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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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すみません^^;コメントのお返事は次回に漫画付きでします。
なんか思いのほか拍手が多くて、悪乗……いえ、戸惑ってます(*ノノ)
ちょっと週末を史紋さんのターンで終わらせるのは、苦しかったので
ここまで書きました。
 ◇◇◇◇◇◇◇◇
 
あの夜から史紋は仕事を京都に移したようだった。
書斎のパソコンから指示を出し、秘書とおぼしき人間が入れ替わり
立ち替わり現れる。
社内や、親族の行事には奈々を連れて行くこともあったが、
殆どの日々を奈々は御名形家の邸内で過ごしていた。
軽く監禁状態だと言ってもいい。
史紋が出掛ける日は、西田が側にいる。
尤も逃げる場所も持たないのが、今の奈々だった。
 
 
 
自ら言った通りほぼ毎日史紋は奈々を抱いた。
厳しいことを言うこともあるが、決して労りがない訳ではない。
優しく、でも拘束する意志の強さはまるで鋼のように感じる。
相反する愛情のかけ方は奈々本来の率直ささえ、失いそうだ。
 


「薬学部の講師だそうですね。何でも同じ世代では滅多に見られない
 俊才だったとか。こんな巡り合わせでなければ、援助を申し出た
 かもしれませんが」
奈々の躯を己れの思うままにしながら、史紋が囁いた。
崇の優しかった呟くような声が懐かしかった。
「いずれ貴方の名前でそうしますか?」
「…………………」
そんな事をしても多分崇は受けないだろう。学生時代でも気難しく、
教授たちからは扱いにくい学生だと言われていたのだから。
 
「今日貴方が在学中教えを受けたと言う教授から、連絡がありました。
 わざわざ僕を通して」
「…………外嶋教授が、ですか?」
「貴方の卒論のことで外部から問合せがあり、色々見て欲しい資料が
 あるようです。校外には持ち出しが出来ないから来て欲しいと」
奈々と崇は学科が違っていたから、奈々の学科の教授だった外嶋と
崇には直接の関係はない。
だが崇と外嶋は奇妙にウマがあって、仲が良かった。奈々と崇と外嶋で
遅くまで話し合ったこともある。
もしかしたら崇の近況だけでも、外嶋から聞き出せるかもしれない。
「僕としては貴方をあの男の元へやるようなものだから、貴方には聞かず
 に断るつもりでした。しかし彼は今学会で日本にはいないと聞きました。
 貴方も邸に籠ってばかりで、流石に顔色が悪い。だから明日は少し
 気晴らしに、その教授の元へ行くのがいいでしょう」
思うより優しい仕草で、史紋は奈々の髪を撫でた。
けれど奈々の心は大学の研究室の、古びた椅子に座り口も聞かずに本を
読んでいる崇の姿でいっぱいだった。
 
 
 
 
大学の敷地内を奈々は和服姿で歩いている。
御名形の家に来てからは、毎日着物で過ごしているからだ。
秋も大分深まっている今日は紅花で染めた淡い色の訪問着に
白の道行を着ていた。
 
 
久しぶりに呼吸をした気がする。
史紋は決して酷い人間ではないと、奈々はそう思っている。
先に彼を裏切ったのは奈々なのだ。
予定外を嫌う史紋の性質が、今の奈々に辛く中る(あたる)
ことになるだけなのだろう。
それでもこの三ヶ月の御名形の邸での日々は息苦しく、
奈々の心を磨り減らせた。
 
 
 
「やあ、来たね」
外嶋は相変わらずだった。奈々も笑顔で挨拶する。
「何だかやつれたな。まあ、御名形のような大きな家では、
 君でも気苦労は多いだろう。ああ、相原くん」
秘書の相原美緒が顔を出した。
「そこのお付きの人に、あちらの応接室でお茶を」
「はあい」
美緒も元気よく返事をした。
「すごいわ~、貴方あの御名形家の執事さんなんでしょう。
 色々お話聞かせて下さいな」
今日は、と言うか今日も奈々の側には西田が付いて来ていた。
西田は初め奈々の側から離れるのを渋ったが、美緒に上手く
言いくるめられ、席を外した。
 
 
「やれやれ、やっと行ったな」
美緒と西田の後ろ姿を見送ると、外嶋はため息をついて奈々を見た。
「今資料を持って来るから、此所で待ちなさい」
そう言うと今二人が出たのとは、反対側の扉から出て行った。
 
 
一人外嶋の研究室に残された奈々は、一息ついた。
この黴臭い匂いも、今では懐かしいくらいに感じる。
今日は崇には会えないが、それでもそこかしこにその存在を見るようで、
奈々はほんのりと幸せだった。
 
 
外嶋が姿を消した扉が開く音がした。
振り向こうとした瞬間、力強く背後から抱き締められた。
------まさか。
学会で海外にいると聞いていたのに。
 
 
「外嶋教授に相談して、計らって貰ったんだ。学会の名簿を操作して」
「タ……………」
涙が次々に溢れてくる。
「御名形家でもしも君が幸せなら、こんな無茶をしようとは
 思わなかった。------何度かあの邸から御名形と並んで
 外出する君を見たが……君、少し痩せたな」
首筋に温かな息がかかる。
「タタルさん……」
「すまなかった。君に辛い思いをさせた」
「いいえ、わたしこそ」
互いの頬が触れ合う。
「外嶋教授が論文を書くのに使う家が、東山から大津に抜ける道筋
 にある。今日はそこに落ち着こう。一日二日は教授が上手く誤魔化すと
 言ってくれた。その間に東京に出てしまおう」
「でもそんなことをしたら……!」
崇の将来はなくなる。
「別に大学だけが世界ではないし、君と二人でやって行くことくらい、
 俺にも出来る」
「折角離島で発見された新種の薬草の薬効について、論文を発表すると
 仰っていたのに」
「あの野口英世だって、あれだけ黄熱病の研究をして、
 しかし世間で認められたのは梅毒の研究だけだ。それだけでも
 すごいことなんだが」
崇は奈々を抱き締めていた腕をほどくと、奈々を自分の方に向かせた。
いつもの寝癖だらけのボサボサ髪。間違いなく崇だった。
「今此所で君を奪わなかったら、死んでからも後悔するような気がする」
そう言って奈々を見つめると、そっと奈々の頬に手を触れて、口づけた。
 
 
 
 
崇との最初の日からどれだけこのキスを、待ち焦がれただろう。
 
涙が溢れて止まらない。
でも今この瞬間が全てのように思えて、口唇を離したくなかった。
 
 
「そろそろ潮時だぞ」
外嶋の声がした。
「出るなら西門からがいいだろう。車は借りてあるんだろう?」
「ええ、足がつかない筋から」
「間違っても事故るなよ。元も子もないからな」
奈々は小さく微笑った。
崇の運転は大学では伝説になっていたからだ。
一度本を片手に車庫入れをして、壁を大破したことがある。
「そんなことはしません」
「さあ、早く行け。手強い相手なんだから、先手を打つのが大切だ。
 -----ああ、あと奈々くんの妹さんだが」
妹の沙織は今神戸の大学にいる。
「相原くんに頼んで連絡して貰う。落ち着いたら、知らせるといい」
「ありがとうございます。外嶋教授」
奈々が丁寧にお辞儀をすると、外嶋は何も言わずに手を降った。
 
 
 
外嶋の別宅は山奥とも言えないが、辺りには家一つない、
雑木林の奥にあった。
危うい運転で家の前に車を止める。
「俺も以前に論文を書くときに借りたことがある。
 敷地内に誰かが来れば分かるようになってる」
これなら万が一史紋から追っ手がかかっても、一足早く分かるだろう。
 
 
部屋は家具も少なく、基本的なキッチンの家電品と、書き物机、
後小さめのベッドが一つあるきりだった。
「流石に少し山側に入ると寒いな。君は今夜ベッドで
 寝るといい。俺が床に寝るから」
「だ、だめです!」
奈々は思わず崇の袖を掴んだ。
「い、一緒に寝ればいいじゃないですか」
奈々の必死な表情を崇はじっと見つめる。
「一緒に寝たら、温かいと思いますし、そ、そ、それに」
「………それに?」
「少しでも離れているのは嫌です」
頬を赤らめて言う奈々を崇は微笑って見ている。
奈々はやっと気が付いた。
「………タタルさん、わざと言ってますね」
「君のその言葉が聞きたかったから」
奈々をそっと抱き締める。
どうして今まで離れていられたのだろう。
北山の家で初めて奈々を抱いた日、あの日に何故手を離したのか、
後悔ばかりして来た。
もう二度と離さない覚悟をして、今こうして彼女を抱き締めている。
 
 
 
 
静かだった。
世界に二人しかいないような錯覚を覚える。
疲れが出たのか奈々はうとうとしながら、崇の腕に凭れていた。
 
 
不思議に思った。
彼女をこの手に抱けば、胸の奥にある負い被さるような不安や、
焦燥感から逃れられると信じていた。
確かに今まで確かめあっていた互いの温もりは真実で、
奈々の離れていた間の心をそのまま映して、真っ直ぐに崇を求めている。
しかしこの九ヶ月の間の奈々の変化を、見逃せない自分もいた。
抱き締め、いとおしむ奈々の躯の向こうに、もう一人同じ心情で
彼女を抱いた男の存在を確かに感じるのだ。
 
 
 
明日大津から東京へ向かう。東京には御名形の本社があるが、
それ以上に人の多さが、崇と奈々を隠すのに役に立つ筈だ。
 
 
 
「タタルさ…ん?」
奈々が目を覚ましてこちらを見ている。
指先で弄ぶように前髪を掬う。
「良かった。目を覚ましたらまたいつもみたいに、
 御名形のお家で寝ているかと不安でした」
「これは夢じゃなく現実だ」
「ええ。でもいつも眠りが浅い時は、そんな夢ばかり見ていて」
奈々は白い瞼を閉じた。
「御名形さんの側ではいつも眠りが浅かったから……」
「奈々くん、君、就寝前に何か飲まされていた?」
「……疑いたくはないですけど、いつも彼が煎じたと言う薬湯を」
「……………」
御名形史紋は手段を全く選ばないらしい。
そして一つ解った。
いや解っていた。
彼が欲していたのは、奈々の実家の格式や代々伝わると聞く
秘法などではなく、奈々自身なのだと言うこと。
 
崇が奈々の様子を見る為、史紋と奈々の出掛ける所を見張って
いた時、史紋の奈々を見る視線は、彼が他の人間を見る時
とは明らかに違っていた。
そこには労りや慈しみに混ざって、執着もあった。
多分-----自分も同じ表情(かお)をしているのだろうな。
そう感じた途端に堪らなくなって、崇は奈々を強く抱き締めた。






※どうやら終わりの方が見えてきたので、あまりに不評じゃない限り
お気楽に続けて行こうと思います。
次回からは、神田川(若い人にはわからないよな~)な世界が繰り広げられる
予定。
京都の貧乏事情が解らず、舞台を東京に移します。

拍手[8回]

いやいや、ありがたいことに?一回目に拍手を頂きました。
正直サイトを別にしようか悩んだほどなんですが、このまま
行きます。・゚・(*ノД`*)・゚・。 
さあ、うっかり開けちゃった方、回れ右するなら今がチャンスです。


◇◇◇◇◇
 
 
御名形コンツェルンの社長、御名形史紋との婚約
そして結婚と全て順調に進んだ。
見合いの後、先方から断られないかと、秘かに期待していた奈々
だったが、まるで決められたもののように、事はスムーズに進んだ。
 
あれから崇とは会っていない。連絡する術を持たない奈々には、
どうしたらいいのかも解らなかった。
 
 
一方夫になった史紋はと言うと、会ったのは結納と結婚式の当日だけ。
後は殆どを東京の本社に出向していて、奈々は曾祖父の代から
住むと言う、御名形の古い大きな邸で一人きりで過ごした。
 
 
 
夫の秘書と言うか、執事のような立場の西田と言う青年が、
いつも奈々と史紋の間を繋ぐ役目のようだった。
「明後日の夜には社長はお帰りになります。良かったですね、奥様」
そんな風に呼ばれても全く実感は湧かない。
奈々にしてみれば、結婚して一ヶ月ただ住む場所を移しただけの
毎日だったのだ。
思うのは、ろくに顔を見たこともない史紋ではなく、
半年前に秘かに時を共に過ごした崇だけだった。
 
 
 
どうしているだろう。
 
在学中、白衣を着てボサボサの髪で研究にのめり込んでいた崇。
かと思えば昼寝ばかりしている時もあった。
大好きな歴史や文学、民俗学の話になると、奈々を相手に朝まで
喋るのではと思うくらい話した。
 
 
 
なのに。
-----先日会った時は違っていた。
普段は研究の対象物や歴史上の謎に向けられる真摯さが、
真っ直ぐ奈々に向けられ、他の何物も目に入らない。
そんな感じだった。奈々もその眼差しに答えて、
彼を見つめ自分の与えられる全てを彼に捧げた。
 
奈々に触れた崇の指先が意外にも熱かったこと。
いつもは無愛想に見える目が優しかったこと。
奈々の心に鮮烈な印象で、焼き付けられていた。
 
 
 
二日後の夜に史紋が帰って来た。いつもなら寝る支度にかかる
時間だが、今日は流石に起きて史紋の帰宅を待っていたのだ。
玄関で出迎えた奈々を史紋は一瞥した。
見合いの時にも忙しかった結婚式の時にも感じたのだが、
史紋は感情が全く表に出ない質のようで、まるでその顔は
能面のようにも見える。
 
夫と言う近しい関係だが、彼のことは何も知らないに等しかった。
 
 
 
先に床についているよう言われ、それまでの日々一人きりで
眠っていた寝台で、史紋を待っていた。
------待っていたと言うより、恐れていたと言う方が正しい。
史紋の仕事のことで、一月延びたものの、今夜が夫婦として過ごす
最初の夜なのだ。
崇とのことを忘れることが出来ない奈々としては、相手が誰であれ、
指一本とて触れられたくはない。
しかし。
拒めるものだろうか?
 
 
もしも史紋を怒らせた場合、その影響は多分思いもよらない所に
まで及ぶことが、懸念された。
実家にはまだ大学に入ったばかりの妹がいる。
そして------もし崇のことが史紋に知られたら、
まだしがない大学の講師の崇の存在など、叩き潰されてしまう
かもしれない。
崇の夢や未来は奈々にも大切なものだった。
共にすることは出来なくても。
 
 
 
「待たせましたね」
史紋がやって来た。広い和室に大きめの古い、恐らく年代物と思われる
寝台が置かれているその部屋では、史紋の存在は殊更威圧感を覚える。
「この家に少しは慣れましたか?不都合な所があったら、
 すぐに改善します。貴方の家でもあるのだから、貴方の思うように
 して構わないですから」
奈々もそうだったが、史紋も白い寝間着-----浴衣を着ていた。
「ありがとうございます。大丈夫です。よくして頂いてます」
気のせいかもしれないが、史紋がふと微笑ったように見えた。
「どうも他人行儀ですね。仕方のないことですが」
史紋の冷たい指先が奈々の頬に触れる。
瞬間、奈々の中で何かが弾けた………ように感じた。
違う。
わたしは………。
 
 
「ご、ごめんなさい。わたし、今夜はあまり気分が良くなくて……」
「…………そうですか。それは良くないな。熱は?」
「あ……な、ないと思います」
奈々は必死だった。儚い抵抗に過ぎないと解っていたが。
「今夜はもう休みましょう。君がそうやって緊張するのも無理はない。
 ………でもこれだけは知っておいて欲しいのですが、僕はただ家や
 事業の為に貴方を選んだ訳ではない」
「………………!」
言うだけ言うと、史紋はベッドのサイドランプを消して、
さっさと横になってしまった。
 
 
 
多分表に見えているより、史紋は冷たい人柄ではないのかもしれない。
わたしは生涯この人を裏切っていく………。
奈々は胸の奥が小さく傷むのを感じていた。
 
 
 
次の日の夜も先に体調の良くないことを告げ、
史紋より奈々は先に床についた。
だから奈々の寝顔を見つめて史紋が呟いた言葉は、奈々が知るはず
もない。
 
「成程……。子供のような抵抗ではあるが」
指先で奈々の前髪に触れる。
「あの男か。結婚式の日、会場に似つかわしくないのが
 一人紛れこんでいた」
 
 
 
 
史紋と朝と夜だけではあっても生活を共にするようになって、
三日目。夕食後に西田が盆の上に、湯呑みを一つ持って表れた。
「社長が奥様にと。体調不良が続いているようだったので、
 ご心配なさっておいででした。社長自ら調合された薬湯です。
 社長は並の薬剤師より詳しい方ですからね。僕も一度助けられたこと
 があるほどです」
「そうなんですか?」
「ええ。ああ見えて社長は面倒見のよい方です。当然奥様のことは一番
 心配なさっている筈です」
湯呑みを受け取り、そっと口を付けた。
口に幽かな芳香と苦味を覚える。
「今夜は少し調べ事をなさってからお休みになるそうなので、
 先にお休みになっていて下さいとのことです」
東京から戻っても、史紋の忙しさは相変わらずだった。
 
 
 
 
床についた時、不快感はないものの何処か陶然としたような、
普段は感じないような痺れが躯に走るのを覚えた。
横になると、起き上がるのが億劫になるような感じだ。
暫くうとうとしていると、史紋が入って来た。
しかし、起きようとしても躯が思うように動かない。
頬に冷たい掌が触れる。
「こんな方法は取りたくなかったのですが……いつまでも貴方の
 可愛らしい抵抗に付き合う訳にもいきません。貴方には後継ぎ
 も産んで貰わなければならない。………それに」
史紋の躯の重みを奈々は感じたが、視界も冥く指一本にも思うように
力が入らないことが解った。
「僕は一度決めたことは翻さない性質(たち)でね。君を手に入れると
 決めた以上は、必ずそうします」
冷たい薄い口唇が触れる。
決して乱暴ではないものの、何処か冷徹な温かみなど一筋も感じない
キスだった。
 
それなのに。
史紋の求めるままに、奈々の躯は応えてしまっていた。
どうして……?
自分がこんな人間だったなんて。
そのショックの方が大きかった。
一つだと信じていた心と躯の悦びは、全く別のものだと刻み込まれて
いく。
そう言う所は史紋はまるで容赦はなかった。
決して奈々に酷い扱いをしている訳ではない。いや、だからこそか。
丁寧に奈々の躯の反応を呼び覚まし、冷静に見極めて翻弄していく。
 
 
 
「貴方は僕と結婚するまで、付き合った男性はいない、
 そう聞いていたのですが」
全てが終わり、泣くことも出来ないまま、ただ衝撃だけを残して、
奈々は横たわっていた。
「結婚式の日に場違いな格好をした男が、花嫁衣装の君を食い入る
 ように見ていた」
崇が結婚式に来ていた?!
「調べさせましたが大学時代の先輩だとか。僕と同じ年か」
最悪の展開だった。
奈々の小さな隠し事など、史紋の手には玩具のように他愛もない。
「君次第だ。結婚前のことは過ちとは言えない。そんな無粋な人間では、
 僕もないつもりです。君がこの家の人間として生きていくつもりなら、
 今回は目を瞑りましょう。だが諦めの悪い子供には、躾が必要です。
 君がそのつもりならば容赦はしない」
淡々とした口調に、却って史紋の意志の強さが表れていた。
多分史紋の呵責のない攻撃は、奈々に向かわず崇に向かうことになる。
「今夜から毎晩君は僕に抱かれる。僕にはそうする権利があるのだから、
 それを実行するだけのこと。君に拒む権利は与えません。尤も拒めれば、
 の話ですが」

奈々の頤に指をかけ、見つめる視線はいつもと変わらず冷静なままだったが、
その奥に冷たい焔を見た気がして奈々は小さく震えた。




※これどこまで続けるつもりなんだろう……わたし(-_-;)
本当に思い切りよくベタな展開です。
今回タタルのタの字もありません;;頼むから私を祟らないでよ!!
読んで後悔しちゃった方本当にごめんなさいm(__)m
史紋さんコワイ~ΣΣ(゚д゚lll)
いや、原作の史紋さんは冷たそうに見えても結構面倒見の良い
顔で損しちゃってるいい方なんだと思いますがね。

拍手[6回]

舞台は京都と言うことでヨロシクです。 


 




◇◇◇◇◇◇◇

古来からとある薬の秘法を受け継いで来た、棚旗家。
代々第一子が、その秘法を伝えていく風習を守って来た。
奈々の代は長女の彼女だけが、それを知っている。

先程、両親を亡くし大学を卒業した奈々に、親戚から見合いの話が
舞い込んで来た。

あの国内の製薬事業を裏で一括しているとも言われる、
御名形製薬の若社長との話だった。
両親を亡くし、家を維持出来なくなっていた奈々には願ってもない話
である筈だった。

しかし、奈々には大学在学中からの憧れの存在があった。
一学年上の桑原崇である。
学生時代何かと行動を共にすることも多く、一緒にいられればそれで
幸せだった。
お互いの気持ちを確かめることもないまま、卒業を迎え、
今では滅多に会うことがない。


現在、彼は大学に薬学部の講師として身を置いている。


棚旗家と御名形家の結婚話はまだお互いに返事もしないうちから、
製薬業界中の噂になっていた。
薬学部講師の崇の耳にも入っただろう。

彼はどう思っただろう。
そんな儚い気持ちに、思いを廻らせながら、日を過ごしていると
奈々の元に一通の手紙が届いた。
崇からだ。


文面は素っ気なく、三行で終わっている。
『人知れずこそ 思い染めしか 高桐院にて七日午後二時』

百人一首からの引用だと奈々には解った。在学中、崇から教わったこと
があったからだ。あまり身なりに構わない男だったが、
彼の趣味は文学や歴史にあった。


-----会いたい。
崇はそう言っている。
彼は在学中から、あまり自分の気持ちを表に出す方ではなかった。
珍しいことだったが、奈々にも解った。
自分も彼に会いたかったから。



七日、約束の大徳寺の寺域内にある高桐院に奈々はいた。
静かな庭の佇まいが、却って胸の高まりを感じさせて落ち着かない。
一人、佇んで庭を眺めていると懐かしい声が。
「奈々くん」
振り向くと、そこに彼がいた。
大学で講師になってもう一年は経っているのに、相変わらず学生のような
雰囲気は抜けない。
ボサボサ髪の向こうに見える瞳は、長い睫毛に縁取られて、
真っ直ぐ奈々を見つめていた。
「タタルさん、お久しぶりです」
大学時代のあだ名のまま、彼をそう呼んだ。
「一年と三ヶ月ぶりだな」
相変わらず細かいことを記憶する癖は直らないようだ。
でも奈々には、今はそれすら嬉しい。
「あの今日は」
「御名形との話は聞いた」
奈々に話させる前に、切り出して来た。彼にしては珍しい程の率直さだ。
「君の家のことを考えたら、俺にはまるで機会も権利もないことは
 知っている。だから----君を見ているだけでいい、そう思って来た。
 だが……あの男との話を聞いてから、君のことしか考えていない
 自分に気づいて……」
「まだ何も決まった訳ではないんです」
「だが断った訳でもない」
崇の眼差しは今の奈々には苦しいくらいだった。
こんな風に責められる義理などない間柄の筈なのに。


「………わたし嫁ぎたくありません。でももし断ったりしたら、
 家も妹も大変なことになると」
奈々の大きな瞳が涙で潤むのを見て、崇は自分が考えていた以上に、
自分の胸が痛むのを感じた。
「確かに噂では御名形と言う男は、口にしたことは必ず成し遂げる男だと
 聞いている。君のことも、恐らくただの見合い話ではないだろう
 -----彼にとってはもう君とのことは、決まったことの筈だ」
世間ではそんな風になっているのだと、奈々は初めて知った。
奈々は見合い相手の御名形史紋が、どんな男性かも知らなかったからだ。



「どちらにしても、ここでこれ以上の話は出来ないな。
 ----今、北山に一軒家を借りているんだが、来るか?」
他人(ひと)に知られたら大変なことになる。そう解っていたが、
奈々は崇の一途な眼差しに応える術を、他に持たなかった。
小さく頷いて、崇に導かれるまま、彼に着いて行った。




崇が借りている家は京都でも閑静な一角で、観光地からも外れており、
家も疎らだった。
木造の古い一戸建ては、何処か孤独に見えて、奈々には在学中の頃の
崇を思い出させた。

彼の研究室もそうだったが、部屋の中は本ばかりが積まれていた。
本のジャンルも一様ではない。
相変わらずだ。
奈々はクスリと笑った。

「やっと微笑ったね」
思いの外優しい瞳が、自分を覗き込んでいて、奈々の胸は高鳴った。
「変わってらっしゃらないなあと思って」
「もう仕事だか、趣味だか確かに解らないね」
床に置かれた本を退かして、奈々の座る場所を作った。
「手紙の………あの歌は」
話さなければならない言葉は、沢山あった。
でもこんな話からしか出来ない。
崇も器用ではないが、奈々もこう言うことには不慣れだった。
「壬生忠見の歌だね。-----恋すちょう 我が名はまだき 立ちにけり」
「人知れずこそ 思い染めしか」
「平兼盛の、忍ぶれど 色に出にけり 我が恋は と天徳二年の歌合わせで
つがえられた歌だ」
「でも今の歌より、お手紙の歌の方が何だか哀しげな感じがします」
「………そうかもしれないね。何処か---叶わない恋の行方を知っている
 ような調べだ」
「叶わない……恋」
見上げると思ったより近くに崇の顔があった。
崇の男性にしては細い指が、奈々の前髪を掬う。
学生時代、奈々が疑問を口にすると、彼はよくそんな風にした。

「叶わない……思い、なんでしょうか?」
吸い込まれるように、崇の目を見つめた。
髪を絡めた指が、すっと頬に落ちる。
「それは君次第だ」
「…………わたしは……」
困惑してひそめられた眉を見て、崇は苦笑いした。
「狡い言い方だったな。君がもし俺を選んだら、
 捨てるものはひとつではないのに」
崇は俯いた。
「…………今だけ」
奈々は顔を上げると、真っ直ぐ崇を見た。
「今、今日、此処でだけわたしは『棚旗奈々』であることを忘れます…!」
呼吸(いき)が止まったかと思う程の静寂が、二人の回りを包んだ。



気が付いた時には、奈々は崇の腕に抱き締められていた。
その温もりは……多分彼と出会ってから、奈々がずっと求めて来たものだった。
口唇が優しく触れる。
そのまま、春の雪のように自分が溶けてしまうかもしれない、
奈々はそんな風に感じながら、そっと瞼を伏せた。

溜め息と衣擦れの音だけが、耳に残る。


小さく震える指先に口付けて崇が言った。
「君、もしかして」
彼の聞きたいことを察して、奈々は赤くなった。
「ええ、誰も知りません」
「確か、小中高と女子校だったな。今どき珍しいとは思っていたが」
「だから最初にタタルさんに会った時は…………同世代の男の方は皆、
 こんな風なのかと思ってびっくりしました」
「まさか。まあ、俺も君があまりに世間知らずなので驚いたがね」
総合大学の薬学部では奈々の存在は稀有だった。
彼女は気付いていないが、多くの男の視線を彼女が集めていたのは事実だ。
だが彼女の後ろにある、由緒ある家の存在と、
彼女自身のあまりに無垢な性質が男達に積極的な手段を取らせることを、
躊躇わせたのだ。


その誰もが-----学生時代の自身ですら躊躇った行為を今、
彼女と為そうとしている。

彼女に触れ、彼女に己れの存在を感じさせ……。



「怖かったら目を瞑ってたらいい。酷くはしないよ」
崇は出来る限りの優しさで、奈々に触れたかった。
無下に花を散らすような、無粋な真似はしたくない。



確かなようでいて儚い瞬間。腕の中の存在は優しく柔らかく、
崇の知っている全ての中で、こんなにいとおしく感じさせるものは、
ひとつもなかった。
まだ誰にも触れられたことのないその躯は、無垢な心情をそのままに、
素直な反応を返す。

その明快な率直さが彼女の美点のひとつだった。


崇を受け入れる時、やはり奈々は怯えたように、身を縮めたが、
次の瞬間には微笑んで努めて、崇を受け入れようとした。
あまりの健気さに自分すら見失いそうになりながらも、
彼女の中にゆっくりと己れを沈める。

「……辛いか?」
彼女の痛みが己れの快楽になるのが、なんだか許せない気持ちにもなる。
「大……丈夫です」

背に回された指先に力が込められる。


「んっ……」
奈々が小さく息を呑む。

互いの眼差しがぴたりと合った。


-----例え今だけでも。
天の川を隔てた恋人同士ですら、一年に一度は会えるのに。
次はいつ会えるか解らない。
この抱き締めている間だけが、二人の関係。それが今ある全て。

その時間は長いようにも、短いようにも感じた。


ふと見ると、小さな窓からは、宵の明星が瞬くのが見えた。
-----帰したくない。
隣に瞼を伏せた彼女を抱き締めながら、崇は強く思った。

行く末は不安なまま、ゆらりと視界が揺れたようにも崇には感じられた。



◆ええ、もうタイトルなんか付けませんぜ(-_-;)
続くかどうかは、皆さんの反応を見て(苦笑)
こういうのを世間では『パラレル』って言うんですよ、奥様。
私はまだパラレル書くほど、タタ奈々暦ないんですが……←と言うかとても短い。


まきまき様、遊月様へ
>あのこのまま続くと次回は御名形さんのターンで、しかも夫婦生活(ぐはっ)を
書かなきゃならなそうです。そしてどんどん、進むと二人が駆け落ちしてひっそりと
貧乏な生活を始めるのはいいのですが、タタルさんが肺結核になったり(爆)
奈々ちゃんが記憶喪失になったり(韓国ドラマの定番)することになりますが、
いかがいたしましょうか?
 

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著作権も一応手放してはいないので、
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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