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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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拍手ありがとうございます(*^_^*)

今週水曜には長女ちゃんの卒園式!
びっくりですね~、生んでから6年なんてあっつーまだ!

と、いう訳でもないのですが、タタ奈々の再会記念日の話を書いて
みました。
実は書き始めたのは昨年秋だったんですが、このほどようやっと
仕上がりました(^_^;)

小説は続き記事からです。

拍手[13回]


◆◆◆


10月も終わる頃、彼の家族とわたしの家族で
横浜のホテルで食事をしました。
―――結納の代わり、とでも言えばいいでしょうか。
初め彼の両親から正式な結納をしようと言う話もあったのですが、
特に仲人も立てないつもりでもあった為、
では互いの家族で顔合わせを、と言うことになりました。




「タタルさん、お母様似なんですね」
わたしはこれで二度目になる彼の両親との顔合わせですが、
今まで彼の口からは全く家族の話など聞いたこともなかったわたしは、
なんだか嬉しくなりました。
「背が高いのは親父似なんだけどね」
「目のあたりや、眉のキリッとしたところなんか、そっくりですよ」
微笑って彼を見ると、彼は若干口許をへの字に曲げています。
「今日は着物じゃなかったんだね」
何やら分が悪いと感じたのか、彼は話を反らしました。



わたしは今日の準備の為、昨夜は実家に帰りました。
妹の沙織も戻っていてとても久しぶりに、姉妹で布団を並べて寝ました。
「お姉ちゃん、明日振袖で行くの?」
「え、何故?」
「だって、結納でしょ」
「ただお互いに顔を合わせて、食事をするだけよ」
「それでもさ~。タタルさんは喜ぶかもしれないよ。
 いつもと違うお姉ちゃんが見られて」
「そんなこと…。タタルさん、ちっとも気付かないかもしれないじゃない」
わたしはなんだか気恥ずかしくなって、布団を口許まで引き上げました。
「まさか、いくらタタルさんでもそれはないでしょ。
 一度試して見ればいいのに。
 …例えば透けたパジャマとか、ヒモのパンツとか、試してみた?」
「ばっ…バカなこと言わないの!
 それにもう振袖なんて年齢(とし)でもないから、
 おかしいわよ。貴方も早く寝なさいっ」
「えー。面白いのになあ…」
妹は渋々布団を被りました。
大体どうして振袖の話が、パジャマや下着の話になるのかしら。
それは――確かに夏に二人で浴衣を着た時、
彼は特に何かを言った訳ではないけど、喜んでくれたようでした。
二人で向き合い、暮らすようになってから、
今まで知っていた彼とは違う点――彼が全くそう言ったことに
無関心ではないと言うことも、解ってはいるのですが、
それでも相変わらずのままの部分が殆どでしたから、
わたしもあまり深く考えずにきたように思います。
「メイド服まで着ろとは言わないけどさあ…」
妹はまだ何やら呟いています。
「明日は貴方も行くんだから、突然おかしなこと言ったりしないでね」
「お姉ちゃんこそ、タタルさんのこと、
 きちんと名前で呼ばなきゃダメだよ」
「わ、わかってるわよ」
思わぬ言葉で返されて、わたしは沙織に背を向けて、
寝たふりをしてる間にいつの間にか、本当に眠りに落ちていきました。



流石に日曜日とあって山下公園は人出が多く、
家族連れや、カップルが多く歩いていました。
会食も無事終わり、わたしたち―――わたしと彼は
元町から関内の方向に歩いています。
「このまま帰りますか?」
「いや、カル・デ・サックに寄って行こう」
彼は優しい眼差しでこちらを見ました。
「カル・デ・サックですか?ここから原宿は少し遠くないですか?」
ただ飲むためならば、横浜にも手頃なバーがあります。
「…君は」
彼は何か言い出そうとして、口唇をきゅっと噛み、
視線を海の方へと向けました。
「……あの、タタルさん?」
「いや、いいんだ。ただ今日はカル・デ・サックに行くことに、
 少し意味があるから…確かに家までは遠回りになるけど、いいかな?」
「はい。構いませんよ」
わたしは笑顔で返しました。



カル・デ・サックは初めて来た時と変わらず、
静かで居心地の良い店でした。カウンターには誰も居らず、
わたしたち二人きり。
そう言えば最初のうちは、彼とこうして座るのも、
何だかどきどきして落ち着かないこともあったっけ…。
今は…もし彼がわたしの右側に座っていなければ、
落ち着かない気持ちになるでしょう。

いつも通りホワイトレディにしよう、そう思っていたら、
彼の低い声が目の前のバーテンダーさんに告げました。
「ギムレット二つ」
多分わたしは目を丸くして彼を見つめていたと思います。
彼はわたしのそんな表情にも何処吹く風と言った風情です。
彼の大学卒業以来、二年ほど経って再会して、
しばらくはこんなこともありました。
わたしの注文なんかろくに聞かず、
オーダーしてしまう彼の遣り方に初めは戸惑いもあったのですが、
何度か繰り返されるうちに、それが彼なりの―――思い遣りと言うか
優しさであることが解りました。
何故なら、薦められるカクテルは文句なく美味しいものでしたし、
その日のわたしの気分や好み、行った店の得意なカクテルなどが
きちんと考慮されているものでしたから。

でも最近はそんなこともなくなっていたので、少し不思議に思いました。
淡い翡翠色のカクテルが目の前に運ばれて来ました。
「…乾杯しようか」
彼はわたしをちらりと見ました。
「ええ、今日はお疲れ様でした」
わたしもグラスを持って彼の方を見ます。
「……覚えてないか」
それは、もしお店に流れているのが静かなジャズピアノの音で
なかったら、かき消されてしまったような小さな声でした。
彼はカクテルを一口含むと、少し何か考えているような表情です。
「何か気になることでもありますか?」
わたしは口をつけようとしていたグラスを置きました。
「…冷たいうちに、飲んで」
冷たいカクテルは冷たいうちに。
それは彼のこだわりでした。
その為にバーに来るとカウンター席でなければ、納得しない程。


わたしはどことなく落ち着かない彼の雰囲気を感じながらも、
グラスに口を付けました。

「…美味しい」
この店に来ると必ず彼が頼むカクテル。
ライトに照された淡いグリーンの液体は光に反射して煌めいています。
彼の口許が微かに笑みを含んでいます。
「変わらないね」
「え?」
「最初にこの店に来たときも君はそう言う表情(かお)してた」
「そうですか?」
「そうだよ」
彼はグラスを置いてこちらを見ました。
彼のグラスにはもうギムレットは三分の一しか入ってません。
「…とても旨そうに飲んでた」
「だって本当に美味しいですから。…でも、そう言えばバーで
 こうして飲むようになったのは、タタルさんと再会してからかも。
 沙織とは居酒屋が多かったし、友達とは食事も兼ねてレストランへ行きますし。
 …自分の為にこうして目の前で作って貰ってカクテルを飲むのが、
 とても贅沢だなって思ったこと、あります」
社会人になって、彼と再会した日。
思い出してみれば、あの日は外嶋さんに頼まれて、
初めて行った薬剤師会の勉強会の日でした。
外嶋さんの話から、先輩薬剤師の方たちの話を、
あれこれ聞くことになるのだろうと多少の覚悟をしていたのです。
もし彼が来ると聞かされていなかったら、
わたしも引き受けるのをもう少し渋ったかも……。
「タタルさんに再会して、初めてこのお店に連れてきて貰った時も、
 最初に飲んだのがギムレットでしたね」
「君の好みや飲めるアルコールの量が解らなかったからね。
 …そしたら、あまりにも美味しそうに飲むもんだから」
「まあ」
「あれから君の言う『少し』は信じてない」
「そ、それはひどいです」
ふくれてそっぽを向くと彼は笑いました。
「大抵のギムレットはライムジュースが使われてる。
 レシピに砂糖なんかが使われてることもある
 ―――でもここは何も言わなくても、フレッシュライムで作られてる」
彼がふとテーブルに目を落とすと、わたしの携帯が鳴りました。
画面を見て―――驚きました。
「小松崎さん!」
彼もこちらを見ました。
「あー、奈々ちゃん!お久しぶり。
 時間が時間だから野暮な時にかけてたらごめんな」
「だ、大丈夫です。今、カル・デ・サックでタタルさんと――」
「…へえ、奇遇だな」
「?」
「俺、今パリにいるんだ。先週ロンドンから移ったばっかりでな。
 で、コジャレたカフェばっかりなんで、ついバーが懐かしくなって。
 昨夜カル・デ・サックのことなんかあれこれ思い出してたら、
 そうだって思いあたってな」
海外に仕事を移した小松崎さんは、相変わらず元気そうでした。
こうして声を聞くのは久しぶりです。
「タタルや奈々ちゃんとカル・デ・サックで再会したの、
 今日じゃなかったかな?」
「え…?」
「八年も経ったんだよな。いやいや。
 そうだ、奈々ちゃんたち、結納はいつだ?」
「今日だったんです」
「へえ、そりゃあ目出度いな。俺も電話かけた甲斐がある。
 …ところで前置きが長くなったが隣の無愛想な男に代わってくれ」
わたしは彼に携帯を渡しました。
「熊か」
目の前のグラスを飲み干すと、彼は携帯を受け取って
店の外へと出て行きました。




一人カウンターで待つ間、わたしは空いた彼の席を見ながら、
もしかしたらと考えていました。
店に来てから、いえ、来る前から彼は何か言いたそうにしていました。
『カル・デ・サックで再会したの、今日じゃなかったかな?』
小松崎さんの言葉が思い出されます。
彼もそのことを―――覚えてはいたでしょう。
記憶力はとてもいいのだから。
でも、そう言うことに拘るタイプではない気もします。


再会記念日?
本当に?



「熊の奴、海外でまで事件に首突っ込んでる」
少し疲れた表情で、彼が席に戻ってきました。
「しかも浮世絵のコレクターが絡んでるとか何とか。
 全く変わらないな」
「八年前は百人一首でした。あちらの窓側の席で。
 小松崎さんが賑やかにお店に入って来て」
「…………」
「八年前の今日だったんですね」
「……ああ」
彼はこちらを見ずに返事をして、お代わりを頼みました。
「―――あの日、勉強会に君が来るとは思ってなくて、
 熊つ崎と約束を入れてたんだ。
 君が外嶋さんの薬局に勤めてることは、
 東京に戻って薬剤師会の名簿を見て知っていたけど
 ……だからあの日少し遅れて、勉強会の会場に入った時
 君の姿を見て少し驚いた」
「外嶋さんに頼まれたのは一週間程前だったんです。急な話でしたから」
彼はちょっと皮肉げな笑みを口許に浮かべました。
「外嶋さんには…急な話ではなかったかもな」
「え?」
「…とにかく、京都に行った時も別れ際が慌ただしくて、
 君にはろくな挨拶も出来なかったから、
 会場で君を見かけた時は―――良かったと思ったんだ」
彼の声はとても低くて…少し照れてもいるようでした。
わたしは彼があの頃から―――わたしとの再会を少しは特別に
感じてくれていたこと、だから今日カル・デ・サックに来たのだと言うこと、
そのことがとても嬉しくなりました。


「わたしにももう一杯ギムレットを下さい」


八年前、わたしは彼のことを何も知らなかった。大学時代から続けて。
だから彼自身の気持ちを語る、数少ない言葉の裏側に隠された優しさや
気遣いに気が付かずに訝しく思うことも沢山あって。
今、二人でこうして並んでいることは、当たり前のようでありながら、
八年前を思い出すと、想像も出来ないようなことだったなあ、と感じて、
その気持ちはほんのりと温かいものでした。



二人で住むマンションまでの道。
秋も深くなった夜空は東京には珍しく澄んで、星が瞬いています。
わたしはいつものように、そっと彼の左腕に自分の腕を絡ませようと
手を伸ばしたら、彼の掌に自分の右手を優しくつかまれました。
「…これからまだ先は長いだろうけど」
彼の表情は暗くてよく見えませんでしたが、
わたしは何故だかとても嬉しい気持ちでした。
「こうやって記念日が増えていくんですね」
家までの道程がもう少し長ければいいのに。
マンションの灯りを見て、思わずそう考えてしまい、
わたしは小さく肩をすくめました。




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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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著作権も一応手放してはいないので、
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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