忍者ブログ
タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
[281]  [280]  [279]  [278]  [277]  [276]  [275]  [274]  [273]  [272]  [271
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

この暑いのにタイトルが雪か!!、なんておっしゃらないでください(^^ゞ


タタ奈々学生時代の頃の話を書きました。
ただ私は高卒なので、大学の経験が全くなく、試験の時期やら単位やら
よくわからないので、おかしなところがあるかもしれません。
もしよろしかったら、こんな感じだよ~とご指摘頂けると嬉しいです(*^_^*)



小説は続き記事からです。

拍手[7回]





やっとレポートの提出が終わったその日は昼間から薄暗く、
同じ学科の誰もがさっさと家路についていました。
わたしはと言うと、家に帰って休むにしても、どこか気分転換したいような、
そんな気持ちになって同好会室に向かいました。
もう、化学式や薬学に関わる文章を読みたいとは少しも思わなかったので、
きっと彼処なら読んでいるだけで眠くなるような本が
あるだろうと思ったからです。



「こんにちは…」
オカルト同好会室は大学でも一番古い建物の一階……と言うか、
階段下の多分元は倉庫だったような場所にありました。
もう十二月も十日を過ぎると、ひんやりを通り越して、寒い位の部屋です。
小さな、会議室にあるような机とパイプ椅子が二脚、本棚、
そして何故か奥に古ぼけたソファが一台置かれていました。

今日はそのソファの上に、最近では久しぶりの先客がいました。
「タタル先輩…」
昨年まではよくこの場所で彼を見かけたものでした。
けれども四年生ともなると、誰しもそうですが、大学に通学する日数は
格段と減ります。
彼をここでこうして見るのはひと月ぶりでしょうか。
全くいつもここで見かける時と変わらず、彼は眠っています。

「タタル先輩就職先は決まったのかな?」
この時期四年生があまり大学に来ないのは、既に企業の研修会などに
参加しているものがいるからでした。
正直な話、無愛想であまり他人と折り合うことに積極的ではない彼が、一
体どんなところに社会人としての自分の落ち着き先を決めたのかは、
全く予測が付きません。
企業の研究室でしょうか?
就職活動をする彼の姿すら思い付きません。



彼は此処にいる時は、いつもこのソファで昼寝をしています。
今日もそうでした。
なのでそっと足音を忍ばせて部屋に入り、パイプ椅子に静かに座ります。
彼の起きていたら見ることのない無防備な表情がよく見えました。



同好会室にある本棚を見ても、どの本から読んだものかまるで解りません。
以前そんな話をしたら、彼が一冊の本を手渡してくれました。
平安時代の陰陽師のことが書かれた本でした。

「平安時代の魔法使いとか占い師みたいな人たちですよね?」
子供のような質問ですが、日本の歴史にはまるで詳しくないわたしが
そんな風に言うと、案の定彼はやれやれと言うように、
小さなため息をついて、答えました。
「本当に目に見えない物を盲信出来る程、この時代の人間は暇ではなかった
 だろう。もっと実際に有効な力が働いたから、必要とされたのだろうね」



たまに聞く彼の歴史の話は、今までわたしが教わってきたものとは
大分かけ離れたものでした。
それでもその理論はそれなりに組み立てられており、理屈も通ってはいます。
………変わってはいましたけど。


小さな窓から見える外は大分薄暗いようでした。
そう言えば天気予報は夜から雨、ないしは雪になると言っていたっけ。






「奈々くん」
向こうの方で低く、そして僅かな躊躇いを帯びた声が聞こえます。
「いいのか。もう七時になるぞ」
「―――――!」
目が覚めました。

と、言うか、いつの間にか眠ってしまっていたようでした。
ハッとして顔を上げると彼が机の向かい側で、呆れたようにこちらを見ていました。
「昨夜は徹夜でもしていたのか?よく眠っていた所を起こして悪いが、
 もう七時になる。あまり遅くに帰宅するのも剣呑だ。もう帰った方がいい。
 君、確か家は鎌倉だったね?」
てきぱきと荷物をまとめ、コートを着る彼に、わたしはようやく目覚めてきた頭で
必死に頷きました。
「俺は横浜に用があるから、一緒に出よう」




校舎を出ると、冷たい空気が頬に触れました。
マフラーを持って来て正解。これでは確かに雨が降れば、
幾らも経たずに雪になってしまう。

「タタル先輩、就職はどちらにお決まりですか?」
この時期なら、誰もが四年生の彼にしたであろう質問をしました。
尤も彼ならば、大学院に進むこともあるかもしれません。
わたしは何となくそんな返事を期待しながら、彼の少し後ろを歩いていました。
普段から眠たげで、歩くのすら億劫そうに見える彼の、
背中もやはりどことなく気だるげに見えます。
「漢方薬学科なんだから、漢方薬局だよ」
「そうなんですか?タタル先輩は研究者になる方面に進まれると、思っていました」
「誰もが研究室に入って仕事するのを、研究だと思っているが、
 実際に患者に触れて、臨床例に当たるの程密度の濃い研究はないだろうね。
 携わる限り終わりのない研究、と言うか探究になるだろう」
「……………」

いつもの如く無愛想な彼は、今の言葉を振り返りもせずに言いました。
「そうですか。それなら……わたしは薬剤師の資格が取れたら、
 薬剤師になるつもりなんです。もしかしたら何処かでご縁が
 あるかもしれませんね?」
「…………さあ、どうだろうな」
ぽつりと呟くような声が、聞こえました。



少し淋しくなって、宙を見上げると小さな白い欠片がふわり、
と落ちてきました。ひとつ見つけたと思うと、またひとつ、ひとつと。

「初雪ですね!」
それはこの冬最初の雪でした。
「大分冷え込んで来たからな」
彼はちらりと振り向きました。
「奈々くん…君は初雪祭の話は知っているか?」
「初雪……祭ですか?」
「京都の北野天満宮では、その季節で最初の雪が降るとご神木の
 松の木に、菅原道真の霊が降りてきて歌を一首詠むのだそうだ。
 それで初雪が降ると祭をする」
彼はわたしに話をする為に、やや歩調を合わせたのか、
彼の左にわたしは並びました。
「風流ですね」
こう言った話題では、ありきたりな答えしか出来ないわたしは
思い浮かんだままに答えました。
「風流……ね。それが太宰府ではなく北野天満宮だけと言うのは、
 何か理由があるだろうな。
 菅原道真ならば、梅の木を選びそうな所を松の木な訳だし」
「でも松もおめでたい木ですよね?」
「どうだろうか?梅も『埋め』に通じるのだし、理由がありそうだ」
そう言うと、彼は前を向いたまま黙り込んでしまいました。


大学から駅までは少々歩きます。もし彼がいなかったら、
都心とは言え灯りも乏しい住宅街を一人で歩くのは、
結構怖かったかもしれません。
「急ごう。傘を差すのも面倒だ」
雪は次から次へと、舞い落ちる数を増やして行きます。
足早に駅へと歩く彼に必死で、わたしは着いて行きました。





東横線に乗り換えると列車はかなり混んでいます。
前の座席が空くと彼はわたしを座らせてくれました。

雪は時間が経つ程、降りが強くなって行くようでした。
横浜に行くと言っていたけど、彼はもしかしてわたしを送ってくれているのでは?
偶然の何かに、微かな期待をしそうになる自分に内心首を振りながら、
ふと彼を見上げると彼は吊革に凭れながら、相変わらず眠たそうな目で
窓の外を見つめています。




多分わたしは、彼に話したい何かがあるはずでした。
でもそれは言葉にならない。
先程彼に就職先を尋ねた時に、思わず心臓の裏側あたりから
飛び出しそうになってしまった。
形象にならない事象にはまるで弱いわたしは、
その言葉にもならないようなものを、どう彼に伝えたらいいのか解りません。
淋しさが胸をかすめた時から、何処か重い荷物を抱えたような気分で、
降り積む雪のように憂鬱な気持ちも降り積もっていく。

そんな答えの出ない考えに、思いを巡らせていた時でした。




がたん!




列車が緊急停止しました。
そしてわたしの思考も。
もしかしたら心臓の鼓動までも。

吊革に掴まっていた彼が、バランスを崩してわたしに覆い被さるように
倒れて来たのです。
………彼の口唇が、わたしの頬をかすめ、た?





「………停止信号が出た為、車両を緊急停止致しました。
 ご乗車の方々には、大変ご迷惑をおかけして…」
そんな車内アナウンスが流れていても、耳には何も入らない気がしました。

「停止信号か。雪のせいでなければいいんだが」
何事もなかったように、彼が起き上がりました。
「…た、タタル先輩はお帰りは大丈夫なんですか?ご自宅は都内…でしたよね」
わたしはやっとの思いで、振り絞るように声を出しました。
頬が紅くなってないかしら?
そんなことばかり気にしながら。
「いざとなったら、カプセルホテルにでも泊まるさ。どうせ飲みに行くんだし」
「の、飲みに行くんですか?」
驚きました。
それならば大学の最寄り駅の駅前にも、店はあったでしょうに。
「横浜に知り合いのマスターがやっている店があるんだ」
彼は淡々と言いました。



―――さっきの、頬に触れた口唇は、幻?



そう、多分気のせい。
全くいつもと変わらない彼を見ていると、そんな気もします。
でも……。


彼の口唇が想像したより、ずっと熱を帯びていたこと。
外気で冷たくなっていた、わたしの頬の、彼の触れた部分だけが、
その熱を移したように熱くなっている気がして、
鼓動が高鳴るのを、押さえきれません。

列車はごとりと動き出しました。それから乗り換える横浜駅まで
わたしは俯いたまま、そして彼も特に何か話す訳でもなく黙っていました。

突然沢山降り始めた雪のせいか、横浜駅はとても混んでいました。
彼の人よりひとつ高い頭を目印に、わたしは必死に横須賀線の
ホームに向かいます。
彼は東横線を降りると、藤沢に向かう、と言い出しました。
折角ここまで来たから、明日鎌倉の寺社を廻って帰ると言うのです。
今夜こんなに雪が降っているのに。
藤沢なら鎌倉よりも安いビジネスホテルがあります。
それで行き先を藤沢に決めたようでした。





北鎌倉で降りたのは、わたしと彼の二人きりでした。時間は九時半を回っています。
「君の家は此処から歩くのか?」
「それほどでもありません。普段ならば十分です」
「それなら……大丈夫だな」

やっぱり彼はわたしを送ってくれていたのです。
いつもは素っ気ないのに、いえ、今だって十分に素っ気ないのに、
こうして時折示される彼の優しさを、わたしはどう受け止めたら良いのでしょうか?

「あの、タタル先輩、ありがとうございました」
「ついでだ。それに……」
かちりと、かれの視線とわたしの視線が合いました。
わたしは次の言葉を待ちました。
彼は僅かの間、わたしを見つめて、ふと目を反らしました。
「いや…君が同好会室で昼寝をしてくれたお陰で、明日鎌倉巡りが出来る。
 しばらくは来られないかもしれないから、いい機会だった」
「え…?」
するとホームに電車が滑り込んできました。
「じゃあ」
彼は軽く片手を上げると、さっさと列車に乗ってしまいました。
今、何か大切なことを聞いた気がするのに。


列車が北鎌倉の駅を出てしまっても、わたしは一人立ち尽くしていました。
まだ、先程触れた彼の口唇の熱が残っているような気がして。


雪は一晩降り続けて、翌日は滅多にないほどの、銀世界になりました。
そして年が明けて冬休みが終わっても、彼に会うことはありませんでした。
あの日、駅で別れた時の心残りの気持ちのまま、そしてその心残りの原因が
何であるかも知ろうともしないまま、ただ日々だけが過ぎて行きました。

ところが二月も終わりになって、わたしも大学に顔を出すのが稀な頃に、
全く寝耳に水の、驚くような話を聞くことになりました。
「奈々、タタル先輩、関西で就職するんだって?」
「…………!」
声も……出ませんでした。








※続きはsideT、タタルさん側で。
タタルさんの奈々くん呼びを、私は滅多に書いたことがないので(笑)
新鮮です。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (管理人だけにコメントする。)
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[01/22 Indy]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dasia]
[01/22 Dell]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
森伊蔵
HP:
性別:
非公開
職業:
主婦
趣味:
読書・お絵かき・料理
自己紹介:
次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。

……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者アナライズ
アクセス解析

Copyright © 翠露苑~すいろえん~ All Rights Reserved.
Material & Template by Inori
忍者ブログ [PR]