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「今日は湯豆腐にしようかな」
日曜日の午後のことです。
明るく陽は射しているものの、外は木枯らしで肌にあたる風はとても冷たい日でした。
「あ、でもネギがないわ。───タタルさん」
キッチンからリビングを覗くと、彼はソファに横になっていつものように本を読んでいます。
少々眠いのか、いつも眠そうな瞼がちょっとふさがり気味。
「あの、ネギがないので、駅前までお買い物に行ってきますね」
そっと声をかけると、彼はその眠そうな瞼をけだるげに持ち上げ、
ゆっくり体を起こしました。
「…良かったら俺が行こうか?」
ちょっとびっくりしました。
一緒に買い物に行くことはあるものの、彼が自分から『行こうか?』なんて尋ねたこと、
今までなかった。
「君、昨日仕事で遅かったし、今日も午前中は掃除してて忙しかっただろう。」
ソファからやっぱり物憂げに立ち上がると
(背が高いから、殊更動くのが億劫そうに見えるのですが)、
彼はジャケットを羽織って玄関に向かいました。
「あ、待って、タタルさん。お財布とエコバック」
わたしはあわてて彼を追いかけました。
「あのネギと、春菊もお願いします。駅前のスーパーが安いですが、
酒屋さんの隣の八百屋さんも覗いて見てください」
わかった、と一言答えて彼は出かけて行きました。
「ふう」
タタルさんにお買い物を頼むのは初めて。
何だか初めて沙織にお使いを頼んだとき、母がやけにおろおろと心配していたけど
(そして母の心配通り、案の定寄り道をしていました)、
なんだかそれが少しわかるような気がします。
わたしはお茶を淹れて、ダイニングの椅子に腰かけました。
───そして一時間。
「…いくらなんでも遅いよね」
駅前の商店街まで、このマンションからは歩いて10分かからないくらいです。
…そう言えば酒屋の隣の八百屋さんは、書店の向かいでした。
彼は携帯を持たないし…。
「迎えに行ってみようかな」
わたしは立ち上がってエプロンを外しました。
駅前の商店街は日曜の午後、と言うこともあって、混雑していました。
まず通りすがりのスーパーを覗きましたが、当然と言うか彼の姿はありません。
そこで、絶対此処にいるだろうと考えていた書店に向かいました。
彼のいつも立っている姿を見かける、ビジネス書の隣の歴史や趣味の
関係の本の並んだ棚の列を伺うと……彼の姿はありません。
「………」
一応文庫本のコーナーや理系の薬学関係の本の並んだ棚の辺りも
見てみたのですが、やはりいないようです。
「八百屋さんに一時間もいるのも、おかしな気がするし…」
それでもわたしは道路を挟んで向かい側の八百屋さんに向かいました。
…とふとガラス越しに隣の酒屋さんに見慣れた、背の高い後姿を見かけました。
「タタルさん!」
「おやおや、奥さんのとこの旦那さんだったのか」
時折立ち寄る酒屋さんのご主人は、茶色い縁のメガネを軽く持ち上げて、
わたしを見ました。
……まだ『奥さん』じゃないんですけど。
「置いてある日本酒のことあれこれ聞かれて話してたら…彼詳しいねえ。
なのに洋酒にまで詳しいからつい話し込んでしまったよ。
ほら、奥さん、心配して迎えに来ちゃった」
彼はついさっき別れたかのような表情でこちらを見ました。
「奈々、今日沢ノ井の新酒が入荷したらしい。
湯豆腐には合うだろうし、買っていかないか?」
「………いいですよ」
「ところでタタルさん、ネギと春菊は?」
お店を出ると彼が手ぶらなのに気が付きました。
「………これから」
彼のあんまりにも気まずそうな表情を見て、わたしは思わず吹き出してしまいました。
「じゃあ、八百屋さんに寄りましょう」
新酒の四合瓶をぶら下げたのとは、反対の手でわたしの手をそっと取った彼の手を、
わたしもそっと握り返しました。
空を見上げると、青空だった先ほどまでとは違って、
薄桃色の鮮やかな夕焼けが広がっていました。
◆◆◆
そろそろ長女に『初めてのお使い』をさせようと頭をひねっています。
近頃の世情と交通事情を考えると、まだちょっと幼いウチの
お姉ちゃんをお使いに出すのは心配なのですが(^_^;)
我が家の近所は向かいがブック●フでその先信号を渡ったところにコンビニがあります。
コンビニの店員さんは、ウチの長女をよく知っているので、
あらかじめ『初めてのお使いにこちらを利用してもいいでしょうか?』とお願いをしてあります(笑)
それにしても男の人にお使いを頼むと、何故か余計な買い物をしてくるか
おかしな道草をしてくることが多いです(笑)
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一切関係がありません。
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著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;