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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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うわー、間に合った!
とりあえずお約束のオマケssだけUPしていきます。
でも鍵かけるほどの内容にならなかった…(^_^;)


小説は続き記事からです。



拍手[66回]




◆◆◆



雨は日付が変わると、また降りが激しくなった。
10月から雨量が少なくて、ニュースにもなっていたから、
これで少しは……などとこの場にはまるで関係のないことを、
ぼんやりと考えた。
彼の腕の中にいた。
彼――空井大祐の。
…温かな腕。
けれどその柔らかな表情には見合わない、
何か想い決めたような強い力で、
先程までわたしの身体を拘束していた。
「いつもそう思うけど…何度抱いても足りない。
 どうしてだろう、俺、そんなに欲張りだったかな?」
彼は普段は一人称を『僕』で話すのに、今夜は『俺』と言うことが多い。
何か思い余ると『俺』になるらしい。
彼は無意識みたいだけれど。
指が口唇が、身体のかしこに触れて、意識を翻弄されているうちに、
わたし自身は彼の存在で目一杯になる。
決して洗練された言葉ではないけれど、「慈しまれるってこう言うこと」だったと
改めて意識したぐらい、優しい熱を帯びた言葉が耳元に囁かれ、
わたしもそれに必死で応えた。
少し癖のある柔らかい髪を撫でると、彼は嬉しそうな表情になった。
「リカの手って、優しい。だからついもう少しってねだりたくなる」
何処か甘えたような、まるで子供みたいな表情(かお)。
わたしの中で果てる時、彼はかすれたような低い声を上げる。
こう言う時は大人の男の人なんだと、感じさせるのに。
そのアンバランスさに魅せられながら、
わたしは高鳴る鼓動を彼に知られまいとする。
ただでさえも――ふと空を見上げる時でさえ、
彼に意識を拐われてしまうわたしなのに、
こんな細やかな(ささやかな)ことでも自分は全て彼のものなのだと思ったら……!
何だか少し悔しい気がしてしまう。
目の前の彼はよく眠っていた。
…もしかしたら、あまり眠れていなかった?
確かにわたしは、ちょっと酷かったから。
初めからもっと素直に、彼の元へ飛び込んでしまえば良かったかもしれない。
その方が女としても可愛いげがあっただろう。
(昨夜はこの辺を阿久津さんに、散々お説教されてしまった)
彼を信じられなかったのではなく、わたしは自分を信じられなかったのだ。
今の仕事を離れた――プライベートの稲葉リカが、どれ程か。
わたし自身が全く解っていないのだから。
そしてそんなことに気付くようになったのも、彼と出会ってからだった。
 
 
 
眠る彼を残してシャワーを浴びた。
名残惜しいけれど、絵コンテの期限が迫っている。
今夜此処に彼がいるのは全くの予想外だったからだ。
資料や少し先に撮っておいた映像を観ながら、
今まで描いた分を突き合わせていたら、彼が起きてきた。
「それが戦時中の分の絵コンテ?」
「ええ。中島飛行機製作所のことを。戦中、戦後と分けて一時間ずつしかないから、
 あまり詳しくは出来ないし。難しくて」
「すごいね。僕らも訓練生の時に航空史の一つとして、教わるけど、
 結構ショックな内容が多いんじゃない?」
「阿久津さんがあちこちに許可を貰う為に、菓子折持って歩き回ってるわ。
 わたしたちじゃ、役不足みたいで」
「…少しお腹すいたね。頑張ってる未来の奥さんに、何か作ってあげようかな」
「奥さ…っ」
わたしがふいに出た言葉に顔を赤くしてるうちに、彼はキッチンへと消えて行った。
気が付くと横に紅茶の入ったカップが置かれている。
「ひどいね。冷蔵庫見たらお米と味噌と醤油しかない。
 きちんと食事も摂ってなかったんじゃ?今ご飯炊いてるから」
「……一応一日二食は食べてました」
絵コンテを描く手を止めて、カップの紅茶を飲んだ。
「…久しぶりに温かいもの飲みました」
「やっぱり僕がいないとダメだね」
ニコニコしながらこちらを見ている。
全くこう言う時の彼は単純なのか、局の通用口で会った時の張り詰めたような表情は
もう何処にもなく、すっかり満足した子供のようにわたしの側にいる。
いかにも嬉しそうだ。
わたしも笑顔で返せばいいのかもしれないが、気恥ずかしさが先に立って、
つい膨れ面になってしまう。
「あ、ご飯炊けた。リカの家、持ち主の割に炊飯器は高性能なんだよなあ」
「一言余計ですっ」
「今、美味しいもの作るから、怒らないで待ってて」
掌でポンポンとわたしの頭を撫でると彼はまたキッチンへと入って行った。
そして。
絵コンテに集中していたのだろう。
彼は何度か声をかけたようだ。
ハッと顔を上げると、優しく微笑って彼がこちらを見た。
「こちらへどうぞ。プロポーズ後のディナーには相応しくなくて、
 悪いけど…それはいずれ」
彼はダイニングテーブルを指差した。
乗せられていた資料は大分綺麗に整えられ、片付けられていた。
そしてテーブルに乗っていたのは…
「焼きおにぎり?」
「うん。辛うじて期限ギリギリの乾燥若布があったから、
 味噌汁も作ってみた」
白いお皿には程よい色に焼かれた、焼きおにぎりが六つ。
「…わたし三個も食べられません」
「そうかな?君、家ご飯だと食べっぷり違うし。
 それに僕も夕飯お預けで頑張ったから、お腹すいたし」
「がんばっ…」
思わずさっきまでベッドにいたことを思い出してしまう。
「え…」
わたしが顔を赤くした理由に気付いたのか、彼も赤くなった。
「……補給したら、また戻ってもいいけど。リカさえ良ければ」
「い、い、い、いただきますっ」
彼がごもごもと口ごもるのには答えず、
すかさず焼きおにぎりを一つ取って一口食べた。
お味噌の香ばしい味が口に広がる。
「美味しい…」
「………」
彼はじっとこちらを見た。
「な、何ですか?」
「信じられないから」
「え?」
「さっき、君の答えを聞くまでは、失敗すると解っていて行う訓練に
 突入する時のような気持ちだったから」
「…そんな風には」
見えなかった。
「また断られても諦めない気持ちではあったけど…こんなに嬉しそうな表情で
 僕が作ったおにぎりを食べる女性は、この先現れないだろうし」
「なっ…」
「良かった」
にっこりと笑う。
青い鮮やかに晴れた空を思わせる笑顔に思わず見とれそうになりながら、
またおにぎりにぱくついた。
 
 
 
何とか絵コンテを終えたのは、もう夜明けも直前の時間だった。
先に寝てていいと言ったのに、彼はわたしの横で資料として借りてきた
DVDを見ていた。
「大祐さん」
「…ん、ああ、終わった?」
「ええ、ごめんなさい」
「いや、いいよ。途中から面白くなって見てたし」
「…嫌じゃなかったですか?」
「多分、今も昔も戦闘機に乗ってた人は、最初から人間を撃ちたいと
 思った人なんか、いないね」
「ええ」
彼とかちりと目が合った。
「ごめんなさい――もう一度謝ります」
「え?」
「人殺しの機械だって言ったこと」
「…もう、それは」
「今回の仕事で、本当にそれは使う人間次第なんだって、そう思ったから。
 もし人殺しの機械…道具と言うなら、キッチンにある包丁だって、
 その辺の石や棒だってそうなるから…」
彼はわたしの頭をくしゃりと撫でた。
「ありがとう」
背中から彼の腕が回される。
彼にそっと寄りかかった。
「ベッドに戻ろう、リカ。少しでも寝た方がいいよ」
「…さっきは、こ、今夜は寝かさないって言ってた」
「あ…まあそれでもいいんだけど、君、これからまた忙しいんだろ?」
その問いには答えず、寄りかかったまま、瞼を閉じる。
「撫でてて下さい」
「…悩ましいリクエストだね」
彼は苦笑したけれど、ベッドでわたしを優しく抱き締めると、
ずっと背を撫でてくれた。
わたしはとても――小さな子供に戻ったような気分になる。
もう二人の間には何の障害もない。
そう感じる。
確かに現実的には色々な困難はあるかもしれないけど――きっと悩んだり、
ぶつかったり、譲ったり、思いあったり。
そうしながら乗り越えて行くのだろう。
そしてそれは何よりも嬉しい、楽しみなことなのだから。
先程、彼に抱かれた時、わたしは初めて彼に避妊具を着けないで欲しいと
頼んだ。
彼は戸惑っていた。
「それは…君がいいと言うなら俺が嫌な筈はないけど」
「多分…今日は大丈夫な日だし…その」
心境の変化を上手く伝える自信はなかったけれど。
 
 
 
目覚めるともう陽射しは午後のものなのが解った。
「…眩しい」
昨夜の雨は幻だったように思える。
「リカ、起きよう。それで親子丼食べに行こう」
「玉ひで?時間間に合わないかも」
以前に行った親子丼で有名な店に、彼は夢中だった。
わたしの部屋に泊まると時間が合えば必ずねだる。
先に起き上がった彼が、手をさしのべる。
わたしはそっとその手を握り締める。
――わたしの手は彼に繋がってる。
明るい光がカーテンの隙間からこぼれ、優しく二人に影を落とした。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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