、既に一線は引いており、以前からお世話になっていた上司が立ち上げた番組制作会社の手伝いをしている。偶に遅くなるが、お茶の時間には間に合うことが多く、この時間が空井家の一家団欒の時間になっている。
大抵ちょっとした果物と、緑茶や紅茶、コーヒーを淹れる。
台湾土産だというお茶の、何処か異国情緒ある香りがリビングに漂っていた。
お茶をひとしきり飲むと、皆んなの視線がこちらを見た。
「私、蒼太さんと一緒に那覇に行こうと考えています」
「郁ちゃん、ピアノはどうするの?」
「その事なのですが……、私の仕事はきっと何処に行っても、ゼロから始める気持ちがあれば続けられるので。那覇には米軍基地がありますから、音楽を演奏する機会が多いと聞いてますし、簡単に演奏だけの仕事ならありそうです」
「……軍人専門のバーで、ヤロウに囲まれてピアノ弾くのか」
彼は小さく息をついて、椅子の背もたれに背中を預けた。
「蒼太、ヤキモチで郁さんの仕事や気持ちを反対する程、子供じゃないよな」
空井元室長はニヤニヤと彼の顔を見た。
「心配してるだけだよ」
「その心配は不要な心配だね。郁さんは既にアメリカでもプレイヤーとして仕事している訳だし、少しオーディエンスの質が変わるだけだから。それだって誠実に熟せば、それなりに帰ってくるものがある、そうでしょう?郁さん」
「はい」
リカさんはお茶を飲んでいた、戦闘機をあしらったカップを置くと、頬杖をついて言った。
「正直勿体ないのよね。アメリカにいてこそ受けられる仕事があるし、折角築いた郁ちゃんのキャリアを考えると」
「………」
彼は俯いていた。
今は彼がどう考えているか、分かる。
けれども、だからこそ私は今、彼に伝えたかった。
「今は殆ど仕事はネットを通してのやりとりだけで、事が足ります。信頼関係さえあれば、年一回渡航出来れば、音楽を制作する仕事は問題なく出来ます。でも」
私は一口、2杯目のお茶を口にした。
「蒼太さんと一緒にいる時期を、今逃してはいけないと感じました。蒼太さんがこれから関わる任務……日本の防衛関連のニュースをネットでチェックするだけでも、どれだけ大変で危険のあるものか、よく分かりますから」
彼はそっと机の下に下ろしていた手で、私の指先に触れた。
「蒼太さんの為、ではなくて、私がそうしたいんです」
彼は折角触れた手を離して、はぁーっと大きな溜息をついた。
「俺は一生アンタに敵わないんだろうな」
隣をふと見たら、彼は微笑んでこちらを見つめていた。
「郁のしたいようにして。防衛省の事務方には、家族向けの官舎を準備してくれるように話す。まあ、もしかしなくても米軍のベース内に住むことになるかもしれないけれど、郁には却ってその方が良いかもしれない。隊の官舎は結構人間関係難しいらしいから」
「ありがとうございます」
「いや、俺の為、だから」
すると空井元室長がぷっ、と音を立て吹き出した。
「オトナになっても相変わらずワガママだなぁ、蒼太」
「今ワガママ言わずにいつ言うんだよ」
「これだから男は」
リカさんが肩を竦めてこちらを見た。
でも何処か嬉しそうだ。
彼と彼の家族がずっと待っていてくれたこと。
この日の夜の皆んなの表情を、私はずっと忘れないだろう。
控室で既にセットアップされた状態で、身動き出来ずに座っていると、軽いノックの音がしてリカさんが来た。
「まあ、郁ちゃん、良く似合ってる!正直蒼太がこのドレス選んだ時は、随分と気取ってるかなとちょっと思ったのよ。郁ちゃんなら、もっと華やかなドレスが良いと思っていたから。……男の目って侮れないわねえ」
表はスッキリとしてネックのあるデザインだが、背中は大きくV字に開き、開いた部分に大きな柄のレースがあしらわれているデザインだ。スカートはAラインで裾を長く引き、市ヶ谷のこのホテルのチャペルにも相応しいドレスだった。
彼は最初にさっさとこのドレスを選んだが、その後ハッとして、私に「郁の好きなヤツにして」と囁いた。
あの時の表情を思い出すと、今でも吹き出してしまう。イタズラの見つかった小さな男の子のようだった。
「郁ちゃん、ありがとう」
リカさんはいつもの真面目な表情だったが、声は少し震えていた。
「あのコの都合ばかりに貴方を付き合わせる事になってしまって。私は……大祐さんは自衛官だったけど、知り合った時にはもうパイロットではなかった。蒼太には話した事はなかったけれど、蒼太が航学に進む前に大祐さんは、本心では反対だったの。自分はある意味、パイロットでなくなったからこそ、今の幸せがあるかもしれないと言って。でもあのコ、私そっくりだし、思い込んだらバック出来ない性格だし、大祐さんも私も何も言えなかった。色々あったけど私たちは幸せだったと思うし、もし大祐さんがパイロットだったらどうだったか、そう考えると、貴方と蒼太のこれから先の事をつい思ってしまって」
リカさんはそっと小さな繊細な両手で私の左手を取った。
「蒼太の任務は、これから先のパイロット達が危険な事にならないよう、安全性をチェックする為のものだから……」
全く彼の未来に、一切口を出さなかった彼の両親だが心配でない筈が無いのだ。
「私たちはいつもあの家で、貴方たちに気持ちを寄り添わせていくつもりなの。だから、色々考えずに気が付いたり、苦しい時は必ず連絡して。貴方が蒼太のお嫁さんだからという訳ではなくて、一人の人間として、貴方に関わって行きたいから」
リカさんの目には涙が一粒光っていた。
「……ありがとうございます。リカさん」
私の実母は早くに亡くなっていた。
本当のお母さんがいたら、こんな風に話してくれたかしら。
ううん、きっとリカさんはリカさんだから、私に向かい合ってくれているのだ。
彼そっくりの目元に、私はにっこりと微笑み返した。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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著作権も一応手放してはいないので、
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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