タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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カレーのお話、第6段!
おかげさまで今夜の夕飯はカレーですw
カレンダーの販売は11月20日から始めたいと思います。
後ですね、elementの再版が思わぬ早さで売れましたので、
その分でアクリルキーホルダーなんて作っちゃおうかな〜
なんて考えてるんですが、欲しい方どれくらいいらっしゃる
でしょうか?
コメントにその旨書いて下さいましたら10人集まったら
実行しようかなw
小説は続き記事からです。
おかげさまで今夜の夕飯はカレーですw
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その分でアクリルキーホルダーなんて作っちゃおうかな〜
なんて考えてるんですが、欲しい方どれくらいいらっしゃる
でしょうか?
コメントにその旨書いて下さいましたら10人集まったら
実行しようかなw
小説は続き記事からです。
◆◆◆
彼女からの、あまりに微かなそして可愛らしいキスで
始まったその一日は、いかにも四月らしい
よく晴れた穏やかな陽射しの一日だった。
薄井二尉がコピーした会議用書類をひたすらホチキスで綴じ、
フラットファイルに挟む作業で午前中は終わった。
午後は『入間ランウェイウォーク』の為のパンフレットの作成に入る。
この行事も今年60周年を迎える空自にとっては、大切な行事だ。
元々は馴染みのない基地の中を、見学して理解して貰おうとの
目的から始められたものだが、今ではネットを通じて広まり、
参加者も抽選となる人気の催しだ。
落選した方への返信ももれなく行い、あとは当日を待つのみとなる。
「マスコミからの取材も昨年よりは増えましたね」
薄井二尉がうず高く積まれたファイルを見ながら、
納得したように頷く。
「震災以来、自衛隊への関心は広まってるしね。
昨年はドラマにも空自が丸ごと出たりして、随分盛り上がったから」
「応募者も若い女性が増えましたよね!
自分も田舎の方から急に『自衛官ならぜひに』と言う女性がいて、
なんて見合いの話が来ました」
「そのお見合いは、受けたの?」
「うーん、聞いてみたら大企業でキャリア持ってる女性で。
関西の人だから、自分の異動に付き合わせるのは悪い気が……」
「……会って見る前からそんなこと言っても、
始まらないんじゃないかな?」
それぞれの考え方や在り方があると解っていたものの、
言わずにはいられなかった。
「そう言えば……空井一尉の奥さんはテレビ局の方だと聞きました」
「お、奥さ……いや、入籍はこれからなんだけど」
我ながら顔が赤くなってしまうのが解り、俯いた。
「式はどうするんです?」
「な、夏に。今、会場を幾つかピックアップしてる所で」
「ええ!今から間に合うんですか?大変らしいじゃないですか?
空井一尉なら、市ヶ谷の方面からも式に来る方いるんでしょうし、
場所、都内でしょ?」
「……彼女があまりそう言うこと興味がないみたいで。
もしかしたら、他人の結婚式をドキュメンタリーにする方が
興味あるかもしれない」
何せ彼女のワーカーホリックぶりは、そこに自分が惚れた原因の一つが
あるにしろ、一般女性の枠からは外れている。
今は……海上自衛隊の『カレー』に夢中だ。
あくまでカレーに、だ。
彼、じゃない。
昼に入り食堂で食事を終えると、那覇基地勤務の槙さんから
電話が入った。
「典子さんから聞いたよ……」
槙さんの声は、初めから同情的なニュアンスを帯びている。
「稲葉さんの担当が海野くんだ、って聞いた」
「……ええ。片山さんからも多少の噂は」
「彼、悪いヤツじゃないんだ。面倒見もいいし。
熱心だし、人当たりもいい」
そこまで聞いただけで、何やら心臓が痛い。
「ただ……これは空井一尉を見込んで話すことだから、
稲葉さんにもオフレコでお願いしたいんだけど……」
槙さんは言い出しにくそうに、それでも話し始めた。
「彼、以前は厚木に居たんだ。厚木の航空隊で戦術航空士だった」
「え……と戦術航空士、と言うと…」
確か海自の航空部隊にある役職で哨戒機や救難機に乗り込み、
現場で戦術的な判断を下したり、クルーの統括指揮を行う役職だ。
当然パイロットと共に航空機に搭乗する。
かなりのエリートだ。
そんな人材が何故総務職に当たる広報にいるのだろう?
いや、職務に上下はない。自分だって今はある種のプライドを持って、
広報の仕事を勤めている。しかし、職務にも向き不向きがある訳で、
やはり能力面が問われる職務の人材は貴重だ。
管理的な職務ならば尚更だろう。
「彼の家はお祖父さんの時代からの、筋金入りの海軍でね。
彼の父親は確か現役時代はパイロットだった筈。
それで彼もパイロット目指して防大に入ったんだけど、
確か目に少し障害があるとかで、パイロットにはならなかった。
でも熱心な男でね、剣道でも全国4位に入ったことがある」
「槙さん……何となく解って来ましたが、率直に質問します。
彼は何故広報官に?」
しばらく電話の向こうからは無言の反応が続いた。
海野如――。
この名前から引き出される反応は、皆あるラインで止まる。
ある地点で口を閉ざす。
今まで出された手掛かりを辿って、導き出されるのは……
「何か女性関係で揉めた過去でもある人物なんですか?」
「………隠せないよね、やっぱり」
槙さんは大きく息をついた。
「厚木にいた時、基地司令のお嬢さんが彼に夢中になってしまって、
9割決まっていたやはり佐官級の婚約者との縁談が壊れたって聞いてる」
「…………」
恋愛は個人の自由だ。
そこに職務を持ち込むのはフェアじゃない。
フェアじゃないが――彼は巻き込まれただけ……なのか?
「剣道部時代もやはり女性部員二人が、彼を廻って陰湿な争いになったって。
二人ともお互いに、付き合っていた彼氏は別にいたんだ」
「……それで略奪愛」
「彼自身はどちらの女性にも気持ちがなかったらしいけど。
そこは僕には詳しくは解らないんだ」
「でも……それなら、リカ、いや彼女は問題はな、」
そこまで言いかけて、赤くなってしまった。
これは――自惚れなのか。
『彼女は他の男性には目が向かない』筈。
いや、これは一度あの震災を挟んでも繋がり続けた、
男女と言うだけではない信頼関係の最たるものだ。
彼女とは、互いに行き違いもありながら、
それでも何処かで一つであろうとした、
心からの『想い』で結ばれている。
だから――
「たまたま典子さんは彼とは行き違いで、噂しか知らないんだ。
僕は彼が入部してきた時、心から典子さんが卒業してて
良かったと思ったから」
「え……」
彼女以上に柚木さん、今の槙夫人こそ鉄壁だろうに。
「人懐こくてね。男子部員からのウケだって決して悪くなかった。
ただあの熱心さで、教えてくれとか指導お願いしますとか
言われたら、女性で世話好きなタイプは間違いなくヤラれちゃうよね」
「…………」
「稲葉さん、大丈夫かな……」
すうっ、と身体から血の引ける音がした。
「槙さん、ありがとうございました。大変参考になりました。
あくまでも自分の任務は『専守防衛』だと考えております」
休憩室の前の廊下を渉外室長が通り過ぎるのが解り、
慌てて表情を取り繕い、電話を切りお辞儀をした。
花小金井の駅で西武線を降りると、彼女からメールが入った。
『もう少し詳しい話を聞けそうなので、二次会に参加します。
場所は新宿ですから、必ず10時までには戻ります』
「………」
スマホを思わず手から取り落としそうになった。
何だろう。
この100%自分に寄せられる信頼感は。
自分がヤキモチを妬くとか、彼女の外食を喜ばないとか、
そんなことは少しも考えていない。
いや、解っている。
彼女は仕事熱心なのだ。
今は海自のバラエティ溢れたカレーに、魅せられているだけなのだ。
カレーだ。
しつこいようだが、彼じゃない。
「…………」
不本意だったが受信リストからある名前を探し出し、押す。
「よお!空井くん。どーした?早くも稲ぴょんと喧嘩して
追い出されたか?ウチのベランダだったら寝かしてやってもいいぞ」
「片山さん!」
飛行機は滑走路を走り始めたら、大抵は――
「海自の広報官が二次会に使う店って、解りますか?」
「……ちょっと待ってろ。電話、一度切るぞ」
片山さんは思ったよりは真面目な声で電話を切った。
5分程すると――
「新宿東口の『房』って店だな。海自の市ヶ谷勤めの
男子女子で合コンする時に、よく使われる店らしい。
新宿なら、あまり上官とのバッティングも少ないし」
「『房』ですね。ありがとうございますっ」
「店のHPのURL、送信しとくな」
頑張れよ~と、まるで電話の向こうで手を振るような声で、
片山さんは電話を切った。
今から上りの電車は……10分後。
全く西武線はどうしてこう、次の列車までの間隔が長いんだ!
我ながら悪態を吐いて(ついて)いるなと思いながら、
足踏みして電車を待った。
片山さんの送信してくれた地図のお陰で、
店の前まではすんなり行くことが出来た。
出来た……が、果たして店の中まで迎えに行って良いものだろうか?
それは余りにも彼女に対しても、一般世間に対しても、
度を喪った行為に違いない。
「…………」
立ちすくんでいると、店のあるビルの階段から
聞き間違えようのない彼女の声が聞こえてきた。
「今日はありがとうございました、海野さん。
お話、すごく為になりました。以前就かれていた職務も。
同じ飛行機に乗ると言っても、様々な仕事があるんですね」
「いえ、稲葉さんがあまりに熱心なので、自分もつい。
オフレコでお願いします。あくまでもカレーが、今回のテーマでしょう?」
張りのある低い爽やかな声が聞こえた。
これがあの――
略奪愛で撃墜王で、基地司令のお嬢さんまで夢中にさせたと言う――
「海野さん、駅まで送らなくて大丈夫ですよ。
わたし、遅いの慣れてますし」
「ダメですよ、稲葉さん。万が一のことがあったら
その指輪の彼にも申し訳な……」
突然階段から降りてきた二人の姿が目の前に現れた。
彼女はやや紫のかかったローズピンクのトレンチコートを着ている。
朝、出勤した時と同じだ。
「だ、大祐さん?!」
「……え?!」
「…………」
しばらく三人の間に沈黙が流れた。
それを破ったのは、海野三佐だった。
「空井……大祐二尉、いや今は一尉かな。
確かブルーを目前にして、事故でP免になった『悲劇のパイロット』」
「今は入間基地渉外室に勤めさせて頂いています」
姿勢を正して、真っ直ぐ彼を見た。
「やっぱり稲葉さんの婚約者は君だったんですね」
それまでの爽やかさには似合わず、彼は少し翳りのある様子で微笑った。
「だ、だ、大祐さん、なんで……。
それに海野三佐も、大祐さんのことご存じだったんですか?」
「ええ、彼は海自でも航空機を扱う者の中では、
少し名前が知られてました」
「…………」
「未来のご主人が迎えに来られたなら、もうガードはいりませんね。
仕方ない。稲葉さん、今日は楽しかったです。
久しぶりに外部の方と忌憚なく話すことが出来ました。
明日からもまたよろしくお願いします」
海野三佐の端正な――自衛官として見ても、
余りに礼儀正しいお辞儀に、彼女も背筋をピンと伸ばした。
「此方こそ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
ありがとうございます。至らない点があると思いますがよろしくお願いします」
「……………」
黙って自分も一礼した。
「び、び、びっくりしました。大祐さん、どうしたんですか?」
「……市ヶ谷、市ヶ谷に用事があったから」
不本意だが嘘を吐いた。
「よくお店が解りましたね」
繁華街を西武新宿駅に向かい歩き始める。
彼女の小さな手を、思わずギュッと握りしめた。
このまま――今すぐこのまま何処かで二人きりになって、
彼女の所有権を確かめたいような衝動に駆られたけれど……。
「大祐さん、ありがとう」
「え?」
「心配して迎えに来てくれたんですよね?」
「……うん」
「確かに花小金井駅前、10時過ぎると真っ暗ですもんね。
良かった♪」
思い切り蹴躓きそうになったが、今日はこれで良しとして置こうと思った。
その代わり二人の為だけの話題を話し始めた。
「あのさ……結婚式なんだけど、場所そろそろ決めないかな?」
「そのことなんですけど、一つリクエストがあるんです……」
「え?何?もっと早く言ってくれたらいいのに」
「わたしも今日、父からメールが来て思い付いたんで」
「じゃあ、家に戻ったらバスルームでゆっくり聞かせて」
「――――!」
赤く染まった彼女の耳が、とてつもなく愛しく感じた。
彼女からの、あまりに微かなそして可愛らしいキスで
始まったその一日は、いかにも四月らしい
よく晴れた穏やかな陽射しの一日だった。
薄井二尉がコピーした会議用書類をひたすらホチキスで綴じ、
フラットファイルに挟む作業で午前中は終わった。
午後は『入間ランウェイウォーク』の為のパンフレットの作成に入る。
この行事も今年60周年を迎える空自にとっては、大切な行事だ。
元々は馴染みのない基地の中を、見学して理解して貰おうとの
目的から始められたものだが、今ではネットを通じて広まり、
参加者も抽選となる人気の催しだ。
落選した方への返信ももれなく行い、あとは当日を待つのみとなる。
「マスコミからの取材も昨年よりは増えましたね」
薄井二尉がうず高く積まれたファイルを見ながら、
納得したように頷く。
「震災以来、自衛隊への関心は広まってるしね。
昨年はドラマにも空自が丸ごと出たりして、随分盛り上がったから」
「応募者も若い女性が増えましたよね!
自分も田舎の方から急に『自衛官ならぜひに』と言う女性がいて、
なんて見合いの話が来ました」
「そのお見合いは、受けたの?」
「うーん、聞いてみたら大企業でキャリア持ってる女性で。
関西の人だから、自分の異動に付き合わせるのは悪い気が……」
「……会って見る前からそんなこと言っても、
始まらないんじゃないかな?」
それぞれの考え方や在り方があると解っていたものの、
言わずにはいられなかった。
「そう言えば……空井一尉の奥さんはテレビ局の方だと聞きました」
「お、奥さ……いや、入籍はこれからなんだけど」
我ながら顔が赤くなってしまうのが解り、俯いた。
「式はどうするんです?」
「な、夏に。今、会場を幾つかピックアップしてる所で」
「ええ!今から間に合うんですか?大変らしいじゃないですか?
空井一尉なら、市ヶ谷の方面からも式に来る方いるんでしょうし、
場所、都内でしょ?」
「……彼女があまりそう言うこと興味がないみたいで。
もしかしたら、他人の結婚式をドキュメンタリーにする方が
興味あるかもしれない」
何せ彼女のワーカーホリックぶりは、そこに自分が惚れた原因の一つが
あるにしろ、一般女性の枠からは外れている。
今は……海上自衛隊の『カレー』に夢中だ。
あくまでカレーに、だ。
彼、じゃない。
昼に入り食堂で食事を終えると、那覇基地勤務の槙さんから
電話が入った。
「典子さんから聞いたよ……」
槙さんの声は、初めから同情的なニュアンスを帯びている。
「稲葉さんの担当が海野くんだ、って聞いた」
「……ええ。片山さんからも多少の噂は」
「彼、悪いヤツじゃないんだ。面倒見もいいし。
熱心だし、人当たりもいい」
そこまで聞いただけで、何やら心臓が痛い。
「ただ……これは空井一尉を見込んで話すことだから、
稲葉さんにもオフレコでお願いしたいんだけど……」
槙さんは言い出しにくそうに、それでも話し始めた。
「彼、以前は厚木に居たんだ。厚木の航空隊で戦術航空士だった」
「え……と戦術航空士、と言うと…」
確か海自の航空部隊にある役職で哨戒機や救難機に乗り込み、
現場で戦術的な判断を下したり、クルーの統括指揮を行う役職だ。
当然パイロットと共に航空機に搭乗する。
かなりのエリートだ。
そんな人材が何故総務職に当たる広報にいるのだろう?
いや、職務に上下はない。自分だって今はある種のプライドを持って、
広報の仕事を勤めている。しかし、職務にも向き不向きがある訳で、
やはり能力面が問われる職務の人材は貴重だ。
管理的な職務ならば尚更だろう。
「彼の家はお祖父さんの時代からの、筋金入りの海軍でね。
彼の父親は確か現役時代はパイロットだった筈。
それで彼もパイロット目指して防大に入ったんだけど、
確か目に少し障害があるとかで、パイロットにはならなかった。
でも熱心な男でね、剣道でも全国4位に入ったことがある」
「槙さん……何となく解って来ましたが、率直に質問します。
彼は何故広報官に?」
しばらく電話の向こうからは無言の反応が続いた。
海野如――。
この名前から引き出される反応は、皆あるラインで止まる。
ある地点で口を閉ざす。
今まで出された手掛かりを辿って、導き出されるのは……
「何か女性関係で揉めた過去でもある人物なんですか?」
「………隠せないよね、やっぱり」
槙さんは大きく息をついた。
「厚木にいた時、基地司令のお嬢さんが彼に夢中になってしまって、
9割決まっていたやはり佐官級の婚約者との縁談が壊れたって聞いてる」
「…………」
恋愛は個人の自由だ。
そこに職務を持ち込むのはフェアじゃない。
フェアじゃないが――彼は巻き込まれただけ……なのか?
「剣道部時代もやはり女性部員二人が、彼を廻って陰湿な争いになったって。
二人ともお互いに、付き合っていた彼氏は別にいたんだ」
「……それで略奪愛」
「彼自身はどちらの女性にも気持ちがなかったらしいけど。
そこは僕には詳しくは解らないんだ」
「でも……それなら、リカ、いや彼女は問題はな、」
そこまで言いかけて、赤くなってしまった。
これは――自惚れなのか。
『彼女は他の男性には目が向かない』筈。
いや、これは一度あの震災を挟んでも繋がり続けた、
男女と言うだけではない信頼関係の最たるものだ。
彼女とは、互いに行き違いもありながら、
それでも何処かで一つであろうとした、
心からの『想い』で結ばれている。
だから――
「たまたま典子さんは彼とは行き違いで、噂しか知らないんだ。
僕は彼が入部してきた時、心から典子さんが卒業してて
良かったと思ったから」
「え……」
彼女以上に柚木さん、今の槙夫人こそ鉄壁だろうに。
「人懐こくてね。男子部員からのウケだって決して悪くなかった。
ただあの熱心さで、教えてくれとか指導お願いしますとか
言われたら、女性で世話好きなタイプは間違いなくヤラれちゃうよね」
「…………」
「稲葉さん、大丈夫かな……」
すうっ、と身体から血の引ける音がした。
「槙さん、ありがとうございました。大変参考になりました。
あくまでも自分の任務は『専守防衛』だと考えております」
休憩室の前の廊下を渉外室長が通り過ぎるのが解り、
慌てて表情を取り繕い、電話を切りお辞儀をした。
花小金井の駅で西武線を降りると、彼女からメールが入った。
『もう少し詳しい話を聞けそうなので、二次会に参加します。
場所は新宿ですから、必ず10時までには戻ります』
「………」
スマホを思わず手から取り落としそうになった。
何だろう。
この100%自分に寄せられる信頼感は。
自分がヤキモチを妬くとか、彼女の外食を喜ばないとか、
そんなことは少しも考えていない。
いや、解っている。
彼女は仕事熱心なのだ。
今は海自のバラエティ溢れたカレーに、魅せられているだけなのだ。
カレーだ。
しつこいようだが、彼じゃない。
「…………」
不本意だったが受信リストからある名前を探し出し、押す。
「よお!空井くん。どーした?早くも稲ぴょんと喧嘩して
追い出されたか?ウチのベランダだったら寝かしてやってもいいぞ」
「片山さん!」
飛行機は滑走路を走り始めたら、大抵は――
「海自の広報官が二次会に使う店って、解りますか?」
「……ちょっと待ってろ。電話、一度切るぞ」
片山さんは思ったよりは真面目な声で電話を切った。
5分程すると――
「新宿東口の『房』って店だな。海自の市ヶ谷勤めの
男子女子で合コンする時に、よく使われる店らしい。
新宿なら、あまり上官とのバッティングも少ないし」
「『房』ですね。ありがとうございますっ」
「店のHPのURL、送信しとくな」
頑張れよ~と、まるで電話の向こうで手を振るような声で、
片山さんは電話を切った。
今から上りの電車は……10分後。
全く西武線はどうしてこう、次の列車までの間隔が長いんだ!
我ながら悪態を吐いて(ついて)いるなと思いながら、
足踏みして電車を待った。
片山さんの送信してくれた地図のお陰で、
店の前まではすんなり行くことが出来た。
出来た……が、果たして店の中まで迎えに行って良いものだろうか?
それは余りにも彼女に対しても、一般世間に対しても、
度を喪った行為に違いない。
「…………」
立ちすくんでいると、店のあるビルの階段から
聞き間違えようのない彼女の声が聞こえてきた。
「今日はありがとうございました、海野さん。
お話、すごく為になりました。以前就かれていた職務も。
同じ飛行機に乗ると言っても、様々な仕事があるんですね」
「いえ、稲葉さんがあまりに熱心なので、自分もつい。
オフレコでお願いします。あくまでもカレーが、今回のテーマでしょう?」
張りのある低い爽やかな声が聞こえた。
これがあの――
略奪愛で撃墜王で、基地司令のお嬢さんまで夢中にさせたと言う――
「海野さん、駅まで送らなくて大丈夫ですよ。
わたし、遅いの慣れてますし」
「ダメですよ、稲葉さん。万が一のことがあったら
その指輪の彼にも申し訳な……」
突然階段から降りてきた二人の姿が目の前に現れた。
彼女はやや紫のかかったローズピンクのトレンチコートを着ている。
朝、出勤した時と同じだ。
「だ、大祐さん?!」
「……え?!」
「…………」
しばらく三人の間に沈黙が流れた。
それを破ったのは、海野三佐だった。
「空井……大祐二尉、いや今は一尉かな。
確かブルーを目前にして、事故でP免になった『悲劇のパイロット』」
「今は入間基地渉外室に勤めさせて頂いています」
姿勢を正して、真っ直ぐ彼を見た。
「やっぱり稲葉さんの婚約者は君だったんですね」
それまでの爽やかさには似合わず、彼は少し翳りのある様子で微笑った。
「だ、だ、大祐さん、なんで……。
それに海野三佐も、大祐さんのことご存じだったんですか?」
「ええ、彼は海自でも航空機を扱う者の中では、
少し名前が知られてました」
「…………」
「未来のご主人が迎えに来られたなら、もうガードはいりませんね。
仕方ない。稲葉さん、今日は楽しかったです。
久しぶりに外部の方と忌憚なく話すことが出来ました。
明日からもまたよろしくお願いします」
海野三佐の端正な――自衛官として見ても、
余りに礼儀正しいお辞儀に、彼女も背筋をピンと伸ばした。
「此方こそ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
ありがとうございます。至らない点があると思いますがよろしくお願いします」
「……………」
黙って自分も一礼した。
「び、び、びっくりしました。大祐さん、どうしたんですか?」
「……市ヶ谷、市ヶ谷に用事があったから」
不本意だが嘘を吐いた。
「よくお店が解りましたね」
繁華街を西武新宿駅に向かい歩き始める。
彼女の小さな手を、思わずギュッと握りしめた。
このまま――今すぐこのまま何処かで二人きりになって、
彼女の所有権を確かめたいような衝動に駆られたけれど……。
「大祐さん、ありがとう」
「え?」
「心配して迎えに来てくれたんですよね?」
「……うん」
「確かに花小金井駅前、10時過ぎると真っ暗ですもんね。
良かった♪」
思い切り蹴躓きそうになったが、今日はこれで良しとして置こうと思った。
その代わり二人の為だけの話題を話し始めた。
「あのさ……結婚式なんだけど、場所そろそろ決めないかな?」
「そのことなんですけど、一つリクエストがあるんです……」
「え?何?もっと早く言ってくれたらいいのに」
「わたしも今日、父からメールが来て思い付いたんで」
「じゃあ、家に戻ったらバスルームでゆっくり聞かせて」
「――――!」
赤く染まった彼女の耳が、とてつもなく愛しく感じた。
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HN:
森伊蔵
HP:
性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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