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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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本日二更新になりました(^^ゞ


実は三月頃に書き始めて、放置してたSSなんですが、
今回の新刊を読んで、どうやらオチがつけられそう?な
感じだったので頑張ってみました。


先日upした『此岸の桜花』の頃のタタルさんと、
伊勢前のタタルさん、そして伊勢後のタタルさんの
心境の変化みたいなものが書けてればいいかなあ…と(^_^;)
ちと繋がり方がうまくなくてすみません。
このまま変化は出雲大遷宮につながる形を目指しました。


『QED flumen ホームズの真実』を踏まえております。
未読の方はご注意ください。


小説は続き記事からです。

拍手[12回]




◆◆◆



五月も半ば――大学時代の悪友、小松崎の依頼を受けて男二人、
列車で東北に向かっている。
何でも全国の仏像を狙った盗難事件が相次いでおり、
その盗品とおぼしき仏像が岩手県内の骨董商で売られ、
そのルートを探る為にあれこれと取材しているようだった。
自分にはその仏像の来歴や、ついでに取材するらしき平泉の中尊寺、
その周辺の歴史的な所を少し見て貰いたいとのことだった。
「やっぱ、奈々ちゃんも誘うべきだったなー」
ややうんざりした表情で、缶ビールのプルトップを引く。
今、郡山の駅を過ぎた所で昼の12時。
奴には少し早めの昼食の、食後のお茶代わりに過ぎない。
「タタル、お前きちんと週一禁酒続いてんだな。前に煙草止めた時も思ったんだが…
 こう言う所『だけ』はソンケーに値する」
「別に吸いたくて吸ってた訳でもないからな。吸う必然性がなくなっただけだ」
「相変わらず訳わかんねー。まあ、心境の変化って奴だろうなってのは、
 見てて判るけどな」
にやけた顔でこちらを見ながら、ほとんど熊のような面が言う。
「三月に奈良に行っただろ?あの後奈々ちゃんと二人で帰って、
 何もなかったのか?」
「何、って…」
 
二ヶ月前にやはり小松崎から頼まれて、奈良に出掛けた。
――その事件は偶々、中学時代の恩師の娘らしき女性が絡んだ事件で、
自分としては何とかしたい事件でもあった。
何故だか、余計なお節介を焼いたらしき小松崎が、
大学時代の後輩の奈々くんを誘っており、
自分としては『不本意ながら』一緒に旅をすることになった。
――ただ何故彼女が来たことが、そんなに『不本意』に感じたのか、
その時も今も答えは判らない。
「いつも通り――まあ、流石に奈良は一泊じゃ足りない。
 出来れば奈々くんに見せたい所はまだまだあったし…」
はあー、とあからさまに大きなため息が聞こえた。
あっと言う間に一本缶ビールを開けた彼は、既に二本目を手にしている。
「お前…無自覚なんだな」
「…は?」
「まあ、いいさ。こう言うのはタイミングがいるからな。
 お前も奈々ちゃんも肝心な所がずれてるような気がするから、
 運次第ってことなんだろーよ」
諦めたように缶ビールに口を付けて、ゴクリと飲み下した。
何やらこちらの為にあれこれと気を配っていてくれているようなのだが、
肝心の論旨が明確ではない。故に不用意な解答は避けるべきだった。
 
 
 
一ノ関で降りると、タクシーで中尊寺に向かう。
東京では既に初夏と言っても差し支えのない陽気だったが、
東北はまだ八重桜が満開の季節だ。
空気も春めいた薄紅色を思わせて、肩に当たる陽射しが心地良い。
「うーん、やっぱり奈々ちゃんを誘うべきだった」
隣で大きな体が伸びをする。
「フン、さっきから拘ってるのはお前の方じゃないか。
 確かに熊と二人でうっかり東北修験道の旅、
 なんて言うのは不粋極まりないが。
 沙織くんにでも声かければ良かっただろう」
「…実はつい最近、仕事でばったり会った」
中尊寺の参道は本堂が山の中腹にあるだけに、かなり急な勾配になっている。
少し前を歩く男は荒く呼吸(いき)をついた。
「…相変わらず元気だったが、忙しそうだったな。
 『ゴメン!なかなか連絡しなくて。でも姉は誘ってやって。
 いつも通りヒマだから』なんて言ってたが、うーん、何て言うか」
ぴたりと立ち止まって振り向いた表情は、珍しく気難しげに見える。
「ちょっと雰囲気変わってたな、沙織ちゃん。
 なんつーかこう、華やかになったって言うか」
呟いた声は思いの外低く、それ故彼の心境の複雑さを言外に匂わせていた。
「ああ言う風にどきりとさせられるのは、心臓に悪いな」
「………」
無自覚、と言うのなら、今のこの男こそ、無自覚だ。
成程、好奇心が強くてお節介な男だったから、
男女関わらず誰にでも親切だ。
故に関わりで言えば、同じ大学出身の奈々くんとも自分同様
『付かず離れず』な間柄が続いている。
だが似た者同士の共感なのか、奈々くんの妹の沙織くんとは
殊更馬が合っていたように思う。
いつだかは熊野に、こちらの旅行日程を追いかけてやって来たことがあった。
あの時の小松崎は満更でもないように見えた。
「奈々ちゃんはいつも同じ笑顔でそれがホッとするんだけどよ、
 沙織ちゃんはたまに心臓に悪い。
 顔は似てるのに、パーソナリティがあんなに違う姉妹も面白いもんだな」
再び登り始めた坂道に呼吸を切らせている。
自分も流石に大きく深呼吸した。
「何故心臓に悪いか考えたことはあるのか?」
「お前に言われたくねー、タタル。お前はないのかよ。
 心臓に悪かったこと」
「……」
「三月の旅行に奈々ちゃんが来た時、お前いかにも
 『心臓に悪かった』って表情(かお)してたぜ」
「あれは―――何考えたんだか奈々くんが来ることを、
 お前が何も言ってなかったから、少し…驚いただけだ」
「そうかい。それだけにゃ見えない表情(かお)してたけどな」
からかうように笑って、彼は「着いたぜ」と目指す金色堂を指差した。
 
 
 
熊つ崎の目的の調査はやや難航していた。
盗まれた仏像や仏具は普段、住職が通いでしか来ないような
辺鄙な寺のものだったようで、
被害にあった寺自身が盗品の全てを把握していないこともあり、
事件の全貌が見えにくい。
「あー、生き返った~」
旅館に着くと二人して、最初に風呂に行く。
そして大浴場から部屋に戻り、まずはグラスでビールを煽ると、
目の前の男は心底ホッとした表情だった。
「ま~、何かよくわからねえ事件だけど、お前に来て貰って助かったわ」
「…改めておかしなこと言うな。明日雪が降ったらどうする」
目の前の熊男はガハハと笑って、新たにビールをグラスに注いだ。
「なんつーかよ、こう、最近飲む時も一人が多いからな。
 何喋るって訳でなくとも、気心知れた奴と差し向かいで飲み食いするってだけでも、
 ホッとするんだよな。年かねぇ」
「………」
それは自分もまるで考えない訳ではなかった。
例えば三月の奈良旅行だ。
尤も自分としては、奈良行きは旅行ではなく、
もう少し切羽詰まった理由があった。
けれども宿に着いて、いつもの如く熊がいて、浴衣姿の奈々くんがいて、
そして今回は奈々くんの友人の妹がいた。
あの場にやや物足りなかったのは、セロトニン有り余る沙織くんの声だけで、
何やら事件を別にして、奇妙な安心感を覚えたのだ。
多分以前の自分だったら感じない――いや理解の範囲外だっただろう感情だ。
もしこれが、目の前の熊が言う通り、人として年を経たと言うことなのであれば、
自分はそれを悪い気でなく受け入れている。
「まあ、こんな仕事だとよ、家に帰れない日のが多いから、
 誰か待たせてるのも気が引けるしな。
 たまにしか顔合わせないのに家族ってのも、どうも空々しいし、
 こうたまに飲みなんかで顔合わせるのが、楽なんだよな」
熊つ崎は俯いてグラスを見つめた。
これまで自分が独り暮しをしていることを、意識したことなどなかった。
此岸に生きることを意識してから、
今いる住環境が一番自分にしっくりしていた。
一人でいることで、如何なるものにも合わせることなく、
自分の思うままに、感じたことを突き詰めていける。
だが、ある時からその『感じたこと』を聞いてくれる何か、
受け入れてくれる誰かが存在すると言うことが、
自分にとって必要とまではいかないものの、
欠かすことは出来ないものになって来ていた。
「タタル、今回は奈々ちゃん居ねえから、口数少ないな」
「いつもそんなに喋ってない」
「ハッハッ、まあそう言うことにしておくか。
 また秋くらいに旅行に出られるといいよな。
 四人でこうしていられるのも、いつまでかは解らないが」
「やけに感傷的だな」
「ん~、まあ、今日取材した寺が、やたら後継ぎいない寺
 ばっかりだったってのが、あるかなあ。
 ふとこれから十年後、自分はどうしてるだろう、
 なんて考えたもんだから」
「…十年後、か」
変わらないまま――などと言うことは有り得ない。
時間は残酷でもなく、美しくもなく、ありのままに変化して流れていく。
十年前の自分ならば、その『流れ』を自分以外のものと受け止めて、
一笑に伏したかもしれない。
しかし今は。
…ふと明るい柔らかな笑顔が脳裏に浮かび、どきりとした。
「…おい、タタル」
「…ん、あ、ああ」
小松崎が差し出したビール瓶の先に、グラスを向けた。
部屋の窓からは澄んだ五月の黄昏に、薄く佇む三日月が見えた。


 
◆◆◆


 
そしてやはり変化は訪れた。
自分としては、起きた事象をありのままに受け止めた結果だった。
「急ぎましょう、タタルさん。緑川さん、待ってます」
ふわり、と濃い紫色のジャケットを五月の夕暮れの風に靡かせながら、
彼女が振り向いた。
「多分初めのうちは、部外者などいなくても、問題にはならないさ」
横浜、山の手の石畳の坂道をゆったりと昇る。
折角の休みに、二人でいるのだから、
時間はもう少しゆっくりと流れてもいい。
彼女は少しふくれ面だ。
「また、そんな風に…あ、あの洋館でしょうか?素敵な建物ですね」
彼女は少し速足気味になって、建物の門へと向かって行った。
今の瞬間を楽しみたかった自分としては、
苦笑するしかないが、彼女の後からついて門を潜った。
 
 
 
だが変化のしようのないこともある。
彼女といれば、高い確率で事件は起きる。
出掛けてしまえば尚更だ。
だから、近頃二人で会うときは、明治神宮裏手にある
自分のマンションで、と言うことも多い。
毎週休日に彼女と出掛ける度に事件と遭遇すると言うのは
――流石に想像の範囲を越えるからだ。
それに今は二人でいる、彼女の存在が側にある、そのことに関心が強かった。
「緑川さん、益々素敵になりましたね」
緑川女史を見送り、カウンター席に座った彼女は、ブルームーンを注文すると、
少し少女めいた笑みを見せて、こう言った。
「…イギリスに行っていたのが良かったんだろう」
「そうですね…」
彼女がそっと俯くと、淡い菫色のカクテルが彼女の前に置かれる。
「……そのカクテルだけど」
「……ハイ」
膝の上にきちんと揃えられた彼女の指先に、そっと触れた。
「今日の話から、その色のカクテル…今夜は代々木まで帰る必要はないと、
 思ってもいいんだろうか?」
さっきの悪戯な微笑みに込められた意味を、自分なり考えてみた。
「え…それは」
「まだ行ったことがないから」
君の部屋に。
そう言おうとしたら、彼女に伸ばした指先を小さく握られた。
柔らかな温もりが伝わる。
彼女は真っ直ぐな瞳でこちらを見つめた。
頬は薄紅に染まっている。
どきりとした。
その表情の変化に。
そしてそれは確かなものとして、受け止めている自分にも変化は
あったのだと感じる。
「その…そんなつもりはなかったので、お部屋散らかってますけど」
耳をひそめて聞かなければ届かないような、小さな声だった。
「…カクテル、冷えてるうちに飲もうか」
彼女はもう一度伺うようにこちらを見て、握った手を静かに離すと、
カクテルグラスをそっと持ち上げた。
カクテルの中のレモンで作られた小さな三日月が、揺れる。
穏やかな変化に身を任せる心地好さを、今しばらく楽しみたかった。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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