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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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舞台は京都と言うことでヨロシクです。 


 




◇◇◇◇◇◇◇

古来からとある薬の秘法を受け継いで来た、棚旗家。
代々第一子が、その秘法を伝えていく風習を守って来た。
奈々の代は長女の彼女だけが、それを知っている。

先程、両親を亡くし大学を卒業した奈々に、親戚から見合いの話が
舞い込んで来た。

あの国内の製薬事業を裏で一括しているとも言われる、
御名形製薬の若社長との話だった。
両親を亡くし、家を維持出来なくなっていた奈々には願ってもない話
である筈だった。

しかし、奈々には大学在学中からの憧れの存在があった。
一学年上の桑原崇である。
学生時代何かと行動を共にすることも多く、一緒にいられればそれで
幸せだった。
お互いの気持ちを確かめることもないまま、卒業を迎え、
今では滅多に会うことがない。


現在、彼は大学に薬学部の講師として身を置いている。


棚旗家と御名形家の結婚話はまだお互いに返事もしないうちから、
製薬業界中の噂になっていた。
薬学部講師の崇の耳にも入っただろう。

彼はどう思っただろう。
そんな儚い気持ちに、思いを廻らせながら、日を過ごしていると
奈々の元に一通の手紙が届いた。
崇からだ。


文面は素っ気なく、三行で終わっている。
『人知れずこそ 思い染めしか 高桐院にて七日午後二時』

百人一首からの引用だと奈々には解った。在学中、崇から教わったこと
があったからだ。あまり身なりに構わない男だったが、
彼の趣味は文学や歴史にあった。


-----会いたい。
崇はそう言っている。
彼は在学中から、あまり自分の気持ちを表に出す方ではなかった。
珍しいことだったが、奈々にも解った。
自分も彼に会いたかったから。



七日、約束の大徳寺の寺域内にある高桐院に奈々はいた。
静かな庭の佇まいが、却って胸の高まりを感じさせて落ち着かない。
一人、佇んで庭を眺めていると懐かしい声が。
「奈々くん」
振り向くと、そこに彼がいた。
大学で講師になってもう一年は経っているのに、相変わらず学生のような
雰囲気は抜けない。
ボサボサ髪の向こうに見える瞳は、長い睫毛に縁取られて、
真っ直ぐ奈々を見つめていた。
「タタルさん、お久しぶりです」
大学時代のあだ名のまま、彼をそう呼んだ。
「一年と三ヶ月ぶりだな」
相変わらず細かいことを記憶する癖は直らないようだ。
でも奈々には、今はそれすら嬉しい。
「あの今日は」
「御名形との話は聞いた」
奈々に話させる前に、切り出して来た。彼にしては珍しい程の率直さだ。
「君の家のことを考えたら、俺にはまるで機会も権利もないことは
 知っている。だから----君を見ているだけでいい、そう思って来た。
 だが……あの男との話を聞いてから、君のことしか考えていない
 自分に気づいて……」
「まだ何も決まった訳ではないんです」
「だが断った訳でもない」
崇の眼差しは今の奈々には苦しいくらいだった。
こんな風に責められる義理などない間柄の筈なのに。


「………わたし嫁ぎたくありません。でももし断ったりしたら、
 家も妹も大変なことになると」
奈々の大きな瞳が涙で潤むのを見て、崇は自分が考えていた以上に、
自分の胸が痛むのを感じた。
「確かに噂では御名形と言う男は、口にしたことは必ず成し遂げる男だと
 聞いている。君のことも、恐らくただの見合い話ではないだろう
 -----彼にとってはもう君とのことは、決まったことの筈だ」
世間ではそんな風になっているのだと、奈々は初めて知った。
奈々は見合い相手の御名形史紋が、どんな男性かも知らなかったからだ。



「どちらにしても、ここでこれ以上の話は出来ないな。
 ----今、北山に一軒家を借りているんだが、来るか?」
他人(ひと)に知られたら大変なことになる。そう解っていたが、
奈々は崇の一途な眼差しに応える術を、他に持たなかった。
小さく頷いて、崇に導かれるまま、彼に着いて行った。




崇が借りている家は京都でも閑静な一角で、観光地からも外れており、
家も疎らだった。
木造の古い一戸建ては、何処か孤独に見えて、奈々には在学中の頃の
崇を思い出させた。

彼の研究室もそうだったが、部屋の中は本ばかりが積まれていた。
本のジャンルも一様ではない。
相変わらずだ。
奈々はクスリと笑った。

「やっと微笑ったね」
思いの外優しい瞳が、自分を覗き込んでいて、奈々の胸は高鳴った。
「変わってらっしゃらないなあと思って」
「もう仕事だか、趣味だか確かに解らないね」
床に置かれた本を退かして、奈々の座る場所を作った。
「手紙の………あの歌は」
話さなければならない言葉は、沢山あった。
でもこんな話からしか出来ない。
崇も器用ではないが、奈々もこう言うことには不慣れだった。
「壬生忠見の歌だね。-----恋すちょう 我が名はまだき 立ちにけり」
「人知れずこそ 思い染めしか」
「平兼盛の、忍ぶれど 色に出にけり 我が恋は と天徳二年の歌合わせで
つがえられた歌だ」
「でも今の歌より、お手紙の歌の方が何だか哀しげな感じがします」
「………そうかもしれないね。何処か---叶わない恋の行方を知っている
 ような調べだ」
「叶わない……恋」
見上げると思ったより近くに崇の顔があった。
崇の男性にしては細い指が、奈々の前髪を掬う。
学生時代、奈々が疑問を口にすると、彼はよくそんな風にした。

「叶わない……思い、なんでしょうか?」
吸い込まれるように、崇の目を見つめた。
髪を絡めた指が、すっと頬に落ちる。
「それは君次第だ」
「…………わたしは……」
困惑してひそめられた眉を見て、崇は苦笑いした。
「狡い言い方だったな。君がもし俺を選んだら、
 捨てるものはひとつではないのに」
崇は俯いた。
「…………今だけ」
奈々は顔を上げると、真っ直ぐ崇を見た。
「今、今日、此処でだけわたしは『棚旗奈々』であることを忘れます…!」
呼吸(いき)が止まったかと思う程の静寂が、二人の回りを包んだ。



気が付いた時には、奈々は崇の腕に抱き締められていた。
その温もりは……多分彼と出会ってから、奈々がずっと求めて来たものだった。
口唇が優しく触れる。
そのまま、春の雪のように自分が溶けてしまうかもしれない、
奈々はそんな風に感じながら、そっと瞼を伏せた。

溜め息と衣擦れの音だけが、耳に残る。


小さく震える指先に口付けて崇が言った。
「君、もしかして」
彼の聞きたいことを察して、奈々は赤くなった。
「ええ、誰も知りません」
「確か、小中高と女子校だったな。今どき珍しいとは思っていたが」
「だから最初にタタルさんに会った時は…………同世代の男の方は皆、
 こんな風なのかと思ってびっくりしました」
「まさか。まあ、俺も君があまりに世間知らずなので驚いたがね」
総合大学の薬学部では奈々の存在は稀有だった。
彼女は気付いていないが、多くの男の視線を彼女が集めていたのは事実だ。
だが彼女の後ろにある、由緒ある家の存在と、
彼女自身のあまりに無垢な性質が男達に積極的な手段を取らせることを、
躊躇わせたのだ。


その誰もが-----学生時代の自身ですら躊躇った行為を今、
彼女と為そうとしている。

彼女に触れ、彼女に己れの存在を感じさせ……。



「怖かったら目を瞑ってたらいい。酷くはしないよ」
崇は出来る限りの優しさで、奈々に触れたかった。
無下に花を散らすような、無粋な真似はしたくない。



確かなようでいて儚い瞬間。腕の中の存在は優しく柔らかく、
崇の知っている全ての中で、こんなにいとおしく感じさせるものは、
ひとつもなかった。
まだ誰にも触れられたことのないその躯は、無垢な心情をそのままに、
素直な反応を返す。

その明快な率直さが彼女の美点のひとつだった。


崇を受け入れる時、やはり奈々は怯えたように、身を縮めたが、
次の瞬間には微笑んで努めて、崇を受け入れようとした。
あまりの健気さに自分すら見失いそうになりながらも、
彼女の中にゆっくりと己れを沈める。

「……辛いか?」
彼女の痛みが己れの快楽になるのが、なんだか許せない気持ちにもなる。
「大……丈夫です」

背に回された指先に力が込められる。


「んっ……」
奈々が小さく息を呑む。

互いの眼差しがぴたりと合った。


-----例え今だけでも。
天の川を隔てた恋人同士ですら、一年に一度は会えるのに。
次はいつ会えるか解らない。
この抱き締めている間だけが、二人の関係。それが今ある全て。

その時間は長いようにも、短いようにも感じた。


ふと見ると、小さな窓からは、宵の明星が瞬くのが見えた。
-----帰したくない。
隣に瞼を伏せた彼女を抱き締めながら、崇は強く思った。

行く末は不安なまま、ゆらりと視界が揺れたようにも崇には感じられた。



◆ええ、もうタイトルなんか付けませんぜ(-_-;)
続くかどうかは、皆さんの反応を見て(苦笑)
こういうのを世間では『パラレル』って言うんですよ、奥様。
私はまだパラレル書くほど、タタ奈々暦ないんですが……←と言うかとても短い。


まきまき様、遊月様へ
>あのこのまま続くと次回は御名形さんのターンで、しかも夫婦生活(ぐはっ)を
書かなきゃならなそうです。そしてどんどん、進むと二人が駆け落ちしてひっそりと
貧乏な生活を始めるのはいいのですが、タタルさんが肺結核になったり(爆)
奈々ちゃんが記憶喪失になったり(韓国ドラマの定番)することになりますが、
いかがいたしましょうか?
 

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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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