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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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明日病院で検査の結果聞いてきます。


『伊勢の曙光』のラストシーン後から、私がだーいぶ前に
書いたSS『CALL MY NAME』の間のお話を
奈々ちゃん目線で書いてみました。

なんとも不器用な二人が、一体どう歩を進めていくのやらと
いつも思うのですが、今回とんでもないところから
薀蓄を引っ張っちゃった為に、随分回りくどくなりました。
勿論入門用の本を大分昔に読んだだけなのと、
今回体調不良で寝込んでる間、ネットちゃらりと調べてだけで
書いてますので、奥義だとか根本だとか全く分かってません!
(自信満々)まあ、タタルさんがそっちへ踏み込みたくても
なかなか踏み込めなくて困ってる様子が皆様に伝わって
いれば幸いです(笑)←実は書きたかったのそれだけ。
コレそのうち一部抜粋で、漫画に描くかな~。
体調如何で。


拍手頂いてます!コメントの返礼は次回させて頂きます。
いつもありがとうございます。


小説は続き記事からです。


拍手[21回]




◆◆◆


もう東横線の終電は行ってしまいました。
カル・デ・サックから彼が一人で住むマンションまで、
二人何も話すこともなく歩いています。
さっき―――人通りのなくなった街路で、
そっと……本当にそっとわたしの口唇に口唇を重ね、
いつもなら聞こえないような声で、彼は呟きました。
「…君を知りたい」
「………」



知り合って十三年にもなるわたしたちは、
普通の男女の間柄ならば、もう互いに知らないことはないぐらいの
関係なのかもしれません。
けれども――多分今夜初めて一対一の男女として向かい合ってみて、
意外にわたしが知っている彼はほんの一部分に過ぎないことがわかり
――それは彼も同じだったようで、
それまでいつものように早いペースで開けられていたカクテルを飲むのを、
急に止めじっとわたしを見つめました。
「なんだか俺ばかり話してるな
 ……今夜はもう少し君の話を聞こうと思ったのに」
何だか照れたように微笑うその表情は、
今まで見たことのない表情でわたしは心臓がどきりと跳ね上がるのが判りました。
「そんな話はやめよう」
カル・デ・サックに来る前に、彼自身からそんな風に言い出したせいか、
今日は本当にいつもならば何時間でも話す、
歴史の…隠された部分についての話を一切しませんでした。
わたしとしてはそれはそれで楽しみでもあったので
(彼を見つめながら、声を聞いていられるだけでも)、
全く構わなかったのですが、彼は話がそちらに行きかけると、
敢えて話題を戻し、互いが知り合ったばかりだった大学時代のこと、
ちょっと大変だった今回の伊勢への旅行のこと、
そこで会った…彼の中学時代の恩師の五十嵐先生の話なども少し話しました。
「わ…わたしのことなら、タタルさんは何でも知ってるでしょう」
急に彼の関心が自分一人に集中したような気がして恥ずかしくなり、
わたしはうつむきました。多分耳は真っ赤です。
「…そんなことはないよ。ただ、まだ遅くはないと思いたいが」
彼は少し困ったような顔です。
「わたしだってタタルさんのこと、知らないことばかりです。
 小松崎さんの方が良くご存じかも」
「熊つ崎?そんなことは…」
彼は苦笑してため息をつきました。
「こう言うことは、時間が長ければいいってもんじゃないな。
 やはり向き合ってみなければ解らないことばかりだ、きっと」
そう言うと彼は立ち上がりました。
「行こうか」





彼の部屋に来たのは八年ぶりでした。
以前は二人で並んで、部屋中に百人一首の札を広げたっけ。
「…何か飲むか?」
彼は小さなキッチンに入ると冷蔵庫を覗きました。
「い、いいえ。もう…」
彼に聞きたいことが沢山あるような気もしたのですが、
どうも上手く言葉になりません。
カル・デ・サックにいた時から、
どうにも自分が歯痒くてならなかったのですが、
その何とも言い難いもどかしさを表す言葉すら出てきませんでした。
「今日君が来ることを予測してなかったので、
 ちらかっていてすまないが…良かったらベットにでも
 腰掛けていてくれ。ソファは今仕事や伊勢の資料でいっぱいだから」
確かに彼の言葉通り、ソファに限らず、彼の部屋はあちこちが、
様々な本で占領されていました。
無事なのは八年前もそうだったのですが、ベットくらい。
八年前はただその状況に素直に頷いて
彼と並んでベットに座ってしまったけど、
今夜はその時とは違っています――違うのです。
でもわたしは敢えて意識するのを止めました。



それでも堂々と腰掛けることは出来なくて、
端の辺りにちょこんと座っていると、彼が隣に来ました。
わたしは咄嗟に俯いてしまいましたが、
すぐにそれがあまりにも子供じみた反応のように感じて、
そっと彼の横顔を伺いました。
灯りは居間の方にだけつけられていて、寝室は暗いままです。
ただ扉は開け放たれたままなので、ほんのりと互いの姿は見えており、
特に彼の白い横顔は浮かび上がるように見え
――すっきり通った鼻筋や黒く長いまつ毛が
いつもより間近にあるのが解りました。
「…さて」
彼は少し緊張したような面持ちで、ふうっと息をつきました。
いつも憎たらしくなるくらい自然体の彼にしては珍しい…。
「奈々くんは空海の『風信帖』を知っているだろう」
「えっ、あ…は、はい。確か空海がえーと、
 最澄に出した手紙?でしたっけ」
「そうだ。当時空海と最澄はさかんに意見を交わしたり経典を
 貸し借りしたりと、頻繁に交流していた。
 だが彼らは813年の『理趣釈教』の借用を空海が
 断ったことをきっかけに訣別するんだが」
「……」
唐突に出てきた話題に驚きましたが、
話しているうちに先程までやや硬かった彼の表情は、
いつも通りの淡々としたものになり、
そしてそれは聞いているわたしもそうでした。
静かな彼の声が薄明かりの中、耳に響き、
次第にさっきまで浮き足立っていた気持ちも、
落ち着きを取り戻しています。
「空海はただ貸したくないだけで断ったのではなく、
 最澄が借し出しを求めた経典が、知識だけで理解することは
 出来ない経典だったからと言われている。
 空海の弟子でもこの経典を見ることは、
 なかなか許されなかったらしい。
 それは文字を追っただけでは、誤解されかねない内容だったからなんだ」
「誤解…ですか?」
「そもそも真言密教は金剛界と胎蔵界
 ――男性原理と女性原理の二つから成立している」
「あ…確か前に、そう百人一首の話の時に、
 金剛界に藤原定家が、胎蔵界に式子内親王が当てはめられているって…」
「そうだ。定家も真言密教の呪の根本を理解した上で、
 あの和歌の曼陀羅を編み出したのではないかと言うことだったね。
 ――まあ、それはいいとして、問題なのは『理趣教』だ」
彼はちょっと謎めいた笑顔でこちらを見ました。
「空海が東寺にいた弟子に伝えた経典の中にすら入れなかったと
 伝えている『理趣教』を、今ここで俺が言葉で君に話すと言うのは、
 とんだ筋違いだろうから、これは本当に外側のほんの一部として
 聞いて欲しいのだが―――『理趣教』は17の章節から構成されている。
 その最初の『大楽の法門』で『十七清浄句』と言われる十七の句偈で
 説かれているのが『自性清浄』と言う――そもそも人間は生まれつき
 汚れた(けがれた)存在ではない、と言う説なんだ」
ここまで全く彼の思惑など考えもせず、ただひたすら話す内容を聞いていた
わたしですが、ここに来て、彼がどうやらわたしに何か伝えたいことがあって、
この話をしているらしいことが解りました。
……でも行き着く先はまだ解りません。
「空海がこの経典をなかなか伝えたがらなかったのは、
 当然かもしれないね。特に経典を学問として体系化していた最澄には。
 大抵の宗教では、人間の欲望――中でも男女のそう言った欲を否定している。
 キリスト教では原罪…罪として扱っているからね。
 そう言った欲望を否定、捨て去ることで悟りを得るのが、
 普通の宗教のスタンスだと思うが、この十七清浄句ではそれを肯定する。
 敢えてそれを菩薩の境地として、肯定しているんだ」
彼の声は、いつもこう言う話をする時と変わらず、静かでした。
わたしは、多分今までも彼のこの声が好きで、
それまでの自分では理解しにくかった話も、
それなりに理解して来れたのかもしれません。
魅き寄せられる―――そんな感じ。
「十七ある句の内、八つまでは男女の性に纏わる欲望を肯定する句だ。
 そして残りの九句はその行為に関わる全ての事柄を
 肯定している内容だと思う。
 例えば――一句目で『男女の行為の妙なる恍惚は
 清浄なる菩薩の境地である』と説いて、十二句目で
 『満ち足りて心が輝くことも、清浄なる菩薩の境地である』と説く。
 そしてそのあとの五句で『身体の楽』も『目の当たりにする色』も
 『耳にする音』も『この世の香り』も『口にする味』も
 菩薩の境地だと言っているんだ」



恐らく必死になって聞いている表情(かお)だったのでしょう。
彼はふと気付いたようにわたしを見て、ほんのりと微笑いました。
「…こんな喩えで話したら、空海にそれこそ違うと怒られそうだが
 ―――色も匂いも声も味覚も、五感の全てで知りたい相手、
 と言うのは誰でもいい、と言う訳ではないと――俺はそう思う」
彼は真っ直ぐこちらを見ました。
普段まるで揃わない前髪のせいで見えない彼の瞳が、
その時はわたしを、わたしだけを見つめているのが解りました。
わたしも目を反らすことが出来ませんでした。
―――そして彼が何を言わんとしていたか、ようやく解ってきました。
そのことに気付いた時に、彼がわたしの腰に腕を伸ばして
そっと引き寄せていたことにも気が付きました。


わたしは今までのお互いのいた場所…立場とでも言うものから、
全く違う所に立たされているのだと、ここに来てやっと気が付いたのでした。
「君に…触れてもいいだろうか?」
「あ…」
「誰でもいい訳じゃない。……そしてそう思える相手は
 得難いものだと、そう、思ってる」
彼の想像していたより、温かな指先が頬に触れています。
これまで言葉にし難かった想いが、急に何か開けたように
解ったように感じられました。



―――わたしはずっと待っていた。
彼の言うように誰でもいい筈はありませんでした、と言うより、
わたしは彼と出会った時から他の相手のことなど
――おそらく少しも考えたことはなかったのです。
こんな長い時間…それでもそれはあっと言う間でもあったのですが、
欲しいと思いながらも知り得ることの出来なかった事。
まるで深い秘密のように匣の中に隠され、開けることが叶わなかった。



ふいに抱き締められて、口唇が重なりました。
それは先程カル・デ・サックから、彼の部屋に来る途中にした
優しく触れるだけのキスとはまるで違って、抱き締める腕の力も、
普段の彼から想像するには強いものでした。
「奈々くん…」
わたしは指を彼の頬に伸ばしました。
「もう何も…何も言わなくていいです」
それからわたしたちは――多分互いが互いを知り得る為に、
今までの長い時からすればほんの玉響でしかない瞬間(とき)を、
必死に過ごしました。
それは…先程彼が話してくれた境地にはまだまだ
遠いものではあったのでしょうが、それでもこれから未来(さき)、
手探りしながら不器用に進んでいくその入口に立つことは出来たでしょうか?





「………気付かなかった」
その行為が終わって、彼が僅かに体を離すと、
かなり気まずい表情で言いました。
彼が何のことを言っているのか解ったわたしは思わず恥ずかしくなり、
真っ赤になって呟くだけで必死でした。
「あんまり見ないで下さい。……そのこんな年齢(とし)までおかしいのは、
 解ってましたけど、機会がなくて」
わたしは今日が初めてでした。
だって誰でもいい訳じゃなかった…。
「君は意外に頑固だからな」
そう言って彼は小さく微笑っています。
でもまた真顔に戻ってわたしの耳許に、口を寄せました。
「…すまなかった。知っていたらもう少し…」
「し、仕方ないです。その、それに」
わたしは息をついてまた話しました。
「……た、タタルさんだったら……いいです」
言葉の終わりは我ながら情けないくらい小さな声でした。
「……困ったな」
「え?」
「成程、大方の宗教で否定してる訳だ、キリがない」
「な、何がですか?」
「君のそんな表情(かお)見てたら…もう一度、欲しい」
「………」
彼の真っ直ぐな眼差しをわたしも真っ直ぐ受け止めて、
静かに瞼を閉じました。



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森伊蔵
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読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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