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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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月の黄昏の続きになります。


あ~(^_^;)漫画で描こうと思い、何度もネームを切ったんですが
しっくりこなくて、字で書きました。
出だしの『海より深く』が小説だったので、この方が座りがよかったようです(T_T)


小説は続き記事からになります。

拍手[4回]




「わたし…臆病でした。その話を聞いてしまったら、タタルさんを失うんじゃないか
 ……ずっとそんな風に思っていました」


金色の陽が波の向こうに沈むと、柔らかなオレンジ色を覆うような暗闇が、
空を占めていきます。
彼の指先はまだ震えているように感じました。
実際は、震えていなかったかもしれません。
けれどわたしの両手を軽く握りながらも、こちらを見つめる視線があまりにも優しい、
でも哀しげな様子に見えて、そんな風に感じたのかもしれません。

「でも違ったんですね。タタルさんは、わたしに聞いて欲しかったんですね」
彼はふと瞳(め)を反らしました。
「そう……かもしれないな。多分、君に出会った時からずっと、
 君にだけは話したいと思い続けて来たのかもしれない。
 ……君の前では、誰もが偽り隠すことは出来ないから」

彼の黒い瞳がまるで星が瞬くように、くるりと煌めきました。
婚約して一年、わたしはこの瞳、この眼差しを受け止める、
それを日常として日々を送ってきました。



人知れることなき闇。
心の中に持つ虚ろな闇。

でもどんな闇の向こうにも、輝く星があること。


彼の向こうに一際明るい光を放つ宵の明星を見つけて、
わたしは恐れることをやめました。



「住吉の三神はオリオン座の三つ星だと言う説がある」
浜辺で腰掛けると、背中越しにわたしを抱き締めました。
「星の神様ですか?」
「星は航海の道しるべでもあるからね。海人たちにとっては重要な印だったんだ。
 ―――――彼女はそんな一族の出身だった」


彼がいつもの呟くような声で語るその話は、とても哀しい話でした。

助けられると信じた女性(ひと)を失ったこと。
彼女に信頼されなかったと思い、彼自身の生命をも縮めようとしたこと。

けれどもわたしはそれ以上に、彼の語るその女性が、彼を深く信じたからこそ、
彼の手を放したのだと―――彼の話から知り、何か重苦しいものを受け取った
ように感じました。
自分ならどうしただろう。そんなことを思いながら。


「彼女は海に沈んでいる」

ふいに彼の言葉が耳に飛び込んで来ました。
「君とこうして過ごすようになってから、このことは忘れるべきことなんだろうと、
 ずっと考えて来た。それが出来なければ君に触れる資格はないのだろうと
 思って……」

肩を抱いていた手が離れました。



お互いの間を穏やかな波の音が、繰り返し響いています。
彼の中でずっと鳴り響いていただろう、激しい波の音に相対するように、
その繰り返す潮騒わたしたちの間に鳴り続けています。



「タタルさん」

もうずっと出ていた答え。
わたしも彼と出会い、決して真っ直ぐではなかった道を歩いて来た。
彼がわたしに求めて来たもの。
わたしが彼に見い出したもの。


「わたし……欲しいものは自分で取りに行くことに決めたんです」

そしてたったそれだけしか出来なくても。
いつも側にいたい。

どんなに哀しくても。
どんなに苦しくても。
それはちょうど一年前、この場所で、伊勢の海でも感じたことでした。

わたしは手を放さない。
何があっても、彼となら乗り越えられる道を見つけ出せる
――――そう信じることだけが、わたしに出来ることでした。


「だから、タタルさんがどんなにわたしの手を放そうとしても、
 わたしは必ず探しに行くんです」

振り向いて彼を見つめると、しばらくわたしを真顔で見たあと、ふと微笑いました。

「君は、昔から変わらないね」


彼はそっとわたしの指先を握りしめました。




翌朝、結局浜辺で一晩を過ごしたことを告げると、御名形さんの従妹に当たると
言う蓮下麗奈さんは、呆れていました。
それでもこっそりわたしに耳打ちするよう言いました。
「史紋さんが昨夜電話をかけてきてね、今回のことは貴方にとって必要だから、
 見守るように、って。
 ――――彼、子供の頃から何考えてるか、解らない人だったけど、貴
 方のことは随分気にしてるのね」


今回だけでなく、いつも、わたしは沢山の人との出会いが今
現在に続いていることを感じました。

それを縁と言うのでしょうか。

まるで螺旋を描くように、過去から未来を繋いでいく。

そしてそれはごく日常、毎日過ぎていく、日々の中にあること。
勿論彼とわたしの間にも。





駅で電車を待つ間に彼が言い出しました。
「伊勢神宮に寄って行こう。それにどうせ名古屋に出るのだから、
 熱田神宮にも……」
一晩たって、わたしの側にいる彼は全くいつもの彼でした。
「タタルさんはお休みとってるかもしれませんけど
 ………わたしのお休み、今日だけですよ?」
少したしなめるつもりで言うと、彼は手を出して一言。

「携帯」



電話をかけた先はわたしの勤め先、ホワイト薬局でした。
「バカを言うな」
わたしの上司の外嶋さんの声が、電話に耳を当てなくても
はっきりと聞こえてきます。
「今回奈々くんの代わりに来て貰ったのは、外嶋一族でも
 『嵐を呼ぶおばさん』と呼ばれた恐ろしい人物だ」
電話の向こうからは、切羽詰まった声と共に、何かが落ちたような
壊れたような音もします。
思わず想像して、明日からの職場が心配になりました。
「早く奈々くんを返せ!お前一人の奈々くんじゃないぞ」
ガシャン、と切れた電話を見つめながら彼は呟きました。

「…………君を俺だけのものにしておくことが、どうやら一番難しいらしいな」




アナウンスがあって、電車がホームに入って来ました。

「タタルさん、帰りましょう。わたしたちの家に」



名古屋で新幹線に乗り換えると、彼はわたしの肩に凭れたまま眠ってしまいました。
どうにも身動きが取れなくていると、どさりと膝の上に頭が落ちてしまいました。
………それでも、まるで目を覚ましません。
一体何日寝ていなかったのかしら。

一度考え出すと海よりも深くなる、その思考力はいつも呆れるくらいだけれど。
でもそれこそが、わたしの好きな彼でした。
時間などなくなってしまったかと言う集中力で本を読み続ける彼の横顔を、
また見つめる日々を思うと、どこか嬉しくて哀しくなるような、
そんな気持ちで満たされていきます。


多分その気持ちこそ―――愛しい、そんな言葉になるのでしょうか。
「全く、しょうがないなあ」
誰が見ている訳でもないのに、何だか耳が赤くなるのを隠しながら、
膝の上にある彼の寝顔を見つめました。



「もう勝手に一人で何処かに行ってはダメですよ、崇さん」
額にかかる彼の、ボサボサの割には柔らかい髪をそっと撫でました。



列車は東京へと向かいます。
ゆっくりと戻っていく日常を、少しずつ取り戻しながら、
二人、揺れる列車の振動に身を預けていました。








遥かな波濤に続く
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