タタ奈々と空稲で二次してます。
どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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あけましておめでとうございます~(^O^)
今年もよろしくお願いします。
すみません、昨年より大変久しぶりな更新になりました。
昨年副業(本業は主婦w)の方が思っていたよりきちんと立ち上がりまして、
今年はますます精進していく方向になりそうです。
なかなか二次は進まないとは思うのですが、五月頃にタタ奈々で
イベントに新刊引っさげて、参加出来たらなあと考えています。
そうそう!
タタ奈々はビックニュースが入りましたねヽ(^。^)ノ
まだ予定…とのことですが秋ごろに新しい二人が、原作で見れそうです。
広報室の方は五月にコピー本で何か出せたらいいな、と考えています。
さて無事に完売しました、空稲新婚スペシャルに掲載した
結婚式話をひとつ。
このお話は阿久津さんサイドから結婚式当日の、リカちゃんを書きました。
出来たら次は結婚式当日の大祐君を、広報室のどなたかの視点で
書きたいなあ…と考えています。
小説は続き記事からです。
◆◆◆
「何か不服か?」
目の前の部下は思い切り此方を睨み付けた。
三月と言う人事異動には微妙な時期に、一人の女性ディレクターが
配属されてきた。
稲葉リカ。
つい先日までは報道局の記者として、キリキリ働いていたらしい。
既に入社五年目ともなると、この業界ではベテランと呼ばれるし、
ぼちぼち後輩の指導に回ることになる頃だ。
それが、情報局と言う、全く色合いの違う仕事に異動になると言うのは
只事ではない。
丁度正月のハードスケジュール(この業界は一般的に休みと
言われる時期が、一番忙しい)が終わりようやく、周りの雰囲気が
通常運転に戻りつつあった頃、帝都テレビに入社した時から同期で、
良きライバルでもあった報道班の友人に呼び止められ、
そのまま社外のカフェに連れ出されてしまった。
「阿久津、頼む!」
コイツの「頼む」が出ると、ロクなことにならないんだよな……と、
若干警戒しながら、彼に話を進めるよう手ぶりで示した。
「ウチにいる記者一人、お前んとこで引き取って欲しいんだ」
「なんだ、何かあったのか?」
「言いにくいんだけれどさ、あの冤罪事件の時容疑者家族を
張ってたレポーターで……」
「あー……あの」
友人が皆まで話す前に、俺は全てを察してしまった。
そう、ついぞこの前局内が激震しそうになった事件の主役になった
レポーターだ。
既に六十年は経とうかと言うテレビ局では、的を得たご意見から、
どう考えても言い掛かりとしか思えないようなクレームまで、
千差万別にやって来る。しかしクレームの為に、報道の的になった本人が
乗り込んで来ることは、滅多にない。
事件の容疑者として誤認逮捕され、確かにあの人物の
人生は転落の一途だった筈だ。
レポーターはその容疑者ではなく、家族にターゲットを決めたようで、
その家族追い回していたらしい。
問題はその家族の中に、生まれつきの難病を持った子供が
いたことだった。
通院している病院は、取材先だったターゲットの自宅の住む県の
県外に当たり、月一の通院時は必ず外出しなければならない。
その外出時を狙って取材を仕掛けたのだ。
もしあの事件が誤認逮捕ではなくとも、家族までが
容疑者である訳ではなく、話を聞くにしてもあまりに不味いタイミング
だったと思う。
ベテランのレポーターでも、なかなか手の出し難い条件だ。
友人から話を聞いた限りでは、裁判沙汰にはならないよう、
担当部署が内部で納めたようだったが、そのレポーターの評価はかなり下がった。
「仕事は熱心なんだよね。女子には珍しく時間外にも文句は言わないし。
ただ、ガツガツし過ぎると言うか、思い込みが強いと言うか。
ちょっと、引いて考える部分もそろそろ持った方が良い頃なんだがなあ」
「それでウチか」
「情報のディレクターなら、嫌でも頭もハートも使うだろ、
阿久津ちゃん」
「気持ち悪い呼び方するな。引き受けたら不発弾の処理みたいなもんだぞ
……あ、」
その時ふと、世間で今話題になっている、『自衛隊による不発弾処理』の
ニュースを思い出した。
自衛隊……不発弾処理を引き受けているのは陸上自衛隊だが、
確か先日のディレクター同士の飲み会で、空自の広報の室長が今、
面白い人物が担当していると聞いていた。
確か鳥の名前だったような……。
俺は「高く付くぞ」と凄んで見せ、その爆発物を引き受ける事にした。
そして冒頭に戻る。
目の前の新人ディレクター、稲葉リカはまるで親の仇でも見るかのような
視線で、此方を見た。
ジャーナリストを目指していたのに、仕事としては裏方に当たる
ディレクターに配属されたのが、大層不満のようだった。
本来ならここで一つ説教をする所だ。
正規のディレクターから始められることを、感謝するべきだと。
普通制作に回れば、アシスタントから始まる。
稲葉が正規のディレクターから、情報班とは言え制作サイドのキャリアを
始められるのは、コイツの仕事ぶりがある程度は認められていたからだ。
決してミスばかりを論った訳ではない。
それなのに異動による転職を辛うじて受け入れるのが、精一杯らしい。
ただ、コイツの唯一良い点と言うか、もしかしたらこうだからこそ、
ガツガツしているのか、仕事に対する手間に時間を惜しまないタイプだった。
今は方向を見失っているが、上昇志向も強いし、
目標が定まって真っ直ぐ歩ければ、化ける可能性もある。
打たれ強さも今時の若い連中にはない物だ。
成程、友人が俺に頼んで来たのも解る。
見ていると、何とかしてやりたくなるのだ。
「自衛隊、航空自衛隊。お前警視庁に貼り付いてたなら、
省庁が取材先でも物怖じしないだろ。手続きが面倒なのも、知ってるし。
まあ、夕方のニュースの一コマ枠だから、あんまお固い内容じゃ困るけどな。
行って来い」
「……わかりました」
言葉だけは規則正しく、しかし声音は女性らしさの欠片もなく
(時々稲葉が女性だと言うことを、忘れる時がある。かなりの美人の筈なのに)
答えて、彼女はデスクに戻り、早速パソコンに向かった。
目の前の部下は思い切り此方を睨み付けた。
三月と言う人事異動には微妙な時期に、一人の女性ディレクターが
配属されてきた。
稲葉リカ。
つい先日までは報道局の記者として、キリキリ働いていたらしい。
既に入社五年目ともなると、この業界ではベテランと呼ばれるし、
ぼちぼち後輩の指導に回ることになる頃だ。
それが、情報局と言う、全く色合いの違う仕事に異動になると言うのは
只事ではない。
丁度正月のハードスケジュール(この業界は一般的に休みと
言われる時期が、一番忙しい)が終わりようやく、周りの雰囲気が
通常運転に戻りつつあった頃、帝都テレビに入社した時から同期で、
良きライバルでもあった報道班の友人に呼び止められ、
そのまま社外のカフェに連れ出されてしまった。
「阿久津、頼む!」
コイツの「頼む」が出ると、ロクなことにならないんだよな……と、
若干警戒しながら、彼に話を進めるよう手ぶりで示した。
「ウチにいる記者一人、お前んとこで引き取って欲しいんだ」
「なんだ、何かあったのか?」
「言いにくいんだけれどさ、あの冤罪事件の時容疑者家族を
張ってたレポーターで……」
「あー……あの」
友人が皆まで話す前に、俺は全てを察してしまった。
そう、ついぞこの前局内が激震しそうになった事件の主役になった
レポーターだ。
既に六十年は経とうかと言うテレビ局では、的を得たご意見から、
どう考えても言い掛かりとしか思えないようなクレームまで、
千差万別にやって来る。しかしクレームの為に、報道の的になった本人が
乗り込んで来ることは、滅多にない。
事件の容疑者として誤認逮捕され、確かにあの人物の
人生は転落の一途だった筈だ。
レポーターはその容疑者ではなく、家族にターゲットを決めたようで、
その家族追い回していたらしい。
問題はその家族の中に、生まれつきの難病を持った子供が
いたことだった。
通院している病院は、取材先だったターゲットの自宅の住む県の
県外に当たり、月一の通院時は必ず外出しなければならない。
その外出時を狙って取材を仕掛けたのだ。
もしあの事件が誤認逮捕ではなくとも、家族までが
容疑者である訳ではなく、話を聞くにしてもあまりに不味いタイミング
だったと思う。
ベテランのレポーターでも、なかなか手の出し難い条件だ。
友人から話を聞いた限りでは、裁判沙汰にはならないよう、
担当部署が内部で納めたようだったが、そのレポーターの評価はかなり下がった。
「仕事は熱心なんだよね。女子には珍しく時間外にも文句は言わないし。
ただ、ガツガツし過ぎると言うか、思い込みが強いと言うか。
ちょっと、引いて考える部分もそろそろ持った方が良い頃なんだがなあ」
「それでウチか」
「情報のディレクターなら、嫌でも頭もハートも使うだろ、
阿久津ちゃん」
「気持ち悪い呼び方するな。引き受けたら不発弾の処理みたいなもんだぞ
……あ、」
その時ふと、世間で今話題になっている、『自衛隊による不発弾処理』の
ニュースを思い出した。
自衛隊……不発弾処理を引き受けているのは陸上自衛隊だが、
確か先日のディレクター同士の飲み会で、空自の広報の室長が今、
面白い人物が担当していると聞いていた。
確か鳥の名前だったような……。
俺は「高く付くぞ」と凄んで見せ、その爆発物を引き受ける事にした。
そして冒頭に戻る。
目の前の新人ディレクター、稲葉リカはまるで親の仇でも見るかのような
視線で、此方を見た。
ジャーナリストを目指していたのに、仕事としては裏方に当たる
ディレクターに配属されたのが、大層不満のようだった。
本来ならここで一つ説教をする所だ。
正規のディレクターから始められることを、感謝するべきだと。
普通制作に回れば、アシスタントから始まる。
稲葉が正規のディレクターから、情報班とは言え制作サイドのキャリアを
始められるのは、コイツの仕事ぶりがある程度は認められていたからだ。
決してミスばかりを論った訳ではない。
それなのに異動による転職を辛うじて受け入れるのが、精一杯らしい。
ただ、コイツの唯一良い点と言うか、もしかしたらこうだからこそ、
ガツガツしているのか、仕事に対する手間に時間を惜しまないタイプだった。
今は方向を見失っているが、上昇志向も強いし、
目標が定まって真っ直ぐ歩ければ、化ける可能性もある。
打たれ強さも今時の若い連中にはない物だ。
成程、友人が俺に頼んで来たのも解る。
見ていると、何とかしてやりたくなるのだ。
「自衛隊、航空自衛隊。お前警視庁に貼り付いてたなら、
省庁が取材先でも物怖じしないだろ。手続きが面倒なのも、知ってるし。
まあ、夕方のニュースの一コマ枠だから、あんまお固い内容じゃ困るけどな。
行って来い」
「……わかりました」
言葉だけは規則正しく、しかし声音は女性らしさの欠片もなく
(時々稲葉が女性だと言うことを、忘れる時がある。かなりの美人の筈なのに)
答えて、彼女はデスクに戻り、早速パソコンに向かった。
何の不安もない訳ではなかった。
稲葉のデスクに置かれたノートを覗くと、駐屯地とか基地とか、
お前報道にいたのにそんなことも知らなかったのか?と
言うような内容が記されている。
自衛隊は何かとニュースに取り上げられるから、
言葉くらいは基本なんだがな。とも思いつつ、
テレビ業界も専門バカが多いことに気付く。
その中で少しでも、広くアンテナを立てられた奴が、生き残る事が出来る。
確かに自衛隊は、昨年自分が海自に関わった時も、
まだまだ未知の部分が多く、勉強させられた取材先だ。
そこに新人危険物のディレクターを突っ込むのは、
ある種の賭けではある。
だが、 最近忙しく取材に出掛けて行く稲葉の横顔を見ると、
随分とまともにはなって来たのではないか、そう思えてくる。
そんなことを考えていた頃、打ち合わせブースを丁度制作の
北村ディレクターが離れて行くのが見えた。
そして聞こえて来たのは、稲葉の声。
アイツに来客か……。
報道とは違う、ちゃんと接客が出来ているのか。
気になって遠くから見て見ると、一人の見慣れない青年と熱心に話していた。
いや、話しているのは青年の方か?
稲葉は何か資料を見ながら、じっと話を聞いていた。
珍しい事だ。
稲葉が資料を手放し、ハンディを青年に手渡した。
二人で何やら画像を覗いている。
二人の表情が余りにもピタリと合っていて、おかしな位だ。
稲葉も黙っていたら美人だが、対する青年も決して
ハンサムと言う程ではなくても、すっきりと姿勢が良く、
好感の持てるタイプの顔立ちだ。
こうしていると絵になるな……。
だが自分の唐突な想像に、思わず首を振った。
稲葉のデスクに置かれたノートを覗くと、駐屯地とか基地とか、
お前報道にいたのにそんなことも知らなかったのか?と
言うような内容が記されている。
自衛隊は何かとニュースに取り上げられるから、
言葉くらいは基本なんだがな。とも思いつつ、
テレビ業界も専門バカが多いことに気付く。
その中で少しでも、広くアンテナを立てられた奴が、生き残る事が出来る。
確かに自衛隊は、昨年自分が海自に関わった時も、
まだまだ未知の部分が多く、勉強させられた取材先だ。
そこに新人危険物のディレクターを突っ込むのは、
ある種の賭けではある。
だが、 最近忙しく取材に出掛けて行く稲葉の横顔を見ると、
随分とまともにはなって来たのではないか、そう思えてくる。
そんなことを考えていた頃、打ち合わせブースを丁度制作の
北村ディレクターが離れて行くのが見えた。
そして聞こえて来たのは、稲葉の声。
アイツに来客か……。
報道とは違う、ちゃんと接客が出来ているのか。
気になって遠くから見て見ると、一人の見慣れない青年と熱心に話していた。
いや、話しているのは青年の方か?
稲葉は何か資料を見ながら、じっと話を聞いていた。
珍しい事だ。
稲葉が資料を手放し、ハンディを青年に手渡した。
二人で何やら画像を覗いている。
二人の表情が余りにもピタリと合っていて、おかしな位だ。
稲葉も黙っていたら美人だが、対する青年も決して
ハンサムと言う程ではなくても、すっきりと姿勢が良く、
好感の持てるタイプの顔立ちだ。
こうしていると絵になるな……。
だが自分の唐突な想像に、思わず首を振った。
東日本大震災を境に、色々なものが少しずつ変化した。
まず表面的な所では、時の政府の政党が変わった。
国の外国との付き合いのあり方も変化しただろう。
だが身近な所では、人間関係、人間同士の信頼のあり方が
変化したような気がした。
目には見えない筈の変化だったが、それを目に見えるカタチで
遂げた者もいた。
稲葉だ。
震災後すぐに松島に取材に行ってから、何やら女らしくなって帰って来た。
松島にはあの青年、空井大祐と言う名前の隊員が異動になっている。
稲葉は公私混同するヤツではないが、空幕広報室の取材で
深く関わった彼とは、メールを通じてやり取りが続いていたようだ。
既に情報班内でも稲葉はベテランで、彼女が中心になって
制作している番組が、時間は短いが三つもあった。
別の部署からわざわざ覗きに来るような男達もいたりして、
別の意味で華やかな雰囲気が彼女を取り巻いていた。
だが。
こればかりは変わらないと言うべきか、更にひどくなったと言うべきか。
「お前は何をしてるんだ、稲葉……」
「あ、阿久津さん。後で報道の特番でやる、家族ビデオ紹介コーナーの
ナレーションのチェック、お願いします」
「今日は何曜日だ」
「金曜日です。月曜に会議にかける企画書が三件もあるので、
明日出勤して情報バラエティーの一週間分の記事は仕上げておきます。」
「お前な……。金曜の夜十時。三十近いイイ年齢したオンナが
こんな所で何してるんだ」
「それは……。あ、阿久津さん、その発言は」
「心配してるんだ」
「……」
先日もういい加減高齢だった父が入院し、四人もいる姉と
久しぶりに顔を合わせた。
その時に偶々仕事の話になり、二番目の姉がいたくお気に召していたのが、
稲葉の作った番組だった。
姉に制作者は自分の部下で、女性であることを話すと、
何と自分のムスコと見合いさせられないかと言う。
正直、速攻で断る稲葉の姿が目に浮かんだ。
情報に来てからは大分落ち着いたものの、思い込んだら
Uターンの効かない性格は相変わらず健在。
稲葉の気持ちを知る身としては、無理は言えない。言えないが……。
もしかしたら、コイツは気が付いてないのかもしれない、自分の気持ちに。
被災して間もない松島に取材に行く話が来た時、聞くまでもなく手を上げ、
さっさと取材の準備をしていたのに。
それは……仕事の為ではあるのだが、稲葉にとって誰にも譲りたくない
仕事であった筈なのだ。
それ程会いたいのならば、休暇でも何でも取って、会いに行けば良いのに。
生真面目過ぎて、妙な線を引くものだ。
だからこれは背中を押すつもりで言った。
「稲葉、お前に今付き合ってるヤツがいないと言うならば、
俺を立てるつもりで聞いてくれ」
「?」
「頼むから見合いしてくれ」
「え?ええっ」
「嫌か。嫌だよな。だから会ってその場で断っても良い」
「……どんな方ですか?」
「医者だ。関西の総合病院で働いてる」
「阿久津さんのお知り合いですか?」
「甥だ。二番目の姉の一人息子なんだが、仕事が忙しくて
カノジョが出来ないらしい。俺のラインで断わると、
姉が恐ろしいからお前が行って断って来い。
場所は中間取って浜松はどうだ……?」
「浜松……エアパークがありますね」
「あ?」
「な、な、な、何でもないですっ。わかりました。
何か中京方面の取材がありましたら、一緒に済ませて来ますよ」
「いや、良い。見合いは適当に済ませて、のんびりして来い」
はーっと大きなため息を吐いて、俺は稲葉にもう帰宅するように伝えた。
案の定、稲葉はその場で見合いを断わった。
しかし捨てる神あれば、拾う神あり。
例の空自の広報官、空井大祐が何と入間基地に異動になったらしい。
しかも稲葉と付き合いだした。
年月が止まっていた分、進み出したら止まらないだろう。
俺は色々覚悟して、稲葉がいない分空く筈の仕事を引き受けることの
出来る人員を幾人か準備した。
ところが。
「稲葉……何してる。今日は金曜日だろう」
「はい、解ってます。この仕事終わったら」
「あのな。例の男はどうした。あの自衛官はっ。早くも喧嘩したのか?」
「してませんよ。今日もウチに来てま、ま、待ってます」
それなら尚更、何故ここにいるのか……。
折角繋がった赤い糸を、お前自ら叩き切るつもりか?
あの青年と万が一のことがあったら、稲葉はきっと一生誰とも
結婚する気にはならないだろう。
「お前、少しは焦れ」
「よ、余計なお世話ですよ」
それでもパソコンをログアウトすると、ひと息つき、
後は信じられないような速さで準備すると「お先に失礼します」と言って、
帰宅して言った。
片付けられたデスクの上に、それでも幾つも積んである
フラットファイルを見て、俺はため息を吐く。
仲良くやってはいるようだが、結婚にはまだ時間がかかるらしい。
手のかかる娘だ。
季節はもうすぐ初夏を過ぎる頃。
夏休みにどうにかなるよう、配慮して仕事を組んでやるか。
とりあえず余計な企画には加わらせないようにさせてやらないと、
アイツはデートの時間まで惜しまず仕事してしまう。
すると稲葉から夏休みを取りたいと、申し出て来た。
何やら衣装部の女共とも、話し合っている姿を見かけた。
もしやオフにまで仕事を持ち込む気じゃ、あるまいな……。
何やら衣装部の女共とも、話し合っている姿を見かけた。
もしやオフにまで仕事を持ち込む気じゃ、あるまいな……。
そんな風に疑っていたら、報道から番組の企画の話があった。
来年春の番組改変時期の、特番の話だった。
松島基地へのブルーインパルスの帰還から始まったものの、
今年は航空機の事故の多い年になりつつある。
報道からは、戦後の航空機事故の歴史と原因を探るテーマで、
ドキュメンタリーを組んではどうかとの話だった。
しかしこれはどうだろう?
回って来た企画書を見ると、飛行機に乗るのが少し苦しくなるような内容だ。
空自広報室に出入りするようになってから、稲葉は航空機には詳しかった筈。
しかし今アイツに夏休みを少しでも長く取らせようと、
決心したばかりではないか。
まだ自分が結婚する前に、こう言う横槍を入れる上司は、
馬に蹴られてしまえと本気で考えたことがある身としては、
まさか自分が馬に蹴られる身になるとは思いたくない。
しかし……。
ディレクターとしての勘は、アイツにこの企画を回すべきだと告げている。
……企画書だけでも、コピーして置いておくか。
アイツが自然に気付くことならば、仕方ない。
奇妙な理論で、自分を慰めた。
「阿久津さん」
休暇中の出掛け先から、そのまま局に来た稲葉は普段の彼女ならば
絶対あり得ない姿で、前に立っていた。
そうか……。流石にガツガツ稲葉でも、デートともなると浮かれるんだな。
レースの切り返しの付いた、淡い落ち着いた色味のピンクのワンピース。
「企画書の直し、こちらです」
「お前でも浮かれることがあるんだな」
「え?あ!」
やっといつもならばしていない格好なのだと、気が付いたらしい。
呼び出され、それが企画会議の為と解っているだけに、
手直しを頼んだ企画書のことばかりを考えていたのだろう。
頬が真っ赤に染まっている。
「この格好で会議に参加するのは、マズイでしょうか」
「いいんじゃないか?報道の奴らの度胆を抜ければ、会議が有利になる」
「阿久津さん、ひどいですよっ。そ、それにこれはわたしが
選んだ訳ではなくて……」
何やら俯いてブツブツ呟き始めた。
俺は思わず苦笑した。
「たまにはそれくらいはしておけ。彼から見たら、
お前はそんな風に見えるってことだな」
「……!」
ますます赤くなる。
良い傾向だ。
稲葉の仕事内容が、他の追随を許さない程良くなって来たのは、
その男のお陰なのは明らかだ。
特に今回の企画書は、稲葉でなければ書けないものだ。
競っている訳ではないが、是非この企画は報道ではなく、
情報班中心で制作したい、俺にそう思わせる内容だった。
三時間の枠をウチで扱うことは滅多にない。
稲葉中心で制作したら、質の高い番組が出来るだろう。
しかし稲葉の付き合う相手の男は、稲葉のことを
こんなワンピースを着せたくなる女性として見ている癖に、
アッサリ局に仕事に出すような理解のある奴なんだな。
変わった男だ。
男女も付き合いの密度が高い時期は、ただ離れるというだけでも、
喧嘩のタネになってしまう時がある。
自分もテレビ局勤務ともなると、ひどいと三日連続で
家に戻れないことも常だったから、妻を始めとする家族からは
苦情の言われ通しだった。
稲葉が落ち着いて仕事に向かっている所を見ると、
デート中の呼び出しでも気分を害さず稲葉を仕事に出したらしい。
昨今働く女性など当たり前だが、女性が仕事中心の生活をする事に
理解のある男はまだそうはいない。
局にはそれが原因で離婚した女性社員が何人もいたし、
少し賢い奴ならば準備して寿退社してしまう例も、ままあった。
稲葉はどうするつもりだろう。
ピンクのワンピースを見ると、もうお互いの気持ちは
結婚の二文字まで十分な状態らしい。
そろそろ稲葉自身からそんな話が出ても、おかしくはない筈だ。
企画は稲葉以外のヤツにも関わらせよう。
なるべく航空機に詳しいヤツが良い。
俺はクリアファイルに挟まれた書類を持って、立ち上がった。
秋も深まって来た頃。
入間基地にて航空祭の撮影があった。
空自の積極的な広報の成果か、航空祭はどこの会場も盛り上がり、
混み合うらしい。
稲葉のアシスタントに付けた飛田と言うディレクターは、
元は報道でカメラマン件レポーターだった男だ。
趣味で飛行機を撮影する為に、休暇は空港に張り付いているようなヤツだから、
十分に稲葉の補佐が出来るだろう。
俺はこの番組制作の為に、丁度撮影協力をして貰う相手先の企業や省庁、
または個人などに、スムーズに仕事が行なわれるよう、
菓子折持参で駆けずり回っていた。
航空機の歴史のドキュメント──戦後はともかく、
戦前戦中のパートは各方面から厳しい意見の出る内容が見込まれている。
しかしそれもやりようがあり、前以て関係各所に掛けあっておけば、
そう言った揉め事を最小限に抑えることが出来た。
良い番組になるだろう。
そう思えたから、俺も必死になった。
そんな日々の中で、既にいつもの風景となり過ぎて、
ツッコミすら忘れるようになっていたのだが、
夜の十時も回ったと言うのに稲葉がぽつんとデスクに座っていた。
……。
稲葉が泣いている。
いや、よく見ると実際に涙を流しているようには見えないが、
そんな感じがした。
声はかけられなかった。
アイツのことだ。
きっと素直に相手の男に向かって飛び込めず、
相手と気まずいことになっているのだろう。
全く仕方ないヤツだな。
その仕方ない気分を、また仕事に向けてしまう。
でもその仕事に向かう真剣な眼差しは、本来ならあの自衛官に
向けられたものだろうに。
気持ちのままに相手に飛び込んでやった方が、
きっと相手の男も嬉しいだろうに。
そのあとのことは、二人で考えれば良いのだ。
不器用だな。
自身を棚上げにして、一人静かにパソコンに向かう稲葉の背中を見つめた。
そして。
とうとう二人が婚約したとの報告を、稲葉本人から受けた。
俺はやっと一息付けたような気がした。
大変な部下を持ったものだ。
報道の友人が先日笑いながら言っていた。
「見事に化けたなあ、あの稲葉が。阿久津ちゃんの根性だな」
「いや、今回は」
俺の成果ばかりではなかった。
稲葉がディレクターとして最初に関わった人間が良かったのだ。
空井大祐。
ブルーインパルス体験搭乗の撮影でも、丁寧なお辞儀と
屈託ない笑顔で撮影班を迎え、彼のセッティングした仕事は
ロスが少ないだけではなく、後味も良かった印象がある。
素直にそれを言葉に出して褒めると、彼は照れたように礼を言い、
こう言った。
「今回は稲葉さんのアテンドのお陰です。やはりテレビ局と此方の事情を
知る方がいると、負担が違います。
あと……自分は大変良い先達に恵まれました。後方勤務の経験が浅いので、
本来ならいつもヒヤヒヤしている所です」
そう言えば稲葉がチラリとそんなことを言っていたっけ。
彼は元は戦闘機のパイロットだったと。
笑顔の奥に、何か一つ乗り越えたような強さを感じるのは、
そのせいなのだろうか。
あの笑顔が稲葉を変え、反面稲葉の鋭い程の真っ直ぐさが、
彼を支えたのだろうか。
それは立場が変わってからも、二人の間の絆を作り続けた。
きっとコイツらの結婚式は、やけに肩の荷が下りたような気持ちに
なるだろうな。
そう思い、冬特有の真っ青な空を窓の奥から見上げた。
来年春の番組改変時期の、特番の話だった。
松島基地へのブルーインパルスの帰還から始まったものの、
今年は航空機の事故の多い年になりつつある。
報道からは、戦後の航空機事故の歴史と原因を探るテーマで、
ドキュメンタリーを組んではどうかとの話だった。
しかしこれはどうだろう?
回って来た企画書を見ると、飛行機に乗るのが少し苦しくなるような内容だ。
空自広報室に出入りするようになってから、稲葉は航空機には詳しかった筈。
しかし今アイツに夏休みを少しでも長く取らせようと、
決心したばかりではないか。
まだ自分が結婚する前に、こう言う横槍を入れる上司は、
馬に蹴られてしまえと本気で考えたことがある身としては、
まさか自分が馬に蹴られる身になるとは思いたくない。
しかし……。
ディレクターとしての勘は、アイツにこの企画を回すべきだと告げている。
……企画書だけでも、コピーして置いておくか。
アイツが自然に気付くことならば、仕方ない。
奇妙な理論で、自分を慰めた。
「阿久津さん」
休暇中の出掛け先から、そのまま局に来た稲葉は普段の彼女ならば
絶対あり得ない姿で、前に立っていた。
そうか……。流石にガツガツ稲葉でも、デートともなると浮かれるんだな。
レースの切り返しの付いた、淡い落ち着いた色味のピンクのワンピース。
「企画書の直し、こちらです」
「お前でも浮かれることがあるんだな」
「え?あ!」
やっといつもならばしていない格好なのだと、気が付いたらしい。
呼び出され、それが企画会議の為と解っているだけに、
手直しを頼んだ企画書のことばかりを考えていたのだろう。
頬が真っ赤に染まっている。
「この格好で会議に参加するのは、マズイでしょうか」
「いいんじゃないか?報道の奴らの度胆を抜ければ、会議が有利になる」
「阿久津さん、ひどいですよっ。そ、それにこれはわたしが
選んだ訳ではなくて……」
何やら俯いてブツブツ呟き始めた。
俺は思わず苦笑した。
「たまにはそれくらいはしておけ。彼から見たら、
お前はそんな風に見えるってことだな」
「……!」
ますます赤くなる。
良い傾向だ。
稲葉の仕事内容が、他の追随を許さない程良くなって来たのは、
その男のお陰なのは明らかだ。
特に今回の企画書は、稲葉でなければ書けないものだ。
競っている訳ではないが、是非この企画は報道ではなく、
情報班中心で制作したい、俺にそう思わせる内容だった。
三時間の枠をウチで扱うことは滅多にない。
稲葉中心で制作したら、質の高い番組が出来るだろう。
しかし稲葉の付き合う相手の男は、稲葉のことを
こんなワンピースを着せたくなる女性として見ている癖に、
アッサリ局に仕事に出すような理解のある奴なんだな。
変わった男だ。
男女も付き合いの密度が高い時期は、ただ離れるというだけでも、
喧嘩のタネになってしまう時がある。
自分もテレビ局勤務ともなると、ひどいと三日連続で
家に戻れないことも常だったから、妻を始めとする家族からは
苦情の言われ通しだった。
稲葉が落ち着いて仕事に向かっている所を見ると、
デート中の呼び出しでも気分を害さず稲葉を仕事に出したらしい。
昨今働く女性など当たり前だが、女性が仕事中心の生活をする事に
理解のある男はまだそうはいない。
局にはそれが原因で離婚した女性社員が何人もいたし、
少し賢い奴ならば準備して寿退社してしまう例も、ままあった。
稲葉はどうするつもりだろう。
ピンクのワンピースを見ると、もうお互いの気持ちは
結婚の二文字まで十分な状態らしい。
そろそろ稲葉自身からそんな話が出ても、おかしくはない筈だ。
企画は稲葉以外のヤツにも関わらせよう。
なるべく航空機に詳しいヤツが良い。
俺はクリアファイルに挟まれた書類を持って、立ち上がった。
秋も深まって来た頃。
入間基地にて航空祭の撮影があった。
空自の積極的な広報の成果か、航空祭はどこの会場も盛り上がり、
混み合うらしい。
稲葉のアシスタントに付けた飛田と言うディレクターは、
元は報道でカメラマン件レポーターだった男だ。
趣味で飛行機を撮影する為に、休暇は空港に張り付いているようなヤツだから、
十分に稲葉の補佐が出来るだろう。
俺はこの番組制作の為に、丁度撮影協力をして貰う相手先の企業や省庁、
または個人などに、スムーズに仕事が行なわれるよう、
菓子折持参で駆けずり回っていた。
航空機の歴史のドキュメント──戦後はともかく、
戦前戦中のパートは各方面から厳しい意見の出る内容が見込まれている。
しかしそれもやりようがあり、前以て関係各所に掛けあっておけば、
そう言った揉め事を最小限に抑えることが出来た。
良い番組になるだろう。
そう思えたから、俺も必死になった。
そんな日々の中で、既にいつもの風景となり過ぎて、
ツッコミすら忘れるようになっていたのだが、
夜の十時も回ったと言うのに稲葉がぽつんとデスクに座っていた。
……。
稲葉が泣いている。
いや、よく見ると実際に涙を流しているようには見えないが、
そんな感じがした。
声はかけられなかった。
アイツのことだ。
きっと素直に相手の男に向かって飛び込めず、
相手と気まずいことになっているのだろう。
全く仕方ないヤツだな。
その仕方ない気分を、また仕事に向けてしまう。
でもその仕事に向かう真剣な眼差しは、本来ならあの自衛官に
向けられたものだろうに。
気持ちのままに相手に飛び込んでやった方が、
きっと相手の男も嬉しいだろうに。
そのあとのことは、二人で考えれば良いのだ。
不器用だな。
自身を棚上げにして、一人静かにパソコンに向かう稲葉の背中を見つめた。
そして。
とうとう二人が婚約したとの報告を、稲葉本人から受けた。
俺はやっと一息付けたような気がした。
大変な部下を持ったものだ。
報道の友人が先日笑いながら言っていた。
「見事に化けたなあ、あの稲葉が。阿久津ちゃんの根性だな」
「いや、今回は」
俺の成果ばかりではなかった。
稲葉がディレクターとして最初に関わった人間が良かったのだ。
空井大祐。
ブルーインパルス体験搭乗の撮影でも、丁寧なお辞儀と
屈託ない笑顔で撮影班を迎え、彼のセッティングした仕事は
ロスが少ないだけではなく、後味も良かった印象がある。
素直にそれを言葉に出して褒めると、彼は照れたように礼を言い、
こう言った。
「今回は稲葉さんのアテンドのお陰です。やはりテレビ局と此方の事情を
知る方がいると、負担が違います。
あと……自分は大変良い先達に恵まれました。後方勤務の経験が浅いので、
本来ならいつもヒヤヒヤしている所です」
そう言えば稲葉がチラリとそんなことを言っていたっけ。
彼は元は戦闘機のパイロットだったと。
笑顔の奥に、何か一つ乗り越えたような強さを感じるのは、
そのせいなのだろうか。
あの笑顔が稲葉を変え、反面稲葉の鋭い程の真っ直ぐさが、
彼を支えたのだろうか。
それは立場が変わってからも、二人の間の絆を作り続けた。
きっとコイツらの結婚式は、やけに肩の荷が下りたような気持ちに
なるだろうな。
そう思い、冬特有の真っ青な空を窓の奥から見上げた。
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主婦
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読書・お絵かき・料理
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
当然ですが、原作者および版権元様とは
一切関係がありません。
閲覧に関しては、個人で責任を負ってください。
著作権も一応手放してはいないので、
ご利用の際はご一報下さい。
……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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