タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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拍手ありがとうございますm(__)m
明日からいよいよ学校が始まりますね~。
我が家も新一年生がいるので、親まで一緒にドキドキです。
以前書いた『なごり雪~SideT~』の続きになります。
小説は続き記事からです。
明日からいよいよ学校が始まりますね~。
我が家も新一年生がいるので、親まで一緒にドキドキです。
以前書いた『なごり雪~SideT~』の続きになります。
小説は続き記事からです。
◆◆◆
京都は盆地ゆえか、秋が深まり始めると途端、
空気が張りつめたように冷え込んで来る。
今日は朝から、しとしとと雨が降り続けていた。
今もバーの小さな窓から見えるのは雨に滲む光に、
仄かに照らされた町並みだった。
「桑原さん…今日は何やら苛々してますね?」
この店に来るようになってからもう半年にはなる。
カウンターの向こうで、いつもの顔馴染みで同年輩の
バーテンダーが苦笑していた。
「……そうかな?」
「桑原さんは此所へくる時は、煙草よりは酒の量のが多いですからね。
なのに今日は」
彼の目線は自分の斜め前に置かれた、灰皿に向けられていた。
確かに手持ちの一箱がそろそろ底をつく。
「珍しくギムレットもあまり減ってらっしゃらないようですし…」
「………」
冷たいカクテルは冷えているうちに。
それが礼儀だった…はずだ。
「お手許の本も先程からページが変わってないように、お見受けしますよ」
平将門と神田明神についてかかれた文庫本は、中程で開かれたまま、
主がページを捲るのを待ち続けていた。
ため息が出た。
そうだ。
確かに最近自分はある一つの考えに囚われている。
「…ありえないようだが、これも一つのホームシックとでも言うべきかな?」
目の前のバーテンダーに話す、と言う訳でもなく呟いた。
「こちらにいらしたのは、今年の春でしたっけ?」
「…ああ、そうだ」
まだ春とは言えない空気の東京を去ってから、まだ一年も経っていない。
ホームシックには早すぎるし、この街にはまだまだ自分の関心の
強いものが沢山あるはずだった。
職場にも自分の希望以上の仕事があり、上々と言える毎日なのだ。
それがどういう訳だろう。
秋の声を聞いた途端、どうにも周りにあるものでは埋められない
喪失感が襲って来た。
初めは記憶の底をさらうような風が、幽かに吹き抜けた感覚を
受けただけだった。
それが気付いてしまうと、その風の吹き抜けた部分だけが奇妙に冷たく、
そして言葉にはしにくいような引っ掛かりを覚えた。
探しても見つからない。そんな感覚だ。
――――秋。
四年前の原宿駅の改札だった。
「あの…わたし困りますから」
確かに声の主は言葉通り困惑しているようだ。
しかしそんな甘い声音では、目の前の男は付け上がるばかりだろう。
……それにこの声。聞き覚えがある。
「やあ…君は」
振り向いたのは一学年年下の棚旗奈々だった。
あれから大学に出ていれば、ほぼ毎日彼女からの挨拶の声を聞いた。
偶然、それとも必然だったのか彼女が自分と同じサークルに
入ってからは、休みの日以外は必ずと言って良かった。
朝ならば「おはようございます」から始まって、
「こんにちは」と続き、「さようなら、また明日」と、
それは律儀に続けられていた習慣だった。
優しい笑顔と共に。
だが、だからと言って彼女が自分を特別扱いしている訳ではない。
彼女は挨拶もあの彼女特有の笑顔も、周囲に惜しみ無く向ける。
それ故、彼女の周りでは誰もが息をつく。
薬局の薬剤師になるつもりだと言っていた。
彼女には向いているだろう。
どんな立場でどんな病の者でも、彼女からあの笑顔を受け取ることが
出来るのだ。
もうぼちぼち就職先が決まった頃だろうか。
「東京に帰られるおつもりで?」
「……いや、そんなことは」
ふと視線を反らして窓を見た。雨はまだ降り続いている。
「まだこちらで勉強しなければならないことが多い。
それに帰る理由もないよ」
そう、生まれ育った地に執着はないつもりだ。
「…理由ですか?それは――まあ」
カウンターを挟んで向かい側で、彼はにっこりと笑った。
「会いたい人でもいらっしゃるのでは?」
「……東京はそんなに遠くない。会おうと思えば誰だって会えるさ」
「そうでしょうか?でもそんな遠くないと仰る距離が埋め難い相手、
と言うのもあるかもしれませんよ」
「そんな相手がいたら、此所へは来ていないよ」
小さく苦笑した。
京都行きを告げた相手は誰もが淡々としていた。
元々『いつも居所不明、ないしは連絡がつけにくい人物』として
周囲から認識されていたから、就職先が関西に決まったくらいで
驚く者はいない。
ただ一人―――自分が東京を離れることを告げられなかった相手はいた。
―――棚旗奈々だ。
彼女には何故か最後まで、自分の口から京都行きを話すことが叶わなかった。
やっと二杯目のギムレットを飲み干すと、目の前のバーテンダーを見た。
「ホワイトレディを」
「珍しいですね」
彼は微笑って、注文の品を作り始めた。
何故か白衣を着た彼女を思い出させるカクテルが、カウンターに差し出された。
翌日は澄んだ空気が青く見える程晴れていた。
昨夜居候している叔母の家に戻ると、ある決意とともに一通の書状を
書き上げた。
それは退職願いだった。来年三月で退職するつもりで書いた。
一度思い付いたら、居てもたってもいられない気持ちになった自分に、
我ながら驚いたが、いざ覚悟を決めてみると、
それは自分の想いに、何の矛盾もなく馴染んだ。
昨夜まではぽっかりと空いていた穴は、
何か奇妙な期待で埋められ始めていたのだった。
そして一年後の秋。
目黒区の薬剤師会の研修会に来ていた。
少し遅れて入った会場の前列に、彼女――棚旗奈々の姿を見かけた。
二年六ヶ月ぶりだが、全く変わっていない。
それでも大学生の頃より少し大人びた彼女の横顔を見て、
何か今まで零れ落ちていたものが、自分の手元に戻ったような気分になった。
「こんにちは。お久しぶりです!」
懇親会の会場で、彼女は迷わずこちらに向かって来た。
彼女特有のあの笑顔で。
そして何処かしら満たされたような気分になる。
「三年ぶりですね」
また笑う。
この笑顔は、
「二年六ヶ月ぶりだ」
少し驚いた表情の彼女に、一つ気が付いた。
彼女は今、自分の古くからの知り合いで大学の一応先輩にもあたる、
外嶋一郎氏の経営する薬局に勤めていた。
今の薬局に勤め始めて薬剤師会の名簿を見た時は、少なからず驚きはしたが。
そして今日。
彼女が此処にいると言うことは――
「外嶋さんは?」
「…今日オペラの予定が入ってたとかで。ええと、カルロス・クライバーの」
確かに彼のクラッシク好きは、『バカ』の範疇に入る。
しかしオペラの東京講演は今日一日ではないはずで、
彼はその辺の日程調整が出来ないような人物ではない。
「…俺もそうすればよかった」
と答えつつ、何やら今日彼女と再会したのは偶然と言う名の
神のせいばかりではない感じも受けながら、決めた。
彼女の後ろから、先程から彼女に話しかけたそうに近寄って来た人間の
幾人かを見定めて、煙草を揉み消す。
「こんな所にいつまでいてもつまらない。抜けよう」
「え?」
「もう今日の仕事は果たした。飲みに行こう」
彼女は目を丸くしていたが、今日を設定したのがどんな神であれ、
今日の彼女との再会にあまり面識のない他人に、邪魔をされたくない。
気を遣う性質(たち)の彼女は、周りに気を配っているだけで
時を過ごしてしまうだろうから。
だから、彼女を連れ出した。
それがどんな気持ちから由来する決定だったか、自分でも気が付かずに。
「京都の薬草園研修旅行?」
店の閉店作業を終えて裏口から出た途端、
そこにいる訳のない人物で『人生の先輩』とやらに捕まった。
「外嶋さんと一緒に京都に行くんですか?
迷惑ですね。だいたい貴方と一緒では飲みに行けない」
「フン、こちらが下戸だからと言って遠慮するような
お前じゃないだろう。それに行くのはぼくじゃない。奈々くんだ」
「!」
「まだ彼女には話してないがね」
「相変わらず勝手な人だな。今度は何です?
ウィーンフィルの東京公演は先日終わったばかりでしょう」
四月、五月は確かにクラッシクの演奏会は多いが、
そんなことを言っていたら彼は一年中彼女に仕事を押し付けなければならない。
「研修会はどうせすぐ終わるんだ。一年住んで土地勘もあるんだし、
案内してやったらどうだ?」
「……子供でもないんだから、見たい所があったら自分で行くでしょう」
「ふうん、見たい所ね。それこそお前の守備範囲を考えたら、
何だってたった一年で京都からこちらに帰って来たのか、
不思議なんだがな。まあ、いい」
「………」
「とにかくウチからは奈々くんが行く。
ぼくの義務はこれで終わりにさせて貰おう」
言いたいことだけ言い終えると、彼はさっさっと踵を返した。
一体何が言いたいのか解るような、解らないような…。
しかし翌日、店主から問われた時には、迷わず参加の返事をした。
老獪な人物にうまく嵌められたような気もしたが、
三日後に来た彼女からの電話で、仕方なく嵌められてもみよう
と言う気分になって来た。
彼女はどうやら面倒なことに巻き込まれつつあるらしい。
――手助けの必要がありそうだ。
車があった方がいいだろうか?そんなことを思いながら、
関西行きの準備を始めた。
研修会には出ずに(正確に言えば今日だと言うことを忘れていた)、
岡山で気になっていたことを調べると、車で京都へと向かった。
これだけの距離を走らせるのは久しぶりだ。
生真面目な彼女は少し膨れ面で、研修会に出なかった自分を
待っているだろう。
その表情(かお)を想像して思わず笑みがこぼれる。
一昨年まで京都にいた時、あの街に自分が誰かといることを想像しただろうか。
無くしたパズルのピースを、ふいな場所から見つけて嵌めた
――そんな感覚だ。
そう気付いた時、京都に一人でいた時、
自分が何かに必死で目を背けていたこと
―――もしかしたら気付かない何かから、
逃れようとしていたらしいことに気付かされた。
そして逃れた何か――から自分は、今では逃れるのを止めていたことも。
そして、それは自分にとって喜ばしいことらしい。
ほんのりと温みを感じる心持ちの向こうに、
あの柔らかな笑顔がほの見えて、思わずアクセルを踏んだ。
京都は盆地ゆえか、秋が深まり始めると途端、
空気が張りつめたように冷え込んで来る。
今日は朝から、しとしとと雨が降り続けていた。
今もバーの小さな窓から見えるのは雨に滲む光に、
仄かに照らされた町並みだった。
「桑原さん…今日は何やら苛々してますね?」
この店に来るようになってからもう半年にはなる。
カウンターの向こうで、いつもの顔馴染みで同年輩の
バーテンダーが苦笑していた。
「……そうかな?」
「桑原さんは此所へくる時は、煙草よりは酒の量のが多いですからね。
なのに今日は」
彼の目線は自分の斜め前に置かれた、灰皿に向けられていた。
確かに手持ちの一箱がそろそろ底をつく。
「珍しくギムレットもあまり減ってらっしゃらないようですし…」
「………」
冷たいカクテルは冷えているうちに。
それが礼儀だった…はずだ。
「お手許の本も先程からページが変わってないように、お見受けしますよ」
平将門と神田明神についてかかれた文庫本は、中程で開かれたまま、
主がページを捲るのを待ち続けていた。
ため息が出た。
そうだ。
確かに最近自分はある一つの考えに囚われている。
「…ありえないようだが、これも一つのホームシックとでも言うべきかな?」
目の前のバーテンダーに話す、と言う訳でもなく呟いた。
「こちらにいらしたのは、今年の春でしたっけ?」
「…ああ、そうだ」
まだ春とは言えない空気の東京を去ってから、まだ一年も経っていない。
ホームシックには早すぎるし、この街にはまだまだ自分の関心の
強いものが沢山あるはずだった。
職場にも自分の希望以上の仕事があり、上々と言える毎日なのだ。
それがどういう訳だろう。
秋の声を聞いた途端、どうにも周りにあるものでは埋められない
喪失感が襲って来た。
初めは記憶の底をさらうような風が、幽かに吹き抜けた感覚を
受けただけだった。
それが気付いてしまうと、その風の吹き抜けた部分だけが奇妙に冷たく、
そして言葉にはしにくいような引っ掛かりを覚えた。
探しても見つからない。そんな感覚だ。
――――秋。
四年前の原宿駅の改札だった。
「あの…わたし困りますから」
確かに声の主は言葉通り困惑しているようだ。
しかしそんな甘い声音では、目の前の男は付け上がるばかりだろう。
……それにこの声。聞き覚えがある。
「やあ…君は」
振り向いたのは一学年年下の棚旗奈々だった。
あれから大学に出ていれば、ほぼ毎日彼女からの挨拶の声を聞いた。
偶然、それとも必然だったのか彼女が自分と同じサークルに
入ってからは、休みの日以外は必ずと言って良かった。
朝ならば「おはようございます」から始まって、
「こんにちは」と続き、「さようなら、また明日」と、
それは律儀に続けられていた習慣だった。
優しい笑顔と共に。
だが、だからと言って彼女が自分を特別扱いしている訳ではない。
彼女は挨拶もあの彼女特有の笑顔も、周囲に惜しみ無く向ける。
それ故、彼女の周りでは誰もが息をつく。
薬局の薬剤師になるつもりだと言っていた。
彼女には向いているだろう。
どんな立場でどんな病の者でも、彼女からあの笑顔を受け取ることが
出来るのだ。
もうぼちぼち就職先が決まった頃だろうか。
「東京に帰られるおつもりで?」
「……いや、そんなことは」
ふと視線を反らして窓を見た。雨はまだ降り続いている。
「まだこちらで勉強しなければならないことが多い。
それに帰る理由もないよ」
そう、生まれ育った地に執着はないつもりだ。
「…理由ですか?それは――まあ」
カウンターを挟んで向かい側で、彼はにっこりと笑った。
「会いたい人でもいらっしゃるのでは?」
「……東京はそんなに遠くない。会おうと思えば誰だって会えるさ」
「そうでしょうか?でもそんな遠くないと仰る距離が埋め難い相手、
と言うのもあるかもしれませんよ」
「そんな相手がいたら、此所へは来ていないよ」
小さく苦笑した。
京都行きを告げた相手は誰もが淡々としていた。
元々『いつも居所不明、ないしは連絡がつけにくい人物』として
周囲から認識されていたから、就職先が関西に決まったくらいで
驚く者はいない。
ただ一人―――自分が東京を離れることを告げられなかった相手はいた。
―――棚旗奈々だ。
彼女には何故か最後まで、自分の口から京都行きを話すことが叶わなかった。
やっと二杯目のギムレットを飲み干すと、目の前のバーテンダーを見た。
「ホワイトレディを」
「珍しいですね」
彼は微笑って、注文の品を作り始めた。
何故か白衣を着た彼女を思い出させるカクテルが、カウンターに差し出された。
翌日は澄んだ空気が青く見える程晴れていた。
昨夜居候している叔母の家に戻ると、ある決意とともに一通の書状を
書き上げた。
それは退職願いだった。来年三月で退職するつもりで書いた。
一度思い付いたら、居てもたってもいられない気持ちになった自分に、
我ながら驚いたが、いざ覚悟を決めてみると、
それは自分の想いに、何の矛盾もなく馴染んだ。
昨夜まではぽっかりと空いていた穴は、
何か奇妙な期待で埋められ始めていたのだった。
そして一年後の秋。
目黒区の薬剤師会の研修会に来ていた。
少し遅れて入った会場の前列に、彼女――棚旗奈々の姿を見かけた。
二年六ヶ月ぶりだが、全く変わっていない。
それでも大学生の頃より少し大人びた彼女の横顔を見て、
何か今まで零れ落ちていたものが、自分の手元に戻ったような気分になった。
「こんにちは。お久しぶりです!」
懇親会の会場で、彼女は迷わずこちらに向かって来た。
彼女特有のあの笑顔で。
そして何処かしら満たされたような気分になる。
「三年ぶりですね」
また笑う。
この笑顔は、
「二年六ヶ月ぶりだ」
少し驚いた表情の彼女に、一つ気が付いた。
彼女は今、自分の古くからの知り合いで大学の一応先輩にもあたる、
外嶋一郎氏の経営する薬局に勤めていた。
今の薬局に勤め始めて薬剤師会の名簿を見た時は、少なからず驚きはしたが。
そして今日。
彼女が此処にいると言うことは――
「外嶋さんは?」
「…今日オペラの予定が入ってたとかで。ええと、カルロス・クライバーの」
確かに彼のクラッシク好きは、『バカ』の範疇に入る。
しかしオペラの東京講演は今日一日ではないはずで、
彼はその辺の日程調整が出来ないような人物ではない。
「…俺もそうすればよかった」
と答えつつ、何やら今日彼女と再会したのは偶然と言う名の
神のせいばかりではない感じも受けながら、決めた。
彼女の後ろから、先程から彼女に話しかけたそうに近寄って来た人間の
幾人かを見定めて、煙草を揉み消す。
「こんな所にいつまでいてもつまらない。抜けよう」
「え?」
「もう今日の仕事は果たした。飲みに行こう」
彼女は目を丸くしていたが、今日を設定したのがどんな神であれ、
今日の彼女との再会にあまり面識のない他人に、邪魔をされたくない。
気を遣う性質(たち)の彼女は、周りに気を配っているだけで
時を過ごしてしまうだろうから。
だから、彼女を連れ出した。
それがどんな気持ちから由来する決定だったか、自分でも気が付かずに。
「京都の薬草園研修旅行?」
店の閉店作業を終えて裏口から出た途端、
そこにいる訳のない人物で『人生の先輩』とやらに捕まった。
「外嶋さんと一緒に京都に行くんですか?
迷惑ですね。だいたい貴方と一緒では飲みに行けない」
「フン、こちらが下戸だからと言って遠慮するような
お前じゃないだろう。それに行くのはぼくじゃない。奈々くんだ」
「!」
「まだ彼女には話してないがね」
「相変わらず勝手な人だな。今度は何です?
ウィーンフィルの東京公演は先日終わったばかりでしょう」
四月、五月は確かにクラッシクの演奏会は多いが、
そんなことを言っていたら彼は一年中彼女に仕事を押し付けなければならない。
「研修会はどうせすぐ終わるんだ。一年住んで土地勘もあるんだし、
案内してやったらどうだ?」
「……子供でもないんだから、見たい所があったら自分で行くでしょう」
「ふうん、見たい所ね。それこそお前の守備範囲を考えたら、
何だってたった一年で京都からこちらに帰って来たのか、
不思議なんだがな。まあ、いい」
「………」
「とにかくウチからは奈々くんが行く。
ぼくの義務はこれで終わりにさせて貰おう」
言いたいことだけ言い終えると、彼はさっさっと踵を返した。
一体何が言いたいのか解るような、解らないような…。
しかし翌日、店主から問われた時には、迷わず参加の返事をした。
老獪な人物にうまく嵌められたような気もしたが、
三日後に来た彼女からの電話で、仕方なく嵌められてもみよう
と言う気分になって来た。
彼女はどうやら面倒なことに巻き込まれつつあるらしい。
――手助けの必要がありそうだ。
車があった方がいいだろうか?そんなことを思いながら、
関西行きの準備を始めた。
研修会には出ずに(正確に言えば今日だと言うことを忘れていた)、
岡山で気になっていたことを調べると、車で京都へと向かった。
これだけの距離を走らせるのは久しぶりだ。
生真面目な彼女は少し膨れ面で、研修会に出なかった自分を
待っているだろう。
その表情(かお)を想像して思わず笑みがこぼれる。
一昨年まで京都にいた時、あの街に自分が誰かといることを想像しただろうか。
無くしたパズルのピースを、ふいな場所から見つけて嵌めた
――そんな感覚だ。
そう気付いた時、京都に一人でいた時、
自分が何かに必死で目を背けていたこと
―――もしかしたら気付かない何かから、
逃れようとしていたらしいことに気付かされた。
そして逃れた何か――から自分は、今では逃れるのを止めていたことも。
そして、それは自分にとって喜ばしいことらしい。
ほんのりと温みを感じる心持ちの向こうに、
あの柔らかな笑顔がほの見えて、思わずアクセルを踏んだ。
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森伊蔵
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性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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