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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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久しぶりのQEDでの更新です。

この内容で書けるのも八月いっぱいだぜ~と、喜びつつw
先生がタタルさんの喫煙ぶりについて『吸わずにはいられないことが
あったから』と書かれていたのを参考にして書いてみました。
海に降る雪 の続きになります。
この頃のタタルさんって、タタ奈々好きとしてはもどかしすぎて
書くといらいらするのよね(笑)

小説は続き記事からです。


拍手[12回]




◆◆◆

桜が舞い落ちている。
ひらひら、ひらひらと。
まるで空から星の欠片が剥がれ落ちるかのように。
窓の外を見るのが息苦しく感じて、ふと白衣のポケットを探った。
 
 
いつからだろう。
微かに耳に残る、あのひとの最後の聲。
『ごめんね』
それは自分の中の何かを苛むかのように、心の内に響く。
くしゃり、と煙草のケースをポケットの中で潰した。
先程レポートを書きながら、吸い付くしてしまっていた。
ひらひら、ひらひら。
桜の花は極力ならば見たくない花だった。
だと言うのに、この国に住む限り春になれば何処にいても、
嫌と言う程目にしてしまう。
初めて触れた女(ひと)も夜桜を嫌っていた。
今思えば無理はない。
妖艶そのものな夜桜は、あの女の宿世そのものだったから。
花が望んだ訳でもないのに、周囲にはあまりにも花を煩わせる者たちが
集まり過ぎた。
花は自ら全てを精算することを望まなければならない、
窮地に追い詰められたのだ。
 
 
あの女もあのひとも。
 
 
今では遠く、手の届かない場所にいる。それは彼岸と言っても
間違いのない処だ。
ひらひら、ひらひら。
指の隙間からこぼれ落ちていく、それを自分は止(とど)めようがない。
無力さとそれを感じることにすら飽いた倦怠感が、自分を取り巻く。
窓の外を見まいとすると、やはり吸わずにはいられず、
何ら有益なものを一切もたらさないと知りきっているその行為に浸る為に、
仕方なく研究室を出ることにした。
 
 
 
大学の外にあるコンビニに行くと、顔見知りがいた。
「あれ、タタルじゃんか。春休み中生きてたんだな」
「………」
熊のようにしっかりした体格、それに見合う張りのある声。
「…お前相変わらずのスモーカーだな」
三箱まとめて買った手元の煙草を見て、彼は言った。
「お前、もう二十歳過ぎてんだよな?良かったら飲みにいかんか?
 まさか初めて、じゃないよな」
「空手同好会の連中と一緒は断る」
「今日は俺一人だ。自主トレして気付いたら一人だった。
今から帰って夕飯食べるとなると、お袋がうるさい。付き合え」
熊のようなその男――小松崎良平はにやりと笑って、
こちらの返事も聞かずに店の外へ歩き出した。
昨年、とある事件がきっかけで知り合ったこの男は、以来何を思ったのか、
何かと自分に声をかけてくるようになった。
友人、と言う程互いのことは知らなかったが、
ある程度、行動パターンが読める程には気心の知れた間柄だ。
東横線を使い二人で渋谷に出た。煩わしい喧騒を、
小松崎は上手く抜け、一件のバーに入る。
「この店マスターと顔見知りだから、安く飲める。いいか?」
何の反対もせずに付いて来たのだから、今更否応はない。
半地下にある、その店は壁は煉瓦で覆われた、
アメリカン調な小さな店だった。
 
 
 
「なんだ、結構飲めんだな」
空いた一杯めのグラスを見て小松崎が言った。
「頭のイイ奴ってどっちか、だからな。
   やたら無茶に飲めるか、まるで下戸か」
「俺に言わせればお前たち、体育会系のが余程無茶だ」
「違いない」
小松崎もジョッキの底に残った生ビールをぐびりと飲み干した。
「まだ四月だってえのに、何か切羽つまった泊まり込みの実験でもあったのか、
    タタル」
「…レポートを書いてただけだ」
「そうかよ、そんな顔色にゃあ、見えなかったぜ。
    まだ明るいうちから、コンビニに堂々とボサボサ頭の幽霊でも
 出たのかと思った」
表情は能天気だが、それなりにこちらを気遣った言葉らしかった。
だがそれに答える術を持たず、グラスの脇に置いた煙草の箱から、
一本取り出す。
「漢方で健康になる為の研究してる奴が、
 ヘビースモーカーってのは大いなる矛盾だなあ」
呆れた表情でボーイの差し出したビールジョッキを受け取る。
「自分の健康の為じゃあないからな」
ライターで火をつけて、大きく呼吸(いき)をついた。
くらりと目眩を感じたような気がして、そしてある種の安心感が訪れる。
明かりを落としたバーは、自分の今の心境にはよく似合っていた。
自分も二杯目のギムレットを頼む。
「偶然会ったついでだから…お前にちょっと話してみようかと思ってよ」
珍しく隣の熊のような男は何かを思い出すような目をして、こちらを見た。
「妙な事件だったんだよな。まあお陰で自分が失恋したんだっつー実感も、
 薄かった訳なんだが」
似合わない単語を口にしながら、それでもこの男は自分の感情には
逆らわない性質(たち)だった。
飾らない言葉で、以前彼が出会した事件について話し始める。
 
 
 
それは待乳山聖天が関わった、かなり変わった事件だった。
事件そのものは解決を見たものの、当事者たちが
ひどく中途半端な気分のまま、
事件を後にしなければならなかったことがよく解る。
昨年陰陽師の孫だと言う、同じ大学の人間が関わった事件でも
そうだったが、小松崎は熊のような見た目にそぐわず、
こう言った事実関係を説明する時は見落としが少ない。
情報に感情の片寄りも少なかった。
 
 
 
「じゃあな」
自分はまた大学に戻る為、東横線のホームに向かう。
また時間があったら、付き合え、そう笑って熊のような男は去って行った。
渋谷駅は相変わらず雑多で、ごちゃついていて、
どうしてこんな窮屈な場所に人が集まるのか
不思議に思いつつも、やっとホームにたどり着く。
また少し。
ポケットの中身が恋しくなる。
大きな欠落。
そしてその欠落はもう埋まることはない――そう思っていた。
だから――。
無益と知り、満たされることはないと解っている行為に
没頭したくなる。
 
自分で考えることが重要。
 
彼の女(ひと)の言葉が、頭の奥で聞こえる。
自分で考えて、自分で選択した果てには。
何故、皆、彼の岸に去って行くのだろう。
 
 
 
大学の裏門を潜ったら、舞い落ちる花弁の向こうから、
淡い影が近寄るのが見えた。
彼方も気付いたようで、ペコリとお辞儀した。
確か、彼女は今年薬学部に入った新入生だ。
「こんな遅くまで実験ですか?お疲れ様です」
頭を下げて、春物のコートを翻して去って行く。
忘れ物か?
もう九時は回っている。
大学の周囲は街灯も少ない。
送って行くべきか?
そこまで考えて、自分の身なりでそんな言葉をかけたら、
余計に怪しいだろうと気付き、ただ見送った。
そうだ。
棚旗奈々だ。
名前を思い出して、ふと見上げると白とは言い切れない花弁が、
ひらりと手の中に落ちる。
 
今年ばかりは墨染めに咲け
 
そう毎年思って来た桜花(はな)を。
もしかしたら、自分の感じることのない優しさや愛しさが
秘められているのだろうか。
 
 
そう思った時、自分があんなに苛々と求めていたポケットの中身を、
忘れられていたことに気付いた。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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