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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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拍手たくさんありがとうございます!
二周年の記事にも!
これからもできます時に、更新していきますので
どうぞよろしくです(*^_^*)



と言う訳で季節外れのクリスマス、空井くん編。

小説は続き記事からです。



拍手[46回]



◆◆◆


彼女がクリスマスイヴに、部屋に来る。
そう決まった瞬間に思い浮かんだのは、婚約指輪のことだった。
多分後々になってから、あれこれ思い出すにしても、
クリスマスはいい切っ掛けだろう。
ただでさえも二人でなかなか遠出は出来ないでいた。
今回の休みにしても、彼女の上司がかなり気をきかせてくれたに違いない。
なのに自分ときたら、初めから諦めて、家族持ちの同僚に
さっさと休みを譲ってしまったのだ。
彼女は初めがっかりしたようだ。
受話器から次の彼女の声が聞こえるまで、少し間があった。
おかしな話だが自分はそのことに少々驚いてしまった。
彼女が自分に対して素直に、感情を見せるようになって来ていること。
それが話す声音にも現れているように思える。
感じたままを言えば、彼女の一言一言が、
とても甘く感じられるようになったのだ。
 
 
 
「それはお前の頭に春が来てるからだろー!」
うんざりとした表情(かお)で目の前の片山さんがため息をついた。
側で聞いていた比嘉さんも苦笑いだ。
「まあ、でも空井くんがそんな風に言える日が来たって言うのは、
 いいことだね」
12月半ば、市ヶ谷の防衛庁に資料を届けに来た自分は午後休みを取った。
そこで比嘉さんに昼食を一緒に、と申し出た所、
何処から聞き付けたのか片山さんも現れたのである。
だから――全くのついでだったのだが、『人生の先輩』たる二人に、
聞いてみたのだ。
どんなときに婚約指輪を手渡したのか。
「俺は女房と一緒に買いに行ったよ。欲しい指輪があったみたい
 だったから」
カツ丼を目の前にして、片山さんは割り箸を割った。
「…やっぱりその方がいいですか?彼女の好みもありますよね」
「…ただ、その場でポンと渡しちゃったから、後々まで手抜きだって、
 言われたけどな」
「…っ。片山さんらしいね」
比嘉さんが山菜蕎麦にかける七味を取る。
「今だから言うけどよ、プロポーズなんてしちめんど臭いこと、
 そう何度も出来ねえよ」
「まあねえ。でも女性にとっては何度でも確かめたいことなんだろうし、
 きっと思い出に残るような形にしたいんだろうね。
 その点ウチは段取りが決まってたからなあ」
「段取り、ですか?」
「造り酒屋だし、旧家だったからね。あれこれしきたりがあったし、
 着いて行くのがやっとだったなあ」
自分の前にもようやく注文した、チキンカツカレーが来た。
「…大変そうですね」
「んー、でもアレコレ考えなくて済んだから」
比嘉さんは微笑って言った。
「槙はサイズ間違えたらしいぞ」
「え!?そうなんですか?」
「シチュエーションばっちり決めたらしいんだが、
 嵌めてみたら指輪がゆるゆるだったらしい」
「あらら」
「皆、それぞれですね」
「空井くんは?稲葉さんの指輪のサイズは大丈夫なの?」
「えっ、何でですか?」
「何でって」
比嘉さんは小さくため息をついた。
「今日帰りに買って帰るつもりなんでしょう?婚約指輪」
「…………」
そうなのだ。
だから、市ヶ谷に出るついでを狙って半日休みを取ったのだ。
「バレバレだって言ってんだろ」
片山さんはやや呆れた表情でこちらを見た。
「サイズは…大丈夫です。前回ダミーを渡してみたらピッタリだった」
「…お前以外と抜け目ないな」
「結構繊細な間柄なんです」
「…稲ぴょんにそれ、伝わってるといいな」
片山さんはニシシと笑った。
もう丼には半分しかご飯は残っていなかった。
「まあ、沢山悩んどけ。今が一番『春』だからな」
そろそろ昼時も半ばを過ぎ、食堂を後にする客が増えてきていた。
 
 
 
デパートに入ると、エントランスに大きなツリーが飾られていた。
店内の音楽も軽やかなクリスマスソングで、
いやが上にもクリスマスを意識する。
「ケーキくらいは用意するべきかな」
悲しいかな、基地の周囲にはあまり気の利いた店はない。
先に部屋に来ている彼女の為に、何かクリスマスらしい雰囲気を
演出しておくべきだと思った。
料理はあれだけ彼女が張り切っているから、水を差したくない。
「ツリーかあ」
子供の頃は中学生になるまで毎年飾るのは、自分の役目だった。
お菓子のオマケに付いていた飛行機のプラモデルをツリーに飾ったりして、
家族に顰蹙を買ったこともあったっけ。
「………」
もし、これから買いに行く物をツリーに吊るすとしたら、
どれくらいのサイズのツリーが適当だろうか?
直ぐ様、売り場を調べる為に案内所に向かった。
 
 
 
ところが。
21日の金曜日から、初め雨だった筈の予報が、思いの外冷え込んで、
陽が沈んだ途端雪になった。
翌日、土曜日には首都圏では珍しい程の積雪量になってしまう。
職場から緊急に出勤を求められ、雪かき要員として休みなしの
勤務になってしまった。
さぞ、がっかりするだろうと彼女のことばかり気になったが、
彼女の声は優しかった。
彼女にとっては、この連休より珍しく休暇が取れたクリスマスの方が
より大切なのかもしれない。
それなら尚のこと、しっかり準備はしておかなければと、
雪かきから戻ると、部屋の片付けを始めた。
そして先日購入した、この部屋には不釣り合いな大きさの、
クリスマスツリーを設置する。
正直、飾って見るとあまりにもツリーの主張は強かった。
だが『アレ』を吊るすにはこのサイズくらいないと、物足りない。
「…まあ、いいか。来年には二人でもう少し広い部屋に
 住めるかもしれないし」
あえて楽天的に考えて、ツリーの飾りつけをした。
最後に指輪の入った箱を吊るす段階になって、気が付いた。
彼女がこれを見つけた時に、自分が側にいるとは限らない。
カードなんて洒落たもの、あっただろうか?
文房具を仕舞った引き出しを探す為に立ち上がった。
 
 
 
これで万全。
起こるべき全てを想定して、準備したつもりだった。
ところが、イヴの日は朝から頭痛がして、やや寒気もする。
パイロット時代の癖で、普段から相当健康には気を使っている
つもりだった。
こんな(人生の大切な)時に限って!
風邪くらいならば、乗りきれる。
そう自分に言い聞かせる。
それほど彼女と今日の夜には会える――側にいられることを
何より求めていた。
 
 
 
「寝るまで、撫でてて」
なんと言うべきか、彼女にはすぐバレた。
そっと冷たい細い指が、額に触れる。
「ゆっくり寝て下さいね」
彼女は思ったより穏やかだった。
『これからは一緒なのだから、今日やろうとしたことはいつでも出来る』
そう言って。
熱で少し朦朧とした頭で、アレコレと言いたい言葉を考えたが、
上手く出てこない。
「…ゴメン」
謝りながらも、むしろ一晩中彼女を抱き締めることが叶わなかった自分が、
一番悔しいのかもしれない。そんな風に思いながら、
意識が曖昧な領域に入るのが解った。
 
 
 
明け方、薬が効いたらしく、ややすっきりして目が覚めた。
喉が渇いていたので起きて、ベッドから出た。
すぐ隣の居間のソファには、彼女がまるで猫のように体を丸めて
眠っている。
寒かったのかもしれない。自分のせいで可哀想なことをした。
仕方がなかったものの、内心舌打ちしながら、
起こさないように、そっと彼女に近付く。
「もう見つけちゃったのか…」
枕上には金のリボンの付いた見覚えのある包みが置かれていた。
でもまだ開封されてはいないらしい。
遠慮したのだろうか?
けれど中身は察したに違いない。
いや、中身を察したからこそ、開けなかったのかもしれない。
起こすつもりはなかった――でも彼女に触れたい、
彼女の伏せられた長い睫毛を見て、急に沸き上がった感情を
押さえるのは難しかった。
静かにソファの横にひざまづく。
やっぱり猫みたいだ。
小さな寝息を聞きながら、指先で白い頬をつつく。そして掌で髪を撫でた。
柔らかで滑らかな感触。
ぐっすり眠っているようで、彼女は無抵抗だ。
普段ならなかなか難しい、そんなことを思い浮かべて、苦笑する。
そっと額、それから瞼に口唇を付けた。
小さく身動ぎしたものの、やはり彼女は目覚めなかった。
だからそのまま口唇を重ねた。
『…今日このまま出勤しろなんて、酷いクリスマスだなあ』
心の中でため息をつく。
調子に乗って、長いこと口唇を付けていたら、彼女がぱちりと目を開けた。
「…………!」
一度微かに口唇を離したけど、構わずまた今度は確信犯で深くキスをする。
一度身を強張らせたものの、彼女は掴まれた手首を抜いて
逆にこちらの手に指を絡ませた。
口唇を離す。
真っ直ぐに彼女の瞳がこちらを見ていた。
部屋はまだ薄暗い。
「………おはよう」
ちょっとバツの悪い表情で微笑って見せた。
彼女はそっと、こちらの額に手を伸ばした。
「熱、下がったみたいですね」
「うん。…でも今年のサンタは少し意地悪だな」
「意地悪?」
「折角熱が下がっても今日はこのまま出勤だし、
 君に触れることも出来ない」
彼女は起き上がって、こちらを見つめた。
「………大祐さんさえ良ければ、わたし明日の朝此処から
 局に出勤します」
言ってから彼女はうっすらと頬を染めた。
「これ…直接薬指に嵌めて下さい」
彼女の手にはあの包みが乗っていた。
「…いいよ」
「昨日出来なかったお料理も今日出来るし」
やっぱり我慢出来ない。
素早く手を引いて、彼女を抱き締めた。
「………大祐さ」
「もう今日は絶対定時に帰る」
彼女はきゅっと、背に回した手に小さく力を込めて、
それでも口ではこう言った。
「困りますね…空自の優秀な広報官が、結婚したら毎日定時に
 帰るんですか?」
「……君がいいと言うなら」
 
 
 
彼女の頭越しに窓から見えた空は、そろそろ瑠璃色に変わり
一日の始まりを告げようとしていた。
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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