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タタ奈々と空稲で二次してます。 どちらのジャンルも原作設定をメインとしております。
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うーん、漫画だと3Pで終わりそうなネタで、頑張って書いてみました。

土曜日は更新が難しい…^^;

タタルさんが『かなり』だらけてますけど、お許しください。

拍手[6回]






マンションに辿り着いた時は、もうこれ以上動きたくないと言うほど、
疲れきっていた。

肉体的に、ではない。
明らかに精神的なものだった。


月に一度、萬治漢方では店員全員から『魔のフライデー』と呼ばれる日が
存在している。

要は接客をするのが、著しく厄介な客が三段構えでやって来る日とでも
言えばいいのか。
しかも今日は先輩薬剤師が一人休みを取っており、
彼の担当する客を自分が担当しなければならなかった。
午前中いっぱい、どんなに冷静に振る舞っても、呼吸苦しくなるような、
忙しなさで仕事をこなし、午後にはその厄介な客の三人を
何とか時間内に納めることが出来た。


9月と言えば、もう暑さの盛りは過ぎている訳だが、
今日はひと月戻ったかのような気温で、店を出て帰路についた時も、
立っているだけで、大層暑かった。
気力のダウンに続いて、ダメージは大きく、今日たまたま休日出勤して、
その振替休日で家で夕食の支度をしているだろう、彼女の顔を早く見たいが為に
必死で足を動かしたと言っていい。




「タタルさん、おかえりなさい」
夕食の匂いと共に彼女の笑顔が自分を迎えてくれた。
一気に身体中の力が抜ける。



「今日はずいぶん疲れてますね?先にお風呂に入って休まれますか?」
自分の表情を見て、すぐに察した彼女が聞いてくる。
「いや、食事を」
食欲はあまりなかったが、自分としては少し彼女と向かい合って
声を聞きながら、今日起こったあれこれをせめて頭の中で整理してしまいたかった。
端的に言えば忘れたかったが、正しいか。
彼女は「わかりました」と微笑んで、食卓の用意を始める。



案の定、あまり食事は進まなかった。
それを見て、彼女も食事を適当に切り上げ、お茶の用意をする。

ようやく一息ついて、本を開く気分になった。

「今日は外嶋さんもご苦労なさったみたいですよ」
本から目を離すと彼女はお茶を湯呑みに注ぎながら、話し始めた。
「普段ならわたしの居る日にしかいらっしゃらない患者さんが、
 今日たまたまいらしたみたいで。薬に関係のないお話で、
 一時間も質問されたと仰ってました。
 あまりに回りくどいお話だったみたいで、
 不思議に思った外嶋さんからお電話があったんです」
彼女は肩を竦めて微笑った。
彼女の雇い主は、一筋縄ではいかない人物だ。
あの外嶋さんを辟易させる患者がいるのか。
「わたしの時はいつも植木や、若い頃の話をなさって、
 朗らかなお爺さんなんですけど。
 今日はご機嫌が悪かったんでしょうか。
 外嶋さんたら『奈々くんに何かおかしなことは言ってないか?』
 なんて心配までしていました」


…………。
それはもしかすると。

「そう言えば一度、その患者さんから隅田川に屋形船を借りて
 お花見に行こうなんて、お誘いされましたね。
 奥様を亡くされて五年になるそうですから、お寂しいのでしょう」


……成程。
今日外嶋さんが何を質問されたのか、解った気がする。
そしてその受けた精神的苦痛に対する支払いは、自分に来るらしいことも。

彼女の勤務中のことに関しては、自分にとっても長年の知人である彼に
期待するしかない。
彼女に事を分けて説明した所で、理解は出来ない事柄なのだから。

大きな溜め息が出た。

あれこれと気になりだしたら、際限がない。
こう言う訳の解らないストレスを多く受ける日は判断力もまともではないのだから、
早く休むに限る。




風呂から上がり、自分でステアして作ったギムレットに口を付けながら、
読んだ本の内容をノートにざっと記すと、寝室に向かった。
彼女も風呂から上がり、布団に足を入れた所だった。


「タタルさん」
彼女が柔らかく微笑む。
この笑顔が見たくて、帰宅する毎日なのだから、もう今日はこれで良しとしよう。
「……やっぱり今日はずいぶんお疲れなんですね。あの、もし良ければ」
彼女の頬が少し紅くなる。
「今日はわたしが抱っこしてあげます」
「……………」

腕を広げてニコニコとこちらを見ている。
多分今自分が一瞬考えた意味と、彼女がしようと思っていることは違うだろう。
でも、今夜は何か考えるのが辛いくらいだったので、
彼女の善意に甘えて、自分の想像と彼女の考えの中間を取ることにした。



彼女の胸元にそっと顔を寄せる。
瞬間、彼女はぴくりと身を固くしたが、すぐに緊張を解いて、
細い指でこちらの髪を梳いた。
今夜はもうこの場所から、一ミリも動きたくない。


「子供みたいですね」
何故だか彼女は嬉しいようだった。
優しく、掌が頭を数回往復する。



「ねむれよい子よ 庭や牧場に

鳥もひつじも みんなねむれば

月はまどから 銀の光を
そそぐ この夜

ねむれよい子よ ねむれや」


柔らかな響きの声が、静かに優しく耳に滑り込んだ。
頬に触れる温かな感触と重なって、今日一日の緊張と疲れがほどけていく。



帰る場所がある。

そんなこと、つい一年前までは考えもしなかった。

帰る場所。
帰りたい場所。

この瞬間(とき)を得る為に、朝、仕事に出かけ、働いて、また帰る。

これからの一生、その繰り返しだろう。

そしてそれが自ら望んだものなのだから。





身を委ねたまま、瞼を閉じていたら、ふと彼女の手が止まった。
そっと、微かな口づけが額に落ちた。
「また乾かさないで、本を読んでましたね。
 …明日は朝、少し早く起こしますよ。じゃないと、またボサボサになっちゃう」
甘い声音だった。



本当ならば、彼女の不意をついて先程の歯痒いキスの続きを
考えないでもなかったが、寝たふりを決め込むことにした。


明日、目が覚めたら。
また君の顔を見る。
その為に。









※奈々ちゃんの歌っているのは、一般に『モーツァルトの子守唄』と呼ばれているものです。
これ、実は作曲はフリースと言う人なのだそうです。
私は調べてみるまで、ブラームスの子守唄だと思っていました(^_^;)
でもブラームスの子守唄で検索に引っかかった(笑)ので、そう思ってる方も
多いのでしょうか。
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……なんじゃ!このネタ!?と
思ったら、目をつむって十数えてなかったことに
して欲しいです^^;
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