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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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今日はウチの長女の遠足の日です。
多分もうそろそろ、楽しみにしているお弁当の時間。
彼女はアレルギーがあるため、絵にかいたようなお弁当はなかなか作って
あげられないのですが、それでも遠足のお弁当は特別のようです。



ふと本に執筆して頂いた、放課後の独り言の入江大和さんの小説を見たり
タタルさんの食べたもののカウントしたりしていたら、こんな話を思いつきました。


例のスペシャルな頂きもののお礼にしては、ささやか過ぎますが
いつも敬愛する大和さんに献呈します。

お話は続き記事からです。

拍手[7回]




梅雨の合間の珍しく晴れた日。
日曜日に、結婚を前提にして、彼女と同居する為の引っ越しを終えて、
新居での最初の朝だった。

「タっ、タタルさんっ」
偉く緊張した彼女が、小さなピンク色のナプキンに包まれたそれを、差し出した。
「あ、あの……タタルさん、お昼は食べないって知ってますけど、
 でも自分の分だけ作ると言うのもなんだかおかしかったので、
 タタルさんの分も作ったんです」


それはお弁当だった。

多分少食な自分を考慮して、彼女のものらしき女性用の小さな弁当箱。

「あ、ああ、わざわざ悪いな。ありがとう」
彼女は大きく息をついた。
―――――以前夕食を作ると言っていた時もそうだったのだが、
彼女はとても言い出しにくそうにしていた。
………確かに、自分はやや偏食の気味があるかもしれない。
単に体に取り込むものは選びたいと言うだけなのだが、
昨日から一緒に暮らすことになった…………恋人の、ましてや手作りの弁当を
無下に断るような、人でなしでもないつもりだった。
その弁当がたとえ自分の味覚に合わなくても、だ。
彼女の手料理はすでに何度か味わっていて、何も問題はない訳だから、
自分としては、弁当を持参することに何の異議もない。




自分の勤める『萬治漢方』には普段、店主である先生を合わせて、
5人が常駐している。それ故、お昼休みは2人と3人に分かれて取っている。
自分はいつもなら、晴れていれば外の公園で本を読んで過ごしているが、
今日は弁当もあることだし、読もうと思って買っておいた歴史関係の雑誌を片手に、
控室のテーブルを陣取った。


「お、桑原!弁当か!?」


しかし。
思ったようにことは運ばなかった。
今日一緒に昼休みに入ったのは、自分より2年早くこの店に勤め始めた、
先輩薬剤師だ。
いつもならさっさといなくなるはずの自分が、弁当箱を出したりしたもんだから、
殊更目を引いたらしい。

「それにしても、ずいぶんとかわいらしい弁当箱……そうか!」

なにがだ。

「お前、ホワイト薬局のあの子と、とうとうそう言う仲になれたんだな!
 それは奇跡だ。早く開けてみろよ。大体、彼女の手作り弁当自体、人生初だろ」

……立て続けに失礼なことを言う。

それでも不躾な視線に負けず、弁当を広げた。

「ほほ~、カラフルな俵むすびだなあ。おかずは魚の竜田揚げに、
 カボチャの煮付け。定番の卵焼きに、デザートはさくらんぼかあ…。
 草食のお前にずいぶん配慮した弁当だな。心がこもってる」
と、不必要なまでに覗き込んでくる。

すると今日は店も暇だったせいか、今はまだ休みには入らない自分よりは
5年は後輩の薬剤師が、先輩の騒ぐ声を聞き付けて控室にやって来た。

「どうしたんです?わっ!桑原さん、可愛いお弁当……ああ、ホワイト薬局の」

と、先輩と同じ反応をする。

「旨そうですね~。確かに彼女、料理上手そうですもんね」

それは大きく同意するが、今お前は勤務中だろう。

「いいなあ、ウチのワイフの焼そばだけ、どかんとタッパーに入ってる
 弁当と取り替えて貰いたいくらいだよ」
「僕は弁当作ってくれる彼女が欲しいです」


「あれ、どうしたんですか?」
トイレの帰りかなにかなのか、三年前に入店した唯一の女性店員まで、
控室に入って来た。
「わー!それ、奈々さんですよね!奈々さんの手作り!桑原さん、いつの間に!」
彼女は昨年の春の学薬旅行に参加しているから、直接知った間柄だったんだろう。


しかしちょっと待て。

この『萬治漢方』には店員が5人。

今控室には店員が4人。


店には先生しかいないのでは………。


すると、ふいに脇からややふしくれだった指が弁当の卵焼きに伸びた。
「桑原。こう言うものはまず店主に一番に差し出すものだろうな」
先生のニヤリと笑う横顔がすぐそばにあった。



なんなんだ!!



自分は直ぐ様、弁当箱を閉じて包み直すと、急いで外に飛び出した。


「あ、逃げた」
「……折角一口貰おうと思ったのに」




仕方なく、自分がよく行く公園で昼食を取ることにした。

ところが、である。

弁当箱を膝に乗せたあたりから、雀が一羽二羽三羽と、
何やら周りに集まってきた。
蓋を開けた時には、雀は二十羽はいただろうか。自分の周りをみっしりと
取り囲んでいる。


………非常に不穏な空気が流れる。


すると一羽の、一番大きな雀が自分の目の前で羽ばたき始めた。
他の雀もやたらに間合いを詰めてくる。


どうやら弁当を寄越せと主張しているらしい。

このまま行くと、弁当はヒッチコックの映画のように襲撃されるかもしれない。
これでは雑誌を読みながら昼食を取るなんて、とても無理だ。


なるべく平常心を装いながら、弁当を再び包み直すと、
雀のチュンチュンとけたたましく騒ぐ声を背に、公園を後にした。



昼休みは短い。



もう30分は過ぎただろう。
まさか喫茶店に入って弁当を広げる訳にいかないから、
後残るは彼処しかない。
確かに彼処には口煩い先輩が一人いるものの、安全に弁当を開けることが
出来るに違いない。


しかしここから走って10分?
急がなくては。



祐天寺駅前は今日も賑わっていた。
人通りの多い、その通りにその場所はあった。

『ホワイト薬局』


結局弁当の作り手の職場まで来てしまった。
乱れた呼吸を何とか整えながら、薬局の待合室に飛び込んだ。

「なんだ?桑原?一体何があったんだ。
 殺人事件にでも出会したような表情(かお)だぞ」

………彼女と旅行に出た訳でもないのに、そんなことあってたまるか。

顔を見るなり、こんなことを言うのは、大学の直接ではないものの、
先輩でこの薬局の主の外嶋さんだった。


「タタルさん!」
続いて彼女もカウンターに顔を出した。
「どうしたんですか?」
突然の来訪に驚いている。まあ、当然だろう。
「………すまないが、昼をここで食べてもいいか?」
「え?」
彼女は隣の上司の顔を見る。
外嶋さんは一瞬目を瞬かせたものの、「ああ」と何かを合点したような声を出して
言った。
「招かぬ客だが、……奈々くん、コーヒーでも淹れてあげなさい」




そこでやっと自分は、ホワイト薬局の控室で弁当を安心して広げることが出来た。
昼休みものこり20分となっては、彼女たちはもう昼食を取り終わっているようだ。
流石にこの環境と残り時間では、雑誌を読むのは諦めねばならず、
弁当を食べることに集中する。



―――――正直、昼食をここまで食べたいと執着したのは、
生まれて初めてかもしれない。


箸を持って、先程一番に狙われた卵焼きをつまもうとすると、
また、何やら緊張に満ちた視線を感じた。
それに釣られて、やはり自分の口許を見ている、二名の外野の視線も。


弁当の作り手である彼女が、膝をきちんと揃えて、
やけに生真面目な表情でこちらを見つめていた。


食べづらい――――がこれは逃げるべき事柄ではないと思い、
卵焼きを口に入れた。


「お、美味しいですか?」
「え………あ、ああ、美味いよ」

彼女の表情がぱあっと明るくなった。
「良かったですね~、奈々さん。目の前で確認出来て」
彼女は真っ赤になった。
「ちょうどね、話してたんですよ」
彼女の隣で腰かけて、雑誌を見ていた、外嶋さんの親戚だと言う事務の女性が、
話し始めた。
「奈々さんが、普段昼を摂らない桑原さんが、手作りのお弁当気に入らなかったら
 どうしようかって、心配しているものだから」

どうもこの薬局にはプライバシーが存在しない。

「わたしも外嶋さんもそんなこと、心配いらないって言ってたんですよ。
 だって初の愛妻ならぬ、愛人弁当ですもんね!」


ゴチン!と音がして、この薬局の主が、今何やら失礼な発言をした
事務アシスタントの頭を叩いた。

「相原くん……表現には気を付けたまえ」
「はあい」
「桑原。今日は大体何があったか察しがつくから許したが、
 明日からは自分で何とかしろ」
「…………………」




弁当を食べ終わって、薬局を出る時、彼女が入口まで見送ってくれた。
自分の勤める萬治漢方まで、短距離を走る速さで戻らねばならない。

「あの、タタルさん」
「ん?」
「……明日もお弁当作って大丈夫ですか?」
「………………ああ」
一瞬迷いが脳裡を霞めたが、頷いた。
色々煩わしい何かがつきまとうものの、彼女のがっかりする表情だけは
見たくない。
彼女は嬉しそうに手を振って、薬局の午後の仕事の為に戻って行った。


自分は、最近の自分としてはありえない速さで駅前の商店街を走り抜けながら、
まだ当分、自分が想像したような、『好きな本を読みながら、
彼女の手作りの弁当を食べる』日には辿り着けそうにないことを思って、
心の中で溜め息をついた。






※この中で一番作り事っぽい、雀の話が、実話だったりします(^^ゞ
ウチのダンナがまだ新宿にお勤めしてた頃、ある公園の雀は弁当を
広げると襲わんばかりにアピールしてきたそうです。
恐るべし新宿の雀。

皆さんの今日のランチは何だったでしょうか?
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次女妊娠中にQEDにはまりました。
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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