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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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まだ同棲前のお話、ひとつ。 
『亡くしてしまった人』の話題は深刻だけど、弥生先生のことはある意味
笑い話?で済まないでしょうか?やっぱ無理か?


More than words~愛しき言尽くして~
  



その日は何だか初めからおかしかった。
原宿駅で待ち合わせ、代々木公園を一巡り二人で散歩し、
食事をして、ここ最近のいつもの休日のように自分のマンションに戻った。
 
 
言葉もないまま、これもいつものことになった、お互いを求める行為を
一通り済ませた後のことだった。
 
気がついた。
いや、やっと気がついたと言うべきか。
 
…………彼女の機嫌が悪い……ようだ。
 
 
 
「今日は君は何か怒っていないか?」
こういう時、聞かずに済ますのも一つの方法かもしれないが、
今は率直に聞くしかなかった。
 
「………別に怒ってません」
 
言葉とは裏腹に声のトーンは低い。
胸元を布団で隠して、ちらりとこちらを見たが、すぐに視線を反らす。
 
「………いや、おかしい。確か万葉集の……額田王の話あたりからだ。
 君は何か考えてる様子で……」
 
彼女はそっと背を向けた。
シングルのベットに大人二人で寝ているのだから、当然離れるのは難しい。
彼女の精一杯の抵抗だろう。
彼女の滑らかな背中が、わずかに手に触れている。
 
 
一つ思い当たった。
 
「別に今日の話に五十嵐先生は関係ない。………確かに彼女は、
 俺の最初の相手だったかもしれないが……」
 
 
背をそむけていた彼女がくるりとこちらを見る。
 
「………やっぱり。まだそんなこと、隠してたんですね」
彼女の目を見て、自分の失言に気付いた。
 
しかし失言のあるなしに関わらず、彼女は気付いていたのだろう。
 
先日、きっかけがなんだったか、話題が自分の中学校時代のことになった。
そこで諏訪で世話になった当時の同級生、鴨志田も含めて巻き込まれた
事件の話をした。
明敏な彼女のこととて、中学生の頃に自分が推察した通り、
恩師の五十嵐先生がこの事件に絡んでいるのを、察したようだった。
五十嵐先生が今は出家の身であるのも、この事件が関わっていることも。
 
わざわざ隠した訳ではないが、話す必要のない事柄は話さなかっただけ
なのだ。だが、やはり彼女は察していたのかもしれなかった。
 
 
…………これだから。
彼女相手に隠し事をすると言うのが、どれだけ至難の技か。
もしかしたら、三月に名古屋で五十嵐先生に会った時に、
彼女はほぼ解っていたのかもしれない。
 
心の準備なしに、やって来た事柄を、全て納得出来るように
説明するのは難しい。
 
 
「……………奈々」
 
彼女は再び背をそむけている。
 
「恋ひ恋ひて 逢へる時だに 愛しき(うつくしき)
 言尽くしてよ 長くと思はば」
「………………」
「せめてこうして逢っている時は、君には愛しいと思える
 言葉で話したい。………そんな話ではなくて」
 
「………解ってます。男の人なら、誰でもあるようなことだし……、
 少し面白くない気がするだけです」
後ろを向いていても、膨れ面なのが解る。
 
人間の感情の中で、他人からぶつけられるにせよ、自分から沸き上がる
ものにせよ、煩わしいものの一つに『嫉妬』がある。

けれど。
 
彼女の妬心は、ずいぶんと可愛らしくて、煩わしいどころか、
問い詰めていつまでも話させたくなるような、危険な衝動に駆られる
ものがあった。
…………まあ、止めた方が賢明だろうが。
 
 
そっと肩に手をかけて、背中から抱き締めた。
彼女も素直に体を委ねてくる。
 
 
「それとも、言葉ではなくて、他のことで尽くしても構わないが」
「?」
 
耳元にそっと口唇をつける。
柔らかな感触を掌に受けて、腕の中にしっかりと抱き締める。
密着した肌から伝わる温もりを、十分に感じながら。
「タタルさん………ずるいなぁ」
まだ膨れてはいるものの、気持ちはずいぶんと緩んでいた。
 
 
外を通る車の音が、かすかに響く。
 
 
千の言葉、万の言葉でも言い尽くせない感情があることを、
どうしたら君に伝えられるだろうか。
こういう時、男はもどかしさしか伝えられない。
 
 
 
 
古の万葉人(まんようびと)は万(よろず)の言の葉を用いて、
それでも言い尽くせない思いを語った。
 
 


………でも当分万葉集と額田王に関する話題は避けよう。
 


そう思った。

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